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スナゴとつかの間の平穏
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村を移るとはいっても、そう簡単に移れるかといえばそうはいかない。
毎度の事と駐在の役人たちにも、移動したら届け出を出さなければならないのだ。
そうしないと、違法滞在という事になり、全員つかまってしまう。
「今回はどのあたりだ?」
「ちょっと東よりかもしれない」
「ああ、都に近い方にいったん戻るのか」
大人たちが、毎日のように夜に話し合いを行う。昼は各々よさそうな場所を探しに行っているのだ。
そうなると、食料の調達は子供たちの仕事となり、子供たちも俄然張り切って食料を取りに行く。
子供たちは群れで狩りを行えないため、小さな獣や魚、木の実などをとってくるのだが、それも大事な仕事なのである。
まして今回のように、他所の村の介入により、急ぎ村移りを行う、となったら作業はかなり早く進めなければならない。
余所の村に気付かれて、妨害などされてはたまったものではないのだ。
「でも、そんなにしょっちゅう村が移っていていいの」
「どこからどこまでの範囲で移動するかっていうのは、あらかじめ決まってんだよ。国のお役人がここからここまでだったら、山の中だけだったら移動していいって事にしてんだから」
「山、かなり広いと思うんだけど」
「でもこのあたり一帯の山の主は、うちのかあちゃんだからな。うちのかあちゃんが主だから、お役人たちもこのあたりのここからここまで、って決めてんだ」
「そんな事できるの?」
「母ちゃんが前に直談判したんだよ。定期的に引っ越さないと、そのあたりに映えている薬草を皆取りつくしてしまって、はげ山みたいにしちまうって。この山の薬草はそりゃあ重宝されているらしいから、お役人たちも、薬草を自然に育てるためって事で、かあちゃんを名実ともに山の主って事にして、それ許可したんだとか」
「……」
「かあちゃんは前に、住んでた村で似たような事が起きたから、そういう相談したんだ。で、この村もそれで対して困らないから、定期的に村移り」
トリトンはひょいひょいと木の実を拾っていく。椎の実どんぐりそれから栗の実。他にも子供たちが山芋の匂いを嗅ぎつけて、熱心に掘っている。
「土バチの巣を掘り返すなよお前らー!」
「はーい!」
穴を掘っていると時々当たってしまう、実に怖い虫のことを忘れないように、トリトンが周囲の子供たちに声をかける。
子供たちもいい返事だ。
別の所に目を向ければ、数日前に激臭のため取れなかった魚を、アシュレイ達が捕まえて捌いている。
「スナゴ、栗の木を揺さぶってくれ」
トリトンが頭上を睨んで言う。
彼の頭上には、たわわに育った栗の実が、いい色でまだ木にぶら下がっていたのだ。
「ふもとの村は何か言ってきてる?」
「あれをやった連中は全員ふもとの木の下にぶら下げておいたから、ふもとの村もあいつらが何したか、匂いでわかるだろうよ」
「……匂いで?」
「本人たちはすっかり花がばかになって気付いてなかったけどな、服にあの激臭がしみ込んでんだ。それが煙として焚かなかったらつかないのくらい、平原狼族だってわかる。あいつらがあのくそったれな匂いを俺らに向けたって時点で、交渉の余地はかけらもなくなっちまったしな」
自業自得だろうよ、とトリトンはいい、スナゴは木の上に昇って、思い切り揺さぶって、ばらばらと落ちて来るいがぐりに刺さらないようにしながら、トリトンがそれを拾った。
「村移るからな、移動が長かったら保存のきく食べ物はあんまり持っていけないからな、この程度がちょうどいいか」
子供たちの本日の成果を確認し、栗も拾い終わったスナゴとトリトンは、魚を枝に突き刺して背負っている、すっかり村暮らしが慣れた元王子様と一緒に、村に戻った。
そして村で彼等を待っていたのは、上等な身なりに身を包んだ、武器を持っていない狗族だった。
毎度の事と駐在の役人たちにも、移動したら届け出を出さなければならないのだ。
そうしないと、違法滞在という事になり、全員つかまってしまう。
「今回はどのあたりだ?」
「ちょっと東よりかもしれない」
「ああ、都に近い方にいったん戻るのか」
大人たちが、毎日のように夜に話し合いを行う。昼は各々よさそうな場所を探しに行っているのだ。
そうなると、食料の調達は子供たちの仕事となり、子供たちも俄然張り切って食料を取りに行く。
子供たちは群れで狩りを行えないため、小さな獣や魚、木の実などをとってくるのだが、それも大事な仕事なのである。
まして今回のように、他所の村の介入により、急ぎ村移りを行う、となったら作業はかなり早く進めなければならない。
余所の村に気付かれて、妨害などされてはたまったものではないのだ。
「でも、そんなにしょっちゅう村が移っていていいの」
「どこからどこまでの範囲で移動するかっていうのは、あらかじめ決まってんだよ。国のお役人がここからここまでだったら、山の中だけだったら移動していいって事にしてんだから」
「山、かなり広いと思うんだけど」
「でもこのあたり一帯の山の主は、うちのかあちゃんだからな。うちのかあちゃんが主だから、お役人たちもこのあたりのここからここまで、って決めてんだ」
「そんな事できるの?」
「母ちゃんが前に直談判したんだよ。定期的に引っ越さないと、そのあたりに映えている薬草を皆取りつくしてしまって、はげ山みたいにしちまうって。この山の薬草はそりゃあ重宝されているらしいから、お役人たちも、薬草を自然に育てるためって事で、かあちゃんを名実ともに山の主って事にして、それ許可したんだとか」
「……」
「かあちゃんは前に、住んでた村で似たような事が起きたから、そういう相談したんだ。で、この村もそれで対して困らないから、定期的に村移り」
トリトンはひょいひょいと木の実を拾っていく。椎の実どんぐりそれから栗の実。他にも子供たちが山芋の匂いを嗅ぎつけて、熱心に掘っている。
「土バチの巣を掘り返すなよお前らー!」
「はーい!」
穴を掘っていると時々当たってしまう、実に怖い虫のことを忘れないように、トリトンが周囲の子供たちに声をかける。
子供たちもいい返事だ。
別の所に目を向ければ、数日前に激臭のため取れなかった魚を、アシュレイ達が捕まえて捌いている。
「スナゴ、栗の木を揺さぶってくれ」
トリトンが頭上を睨んで言う。
彼の頭上には、たわわに育った栗の実が、いい色でまだ木にぶら下がっていたのだ。
「ふもとの村は何か言ってきてる?」
「あれをやった連中は全員ふもとの木の下にぶら下げておいたから、ふもとの村もあいつらが何したか、匂いでわかるだろうよ」
「……匂いで?」
「本人たちはすっかり花がばかになって気付いてなかったけどな、服にあの激臭がしみ込んでんだ。それが煙として焚かなかったらつかないのくらい、平原狼族だってわかる。あいつらがあのくそったれな匂いを俺らに向けたって時点で、交渉の余地はかけらもなくなっちまったしな」
自業自得だろうよ、とトリトンはいい、スナゴは木の上に昇って、思い切り揺さぶって、ばらばらと落ちて来るいがぐりに刺さらないようにしながら、トリトンがそれを拾った。
「村移るからな、移動が長かったら保存のきく食べ物はあんまり持っていけないからな、この程度がちょうどいいか」
子供たちの本日の成果を確認し、栗も拾い終わったスナゴとトリトンは、魚を枝に突き刺して背負っている、すっかり村暮らしが慣れた元王子様と一緒に、村に戻った。
そして村で彼等を待っていたのは、上等な身なりに身を包んだ、武器を持っていない狗族だった。
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