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第66話〜謎の黒衣の剣士〜

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 突如ボクらを襲った、黒衣に包まれた謎のネコ剣士。
 ボクは食ってかかった。


「出たな、ニャンバラ軍の奴め! メルさんたちを返せ‼︎」


 謎の剣士はか細い声で、返答する。


「否、我は〝サターン〟の剣士。レアだ」


 ……サターンだと? あのダサくて弱っちいニセ戦隊の仲間だったのか。
 だったらコイツも、別段大したことねえな。


「ならまずはテメエからぶっ倒してやる! これ以上ニャンバラの奴らの好きにはさせねえ!」


 ボクは剣を構えたが、レアは体をこちらに向けずに突っ立ったまま、意外な事を言い出す。


「……いや、ニャンバラ軍の目的など、我にとってはどうでもよい。集団で馴れ合いながらでないと、何も成せぬ者などに興味はない」


 何だと? だったらコイツは、ニャンバラ軍では無いというのか。だったら一体何の為に、こんな所にいやがったんだ。


「なら、何故俺たちを襲った!」


 マーズさんが前に出てそう言うと、レアは相変わらず黒衣を纏って突っ立ったまま、か細い声で話し始める。


「……強き者を探しているが故。……だが、貴様らも我が期待できる程ではなさそうだ」


 眉をしかめるマーズさん。


「何だと⁉︎    俺たちが弱いと言うのか!」

「貴様らも所詮は集団で馴れ合う者たち。我と、1対1で渡り合える者は、未だ現れぬ。貴様等に用はない。さらばだ」


 コイツは、ただ自分の強さに酔っているバカ野郎だ。こんな奴、相手にしてる時間なんか無え。


「マーズさん、こんなヤツ無視して、さっさと行こうぜ」

「……せやな。ウチらは急いどるんや。別に敵でもないんやし、こんな奴ほっといて早よ行こ!」


 スピカもそう言って、レアを無視してスタスタと洞窟の奥へ足を進めた。ボクとヴィーナスさんもすぐに後を追った。
 ——ところが。


「待て!」


 マーズさんの声が、洞窟の中に響いた。


「何だ、弱き者よ」


 振り向くと、レアが不敵な笑みを浮かべていた。


「馴れ合わなきゃテメエに勝てねえだと?    舐めやがって……!    だったらサシで勝負してみるか?    この剣で!」

「マーズ! バカ! 今は早く捕まってるみんなを助なきゃいけないでしょ! あんたはいつもすぐ周りが見えなくなるんだから‼︎」


 どうやらマーズさんは、レアに挑発されてアツくなっちまったようだ。
 ヴィーナスさんに叱られるも、マーズさんは大声で怒鳴り返す。


「うるせえ‼︎    コイツは俺たちを侮辱しやがった。俺は……! 師匠アンタレスさんとベテルギウスさんから教わった俺のこの剣……!    そんな軽いもんじゃないって事を! この野郎に、知らしめてやる‼︎    ……聖なる星の光よ、我に愛の力を!」

「マーズさん‼︎    ……ダメだ、完全にアタマに血が上っちまってる」

「兄ちゃん、どうしよう?」


 レアは、薄ら笑いを浮かべながら言う。


「そこまで言うなら、試してやろう。我は全てを独りで学び、考え、剣の腕を磨いた。誰かに習わなければ強くなれぬ者の剣など」

「それ以上言うな!    師匠をも侮蔑するなら、容赦はしない‼︎     ……灼焔しゃくえんの戦士、マーズ‼︎」


 転身したマーズさんは、剣を炎に包んでブンと振り下ろし、レアに斬りかかった。
 レアはそれを音も無くあっさりとかわすと、再び笑いを浮かべる。


「いいだろう」


 レアはゆっくりと、剣を抜いた。


 ♢


 マーズさんとレアの真剣勝負が、始まってしまった。


「こうなったら、応援するしかねえ! マーズさん、絶対勝ってくれよ!」

「マーズさん! こんな変なんに負けたらあかんで!」

「頑張って、マーズ兄ちゃん!」

「……バカ。負けても私知らないから」


 ボクらは精一杯応援したが——マーズさんは、レアのすばしっこい動きに翻弄され続ける。
 一瞬で後ろに回り込まれ、マーズさんは一斬り浴びせられてしまった。


「ぐああああ! く……そっ」

「やはりこんなものか。フン……無駄な時間を食わされたもの……だッッ!」


 レアのもう一斬りがマーズさんの剣にヒットし、剣は弾き飛ばされ、カランと虚しい音を立てて地面に落ちた。マーズさんはそのまま、壁に追い詰められてしまった。


「待て……、まだだ!」

「もう貴様には用はない。どうせ貴様も、師匠とやらのマネゴトして強くなったつもりだったのだろう。寒気がする」

「この……野郎……!」

「独学の強みは、己で考え、試行錯誤する事だ。人に習わなければ強くなれない者の実力など、知れている」


 完全にマーズさんを追い詰めたレアは、銀色に光る刃をマーズさんに向け、今にもマーズさんの体を貫こうとしていた。


「マジかよ……。マーズさん、むちゃくちゃ強えはずなのに! こんなにあっさり敗けちまっていいのかよ!」

「そんなアホな……! あのマーズさんが!」

「マーズ……兄ちゃん……。死なないで!」


 ……が、レアはそのまま剣を鞘にしまい、一歩後ろに退いた。
 力なくその場に崩れ落ちる、マーズさん。


「止めなど……刺す価値もない」


 レアはそう言って溜め息を一つつくと、洞窟の奥に体を向け、ゆっくりと去って行ってしまった。

 ——暗い洞窟に、勝者の足音が虚しく響く。

 マーズさんはしばらく呆気に取られていたが、敗けた事実を悟り、去っていくレアを見ながら弱々しい声を出す。


「嘘だろ?    俺の剣が。この俺の剣が……一度も通らないなんて……!    こんなにもあっさりと敗けるなんて……、く、クソ……」

「おいマーズさん‼︎ しっかりしろよ……!」

「クソオオオオォォォォーー‼︎」


 転身が解けたマーズさんは、地面にへばりつき、叫び声を上げた。情けねえ顔を見られたくないのだろう。地面に顔をうずめ、ひたすら慟哭どうこくの声を上げた。
 こんなに見てて辛い〝ごめん寝〟のポーズ、初めて見ちまったぜ……。


「ううう……! クソォォォ! 俺は奴を、レアを追う!    みんなは、先に行け!」


 体を起こしたマーズさんはフラつきながら、すぐにレアを追おうとする。
 ヴィーナスさんは止めようと、マーズさんの前に走り出た。


「バカ! 今のあんただと、負けるに決まってるでしょ!」

「何だとヴィーナス! お前ただじゃ済まさねえぞ」

「やめーい! こんな時に喧嘩してる場合ちゃうやろ!」


 スピカはマーズさんとヴィーナスさんの間に割って入り、必死に引き離そうとする。気まずい空気が流れる。


「もういいわ! 勝手にしなさい‼︎    マーズのバカ!」

「ああ、そうさせてもらう。お前らの事なんかもう知らねえ! 俺はこれからは、レアを倒すためだけに行動するからな! じゃあな!」


 マーズさんそう捨て台詞を吐くと、レアを追って暗い洞窟の奥へと消えていってしまった。
 ヴィーナスさんは去っていくマーズさんを見ながら少し考えてから、口を開く。


「私、マーズを追いかけるから、ゴマ、あんたルナを守って先に進みなさい」

「え、ちょ、ヴィーナスさん!」

「電撃銃が使えるスピカちゃんは、私が連れてく。私攻撃技使えないから」


 ヴィーナスさんはスピカの腕を引っ張り、無理矢理連れて行こうとする。


「は、え、ちょ! 待ちいな! ウチ、ゴマと離れ離れになるん嫌やで⁉︎」

「文句言わない。行くわよ」


 ヴィーナスさんはスピカを無理やり引っ張って、マーズさんを追いかけて行っちまった。


「おい! 待ってくれ、ヴィーナスさん!」


 何て強引なんだ……。やっぱりヴィーナスさん、ボク苦手だ。

 ——そんな訳で、ボクとルナは、暗い洞窟のド真ん中に、取り残されちまった。


「……兄ちゃん、どうする?」

「どうするもこうするも、先進むっきゃねえだろ。……ルナ、またお前と冒険できるな」

「僕はもうまっぴらだよ。でも、行くしかないね……」


 ボクとルナは、不気味な洞窟をどんどん奥に進んだ。
 道がだんだんと狭くなり、天井も低くなってくる。ジメジメした生暖かい空気。全く、気持ちの悪りい洞窟だぜ。

 本当にこんなとこに、メルさんたちは捕まってるんだろうか? さすがのボクも、少し不安になってきた。
 あのジュピターとかいう魔導士団——確か、メルさんたちは火の海の上に捕まってるとか、ぬかしてやがったな。
 火の海——? そんなとこ、どこにもありそうな気配もねえ。ただただ、真っ暗で狭っ苦しい道が続くだけだ。


 ズドドドドド……!


 ——突然の銃声。ボクらは岩の陰に隠れた。
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