恋文配達人

ときしろ めぐみ

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 次の日の朝。教室に入ってきた真穂は真っ先に伝子のところに行って声をかけた。
「おはよう、伝子。昨日はありがとうね」
「あ、真穂ちゃん、おはようです。ちゃんと宿題は出来ましたか?」
「当たり前じゃない。ほら、みなさい」
 真穂は、そう言ってちょっと得意そうにノートを広げて見せる。それを伝子がざっとながめて一言。
「……あの、間違いだらけですよ」
「え、本当?」
 真穂はあわててノートを見直した。が、自分では間違いがよく分からない。そんな真穂の様子を見て、伝子が机の中からピンクの大学ノートを出して真穂に差し出す。
「ほら、授業までまだ時間がありますから、私のノート見せるです」
「サンキュー、伝子。アンタいいお嫁さんになるよ」
「なんですか、それ」
 そんなことを言いつつ、真穂は自分の席に戻った。そして伝子のノートと照らし合わせて手早く自分のノートを直すと、伝子にノートを返した。その時、ちょうどチャイムが鳴り、SHRののち、現国の授業が始まった。
 そして授業終了後の休み時間。
「いやー、伝子助かったよ。今日は当てられる日だと思ってたんだ」
「よかったですねぇ、でも、今度はちゃんと間違えないようにしなきゃだめですよ」
 とまるでお母さんのような口ぶりで注意する伝子。
「分かってるって」
 真穂は反省してないイタズラ坊主のようにニシシっと笑う。それにつられて伝子もクスクス笑った。
「で、さ。実は今日、伝子に頼みがあるんだ」
 いきなり真穂が話題を変えてきたので、伝子は仔犬のような顔でキョトンとする。
「はい、なんでしょう?」
「こーれ」
 真穂は薄いピンク地に白い花びらの柄があしらわれたかわいらしい封筒を差し出してきた。
「これさ、他のクラスにいる私の中学ん時の同級生に頼まれたものなんだ」
「あ、はい。手紙の配達ですね」
 伝子が配達する手紙の受付はたいてい真穂がやっていた。特に理由はないが、伝子に直接渡すより成功率が上がるといううわさがある。
「でさ、例によって差出人の名前は手紙には書いてあるけど封筒には書いてないよ」
「はい、わかってます」
「その、宛て先なんだけど……」
 真穂はなぜか間をためてから、ややわざとらしく
「裕二なんだよねー、水谷裕二」
「え……?」
 伝子の顔に動揺の色が浮かんだ。それを隠そうとしてはいるが、真穂にはバレバレだ。
「もちろん中は開けちゃだめだよ。その子、とっても恥ずかしがり屋な子なんだ。まぁ、いつも通り頼むよ」
 そう言うと真穂は鼻歌を歌いつつ、そそくさと伝子の席から離れた。伝子は、その手紙をじっと見つめている。そして時々蛍光灯にかざして透かしてみようともしていた。まるで手紙の差出人を探るかのように。真穂はその様子を自分の席から眺め、「私って悪い子だなぁ」とつぶやきつつ悪代官のようにニヤニヤしていた。
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