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決別する島
しおりを挟む───は?明日から来れない?言っておくけどあなたにその権利はないのよ?」
見るからに不機嫌な顔でこちらを見ている。だいぶ慣れてきたと思っていたが、やはり怖い。
「でも、学校が始まるんです」
「でも?あなた誰にその口を聞いてるの?」
ざばぁと大きな波がこちらに来た。雨でも降るのか?いや、そんなの呑気なことを考えている暇はない。なんとかして、セピアを説得しなければ
「すみません、自分勝手なのは分かってます」
「だったら、ここにいてちょうだい」
「私にも用事があるです。それに、学校に行っている間はここら辺の子供たちはいなくなります。見つかることは少なくなると思うんですが?」
精一杯の弁明をするが、なんだか言い訳をしているみたいだ。
「ふーん、そう。なら、いいわ」
「え、いいんですか?」
意外だ。もうちょっと粘らないとだと思っていたから拍子抜けだ。まぁ、いい。早く話が終わるなら好都合だ
「なに?引き止めて欲しいの?」
「いえ、ありがとうございます。」
「ところで、その学校とやらはなんなの?」
それから私は学校の説明をした。彼女は予想以上に学校に興味を示した。それが人間に対する好奇心だけなのかもしくはバカバカしいと思って聞いているのかは分からなかった。けど、彼女は私の話を聞いている時、彼女は少なからず楽しそうにしていた。それがなんだか、嬉しくなってしまう。バカみたいだ、人魚なんて所詮「食料」にすぎないのに
「────いいわね、楽しそうで」
突然彼女はそう言った。そして、そのまま海にポチャンと潜って行ってしまった
彼女は今なんて言った?
「楽しい…?」
彼女は確かに今、私に対しての羨ましいという感情を持っていた。何かが引っかかる、なんだろうこのざわめきは。人魚が人間のような感情を持ち合わせていることに?私たちの生活に好感を持っていることに?いや、違う。ざわめきの正体は彼女、セピアにはないだろう。今、海に消えたのだって餌を取りに行くためだ。決して居心地が悪いからなんてことはなかっただろう。生物としての真っ当な判断をしているだけなんだろう
「なら、私は…なんで…」
今さっき、セピアが「楽しそうで」と言った後に私は何を言おうとしたんだろう。もしかしたら、「じゃあ、一緒に行こうよ」なんて言っていたかもしれない。いや、言っていたんだろう。それほどまでも彼女、セピアという人魚は私にとって「ただの食料」とは呼べない、少なくとも「友達」の域に達しているのだと気づいた。
───────────────────────
それから、私は朝学校に行く時、夕方学校に帰ってくる時に彼女に会いに行くようになった。
セピアにはその日学校であったこと。例えば、授業の話。休み時間の話。色んな話をした。けど、私が今まで話さない、いや話せない話題があった
それが《魚肉式》の話題だった
いくらなんでも私も時間の流れには逆らえられなくて、周りの皆は刻々と《魚肉式》を行っていた
「明日は、母さん《魚肉式》だよね?」
夕食の時間、お父さんがクラムチャウダーを口に運びながら言った。お母さんの《魚肉式》は明日、9月16日だ。
「新鮮な人魚を買ってこないとな!」
「カノもそろそろ決めないとね」
背筋が凍るようにゾクゾクとした。セピアとの関係が思い出させるんだ。あのエメラルド色の鱗が、金色の髪が私の脳裏に焼き付いて離れない。セピアはもう私にとってはヒナやユリなんかと変わらない友達なのだ。それを…食べる、…食べるなんて……いや、忘れよう…そうだそれがきっといい
そう自分に言い聞かせたが結局、窓の外に降る雨と一緒に声が枯れるまで泣いていた
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