2 / 2
〜病を抱えた勇者の旅立ち〜
2.病魔の一撃
しおりを挟む「ぐああああああッ‼︎」
脇腹を押さえ、息を殺す優志。暴れ回る痛みはより激しさを増し、冷や汗がじんわりと滲み出る。
それでも優志は、救急車を呼ぶ、あるいは病院に行くという決断を出来ないでいた。彼は医者に対して否定的な印象を持っているからだ。
優志が高熱を出して受診した時のこと——担当した医者はずっとパソコンと睨めっこしながら無愛想に診断と薬の話をするだけ。優志が「このまま悪化したら怖いです」と話しても、相変わらずパソコンを見ながら受け答えをするだけ。
♢
「あー。このまま悪くなると肺炎とかも起こるかもしれへんねー」
「……そ、それはどのくらいの確率で起こるんですか……?」
「まー滅多にないけど、起こる時は起こる」
♢
最終的には何事もなく熱も下がり事なきを得たのだが、病気に対する不安は色濃く優志の心の中に刻印されたままだった。医者は、不安な心までは治してはくれない。
かくして、優志は医者不信に陥ってしまったのだ。
優志は現在37歳。体にガタが来始めてもおかしくない年齢だ。優志は最近まで——体力の限界まで仕事をする、睡眠時間は3時間弱、食事はインスタント食品ばかり、運動は全くしない——病気の温床をしっかりと築くような生活ぶりだった。
ところが、優志と同い年である友人の何人かは、突然倒れて入院し手術したり、あるいは高血圧や糖尿病の一生続かなければならない治療を始めていたなどと優志は知り、リアルに病気の恐怖を感じるようになった。
優志の身長は175センチメートル、体重は49キログラムの超痩せ型。ちょっと病的な痩せ方であることも、彼は気にしていた。
そこにきて、脇腹の大激痛。優志の不安と恐怖メーターは、振り切れていた。
「く……ふぅ……、はぁ、はぁ、ふうー……」
痛みが少し和らぎ、優志は数秒ほどかけて息を吐き、気持ちを落ち着ける。そして再び、身体をベッドに横たえた。辛うじて届く場所にあったリモコン手を伸ばし、暖房をオンにする。次に立ち上がったらまた痛みが来るかも知れない。真冬なのに、布団は汗でぐっしょりと濡れていた。
——朝食ぐらいは、食べなければ。
1分ほど横になってから、恐る恐る体を起こす。腹部をそっと触りながら、立ち上がる。大丈夫だ。ホッと息をつき、キッチンへと足を進める。
自動湯沸かし機に水を入れ、インスタントラーメンの袋を破り麺を器に入れる。お湯を入れ、椅子に座り3分待つ。鏡に映る優志の顔。目の下にはくっきりとクマが出来ていた。
それでも予想外にスムーズに動く体にホッとした優志が、出来上がったばかりのインスタントラーメンを口にしたその時だった。
左脇腹に、再び電撃が走る。
箸を落っことす優志。椅子から崩れ落ち、床に手をつく。今までの数倍以上の痛みが、早鐘のように打つ心臓の鼓動とシンクロし、左脇腹を駆け回る。
ポケットのスマホを手に取り、半自動的に〝119〟、通話ボタンを押したのを最後に、優志は床に倒れ伏せ動かなくなった。
「きこえますかー」「飛田さーん」「きこえますかー」
救急隊員の声が、遠退く。口が動かない。体が揺さぶられる感覚を最後に、優志は完全に意識を失った。
「……勇者様、勇者様。さあ、〝生命の塔〟の修復のため、旅立つのです」
——夢で見た老父の声が、ボリュームを増していく。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~
いちまる
ファンタジー
旧題:追放されたエンジニアは解体の天才です~人型最強兵器と俺の技術でダンジョン無双~
世界中に無数の地下迷宮『ダンジョン』が出現し、数十年の月日が流れた。
多くの冒険者や戦士、魔法使いは探索者へと職を変え、鋼鉄の体を持つ怪物『魔獣(メタリオ)』ひしめく迷宮へと挑んでいた。
探索者愛用の武器を造る技術士(エンジニア)のクリスは、所属しているパーティー『高貴なる剣』と、貴族出身の探索者であるイザベラ達から無能扱いされ、ダンジョンの奥底で殺されかける。
運よく一命をとりとめたクリスだが、洞穴の奥で謎の少女型の兵器、カムナを発見する。
並外れた技術力で彼女を修理したクリスは、彼を主人と認めた彼女と共にダンジョンを脱出する。
そして離れ離れになった姉を探す為、カムナの追い求める『アメノヌボコ』を探す為、姉の知人にして元女騎士のフレイヤの協力を得て、自ら結成したパーティーと再び未知の世界へと挑むのだった。
その過程で、彼は自ら封印した『解体術』を使う決意を固める。
誰かの笑顔の為に「直し」、誰かを守る為に「壊す」。
ひと癖ある美少女に囲まれたクリスの新たな技術士人生の幕が今、上がるのであった。
一方、クリスを追放した『高貴なる剣』は、今まで一同を支えていた彼の力が常軌を逸したものだと気づく。
彼女達は自称Aランク探索者から一転、破滅への道を転げ落ちてゆくのであった。
●一話~百二話…クリス・オーダー結成編(ざまぁ多め)
●百三話~百六十七話…仲間の過去編(シリアス中心)
●百六十七話~現在…スローライフ編(のんびりドタバタ)
※書籍版とWEB版では一部内容が異なります。ご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒
榊与一
ファンタジー
黒田武(くろだたけし)。
ブラック企業に勤めていた彼は三十六歳という若さで過労死する。
彼が最後に残した言葉は――
「早く……会社に行かないと……部長に……怒られる」
だった。
正に社畜の最期に相応しい言葉だ。
そんな生き様を哀れに感じた神は、彼を異世界へと転生させてくれる。
「もうあんな余裕のない人生は嫌なので、次の人生はだらだらスローライフ的に過ごしたいです」
そう言った彼の希望が通り、転生チートは控えめなチート職業のみ。
しかも周囲からは底辺クラスの市民に見える様な偽装までして貰い、黒田武は異世界ファーレスへと転生する。
――第二の人生で穏やかなスローライフを送る為に。
が、何故か彼の隣の家では同い年の勇者が誕生し。
しかも勇者はチートの鑑定で、神様の偽装を見抜いてしまう。
「アドル!魔王討伐しよ!」
これはスローライフの為に転生した男が、隣の家の勇者に能力がバレて鬼の猛特訓と魔王退治を強制される物語である。
「やだやだやだやだ!俺はスローライフがしたいんだ!」
『ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~白』と、13話までは全く同じ内容となっております。
別の話になるの14話以降で、少し違ったテイストの物語になっています。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる