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第二十二話 思い出の価値はよほど

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「つる、洗剤入れも持って行きたいんだったら、こっちの瓶が空いてっから、入れ替えて持って行けよ」

「ねえ何で最初から、それに爺様入れなかったの」

「きれいじゃないから」

「爺様……爺様本当に変……」

ブンブクはひとしきりぶつぶつ言った後、ガラスのジャムの瓶に似たものを取り出してきた。

だぅてよう、修二郎がこれに入れるんだって、きらきらした目で言ったんだぜ、嫁さんができる前だ。
嫁さんはもったいないって言ったけどよ、皿洗いすんの楽しくなるって笑ったらしいぜ……?
などとだ。
そこで鶴は、この瓶が一度本家に置かれた後で、ここに来たのだと知った。

ぶつぶつ言いながら、引き出しから出されたのは、いかにも再生ガラスと言った風合いの、やや緑がまざった瓶だ。気泡の混ざり具合が、これも素敵だが、価値はあまり無さそうだ。
何で最初からこの瓶に洗剤を入れなかった、そしてこんなきれいな価値のありそうな瓶に台所用の洗剤を詰めた。
爺様が生きていたら、鶴は思いっきりたくさんの質問をしたに違いなかった。

「修二郎は、綺麗だからとか、格好いいからとか、そういう理由がとても大事な奴だった。気に食わないものは最後まで気に入らなかったしな」

「それってすごいね」

気に入らない物は買わない。なかなか出来る事ではない。利便性などがあるはずだ。
不意に鍋狸がにやりと笑った。自慢げな顔でこういい出す。

「あいつは我慢が出来る男だったからよ、気に食わないものは使わないっていう主義で、若くって金がない時は、ないものばっかりで暮らしてた。それでも暮らせるように、気を配ってたのが、おいらってわけだな」

胸を張るブンブク。

「爺様の財産は、ブンブクあってこそのものだったとか?」

「修二郎はそれに似た事ばっかり言ったな。嫁さん貰えたのもブンちゃんのおかげとかも言ったしよ」

本当に得意げな鍋狸は、どこからどう見ても、無害なからくりにしか見えなかった。

「他のものは?」

「箱に入ってんだろ」

「うわ……すごい! 金属製の留め具が付いたこれは……」

箱の中を覗いた鶴は歓声を上げた。面白い物があったのだ。

「木製のマグカップだ。格好いいっていう理由で、会社の同僚に配るってんで山の様に買ったんだぜ、それ。だからお揃いがいっぱいあるんだが、木だから、どうしたって一点物になっちまうんだ」

木製のコップに、優雅な金属細工の持ち手と底を補強する金属細工。どちらがかけても間が抜けて見えそうな、滑稽さと美しさの狭間に似たものがそのコップにはあった。

「そんな珍しいものじゃねえからな、そのコップも。土産物ってんで、材木おろしてるところがいっぱい作ってた」

「じゃあこれは」

鶴は最後、箱の中に入っていた物を取り出した。

「やかん。修二郎がおいらと出会った時に、茶でもどうだって言ってそのやかんで、コーヒーを入れた時のやかんだ」

「いかにもパーコレーターだわ」

「おいらは茶だと思ったのに、黒くて苦い飲み物だったから、びっくりしたんだが、その時砂糖を修二郎は持ってなくってな、しょうがないから山羊のお乳を混ぜて飲んだんだ。うまかったなあ……あの時の味は忘れられねえ」

鶴は三種類の物を見て、どれも受けそうだな、とは思った。
綺麗なものとして受けそうな瓶四点セット。お土産として売られていたという木製のカップ。そして果ては年代物で骨董品に近いパーコレーター。
どれも製造年数などからして骨董間違いなしで、その一点で面白い。
だが……

「瓶にする」

「この中では一番綺麗だもんな、その瓶。食器だとどこかに落とした時が悲惨なんだよ」

その瓶だったら箱もあるし、あんまり割れる心配しないで持ち運べるからな、とブンブクは大きく頷いた。

「それにさ……パーコレーターは、ブンブクと爺様の思い出の品だから、思い出の価値はすごいついていても、あんまりいい値段にはならなさそうだから」

「客受けを狙ったな? いいぞ、そういうの」

鶴が瓶を箱に詰め、洗剤入れに使っていた瓶の洗剤を入れ替え、中身を綺麗に洗って箱に戻し、丁寧に留め金をかけたのまで確認し、ブンブクは問いかけた。

「その鑑定集団いつ来るんだ?」

「来週の週末」

「おいらも見に行きてえなあ」

「鍋は抱えて行けないと思う……」

「残念だ」

心底残念と言いたげに、ブンブクは言った。

「見られないのが残念だ、つる、よくよく覚えておいてくれよ、面白いこといっぱいありそうだからな!」
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