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実家に向かう

シオンさんとの戦い

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「青虎の加護か何かか……。どうしたら抜けさせるんだ」

 ――プルス、僕の声が聞こえる?

「はい、主。どうかしましたか?」

 ――今、シオンさんと戦っているんだけど、霧の中から抜け出せないんだ。

「あぁ、水蒸気の牢獄にはまっているんですね。地面でその魔法を食らうと、平衡感覚を失います。今、主は視界を失っているのと同じ状態です。あと、敵は近くに忍び寄ってきます。もう、目の前にいるかもしれません」

 プルスの声が頭に響いている中、額に熱い鉄の感触を受ける。その瞬間、僕は剣を振った。

 すると、リボルバーの銃口が落ちる。どうやら、またしても逃げられたようだ。

 ――プルス、抜け出す方法を早く教えて。

「炎の翼で真上に飛べば牢獄からは抜け出せます。生半可な高度だと抜け出せないので、一〇〇〇メートルは飛んでください」

 ――炎の翼を出すにはプルスが必要だよね。今、いないんだけど……。

「…………」

 ――プルス?

「私がいないと翼になれませんでしたね。はてさて、どうしましょうか」

 ――プルスは僕のもとに来れないの?

「私が主のもとに単体で向かってもすぐに殺されてしまいます。危険ですが、主の方から私の方に来ていただいたほうがいいかと」

 ――わかった。プルスは僕の位置がわかる?

「はい、感知できています。なので、私が道案内しますから、移動してください」

 僕はプルスの指示で動いた。僕の方向感覚はすでになく、右か左かもわからない。すべてプルスだよりだ。

 ただ、シオンさんは僕の狙いがわかっているのか、移動するたびに攻撃を仕掛けて来た。四方八方からの攻撃で、予測不能のゼロ距離攻撃を仕掛けてくる。

 急所の攻撃は何度か防げているが、急所以外の攻撃は何度も食らってしまっている。少女を守りながらというのが、大きな痛手となり、戦いにならない。

 僕はプルスがどこにいるのかわからない。今、僕自身がどこにいるのかですら、わからない。でも、感じる。プルスの気配がどこかから迫って生きている。

「シオン、あの少女は誰ですか?」

「さぁ? でも、わんちゃんじゃないね。猫ちゃんだから、無関係の者じゃないかな」

 青虎さんとシオンさんの声が聞こえた。

 ――わんちゃん。ルパのことか。猫ちゃん……。

 僕が走っているととある何かとぶつかった。

「ニクスさん」

 僕にぶつかったのは猫族のミアちゃんだった。服装が先ほどと変わらないので、大きな谷間がよく見える。

「ミアちゃん……。どうしてここに?」

 ミアちゃんは頬を赤くしながら僕の手を取り、胸の谷間に突っ込んだ。僕には訳がわからなかったが、とても柔らかいと言うことだけはわかった……。掌が入ると、もの凄く粉っぽくて灰のようだった。僕は灰を握りしめ。ミアちゃんの胸の谷間から取り出す。

「んっ……」

 ミアちゃんの甘い声が聞こえ、ドキッとしたが今はそれどころではない。灰はすぐさま赤いヒヨコへと生まれ変わり、口から火を噴いた。

「主、お疲れさまです」

 プルスは僕の背後に移動し、炎の翼になった。僕はミアちゃんも共に抱き寄せて飛び上がる。

「あちゃ~。赤いヒヨコと合流しちゃったか。あんな速さで空に逃げられたら追えないよ~」

「こうなったらさすがに勝ち目はないですね。さっさと降参しましょう」

 シオンさんと青虎さんの声が聞こえ、上空一〇〇〇メートルの高さに静止している僕は回りを見渡すと、水蒸気が晴れていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……。よかった。晴れてる」

「に、ニクスさん! う、浮いてます! た、高いです!」

 ミアちゃんは胸の形がムギュっと変形するほど僕に抱き着き、怖がっていた。無性にいいにおいがして困る。

「プルス、何でミアちゃんの胸の中にいたの?」

「一度死に、灰になって隠れないと敵に気づかれていました。ルパの顔はすでに割れていますし、敵に知られておらず、すぐに動かせるものが彼女しかいなかったのです」

「なるほど……。にしても、ミアちゃん、こんな危険な行動をよく取れたね」

「お、お金の分は働かないといけませんから……」

 ミアちゃんは泣きながら呟く。高い所が相当怖いようだ。僕はミアちゃんの耳元で囁く。

「ありがとう。助かったよ。僕も何かお返しをしないとね」

 僕はミアちゃんと少女を抱きかかえながら地面におりていく。すると、実物大になっている青虎さんがシオンさんを土下座させていた。頭が地面にめり込むくらい思いっきり何度も土下座してきた。シオンさんの頭から血が出ているが大丈夫なのだろうか。

「すみませんでした。ニクスさんは戦いたくないとおっしゃっていたのに、この子が無駄に血気盛んなせいでご迷惑をおかけしました」

「ごへんなはい……」

 シオンさんの顔が血まみれだけど大丈夫なのだろうか。

「シオンさん。これからはもっと刑事らしくしっかりと働いてください。弟子は師匠を超える者です。ゲンジさんの真似ばかりしていたら越えられませんよ」

「うぅ……。精進します……」

 シオンさんは潮らしくなり、気を失っている少女を抱きかかえて依頼主のもとまで向って行った。

「はぁ……。殺人未遂を何度も行ったのに、見過ごしていいのだろうか……。また、危害を加えるんじゃ」

「可能性はありますね。ただ、青虎が敵を見極めてくれるはずですから、無駄な戦いはしないでしょう」

「そうだといいんだけど……」

 プルスは炎の翼から、ヒヨコに戻り、僕の頭に移動する。

「あ、あの……。ニクスさん……。そろそろ離してもらえませんか……」

 僕はミアちゃんを右手でギュッと抱きしめたままで、ミアちゃんは僕に恥ずかしそうな表情を見せている。

「あ、ごめんなさい」

 僕はミアちゃんを放した。少し名残惜しいが仕方ない。僕達はルパの待っている一九号室に移動する。

「ただいま。えっと、今は何時かな……」

 僕は壁に掛けてある時計を見ると、午後四時三〇分になっていた。どうやら、二時間近く戦っていたらしい。そんな長い間戦っていたんだと思い、僕は驚いてしまった。

「うわぁ~ん! ニクス、帰ってきた~!」

 ルパは僕に捨てられるとでも思ったのか、僕に抱き着いてきた。あまりにも心配性すぎる。

「もう、ルパ。そんなに泣かないで。僕は絶対に帰ってくるって言ったでしょ。ルパを置いてどこにもいかないよ」

 僕はルパを抱きかかえて頭を撫でる。ルパは尻尾をブンブンと振り、嬉しがった。

「二人は仲好なんですね。羨ましいです……」

 ミアちゃんは僕とルパが抱き合っている姿を見て悲しそうな表情をした。すると、ルパはミアちゃんの手を取って抱き着く。抱き着き癖が出てしまっているルパだが、今は怒らなくてもいいだろう。

「ニクス! ミアを買って!」

「え?」

 僕とミアちゃんは同じ反応をした。
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