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人魚の島
しおりを挟む見た目も声も人間とほぼ変わらない生物である人魚。ただ、尾びれがついていて泳げる幻獣というだけの違い。小さい頃は、「人魚はなんで人間とほぼ同じなのに不老不死なのか」「人間はそうなれないのか」と疑問に思っていた。けど、今は違う。今、私の中にある最大の疑問は「人間はなんで人間とほぼ同じ人魚を食べられるのか」だった
人殺しはダメだと教わる。そんなの当たり前だ。だけど人魚は?人魚はなんなんだろう。きっと皆にとって人魚なんて魚と同じただの「水産資源」だ。
誰も、人魚はわがままで、自己中心的で、絵を描いて、歌を歌って、たまに優しくて、人間の話を聞きたがっていて、そして綺麗で…そんなこと誰も知らないんだろう
息が切れる。灯台の下の砂浜へ、私は駆け出していた。セピアを、セピアを逃がさないと。まるで私の使命のようにそれだけを考えていた。
「セピア!」
大声で叫ぶ。いや、実際はちっとも声なんて出てない。喉が枯れて声なんて出ないんだ。それなのに、彼女はまるで待っていたかのようにいつもの岩場に座っていた
「…なんで、今日は来なかったの」
「逃げて。お願い、逃げて」
会話なんて知らない。要らない。お母さん達がどうせ、私を見つけてくるから。時間なんてないんだ
「は?あんた、まず私の話をね…」
「ここに二度と来ないで!お願い…もう、逃げて…」
自分で言ってることの意味が分からなくなってきた。なんだよ、「ここに二度と来ないで」って。私がセピアを嫌いみたいな言い方じゃないか
「ジュエリ!私の話を聞きなさい!」
「っ!」
不意に尖った爪を私に向けてきた。あと少しで首筋に当たりそうだ。でも、良かった。なんだかそれで正気を取り戻せた気がする
「セピア、さん…ごめんなさい…」
「謝る必要はないわ。あなた私の事嫌っていたものね。いいわ、今すぐにでもまた深海に戻るわよ。でも、その前に私の話を聞きなさい」
「はい…」
違うんだ。違うんだよセピア…私はあなたのことなんか嫌ってない。それを今すぐに言いたい、伝えたい。けれど、その言葉を口に出すことは出来なかった。私は臆病者だ
「ケガはだいぶ治ってきたし、私もそろそろだと思ってたの。人間に感謝するなんて柄じゃないからしないけど、少なからずあなたとの2週間は楽しかったわ。」
セピアは岩場から降りて、海に飛び込むと顔と首だけを出して、私に言う
「それじゃあ、さよなら。二度と会わないことを願うわ」
セピアはそう言って、海に潜っていた─────
「あ…」
あぁ、そうだ、行ってしまったんだ。もう二度と会えない。私の中の何かが1つ消えたような気がした。そしてそれと同時に、この2週間、浮ついた幻想に取り憑かれていたのかもしれない。と思った。
確かな実感もなく、形あるものも残していない。私達はお互いをどう思っていたんだろう。出会いも別れもこんなに飾り気もなく、ただ淡々と時に身を任せてただけだったのかもしれない。友達…なんて言えたもんじゃないのかもしれない…けど、それでも、私にはセピアの最後の言葉を信じる。
「あなたとの2週間は楽しかった」
それならば、私も想いを伝えるしかない。勇気とかそういうことなんてどうでもいいんだ。人間とか人間じゃないとか、人魚だからとかじゃない。ただ、友達だから。友達との別れだから。それだけで理由としては充分だ
「私も!私も、楽しかった!セピアと一緒に過ごせてすっごく楽しかったよ!!」
さざ波を立てる海に向かって精一杯の声を出す。届かなくてもいい。こんなのバカの独り言だ
「じゃあね!セピア!」
月が嫌というほど輝いていた。その月明かりに照らされて、頬が輝く。きっと、私は今、笑顔だろう。とてもブサイクに笑ってるのだろう。
きっともうすぐ、お母さん達が来る。私を連れ戻しに来る。
それが普通なのだから仕方ない。子供が家を飛び出したら探すのも、受験勉強もせずに学校を休んだら怒るのも、普通なように、人魚を食べることもこの島の人にとっては全部普通なんだろう
「美しさの国」
真っ赤に燃える太陽と、綺麗な青い海、緑生い茂る中に白い色の平屋根の家が段々と建っている。この国はとても綺麗だ。ホントに、綺麗だ。それこそ、狂ってるくらいに
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