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鶏を買ったら……知り合いが増えた。

笑わない生活

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「はぁ、はぁ、はぁ……。に、ニクス、速すぎ……。魔法を絶対に使ってるでしょ!」

「使ってないよ。素の状態で走ってるに決まっているでしょ。そもそも、僕は身体強化できないし。不公平な戦いはしないよ」

「じゃあ、何で勝てないの! 勝てないとつまらない!」

 ルパは駄々をこねる。年相応と言うべきか。だが、ルパの年齢は一三歳。きっともう駄々をこねられる年齢ではないだろう。それでも、周りに叱る人はいないし、可愛いからいいか程度にしか思っていないので、駄々をこねさせる。

「じゃあ、勝負形式じゃなくて一緒に鍛錬しようか。その方が楽しいでしょ」

「う、うん……」

 僕はルパと並走し、一緒に長距離を走ることにした。

「ルパ、疲れたら言うんだよ。休憩にするから」

「舐めないで。獣族はどこまででも走れるんだから」

 ルパは自信満々で走りだし、家から森の間にある三キロメートルほどの平野を行ったり来たりを繰り返す。一往復で六キロメートル。一〇往復で六〇キロメートルだ。僕達は昼過ぎまで走り続け、三〇往復したあたりでルパがこと切れた……。


「う、うぅ……。あ、あれ……、ここは?」

 ルパは焚火台の近くに作った休憩所で目を覚ました。

「あ、ルパ。起きたんだ。もう、何で気絶するまで走るの。いったでしょ、疲れたら行ってねって。一度も休まずに気絶されると困るよ」

「私、気絶したの?」

 ルパは上半身を持ち上げ、焼かれている角ウサギを見る。

「うん。さすがに走り過ぎたみたい。僕の方から休もうかと言えばよかったね。ごめん。えっと、これは昼食ね」

 僕は焼き上がった角ウサギをルパに手渡した。

「あ、ありがとう……。いただきます」

 ルパは角ウサギを受け取り、齧り付く。

「しっかりよく噛んで食べるんだよ。そうしないと消化するのが大変だからね」

「う、うん……」

「これはプルスのぶん」

 僕はプルスの前に角ウサギを置く。

「ありがとうございます。いただきます」

 プルスは口から火を吐き、角ウサギを灰にしてからくちばしで突くようにして食べる。

 僕も焼いた角ウサギの足を千切り、よく噛んで食べた。塩を少し振って味を変えて食事を楽しむ。

「ニクスは何であんなに早くて長く走れるの。本当に人間?」

「僕は人と人の間に生まれた正真正銘、人間だよ」

「そうだよね……。じゃあ、私は人間に勝てないくらい弱いのか……」

「ルパ、今は弱くても大丈夫。僕と一緒に行動すれば力もついて僕を簡単に追い抜かしちゃうよ。何たってルパは獣族なんだからさ。自信なんて後からついてくるおまけだから、今は鍛錬を毎日頑張ろう。そうすればルパも人に勝てるくらい強くなるよ」

「う、うん。今の私は弱いけど、絶対、ニクスを倒せるくらい、強くなって、ニクスに言うこと聞かせる!」

「はは……。僕もルパの耳と尻尾をモフモフするために頑張るよ」

「うぅ……、変態……」

「うぐ……。それは言わないでよ……」

「ふふっ……」

「ん……。 ルパが笑った……。今、笑ったよね!!」

「わ、笑ってない! 絶対に笑ってない! 笑う訳ない!」

 ルパは大きな声を出して否定する。

「でも、今確かに笑ってたよ。ふふっって。ねえ、もう一回見せてよ。。ルパの笑った顔、凄くかわいかったからさ。目にしっかりと焼き付けたいんだ」

「だ、だから。笑ってないって! 人の前で笑う訳ないでしょ!」

 ルパは笑っていないと断固否定していた。

「そうかぁ……、ルパも少し笑えるようになってくれたんだ。よかったよかった」

「うぅ……、だから笑ってないってばぁ」

「まぁ。ルパがそう言うならそう言う風にしておこうか。いつかルパの笑顔が見られる日が来るといいなぁ」

「そんな日、一生こない。私は笑わない。一生、笑わない」

「そんなつまらない一生はないよ。笑わないなんて、どれだけつまらないと思う?」

「さ、さぁ……」

「もう、この世のことがどうでもいいって思うくらいつまらないよ。何も考え付かないし、生きていても面白くない。人生で何をしても笑わなかったら楽しくない。楽しさを捨てたらやる気も出ないし、気力すら沸いてこない。活力だって簡単に底をついちゃう。でも、ルパがここで頑張れば、きっと未来は明るくなるはずだよ」

「そんなふうに言っても、私は笑いたくない」

 ルパはなぜか頑なに笑うことを拒否した。

 獣族は笑ってはいけないと言う風習でもあるのだろうか。でも、そんな訳ない。なんせ、ルパが兄の夢を見ている時はとてもにこにこしている。

 笑ってはいけないと言われていれば子供のころから教育されているはずだ。つまり、他に何か原因がある。その原因を突き止めないと彼女は笑おうとしないだろう。

 だが、僕にはルパを笑わなくさせた原因がわからない。多分、人との拘わりが一番大きいと思う。

 ルパは僕に弱みを極力見せたがらず、優れている部分だけを見せようとする。なぜそのような行動に出るのかよくわからない。確かに、僕もルパにはいいところを見てほしいが駄目な部分も見せている。信頼関係を結ぶには僕の駄目な部分もさらけ出さないといけないと思ったからだ。

 ただ、ルパは僕に弱みを見せようとしない。弱っている部分を僕がいっぽう的に介抱しているだけだ。ルパの方から何かを話してくれるまで、きっと待つしかないだろう。

「わかった。ルパが笑わないなら、それでもいい。ルパの分まで僕が笑うから」

 僕は笑みをルパに見せる。

「あっそ……。勝手に笑っていればいい」

 ルパは角ウサギの肉に貪りつき、あっと言う間に食べつくした。僕も肉を食べつくし、骨をルパの方に渡す。

「はい。ルパ。骨、食べるでしょ?」

「ま、まぁ。ニクスが要らないって言うなら、貰ってあげる」

 ルパは僕の方を見ずに骨を受け取り、細く小さな骨からポリポリと食べていく。

 ――食欲があるみたいだからもう大丈夫かな。ほんと、あの時帰って来れてよかった。

「ルパ、骨を食べ終わったら剣の鍛錬をするよ。でも、ゆっくり食べていいからね」

「わかった」

 ルパは骨をしっかりと噛んで食べていった。太い骨になるとバキバキボリボリと嫌な音が鳴る。どれだけ強靭な顎をしているんだと思いながらルパが骨を食べている姿を眺めていた。

「食べ終わった。ニクス、剣の鍛錬をしよう。今すぐに」

「わかってるよ。よし、じゃあ、ルパは今から右手から左手で剣を持って打ち合おうか」

「え? 私、右手でしか剣持ったことないのに」

「だからだよ。悪い癖になっている部分を治すには初めからやる方が手っ取り早い。だから、ルパには左手で剣を持って打ち合ってみよう」

「わかった」

 ルパは丸太から立ち上がり、短剣を左手で持つ。
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