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スナゴと新たなる居住地
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都では新しい生の巫子長の事についてもちきりで、誰もが顔を合わせればその話題をするほどだった。
「聞いたか、新たな巫子長は先代のアシュレイ様だそうな」
「石を持って投げつけて追い出したのに、よくまあこの都にまた戻って来る気になったわね」
「でもアシュレイ様は都では暮らさないそうだ」
「じゃあどこで暮らすというのかい。ここ以外でクラスとなったら外の村とかだろう。アシュレイ様ほどの身分の方をとどめておく村なんてないよ」
「ほら、山々を移動する村があっただろう、アシュレイ様はそこで暮らすと言っているそうな」
「まあ……」
先代の巫子長、そして石を持って投げつけられて、偽物とののしられて追い出されたアシュレイは、都に戻って暮らさないという。
それは都という場所にとってかなり外聞の悪いものだった。
都はもっとも素晴らしい街、といわれていて、そこに暮らすことをどんな狗族も憧れる、というのが都の暮らす狗族の自負している事だったのだ。
それなのに、ありがたい身分の、それも生の巫子長というとてつもなくえらい身分の王族が、その都は嫌だというのは、かなり腹が立つ事でもある。
事実それを話す狗族は苦い顔だ。
「それもこれも全部、アシュレイ様が偽物の巫子長だと言って追い出した、ナリエ様のせいだ」
「ナリエ様は悪い噂しかなかったからね」
「だが当時は、あまりしゃべらないアシュレイ様よりも、弁舌の立つナリエ様の方が、よく見えたんだよな」
民衆の前で堂々と立ち、いかにもな事を喋るナリエは、いかにも生の巫子長としてそれっぽく見えたのだ。
反対に、あまり人前に出ず、喋る事もどこかずれていたアシュレイは、頼りなく、なんとなくこいつが、巫子長でいいのか、と思わせるものがあった。
だが事態は動いた。ナリエは仕事を嫌がって放ったらかしにし、辺境のちやほやしてくれる村に逃げて行った。
正しい巫子長を連れ戻せ、もしくは連れて来い、と幾人かの狗族に命じたという帝。
正しい巫子長として選ばれたのは、アシュレイなのだ。
これは明確に、ナリエが正しくない巫子長と示された事でもある。
「聞けばアシュレイ様は幼い頃に、死の巫子長から旗をいただいていたという」
「まあ、生の巫子長にしか渡されない、選ばれた者にしか見えない旗を?」
町人は会話する。そして、ここに戻って来る生の巫子長の事を、今度こそきちんと迎え入れようと、話すのであった。
一転して、都の近くの、以前村を構えていた場所では、山から下りてきた村の狗族たちが、皆で草刈りをしていた。
「終わらない草刈り……」
「草をいっぺんちゃんと刈っておかないと、家を建てられないからな」
「そうだね……」
「ここの草って結構むしりやすいよ、兄ちゃん!」
「おう、じゃんじゃん引きちぎっちまえ」
「毛虫には気を付けるんだぞ」
村の誰もが、新たな村のために草を刈り、建築資材を集めて来て、一丸となって村を作ろうとしていた。立派な団結力である。
そんな中スナゴも、もちろん草をむしり、時々食事の支度をする雌たちに呼ばれていき、子供たちがじゃれだすのを見守り、と何かと忙しい。
子供たちは、飽きてしまったら着替えてころころとじゃれ回りだすのだ。
これに対応できる大人というか、年長の誰かの中で、一番役割に近いのがスナゴであるため、結局スナゴはお守も多い。
「スナゴ、大丈夫か?」
「ここら辺の地理が分からないから、子供たちを外に連れ出すわけにもいかないし……まだ大丈夫だけれど、ちょっとこれが続くときついかな」
アシュレイの言葉に、スナゴは苦笑いをする。子供たちは持て余した体力を、じゃれまわる事で消費しているのだ。
子供ながらなんて体力の持ち主たちなんだ、とスナゴは呆れている。
子供たちはそんな事なんて関係ない、といわんばかりに、あっちに行ったりこっちに行ったりうろうろちょこまかとしている。
「いざとなったらお前も子守だ、アシュレイ」
「トリトン先輩は?」
「草むしり終わった場所に穴掘って、家の下地作れって言われちまったよ」
「体の大きな着替えた姿に化けるって、そういう事なんだね」
「当たり前でしょ、こんな大きな体に化ける奴の穴掘り能力を、有効に使わなくってどうするの」
サンドラが笑った。
「そうだ、継承式っていつやるのか誰か、知らないだろうか」
「けーしょーしき?」
「ああ。巫子長になる時に行う儀式で、三日三晩続く儀式と宴からなるものなんだ」
「宴って腹いっぱい食っていいのか」
「あまりお勧めしない。心置きなく飲み食いすると、後で笑われる」
アシュレイの言葉に、トリトンは解せなかったらしい。
「変な宴だな、腹いっぱい食って笑われるなんてよ」
「ほとんどが、貴族の狗族の社交場のような物だからそうなるんだ」
「あー面倒くせえな」
「死の巫子長になるって決めたんだから、トリトン先輩は頑張らなきゃ」
「わあってるっての」
スナゴの言葉に、トリトンが豪快に頭をかきながら答えた。
「頭痒いの、兄ちゃん。虱? ノミ?」
「いやな事言うなよ、兄ちゃんには虱ものみもいねえよ! いたらお前たちにもつくだろ」
頭をかく兄に素直な心で問いかけた弟が、ぐりぐりと頭を撫でられて笑う。
「リージアはきちんと伝えられただろうか」
「伝えてないなら、おれたちはもう何も関係ありませんって顔で、ここにしばらく暮らすだけだ。もともと向こうがお願いしますって言ってきてんだ、こちらの方が立場は上だよ」
トリトンが言い切り、家の足場を作るため、大人たちの方に向っていった。
「聞いたか、新たな巫子長は先代のアシュレイ様だそうな」
「石を持って投げつけて追い出したのに、よくまあこの都にまた戻って来る気になったわね」
「でもアシュレイ様は都では暮らさないそうだ」
「じゃあどこで暮らすというのかい。ここ以外でクラスとなったら外の村とかだろう。アシュレイ様ほどの身分の方をとどめておく村なんてないよ」
「ほら、山々を移動する村があっただろう、アシュレイ様はそこで暮らすと言っているそうな」
「まあ……」
先代の巫子長、そして石を持って投げつけられて、偽物とののしられて追い出されたアシュレイは、都に戻って暮らさないという。
それは都という場所にとってかなり外聞の悪いものだった。
都はもっとも素晴らしい街、といわれていて、そこに暮らすことをどんな狗族も憧れる、というのが都の暮らす狗族の自負している事だったのだ。
それなのに、ありがたい身分の、それも生の巫子長というとてつもなくえらい身分の王族が、その都は嫌だというのは、かなり腹が立つ事でもある。
事実それを話す狗族は苦い顔だ。
「それもこれも全部、アシュレイ様が偽物の巫子長だと言って追い出した、ナリエ様のせいだ」
「ナリエ様は悪い噂しかなかったからね」
「だが当時は、あまりしゃべらないアシュレイ様よりも、弁舌の立つナリエ様の方が、よく見えたんだよな」
民衆の前で堂々と立ち、いかにもな事を喋るナリエは、いかにも生の巫子長としてそれっぽく見えたのだ。
反対に、あまり人前に出ず、喋る事もどこかずれていたアシュレイは、頼りなく、なんとなくこいつが、巫子長でいいのか、と思わせるものがあった。
だが事態は動いた。ナリエは仕事を嫌がって放ったらかしにし、辺境のちやほやしてくれる村に逃げて行った。
正しい巫子長を連れ戻せ、もしくは連れて来い、と幾人かの狗族に命じたという帝。
正しい巫子長として選ばれたのは、アシュレイなのだ。
これは明確に、ナリエが正しくない巫子長と示された事でもある。
「聞けばアシュレイ様は幼い頃に、死の巫子長から旗をいただいていたという」
「まあ、生の巫子長にしか渡されない、選ばれた者にしか見えない旗を?」
町人は会話する。そして、ここに戻って来る生の巫子長の事を、今度こそきちんと迎え入れようと、話すのであった。
一転して、都の近くの、以前村を構えていた場所では、山から下りてきた村の狗族たちが、皆で草刈りをしていた。
「終わらない草刈り……」
「草をいっぺんちゃんと刈っておかないと、家を建てられないからな」
「そうだね……」
「ここの草って結構むしりやすいよ、兄ちゃん!」
「おう、じゃんじゃん引きちぎっちまえ」
「毛虫には気を付けるんだぞ」
村の誰もが、新たな村のために草を刈り、建築資材を集めて来て、一丸となって村を作ろうとしていた。立派な団結力である。
そんな中スナゴも、もちろん草をむしり、時々食事の支度をする雌たちに呼ばれていき、子供たちがじゃれだすのを見守り、と何かと忙しい。
子供たちは、飽きてしまったら着替えてころころとじゃれ回りだすのだ。
これに対応できる大人というか、年長の誰かの中で、一番役割に近いのがスナゴであるため、結局スナゴはお守も多い。
「スナゴ、大丈夫か?」
「ここら辺の地理が分からないから、子供たちを外に連れ出すわけにもいかないし……まだ大丈夫だけれど、ちょっとこれが続くときついかな」
アシュレイの言葉に、スナゴは苦笑いをする。子供たちは持て余した体力を、じゃれまわる事で消費しているのだ。
子供ながらなんて体力の持ち主たちなんだ、とスナゴは呆れている。
子供たちはそんな事なんて関係ない、といわんばかりに、あっちに行ったりこっちに行ったりうろうろちょこまかとしている。
「いざとなったらお前も子守だ、アシュレイ」
「トリトン先輩は?」
「草むしり終わった場所に穴掘って、家の下地作れって言われちまったよ」
「体の大きな着替えた姿に化けるって、そういう事なんだね」
「当たり前でしょ、こんな大きな体に化ける奴の穴掘り能力を、有効に使わなくってどうするの」
サンドラが笑った。
「そうだ、継承式っていつやるのか誰か、知らないだろうか」
「けーしょーしき?」
「ああ。巫子長になる時に行う儀式で、三日三晩続く儀式と宴からなるものなんだ」
「宴って腹いっぱい食っていいのか」
「あまりお勧めしない。心置きなく飲み食いすると、後で笑われる」
アシュレイの言葉に、トリトンは解せなかったらしい。
「変な宴だな、腹いっぱい食って笑われるなんてよ」
「ほとんどが、貴族の狗族の社交場のような物だからそうなるんだ」
「あー面倒くせえな」
「死の巫子長になるって決めたんだから、トリトン先輩は頑張らなきゃ」
「わあってるっての」
スナゴの言葉に、トリトンが豪快に頭をかきながら答えた。
「頭痒いの、兄ちゃん。虱? ノミ?」
「いやな事言うなよ、兄ちゃんには虱ものみもいねえよ! いたらお前たちにもつくだろ」
頭をかく兄に素直な心で問いかけた弟が、ぐりぐりと頭を撫でられて笑う。
「リージアはきちんと伝えられただろうか」
「伝えてないなら、おれたちはもう何も関係ありませんって顔で、ここにしばらく暮らすだけだ。もともと向こうがお願いしますって言ってきてんだ、こちらの方が立場は上だよ」
トリトンが言い切り、家の足場を作るため、大人たちの方に向っていった。
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