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幕間3

閑話3

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アレは罪の子。
生まれてはいけなかった。
生まれても、すぐに死ぬべき定めだった。
生まれるべきではなかった。
彼女は苛立っている。同時に焦燥感に襲われている。
アレは罪の子。
何故始末されないのだ。機会はいくらでもあった。
なのにアレは今も息をしている。
それどころか……この中央世界を塗り替えかねない。
そんなはずがあるわけないのだ。
予言の子。
死ぬだろうと、言われてきた。
身体が弱く、毎日のように熱を出し、毒の入った食事を与えられ、足を失った。
そのまま死ねばよかったのだ。
そうすれば、罪は消えるはずだった。
七つまで生きられないだろうと、言われてきたのにしぶとく生き続けた。
十五を過ぎても、長くは生きられないはずだったのだ。
彼女は歯噛みする。
なぜ、なぜ。
今も生きている。



アレは罪の子。罪が具現した子供。



それともアレは、咎の姿をしているせいで、毒でも死なないのだろうか?

暗殺者を呼び寄せても、生き残るのだろうか?

彼女は思う。思い出す。
あの時、アレは死ぬはずだったのだ。証拠など何も残らず。完璧な形で死ぬはずだったのだ。
胸を撫で下ろせるはずだったのだ。
それなのに、邪魔が入った。
アレはまた生き延びた。
何度命を狙われても、何度命を削られかねないことが起きても、アレは生きている。
もう、いつ気付かれてもおかしくない。
アレが咎を背負い罪深き出自の子だと、気付かれる日も近いかもしれない。
それまでに、アレの息の根を止めなければならないのだ。
早く、早く、急いで、どうにか、なんとか、アレの命を刈り取らなければ。
破滅するのは彼女だった。
気付かれてはならない。
彼女が手を下したのだと、いうことも。
アレの出自も。
何もかもを。
誰にも気付かれないうちに、葬り去らなければならない。
死んでしまったものの出自はとやかく言われない。
アレがそれに気づく前に、アレがそれを知る前に。
アレはたとえ気付いても喋れはしないだろうと、彼女は予想していた。
しかしそれでも、彼女の立場は危うくなりかねない。



貴様に復讐をしてやる、と毒が融けたような呪いの声が、耳元に囁きかけるように聞こえた。


彼女は身震いした。冬の寒さの中に、得体のしれない寒さが混じった気がした。
「雇い主殿」
いつの間に現れたのか、雇っていた化け物が跪いている。
「アレの始末は。冬になるというのに。アレは生きている」
「もうしわけありません」
彼女は細工物の木箱を投げつけた。顔に当たる音がし、うめく声が続く。
「早くどうにかしてちょうだい」
「アレなる者の始末をするには、いささか都合が悪い状況です、警備も強固。あの土地にはあの土地独自の裁量が働きます」
「そんなのどうでもいいわ、私は十五年も命じて来たのですわよ。それをかなえられないお前たちが役立たずなだけですわよ!」
「申し訳ございません」
鼻から血を流して謝罪する声を聴いても、彼女の気分は上昇しない。
憎々しげに眺め、言う。
「早くなさい」
「……はい」
「あの時は最良のタイミングだったのに。あんな邪魔が入らなければ……」
「あれは想定外でした。あれですべてが終わるはずでした」
「そう言う想定外のことを想定して動くのがあなたたちの仕事でしょう!」
彼女は雇ったものを蹴りつけた。甘んじて受けるもの。
彼女は息を吸った。
「これから二年の期限を与えます。確実にアレを屠りなさい。私の手だと気づかれないように。アレの正体が知られる前に」
「はい」
彼女の土地に、古くから棲みつく影の者たちは、彼女には逆らえない。
頷き、姿を消した。
彼女は爪を噛んだ。
「忌々しい、呪われた子供だこと」
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