上 下
48 / 143

第46話〜決戦! 悪のネコ族の野望を砕け・前〜

しおりを挟む
 
「来るぞ……! みんな、装備を整えて、いつでも戦えるようにするんだ!」

「おう!」


 ライムはゆっくり、ゆっくりと、こっちに歩み寄ってくる。


「我が空軍を退けるか……」

「ライムさん……! いや、ライム‼︎」


 突如スピカが、ライムの前に立ちはだかった。


「スピカ! お前!」


 ボクは呼び止めたが、聞こえていないらしい。
 ライムは足を止め、スピカを睨みつける。


「ほう……? 腰抜けスピカちゃん、こんな所で会えるとは。よくぞ……、我々を裏切ってくれた」

「裏切りやて⁉︎    ウチの首切っといて……、ようそんな事言えるなあ! もう、もうあんたは、ウチの上司やないで‼︎」


 その時ソールさんたちが一斉に、ボクらの元へ向かってきた。


「スピカさん、下がってるんだ。危ない」

「……ソールさん、せやかて!」

「スピカ、ここはソールさんたちに任せときな。ライムの奴め、何しやがるか分かんねえぞ」


 ボクは、スピカを無理やり下がらせた。
 ライムは体の周りに、紅いオーラを纏い始めている。
 ソールさんたち5匹はライムに攻撃すべく、構えた。


「全力でライムを捕らえるんだ。星光団、行くぞ!」

「おう‼︎」


 ライムの元へ駆け出すソールさんたち。
 が、すぐにライムは、血のように真っ赤なバリアを張る。ソールさんたちは、あかく膨れ上がるバリアに弾かれ、瞬時に吹っ飛ばされてしまった。


「ぐわっ!」

「うああっ‼︎」

「……つまらん。その程度では私に指一本触れられんぞ」


 紅いバリアに包まれながら、ライムは不敵な笑みを浮かべた。


「くそ! あのバリアを破らなきゃいけないのか!」


 ボクはその場を動かず、ライムの動きを観察していた。
 そうだライム、テメエのステータス、見てやるよ。


 ニャンバラ軍総長 ライム  三毛♀ Lv.90
 魔神ネコ
 属性  火

 体力  4949/4949
 魔力  350/365
 攻撃力  666
 防御力  384
 敏捷性  190

 耐性  火、風、陽、陰
 弱点  水

 必殺……
 イラプション


 ……ふん、流石はだけあって、高えステータスだ。
 だが、最強のボクの敵じゃねえ。見てろ!
 ——ボクは燃えるように紅いバリアを見つめ、目をつむった。


 オーラ・バリア
 火属性  消費魔力……15
 全ての攻撃を一定回数、防御。但し


 そういう事か。なら、こいつだな!


魔剣まけんニャインライヴ! 属性変換‼︎」


 剣が、水飛沫を上げながらあおく輝き始める。ボクは剣を構え、ライムの方に向かって一直線に走った。


「喰らえ! ライムウゥゥゥゥーーーー‼︎」

「ゴマッ!」

「ゴマくん‼︎」


 ボクは猛スピードで、ライムのデケエ体に突撃する。——しかし。


「ふん」

「ぐわっ‼︎」


 ライムは最小限の動きで、さらりとけてしまった。  
 ——なら、もう一回だ!
 ボクは態勢を立て直し、再びライムの方へ突撃した。が、明後日あさっての方向にばかり、超スピードで突っ込んで行っちまう……!


「ぐわあああああっ‼︎」


 ボクは勢い余って、茂みの中に突っ込んでしまった。


「痛ってえー‼︎     クソお! もう一回だ‼︎」


 ボクは蒼く光る剣を構え、懲りずに突撃を繰り返した……が、何度やっても全然違う方角へ超速で行っちまうばかりだ。


「フォボスさん! けてくれ‼︎」

「な⁉︎    うわああああ!」


 ドガシャーーン‼︎     と音を立て、フォボスさんを巻き込んで突撃してしまった。むなしく、土埃が舞う。


「……ぐ!」

「す、すまねえ、フォボスさん……!」


 ダメだ……クソッタレ! 敏捷性びんしょうせいステータスが高すぎて、自分の動きが制御できねえ……。


「何を遊んでいるのだ。……イラプション‼︎」


 ライムがそう叫ぶと、突如地面が赤白く膨れ上がり、炎が吹き上がった!
 ビルよりも高く上がった火柱から、いくつものデケエ炎の弾が降り注ぐ——!


「ヤバイぞ! 逃げろ!」

「ダメです! 周りを炎に囲まれました‼︎」


 奴の必殺技か。ふ、ふん。ボクはそんな攻撃痛くも痒くもねえぞ。


 イラプション
 火属性    威力  350  消費魔力  120
 特殊効果    火傷(30%)


 威力350だと⁉︎ 大技の威力は大体が90~120だというのに……。
 ソールさんたち全員の体力が、今ので半分以上削られちまったようだ。


「熱っ……!」

「スピカ! ムーンさん!」


 スピカの腕と、ムーンさんの顔の左半分が激しく焼けただれている。目を瞑ってステータスを見ると、ダメージが少しずつ増え、体力と攻撃力が2匹ともどんどん目減りしていくのが分かる。


「大丈夫です。治癒魔法、上弦の清月せいげつ!」


 ——ムーンさんの魔法が、2匹を包み込む。みるみるうちに、ムーンさんとスピカの火傷が治っていった。
 しかし、まずい。こうしてる間にも、ライムはもう次の攻撃の準備をしてやがる。

 こうなったら、ボクの最強の技を喰らわせてやろう。もう一度目を瞑り、ボク自身の必殺技リストを確認した。


 必殺……
 ギガ・ダークブレイク
 ホワイト・ヒート
 メイルシュトローム
 インディグネイション
 デス・アースクエイク
 ブラック・ホール


 ……よし、これだ。
 ボクは思い切り息を吸い、念じながら叫んだ。


「ブラック・ホールウゥゥゥゥーーーー‼︎」

「ブラック・ホール⁉︎    ダメ! バカ‼︎     何考えてんのよアンタ‼︎」


 目の前で突然、バチイイインと弾ける音がした。同時に、ボクの頬に猛烈な痛みが走る。


「い、痛てぇ‼︎    ヴィーナスさん、なぜ……」


 ヴィーナスさんが魔法で作った巨大なネコの手で、ボクは顔面を思いっきりビンタされてしまったらしい。
 ……ブラック・ホールは結局魔力が足りず、発動出来なかったようだ。
 ヴィーナスさんは顔を真っ赤にしてボクを叱り飛ばす。


「あんた! そんな技も覚えてるの⁉︎    あんた一体何なのよ⁉︎    ブラック・ホールは、ちょっと制御をミスすると、敵ばかりか私たちも、周りの物も、街も、下手するとこの星も丸ごと、異次元空間へ飲み込んでしまうのよ‼︎」

「え、は……?」

「制御も出来ない癖に、馬鹿みたいに魔法ばっかり使ってんじゃないわよ‼︎    あんたは素質は凄いんだから、ちゃんと練習すれば、すればその……誰よりも強く……なれるんじゃない⁉︎    見た目も、その、それなりに、男前だし‼︎」

「え、は、……は? 何言って……?」

「言っとくけど、褒めてなんかないんだから、ね‼︎」


 ……ハッキリと分かった。ボク、ヴィーナスさん苦手だ。超苦手分野だ。どう反応したらいいか分からねえ……。
 とりあえず、ブラック・ホールが恐ろしい技だという事は理解した。


水遁すいとんの術! 水よ! そのまま敵を飲み込んで!」


 ようやく、他のみんなも動き出した。マーキュリーさんの呼び出した水が、燃え盛る炎をかき消して行く。


「みんな、とにかくあのバリアを破壊するぞ! 必殺剣・ライジングサン!」

「ムーンライト・サイコグレネイド!」

「インフェルノ!」

「忍法・氷塊の術!」

「セイクリッド・シャワー!」

「喰らえ、電撃銃や!」

双破斬そうはざん流星シューティングスター!」


 全員の技が、紅いバリアに包まれたライムを襲う。
 凄まじいまでの閃光、地響き、大爆発……! こんなの喰らったら、ひとたまりもねえだろう。


「フフフ……! フハハハハァァアア‼︎」


 だが、ダメだ。全く効いちゃいない。
 クソッタレ、ボクがしっかり狙いさえつけられれば……!


「クソ! どうすればいいのだ!」

「効いてないの⁉︎    そんな!」


 ——あ!  スピカ、ダメだ‼︎


「ウチの恨み思い知れ! 勇者の剣・ニャリバー!  敵を貫け‼︎」

「やめろスピカ!」


 スピカは、ライムを纏うバリアめがけて、金色に光る剣を振りかざした。
 ガキン! と鈍い音がしたが、バリアには傷一つついていない。


「は、効いてへん……!」

「舐められたものだ……」

「い、いやああああああ‼︎」


 ——黒煙と共に凄まじい爆発が、スピカを巻き込んだ。


「スピカァァーーーー‼︎」


 半ば本能的に、考えるより身体が先に——ボクは化け物のような黒煙と、赤く不気味に踊る炎をかいくぐり、スピカの元へと駆けつけた。


「スピカ! スピカァァ‼︎    大丈夫か‼︎」

「けほっけほっ……、大丈夫や、こんくらいなんてことあれへん!」

「お前、また火傷してるじゃねえか!」

「ゴマ……やっぱあかん、ウチ……ここで死ぬんか……」

「スピカ! スピカ、しっかりしろ‼︎」


 ——次の瞬間、今まで聞いたことのないような……、ムーンさんの怒声が、紅蓮の炎の中を響き渡った。


「ライムゥゥゥゥ――――ッ‼︎」


 こんなに怒っているムーンさん、見たことが無い。周りで燃え盛る真っ赤な炎が、ムーンさんの怒りの感情そのもののように見えた。


「……ああ?」

「ライム、あなたは、あなたは、本当に……、どこまで悪い子なの‼︎」

「……私の名を呼ぶんじゃねえ‼︎」


 ライムはそう叫ぶと、その巨体に似合わぬ速さでムーンさんの前に迫った。


「言っただろう……。もう親でも子でもねえんだよ、貴様とは。私はもう私じゃねえんだ」

「あの、時の……?」

「あの時の……何も出来ない私じゃねえんだよ……!  今の私に、出来ねえ事なんか……」

「……ムーンさん‼︎    危ない‼︎」


 ボクはスピカを抱えたまま、ムーンさんの元に駆け寄ろうとした……。が、間に合わない!


「ねえんだよううううぅぅぅッッ‼︎」


 再び大爆発と黒煙が、ライムとムーンさんを包み込む。
 ——親と子の絆を、紅蓮の炎が焼き尽くしていく……。
 魔物のように蠢く黒紫色の煙の中に、涙を流すムーンさんの顔が見えた。


「ムーンさんーーーー‼︎」


 紅蓮ぐれん炎をかいくぐり、ムーンさんの元へ駆け寄った。
 ムーンさんは火傷がひどいが、何とかまだ立てるようだ。
 駆け付けてきたソールさんは、言った。


「あの技……ペンタルファ・バーストをやるぞ! ……ムーン、頑張れ! 立てるか?」

「や、やめて! それをやるとライムが……」


 ムーンさん、ここまでやられても……、娘を思う気持ちが、勝つのか……⁉︎


「だが、ライムがまた、イラプションを使おうとしている! ここでやらなきゃ我々全員死んでしまうぞ! ムーン、立ってくれ!」

「ソール……、わかりました」


 涙を拭き、火傷に耐え、立ち上がるムーンさん。——覚悟が出来たようだ。

 心苦しいが、やるなら今しかねえ! ボクは再び剣を構え、ライムの方向へ狙いを定めた。


「ムーンさん! ペンタルファ・バーストを使う前に、ボクがライムのバリアを剥がす! ……大丈夫だ、ボクは最強なんだ。信じてくれ!」」

「わかりました。ゴマ……、しっかり魔力を、制御して下さいね」


 ムーンさんはそう言ってボクの顔を真っ直ぐに見た。
 ——さあ、今度こそ。
 頼むぞ、ボクの足。


「ライムゥゥウウーーーー‼︎」


 ボクはライムの方向へ、一直線に駆け出した。魔剣ニャインライヴに水のエネルギーが集まり、蒼く輝き出す。


「無駄だ……むっ?」


 ……よし、方角を微調整出来てる。今度こそ————!


「グハァッ⁉︎」


 剣が、ライムの真っ赤なバリアに突き刺さる。成功だ。紅い閃光と共に、血飛沫《ちしぶき》のように鮮やかにヤツのバリアは、弾け飛ぶ。


「今だ! ソールさん! ペンタルファ・バーストをおおおーーーー‼︎」


 ——が、ソールさんたちの様子がおかしい。


「ソールさん! 何してんだ! 早く……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨

小倉ひろあき
ファンタジー
故郷を捨て、未開の森で引きこもり生活を始めた鬼が一匹。 だが、誰も住んでいないと思われた土地には様々な種族が住んでいた。 セカンドライフのスケルトンと二人三脚の開拓、エルフ嫁との出逢い、増える家族たち。 スローライフはなかなか忙しいらしい。

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍
ファンタジー
 それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。  その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。  しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。  そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。  そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。  そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。  狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。

【完結】死後の世界は人手不足 ―魔法は使えませんが空手家ですー

SHOTARO
ファンタジー
ただ、強い男が魔物をボコすだけのお話です。 しかし、ボコしすぎて…… 感染症で死亡した蒼井隼人は、見知らぬ世界の墓場の近くで目覚めると周囲はアンデッドの群れだった。 異世界で何ら特殊能力の無い蒼井だが、アンデッドの大群を振切り、ゴブリンの群れを倒し、魔法使いを退け、魔人との死闘。 そんな蒼井の特技は、東京オリンピックで競技種目にもなった日本の伝統派空手だ。 今日も、魔物の首筋に必殺の“高速上段突き”が、炸裂する。 そして、闘いのあとは、日本の緑茶で健康を維持するのであった。 蒼井の飲む異世界の緑茶は苦い!? 以前、小説家になろう様で投稿しました『お茶と空手があれば何とかなります』を再編集しました。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

田舎町のモルモット召喚士になる前に

モルモット
ファンタジー
農民には二つのスキルがある。父と母の家系のどちらのスキルを継承したのかで夫婦喧嘩を始めた両親は俺をギルドへ連れて行った。 でも 鑑定結果はなんと「召喚士」 田舎の街で 初めての「召喚士」 15歳(大人)になるまでに恋もしますし色々な事が起こります。

処理中です...