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〜病を抱えた勇者の旅立ち〜

2.病魔の一撃

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「ぐああああああッ‼︎」

 脇腹を押さえ、息を殺す優志。暴れ回る痛みはより激しさを増し、冷や汗がじんわりと滲み出る。
 それでも優志は、救急車を呼ぶ、あるいは病院に行くという決断を出来ないでいた。彼は医者に対して否定的な印象を持っているからだ。
 優志が高熱を出して受診した時のこと——担当した医者はずっとパソコンと睨めっこしながら無愛想に診断と薬の話をするだけ。優志が「このまま悪化したら怖いです」と話しても、相変わらずパソコンを見ながら受け答えをするだけ。
 


「あー。このまま悪くなると肺炎とかも起こるかもしれへんねー」

「……そ、それはどのくらいの確率で起こるんですか……?」

「まー滅多にないけど、起こる時は起こる」



 最終的には何事もなく熱も下がり事なきを得たのだが、病気に対する不安は色濃く優志の心の中に刻印されたままだった。医者は、不安な心までは治してはくれない。
 かくして、優志は医者不信に陥ってしまったのだ。

 優志は現在37歳。体にガタが来始めてもおかしくない年齢だ。優志は最近まで——体力の限界まで仕事をする、睡眠時間は3時間弱、食事はインスタント食品ばかり、運動は全くしない——病気の温床をしっかりと築くような生活ぶりだった。
 ところが、優志と同い年である友人の何人かは、突然倒れて入院し手術したり、あるいは高血圧や糖尿病の一生続かなければならない治療を始めていたなどと優志は知り、リアルに病気の恐怖を感じるようになった。
 優志の身長は175センチメートル、体重は49キログラムの超痩せ型。ちょっと病的な痩せ方であることも、彼は気にしていた。

 そこにきて、脇腹の大激痛。優志の不安と恐怖メーターは、振り切れていた。

「く……ふぅ……、はぁ、はぁ、ふうー……」

 痛みが少し和らぎ、優志は数秒ほどかけて息を吐き、気持ちを落ち着ける。そして再び、身体をベッドに横たえた。辛うじて届く場所にあったリモコン手を伸ばし、暖房をオンにする。次に立ち上がったらまた痛みが来るかも知れない。真冬なのに、布団は汗でぐっしょりと濡れていた。
 
 ——朝食ぐらいは、食べなければ。

 1分ほど横になってから、恐る恐る体を起こす。腹部をそっと触りながら、立ち上がる。大丈夫だ。ホッと息をつき、キッチンへと足を進める。

 自動湯沸かし機に水を入れ、インスタントラーメンの袋を破り麺を器に入れる。お湯を入れ、椅子に座り3分待つ。鏡に映る優志の顔。目の下にはくっきりとクマが出来ていた。

 それでも予想外にスムーズに動く体にホッとした優志が、出来上がったばかりのインスタントラーメンを口にしたその時だった。

 左脇腹に、再び電撃が走る。

 箸を落っことす優志。椅子から崩れ落ち、床に手をつく。今までの数倍以上の痛みが、早鐘のように打つ心臓の鼓動とシンクロし、左脇腹を駆け回る。
 ポケットのスマホを手に取り、半自動的に〝119〟、通話ボタンを押したのを最後に、優志は床に倒れ伏せ動かなくなった。

「きこえますかー」「飛田さーん」「きこえますかー」

 救急隊員の声が、遠退く。口が動かない。体が揺さぶられる感覚を最後に、優志は完全に意識を失った。




「……勇者様、勇者様。さあ、〝生命の塔〟の修復のため、旅立つのです」

 ——夢で見た老父の声が、ボリュームを増していく。
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