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7.アクシデントキス

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 これは中1の時の話である。私と幸守君は掲示係をやっていた事があった。2人は理科室の掲示物を張り替えをしていた。掲示係は4人いるのだが、後の2人はガビョウが足りなくなったので、職員室まで取りに行っていたので、放課後の夕陽が差した理科室には私と幸守君だけだった。

 身長の高い幸守君がイスに乗って掲示物をガビョウで留めて、私が掲示物とガビョウを幸守君に渡す係をしていた。

 私は掲示物を渡すふりをして真剣に作業する幸守君を下から眺めていた。ガビョウを渡す時に一瞬触れる手の温もりもまた良い。まだ掲示物は余っているがガビョウが足りなくなった事に私は気付いた。

 
弥生「これで最後のガビョウだよ」

幸守「わかった。じゃあ2人が帰ってくるのを待ちますか……。それまでちょっとひとやす……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 幸守君が話の途中で大声を出したので、そちらに顔を向けると幸守君が降ってくるではないか!?イスから足を踏み外したのだろう。そのまま私を覆い被すように倒れ込んだ。

 私はビックリして咄嗟に目をギュッと瞑りそのまま倒れ込んだ。床に体を打ちつけた感覚はあったが不思議とそれほど痛くは無かった。

 ゆっくり目を開けると、幸守君が私に抱きついているではないか!?幸守君の髪の毛が私の頬に当たる。いやぁぁぁ変態!?……と心の中で叫んだが、なんで抱きついているのかすぐに理解した。

 私の後頭部を右手で守り、1番最初に打ち付けるだろうお尻部分を左手で守ってくれていだ。私のお尻の下に幸守君の左手がある。

 抱きつかれているので幸守君のほと走る心臓の鼓動が伝わってくる。その原因は転倒した恐怖なのか?私に抱きついてるからなのか?

 幸守君は我に返ったように顔を上げて、お尻を触っている手をどかした。と、いうかこの体勢。まるで性欲にかられた彼氏がベットに彼女を押し倒したような感じだ。お互いの顔の距離は30センチもないだろう。非常に気まずい。

 幸守君はもちろんそんなスケベなことを考えているわけではなく、お尻を触ったのも私が怪我をしないように守ってくれただけ。だから私は冷静なフリをしながらこう言った。


弥生「大丈夫?」


 その言葉に幸守君は頷いて唾を飲んだ。ずっと私の事を見つめている。早くどいてくれないと、心臓がもちそうにない……と思った時だった。ゆっくりと顔を近づけてきて柔らかい唇を私の唇にチュッと重ねた。

 私は大きく目を見開き幸守君の服をギュッと掴んだ。体に稲妻が走ったような衝撃を受ける。どうしていいか分からず、そのまま動けなかった。でも嫌じゃない。むしろ好きな男の人にキスされるなんて願ったり叶ったりなわけで、このまま時が過ぎればなんて思ってしまった。

 なんて柔らかいのだろう。生温かて心地よい。私は幸守君のワイシャツをギュッと握った。

 
「先生、ガビョウもっとなかったんですか?」

「そうなんだよ。ごめんな」

「これだけあれば足りるでしょ?」


 マズイ。ガビョウをとりに行った生徒がこちらに向かってくる声がする。しかも先生付きで。2人は慌てて起き上がり何もなかったかのようにイスに座った。理科室のドアがガラッと開き、生徒達が中へ入って来た。セーフ。バレていないようだ。

 その後、私も幸守君もその話をしなかった。なかった事になっているのか?でも事実は事実。秘密を共有しているのはなんだか優越感がある。


幸守「中1で、あんな姿見せられたら、そりゃあ。理性失うよな」

弥生「は?」

幸守「嫌われるの覚悟!! とか思ったんだけど、嫌われない自身もあってさ。衝動が抑えられなかったんだよ。自分でも自然にキスしたいって思って」

弥生「スケベめ」

幸守「……怒ってる?」

弥生「ちょっとね。……でも」

幸守「ん?」

弥生「嬉しかった。だって私も幸守君の事好きだったから」

幸守「やっぱり!! 俺、あの後ずっと水嶋が告白してくるのずっと待ってたんだけど、卒業までなんの音沙汰もなく、その話すらされなかったから、心残りだったんだよ」


 そうだったのか。なんて切ないすれ違いだったのだろう。幸守君が急に真剣な顔をしながらこっちを見た。


幸守「やっぱり俺。水嶋の事が好きなんだよ」


 そう言って私の頬に手を当てた。幸守君の手は相変わらず冷たい。触れられると魔法にかかったように動けなくなる。幸守君の手はそのまま頭を撫で始めた。気持ちいい。

 心が幸守君を受け入れている。幸守君は私の肩に手を滑らせ、そのまま優しく抱きしめた。私の心臓ははち切れる限界だと言うのに、お互い厚着をしているからだろうか?幸守君の胸の鼓動は伝わってこない。彼のぬくもりも感じられない。

 幸守君は抱きしめている手を緩め、私の顔を見た。吸い込まれてしまいそうな瞳に目が熱くなる。そしてあの時のようにゆっくりと顔を近づけてきた。私もゆっくりと目を閉じようとした時だった。


「ダメ」


 彼氏の声だ。私の耳元で彼氏がそう叫んだような幻聴が聞こえた。私は目を開けてキスしようとする幸守君の唇に人差し指を当ててキスを拒んだ。そうだ。私には愛する彼氏がいるのだ。つい空気に飲まれてしまいそうになってしまった。


弥生「ごめん。やっぱり幸守君の気持ちには答えられない」

幸守「そっか……。俺こそごめん」


 幸守君は切なそうな笑みを浮かべながら手を離した。幸守君の事は好きだ。でも長年付き合ってる彼氏を捨ててまで一緒になるのは違う気がする。彼氏との強い絆があるから。と思いつつも、もうちょっと食い下がってもいい気がしなくもないのだが。ずいぶんあっさりしているじゃないか。


幸守「じゃあ。約束して欲しい事があるんだ」

弥生「なに?」

幸守「絶対幸せになってくれよな」

弥生「うん。約束する。私絶対幸せになる」

幸守「あともう1つ……」


 幸守君は何かを言いかけて自分のバックをあさりだした。しばらくすると幸守君の手には小さな紙袋があった。手のひらほどの大きさで和柄の入った洒落な紙袋だ。しかも2つ。これでいったい何を誓うと言うのだろうか?
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