恋文配達人

ときしろ めぐみ

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「だめだよ、伝子。ああいうときはもっとはっきりした態度でしめさないと」
 真穂は、まるで近所のおせっかいなお姉ちゃんみたいな口調で伝子を諭した。
「だって……言えるわけないじゃない。不思議な力のおかげだなんて」
「まあ、そりゃそうだけどね。でもさ、いいかげんテキトーに何か言って切り抜けられるようにしないとね」
「うん……」
 真穂こと金沢真穂かなざわ まほは伝子の不思議な力のことを知る唯一の友達だった。
 その時、廊下の向こうから一見ヒョロっとしているようにみえるが割とがっしりした体格の、ややクールな瞳にアンダーリムのメガネが似合う男子生徒が歩いて来た。
「おー、裕二ゆうじ
 真穂が片手を挙げて挨拶する。
「なんだ、真穂か」
「なんだはないだろー? こんな美少女が声かけてやってんだから少しは喜べよ」
「自分で言うことじゃないだろ、まったく」
 真穂はその男子と気さくに話していた。裕二と呼ばれたその男子は、真穂の小学生からの幼なじみの水谷裕二みずたに ゆうじだった。
「あ……あの、水谷さん、おはようござい……ます」
 その時、真穂の横にいた伝子がおずおずと消え入りそうな声で裕二にあいさつをした。
「ああ、おはよう、日向野さん」
「きょ……今日は天気がいいですね」
 真穂は窓の外を見た。どんよりとしていて今にも雨が降りそうだ。
「どしたの、伝子? なんか変だよ」
「いや……あの、その」
 伝子は恥ずかしさのせいか顔をトマトのように真っ赤にしてうつむいていた。


「それより早く美術室行かないと。じゃな、裕二」
「ああ。急いでコケるなよ」
「コケるかっ! てめーこそ授業サボんなよ、バーカ」
 裕二に向かってアッカンベーをしながらそう言った真穂は、少しばかり急ぎ足で美術室に向かおうとする。その時、後ろで短い悲鳴がし、次の瞬間バスケットボールを床にたたきつけたような音とともに廊下に教科書や画材が散らばった。
「いたたた……」
 真穂が振り返ると、伝子が廊下に突っ伏していた。
「もう、大丈夫? 伝子」
 真穂は伝子を助け起こし、二人で散らばった道具を急いでかき集めて再び美術室に急いだ。後ろの方でそれを見ていた裕二がクスクス笑っている。伝子の顔はさっきよりも熟したトマトのようになっている。
『ふ~ん、な~るほど』
 そんな伝子の様子を見て、真穂は何かを感じていた。
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