君と暮らす事になる365日

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そうなのだ。残念な事に、この見た目だけはイケメンな変人と、自分は幼馴染なのだ。
それも生まれた時から中学時代まで一緒であり、高校は違っていた物の、大学で再会するというなんとも言い難い腐れ縁である。
そしてこの男、大学卒業後、仕事の関係上かそれとも、彼女があえて遠ざかった事で、接触は一切なかった物の、知り合いの知り合いから、多少の近況は流れて来る、大変話題に事欠かない幼馴染なのである。
ゆえに自分が先ほど、このイケメンが彼女と同棲していた事を知っていたのも、知り合いから流れてきた情報なのである。
それはさておき、お湯が沸いたため、男は調理台に置かれていたマグカップにお湯を注ぎ、両手で抱えだす。
それは今朝使った私のコップだ、と言う前に、まるでカイロのように頬ずりしているため、指摘する暇がない。
あの冷え切った両手と、家の中の灯りの結果、真っ赤に染まった鼻を見ていると、どうにも長年のよしみのせいか、この男には割合甘くなった。

「ヨリちゃんくらい仲良しだからやるに決まってるでしょ。完璧に怒ることはしてないし」

「その分別がきちんと発揮される事を、私は祈るしかない……!」

あったかい、幸せ、と簡単に言っている男を無視して、薄手のコートをコート掛けにひっかけた。
そして自分も、暖を取るべく電子レンジを稼働させた。




「話は大体わかったけれども、何でわたしの所に来たわけ? 知り合いもほかにいっぱいいるんじゃないの」

「知り合いはいてもヨリちゃんは一人だけじゃん」

この通訳は簡単だ、気心の知れた、相手が起こらない境界線を一番知っている相手は、依里だけだと言いたいのだ。
つまりは一番お互いに気楽でしょ、と言いたいのである。

「それにしたって、元カノの所から追い出されて、わざわざ県をまたいでここを探しに来なくても」

よくまあそのために県を一つ越えてくるものだ。大した行動力である。

「彼氏君に言われたんだもの、怒り狂った彼氏君に、二度とこの県に遊びに来るなって!」

怒り狂った彼氏君とは、この男が二股の相手になっていた、同棲相手の本命彼氏の事だろう。
依里は黙って相手を見た。ちなみに彼女の前には冷凍うどんを、レンジでチンしたものが半分、一人用のどんぶりに入っておかれている。
向かい合ってむしゃむしゃと、分けてもらった半分のうどんを食べている幼馴染は、それがどうしたの、と言いたそうだ。
結構厳しい事を言われているだろうに、けろりとしたものだ。
それにしても、自分が二股相手だったという事実を聞いて、ショックは受けないものなのだろうか。
普通は泥沼で笑えない事態になるものだが……刃物を持って追い回されたという時点で、もう一級品の修羅場だったのだろうか。
よくまあ警察沙汰になる前に、逃げ出せたものだ。
この幼馴染は、変な事で運がいい。

「ヨリちゃんのうどん美味しいねえ」

「ただの冷凍うどんだろうが」

ふわふわとした笑顔を見せる幼馴染は、綺麗にうどんの入った容器を空にして、頬杖なんかついて依里に言う。

「ヨリちゃんパワーで美味しさが増えている気がする」

「乾燥わかめはヨリちゃんパワーじゃないぞ」

冷凍うどんの具材は、乾燥わかめとなけなしのちくわである。それにあっためた市販のだし汁と醤油が少々。そんな雑な味付けだ。
本当は一人前を食べたかった依里だが、冷凍うどんを温めている時に、ぐうぐうとなりだした幼馴染の腹の虫の声を聞き、半分こと相成ったわけだ。
依里はこの、あらゆる方向に対して問題がある幼馴染が、嫌いなわけじゃないのだ。
ちなみに、新しく一玉解凍するという選択肢がなかったのは、冷凍庫に一玉しか入っていなかったからである。
ないものはない。
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