70 / 143
第66話〜謎の黒衣の剣士〜
しおりを挟む突如ボクらを襲った、黒衣に包まれた謎のネコ剣士。
ボクは食ってかかった。
「出たな、ニャンバラ軍の奴め! メルさんたちを返せ‼︎」
謎の剣士はか細い声で、返答する。
「否、我は元〝サターン〟の剣士。レアだ」
……サターンだと? あのダサくて弱っちいニセ戦隊の仲間だったのか。
だったらコイツも、別段大したことねえな。
「ならまずはテメエからぶっ倒してやる! これ以上ニャンバラの奴らの好きにはさせねえ!」
ボクは剣を構えたが、レアは体をこちらに向けずに突っ立ったまま、意外な事を言い出す。
「……いや、ニャンバラ軍の目的など、我にとってはどうでもよい。集団で馴れ合いながらでないと、何も成せぬ者などに興味はない」
何だと? だったらコイツは、ニャンバラ軍では無いというのか。だったら一体何の為に、こんな所にいやがったんだ。
「なら、何故俺たちを襲った!」
マーズさんが前に出てそう言うと、レアは相変わらず黒衣を纏って突っ立ったまま、か細い声で話し始める。
「……強き者を探しているが故。……だが、貴様らも我が期待できる程ではなさそうだ」
眉をしかめるマーズさん。
「何だと⁉︎ 俺たちが弱いと言うのか!」
「貴様らも所詮は集団で馴れ合う者たち。我と、1対1で渡り合える者は、未だ現れぬ。貴様等に用はない。さらばだ」
コイツは、ただ自分の強さに酔っているバカ野郎だ。こんな奴、相手にしてる時間なんか無え。
「マーズさん、こんなヤツ無視して、さっさと行こうぜ」
「……せやな。ウチらは急いどるんや。別に敵でもないんやし、こんな奴ほっといて早よ行こ!」
スピカもそう言って、レアを無視してスタスタと洞窟の奥へ足を進めた。ボクとヴィーナスさんもすぐに後を追った。
——ところが。
「待て!」
マーズさんの声が、洞窟の中に響いた。
「何だ、弱き者よ」
振り向くと、レアが不敵な笑みを浮かべていた。
「馴れ合わなきゃテメエに勝てねえだと? 舐めやがって……! だったらサシで勝負してみるか? この剣で!」
「マーズ! バカ! 今は早く捕まってるみんなを助なきゃいけないでしょ! あんたはいつもすぐ周りが見えなくなるんだから‼︎」
どうやらマーズさんは、レアに挑発されてアツくなっちまったようだ。
ヴィーナスさんに叱られるも、マーズさんは大声で怒鳴り返す。
「うるせえ‼︎ コイツは俺たちを侮辱しやがった。俺は……! 師匠アンタレスさんとベテルギウスさんから教わった俺のこの剣……! そんな軽いもんじゃないって事を! この野郎に、知らしめてやる‼︎ ……聖なる星の光よ、我に愛の力を!」
「マーズさん‼︎ ……ダメだ、完全にアタマに血が上っちまってる」
「兄ちゃん、どうしよう?」
レアは、薄ら笑いを浮かべながら言う。
「そこまで言うなら、試してやろう。我は全てを独りで学び、考え、剣の腕を磨いた。誰かに習わなければ強くなれぬ者の剣など」
「それ以上言うな! 師匠をも侮蔑するなら、容赦はしない‼︎ ……灼焔の戦士、マーズ‼︎」
転身したマーズさんは、剣を炎に包んでブンと振り下ろし、レアに斬りかかった。
レアはそれを音も無くあっさりとかわすと、再び笑いを浮かべる。
「いいだろう」
レアはゆっくりと、剣を抜いた。
♢
マーズさんとレアの真剣勝負が、始まってしまった。
「こうなったら、応援するしかねえ! マーズさん、絶対勝ってくれよ!」
「マーズさん! こんな変なんに負けたらあかんで!」
「頑張って、マーズ兄ちゃん!」
「……バカ。負けても私知らないから」
ボクらは精一杯応援したが——マーズさんは、レアのすばしっこい動きに翻弄され続ける。
一瞬で後ろに回り込まれ、マーズさんは一斬り浴びせられてしまった。
「ぐああああ! く……そっ」
「やはりこんなものか。フン……無駄な時間を食わされたもの……だッッ!」
レアのもう一斬りがマーズさんの剣にヒットし、剣は弾き飛ばされ、カランと虚しい音を立てて地面に落ちた。マーズさんはそのまま、壁に追い詰められてしまった。
「待て……、まだだ!」
「もう貴様には用はない。どうせ貴様も、師匠とやらのマネゴトして強くなったつもりだったのだろう。寒気がする」
「この……野郎……!」
「独学の強みは、己で考え、試行錯誤する事だ。人に習わなければ強くなれない者の実力など、知れている」
完全にマーズさんを追い詰めたレアは、銀色に光る刃をマーズさんに向け、今にもマーズさんの体を貫こうとしていた。
「マジかよ……。マーズさん、むちゃくちゃ強えはずなのに! こんなにあっさり敗けちまっていいのかよ!」
「そんなアホな……! あのマーズさんが!」
「マーズ……兄ちゃん……。死なないで!」
……が、レアはそのまま剣を鞘にしまい、一歩後ろに退いた。
力なくその場に崩れ落ちる、マーズさん。
「止めなど……刺す価値もない」
レアはそう言って溜め息を一つつくと、洞窟の奥に体を向け、ゆっくりと去って行ってしまった。
——暗い洞窟に、勝者の足音が虚しく響く。
マーズさんはしばらく呆気に取られていたが、敗けた事実を悟り、去っていくレアを見ながら弱々しい声を出す。
「嘘だろ? 俺の剣が。この俺の剣が……一度も通らないなんて……! こんなにもあっさりと敗けるなんて……、く、クソ……」
「おいマーズさん‼︎ しっかりしろよ……!」
「クソオオオオォォォォーー‼︎」
転身が解けたマーズさんは、地面にへばりつき、叫び声を上げた。情けねえ顔を見られたくないのだろう。地面に顔をうずめ、ひたすら慟哭の声を上げた。
こんなに見てて辛い〝ごめん寝〟のポーズ、初めて見ちまったぜ……。
「ううう……! クソォォォ! 俺は奴を、レアを追う! みんなは、先に行け!」
体を起こしたマーズさんはフラつきながら、すぐにレアを追おうとする。
ヴィーナスさんは止めようと、マーズさんの前に走り出た。
「バカ! 今のあんただと、負けるに決まってるでしょ!」
「何だとヴィーナス! お前ただじゃ済まさねえぞ」
「やめーい! こんな時に喧嘩してる場合ちゃうやろ!」
スピカはマーズさんとヴィーナスさんの間に割って入り、必死に引き離そうとする。気まずい空気が流れる。
「もういいわ! 勝手にしなさい‼︎ マーズのバカ!」
「ああ、そうさせてもらう。お前らの事なんかもう知らねえ! 俺はこれからは、レアを倒すためだけに行動するからな! じゃあな!」
マーズさんそう捨て台詞を吐くと、レアを追って暗い洞窟の奥へと消えていってしまった。
ヴィーナスさんは去っていくマーズさんを見ながら少し考えてから、口を開く。
「私、マーズを追いかけるから、ゴマ、あんたルナを守って先に進みなさい」
「え、ちょ、ヴィーナスさん!」
「電撃銃が使えるスピカちゃんは、私が連れてく。私攻撃技使えないから」
ヴィーナスさんはスピカの腕を引っ張り、無理矢理連れて行こうとする。
「は、え、ちょ! 待ちいな! ウチ、ゴマと離れ離れになるん嫌やで⁉︎」
「文句言わない。行くわよ」
ヴィーナスさんはスピカを無理やり引っ張って、マーズさんを追いかけて行っちまった。
「おい! 待ってくれ、ヴィーナスさん!」
何て強引なんだ……。やっぱりヴィーナスさん、ボク苦手だ。
——そんな訳で、ボクとルナは、暗い洞窟のド真ん中に、取り残されちまった。
「……兄ちゃん、どうする?」
「どうするもこうするも、先進むっきゃねえだろ。……ルナ、またお前と冒険できるな」
「僕はもうまっぴらだよ。でも、行くしかないね……」
ボクとルナは、不気味な洞窟をどんどん奥に進んだ。
道がだんだんと狭くなり、天井も低くなってくる。ジメジメした生暖かい空気。全く、気持ちの悪りい洞窟だぜ。
本当にこんなとこに、メルさんたちは捕まってるんだろうか? さすがのボクも、少し不安になってきた。
あのジュピターとかいう魔導士団——確か、メルさんたちは火の海の上に捕まってるとか、ぬかしてやがったな。
火の海——? そんなとこ、どこにもありそうな気配もねえ。ただただ、真っ暗で狭っ苦しい道が続くだけだ。
ズドドドドド……!
——突然の銃声。ボクらは岩の陰に隠れた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
嬉野エリア長の調査報告書…娘と会社の治安は僕が守る。
茜琉ぴーたん
恋愛
家電小売業最大手・ムラタの人事担当である嬉野直人に、ある日妻から「娘が悩んでいる」との情報が伝えられた。
家族の憂いを解消するため、父・嬉野は職権を利用しつつ真相へと近付いて行くのだった。
(全45話)
*関西ムラタ勢のその後を浚う総集編的作品です。簡単な人物紹介は入れているので前作を読まずとも話は伝わるようにしております。
*キャラクター画像は、自作原画をAI出力し編集したものです。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜
朝日 翔龍
ファンタジー
それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。
その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。
しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。
そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。
そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。
そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。
狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました
田舎町のモルモット召喚士になる前に
モルモット
ファンタジー
農民には二つのスキルがある。父と母の家系のどちらのスキルを継承したのかで夫婦喧嘩を始めた両親は俺をギルドへ連れて行った。
でも 鑑定結果はなんと「召喚士」
田舎の街で 初めての「召喚士」
15歳(大人)になるまでに恋もしますし色々な事が起こります。
最弱の英雄譚|才能にも環境にも恵まれなかった底辺の少年が3人の女冒険者と出会い、努力友情勝利で英雄へと成り上がる痛快大逆転冒険ファンタジー!
オニオン太郎
ファンタジー
ステータスが存在するファンタジー世界。それはステータスの高さで地位が決まる、苛烈な競争社会であった。そんな情勢の中、『どれだけレベルを上げてもステータスが上昇しない』という特性を背負った底辺の少年、ルース・マゾースキーは、ある日いつものようにいじめられている所を3人の女冒険者のパーティーに助けられる。
家無し、金無し、才能無しの最底辺のルースは、彼女らとの出会いをきっかけに、ステータス至上主義の競争社会の中で、最低値のステータスのまま、知恵と勇気と仲間の絆で、弱肉強食の残酷な世界を勝ちあがり、英雄へと昇りつめていく。
『努力は才能や環境の差を超えられないのか?』
『結局、人生の10割は運なのか?』
現代なら誰もが抱くこの大きな問いをテーマに、最弱の少年の痛快な逆転劇が始まる!
※なろうとか色々なサイトでも載っけてるよ!
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる