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第34話〜もう1匹の姉〜

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 耳が貫かれるほどの轟音と共に、5色の光線が炸裂し、デネブたちを襲う――‼︎

 衝撃で吹き飛ばされたボクは、すぐに態勢を立て直そうとした。が、あまりの熱気と眩しさに、全身の感覚が失われていく……。
 目をつむると、また文字が浮かんできた。


 ペンタルファ・バースト
 無属性   威力……100   消費魔力……全て
 特殊効果……術者の体力と魔力が全て消費され、使用後は戦闘不能になる


 5匹全員の全ての力をエネルギーにして解き放つ、最後の必殺技ってとこだろう。
 ボクまで巻き添えを喰らい、眩しさと熱さで何も見えない、何も感じない。ソールさんに言われた通り、〝ワームホール〟をぶっ壊さなきゃいけねえのに。
 ……奴らは、倒す事は出来たのだろうか。


「……やったか⁉︎」

「ダメ! 逃げられた!」


 ……逃げられちまったか。多分、あの3匹は〝ワームホール〟から逃げちまったんだ。クソ、ボクがもっと素早く動けていれば……。

 ……って、あれ? ……何だ? 身動きが取れねえ!


「ゴマ! ゴマが!」

「なにっ⁉︎」

「あっはは! ゴマ君を解放して欲しかったら、武器を捨てるんやで!」


 ようやく視界が晴れ、感覚が戻ってきた。
 ……気付くとボクは、何者かにガッチリとホールドされて、こめかみに小型の銃を当てられていた。


「この、離しやがれ!」

「動くんやないで! この電撃銃があんたの脳天貫くでえ」


 ボクに銃を突きつけてやがったのは、あの訛りのキツい女、スピカだった。コイツ、逃げてなかったのか。
 一体どうやってあの必殺技をかわし、ボクを捕まえやがったんだ。


「チィ‼︎     離しやがれ!」

「この子はにして、ウチも逃げるさかいにな。大人しくしてるんやで。……にしても、イケメンやなあこの子は」


 必殺技は空振りに終わり、ボクは捕まり、星光団も、もう動けない。——万事休すか。


「……うああ……兄ちゃん……」

「シッ! ルナ、動いちゃダメよ……!」


 メルさんたち、無事だったんだ。木陰から不安そうな目でこっちを見ている。
 ——ボクは諦めねえぞ。これ以上メルさんたちを心配させる訳にはいかねえんだ。


「ほな元気でなあー、あっはっは」


 そのままスピカはボクを捕らえたまま、〝ワームホール〟の方へ去ろうとする。

 ——が、そうはさせねえ。ボクを舐めるなよ!


「あ! やべえ! 屁が出る‼︎」


 ボクはそう叫んで、尻をスピカの膝に押し付けてやった。


「……はぁ⁉︎    ちょ、何してんの⁉︎    やめえ汚い! 向こう行ってしてきいや‼︎」


 ——作戦成功。スピカが手をパッと離した隙に、ボクは受け身を取ると、すぐに奴の後ろに回り込んだ。


「はっ、しもうた!」

「へへっ、バーカ! アカンベー‼︎    喰らえ、クソアマ!」


 ズシャアアアア‼︎
 ボクは力いっぱい、足を使って土を掘り、スピカの顔面めがけて大量の土を浴びせてやった。


「うわ! 全然前見えへん!」

「兄ちゃんナイス!」


 その時再び、星光団が動いた——!


「今だ、行け! スピカを捕らえるんだ!」

「おうっ!」

「や、やめて! いやあっ!」


 星光団の5匹はあっという間にスピカを捕らえ、ロープでグルグル巻きにしてしまった。さっきの必殺技は放ってから数分経てば、5匹は動けるようになるらしい。


「はあー、ウチがこんなヘマやらかすなんて……」

「デネブとリゲルはどうした?」

「逃げたよ。あの結界通過トンネルからな。残念やったな、ウチだけ捕まえてもどうしようもないで」


 デネブとリゲルはやはり、〝ワームホール〟を通って逃げてしまったらしい。
 いいさ、いつかあいつらも絶対潰してやる。


 ♢


 街に、静けさが訪れた。
 恐らくニャンバラの野郎どもは、捕らえたタイタンとスピカ以外は〝ワームホール〟を通って帰って行ったのだろう。
 後は、タイタンとスピカを、どこかにある星光団の基地の牢屋にぶっ込んで、ボクらも〝ワームホール〟を抜けた後に、ぶっ壊しちまえばいいんだっけ——いや、そうするとチップたちにはもう会えなくなる。そうだ、その作戦をボクは反対してたんだ。ソールさんたちに、何とか〝ワームホール〟を壊さずに済むやり方を考えてもらわねば。

 そう考えていた時、後ろの茂みから殺気を感じた。全身に寒気が走る。


「……ずっと見ていたぞ」


 ドスの効いた声が、茂みから聞こえた。


「誰だ⁉︎」

「……今の星光団では、私には勝つことは出来ない。〝ペンタルファ・バースト〟で、力は使い果たしただろう?」


 声の主が、茂みから姿を現した。

 縦にも横にも、大人のネコより2回り、いや3回りほどもデケえ体格。顔の上半分を斜めに走る傷跡。全身を包む棘だらけの装備。
 その三毛ネコの体格は、捕らえた〝サターン〟のデブ剣士タイタンよりもさらにデッカく、歩くたびに地響きが起こる。


「……ライム……‼︎」


 ムーンさんが、口を開いた。
 まさか。コイツが、ムーンさんの3匹目の娘の——ライム。


「ライム! あんた!」

「ライムぅ……久しぶりだねぇ~!」


 姉妹であるメルさん、じゅじゅさんがライムに呼びかけた瞬間。


「気安く私の名を呼ぶんじゃねえ‼︎」


 地面を揺るがすほどの大声で、ライムは怒鳴った。
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