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スナゴと乙女
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あくる朝、村長はいつも通り村の皆を集めて、昨日決まった方針の確認をした。
『都の住人とか面倒くさいのが来たら、その時話し合って対応する』と言う、なんとも場当たり的な方針だが、確認しておいた方がいい中身だ。
うっかり迎え撃ってしまうような、血の気の多い若い狗もいるので、この念押しは大事である。
さらに言えば、皆に言っておけばいざという時、山の主とまで言われるトリトンの母を説得できる。トリトンの母を怒らせるととてつもなく怖いが、村の仲間の説得位はちゃんと聞いてくれるお人なので、大事な話だ。
そして今日も、今日とて村で集めた山の薬草を、ふもとの村まで交換しに行くのだ。
そう言えば前回の交換から、結構な日数が立っていたな、とスナゴも思い出す。
物々交換なので、お互いに溜まった頃を見計らって遠吠えをするのだ。
ふもとの村とここの村くらいの距離であれば、連絡の岩場と言われる岩場にどちらかの代表が上って遠吠えすれば、物々交換するかどうかは相談できる。
そりゃあ、詳しい事は面と向かって話し合いした方がいいが、そろそろ交換しようという誘いくらいだったら、遠吠えで事足りるのだ。
今回も交換にスナゴは参加するし、サンドラも来る。ふもとの村の住人とちゃんと挨拶するべく、アシュレイも同行する事になり、だいたいのメンツは決まって、さっそく荷物をまとめて出発だ。
森狼族と比べてはるかに小柄な首白狸のアシュレイに、君も獣化するのやめてのっぺらぼうで歩こうよ、と言う奴は誰もいなかった。
ふもとの村まで行くと、村はちょっとざわついていた。
「ねえ、何かあったのかしら、こんなに騒々しいの珍しいじゃない」
サンドラがふもとの友達に聞く。彼女はそうそう、と興奮を隠せない声で言った。
「きれーな乙女が来たのよ! 山の格好いい狼に一目ぼれして、都から追いかけてきたんですって! 誰のことかしら」
多分トリトン先輩だ、とスナゴは思ったわけだが、サンドラの友達は、それがまさかトリトンだとは思っていなさそうだった。着替えると膨れ上がるのは知っていても、それとこれが一致するわけじゃないらしい。
「すごーく毛並みのいい、超弩級の狼族だったらしいわよ。山のこのあたりってところまでは調べられたらしいんだけど、それ以上分からなくて、ここにしばらく滞在してるの」
「その狗族、探してる狼がどこの誰かわかるまで、この村にいるわけ?」
「村中の若い雄が夢中で、そんな狼見つからない方がいいって言ってるくらい。きれーな乙女だけど、働き者じゃないわね。手もつやつやであかぎれの痕一つもないんだから」
「いいところのお嬢様とか」
「都の住人の仕事事情なんて分かるわけないですよ、それよりも、そっちでは干し芋たくさん作れたんでしょ、こっちの薬草と交換しましょうよ」
「あ、いっけない! 今持ってくるわねー!」
「……村の狗族たち、私たちが来たの分かってるのかな」
「匂いで一発でしょ、それもできないほど、鼻がばかな村じゃないし」
「雄たちがその乙女のために、気もそぞろなんだろう。雌たちはしっかりしているみたいだし」
「ねー」
そんな会話をしている間に、交換の品物が用意され、ここからがスナゴの出番である。
どちらも喧嘩にならない、不愉快にならないように計算をし、調整をし、今回も何とか日が暮れる前に、交換を終わらせた。
さて、それじゃあ帰るか、何て山の皆で思っていた時である。
「今日はここに泊まって行かないか」
ふもとの村の村長が提案した。珍しい事だ、と思っていると彼はまたいう。
「最近夜になると、出自不明の奇妙な雄の狗族が現れると言うからね」
どうやらこちらの心配をしてくれているみたいだ。それならいいだろう。
スナゴ達はありがたく、その申し出を受ける事にした。
驚きの事実が分かったのは、その夜の宴会でのことだった。
宴会の上座にいつも座るのは村長夫妻なのだが、今日は違っていて、何とよそから来た雌が座っていたのだ。
スナゴはその顔を見てびっくりした。
「ナリエだ……」
そう、ふもとの村の雄たちが一頃になっているのは、あの性格の悪いナリエだったのだ。
『都の住人とか面倒くさいのが来たら、その時話し合って対応する』と言う、なんとも場当たり的な方針だが、確認しておいた方がいい中身だ。
うっかり迎え撃ってしまうような、血の気の多い若い狗もいるので、この念押しは大事である。
さらに言えば、皆に言っておけばいざという時、山の主とまで言われるトリトンの母を説得できる。トリトンの母を怒らせるととてつもなく怖いが、村の仲間の説得位はちゃんと聞いてくれるお人なので、大事な話だ。
そして今日も、今日とて村で集めた山の薬草を、ふもとの村まで交換しに行くのだ。
そう言えば前回の交換から、結構な日数が立っていたな、とスナゴも思い出す。
物々交換なので、お互いに溜まった頃を見計らって遠吠えをするのだ。
ふもとの村とここの村くらいの距離であれば、連絡の岩場と言われる岩場にどちらかの代表が上って遠吠えすれば、物々交換するかどうかは相談できる。
そりゃあ、詳しい事は面と向かって話し合いした方がいいが、そろそろ交換しようという誘いくらいだったら、遠吠えで事足りるのだ。
今回も交換にスナゴは参加するし、サンドラも来る。ふもとの村の住人とちゃんと挨拶するべく、アシュレイも同行する事になり、だいたいのメンツは決まって、さっそく荷物をまとめて出発だ。
森狼族と比べてはるかに小柄な首白狸のアシュレイに、君も獣化するのやめてのっぺらぼうで歩こうよ、と言う奴は誰もいなかった。
ふもとの村まで行くと、村はちょっとざわついていた。
「ねえ、何かあったのかしら、こんなに騒々しいの珍しいじゃない」
サンドラがふもとの友達に聞く。彼女はそうそう、と興奮を隠せない声で言った。
「きれーな乙女が来たのよ! 山の格好いい狼に一目ぼれして、都から追いかけてきたんですって! 誰のことかしら」
多分トリトン先輩だ、とスナゴは思ったわけだが、サンドラの友達は、それがまさかトリトンだとは思っていなさそうだった。着替えると膨れ上がるのは知っていても、それとこれが一致するわけじゃないらしい。
「すごーく毛並みのいい、超弩級の狼族だったらしいわよ。山のこのあたりってところまでは調べられたらしいんだけど、それ以上分からなくて、ここにしばらく滞在してるの」
「その狗族、探してる狼がどこの誰かわかるまで、この村にいるわけ?」
「村中の若い雄が夢中で、そんな狼見つからない方がいいって言ってるくらい。きれーな乙女だけど、働き者じゃないわね。手もつやつやであかぎれの痕一つもないんだから」
「いいところのお嬢様とか」
「都の住人の仕事事情なんて分かるわけないですよ、それよりも、そっちでは干し芋たくさん作れたんでしょ、こっちの薬草と交換しましょうよ」
「あ、いっけない! 今持ってくるわねー!」
「……村の狗族たち、私たちが来たの分かってるのかな」
「匂いで一発でしょ、それもできないほど、鼻がばかな村じゃないし」
「雄たちがその乙女のために、気もそぞろなんだろう。雌たちはしっかりしているみたいだし」
「ねー」
そんな会話をしている間に、交換の品物が用意され、ここからがスナゴの出番である。
どちらも喧嘩にならない、不愉快にならないように計算をし、調整をし、今回も何とか日が暮れる前に、交換を終わらせた。
さて、それじゃあ帰るか、何て山の皆で思っていた時である。
「今日はここに泊まって行かないか」
ふもとの村の村長が提案した。珍しい事だ、と思っていると彼はまたいう。
「最近夜になると、出自不明の奇妙な雄の狗族が現れると言うからね」
どうやらこちらの心配をしてくれているみたいだ。それならいいだろう。
スナゴ達はありがたく、その申し出を受ける事にした。
驚きの事実が分かったのは、その夜の宴会でのことだった。
宴会の上座にいつも座るのは村長夫妻なのだが、今日は違っていて、何とよそから来た雌が座っていたのだ。
スナゴはその顔を見てびっくりした。
「ナリエだ……」
そう、ふもとの村の雄たちが一頃になっているのは、あの性格の悪いナリエだったのだ。
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