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第4話〜不審尋問〜

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「とりあえず君たちのお母さんの迎えを待ってなさい。子供だけで出歩くのは危ないから、帰ったら家で大人しく遊んでなさい。俺は奥で休む」


 ボクらを警察署とやらに連行した黒服のネコはそう言って帽子を脱ぐと、扉をくぐって奥の部屋に行っちまいやがった。


「だから! ムーンさんはボクらの居場所を知らねえから……」


 黒服の奴は、ボクの言葉を全く聞いちゃいない。そのままピシャリと扉を閉めてしまった。


「ああ、どうしよう兄ちゃん……」

「ったく、知るかよ」


 他のネコどももみんな険しい顔をしながらせかせかと動き回っていて、ボクらはもう話しかける気力も無かった。
 と、今度は後ろからまた別のネコが、ボクらに声をかけてきやがった。


「腹減ったろ。食いな」


 そいつはそう言ってボクらの前に立つと、美味そうな小魚のスナックが入った袋を手渡してくれたんだ。
 思わずボクらは、それにがっついてしまった。


「んん……、んめえ! なーんにも食ってなかったからな。ほら、ルナも食え!」

「ほんとだ! おいしーい!」


 地底世界にも魚は泳いでんだなと、ボクは妙に感心した。が、そんな事はどうでも良かった。ボクらはただただ、小魚のスナックにがっつくばかりだった。


「フフ、最上級品だ。美味いだろう。……それはそうと、お前たち、地上からやって来たというのは本当か?」


 話しかけてきたのは、チビでボクらと同じ黒ブチ模様の、これまた黒服を着たネコだった。さっきみたいな嫌な感じの奴じゃなさそうだったので、ボクは素直に答える事にした。


「ああ、信じてくれねえだろうが、本当だ。逆に、ここが地下だって事がボクは信じられねえ」

「……こっちに来るんだ」


 ボクが答えるとチビの黒服はボクらを部屋から連れ出すと、天井のあかりが所々消えかかった廊下の方へと足を進めて行った。慣れない二足歩行で、ボクらはついて行く。


 ♢


 ホコリ臭え廊下の突き当たりにある扉をチビの黒服が開けると、そこはこじんまりとした畳の部屋だった。部屋の真ん中に、ちいさな四角形の机が1つだけポツンとある。また尋問されるのだろうか。


「これも、最上級のミルクだ」


 チビの黒服は、机にたっぷりとミルクの入った銀の皿を2つ、出してくれた。


「おいチビ。何で、こんなにもてなしてくれるんだ?」


 ボクがそう尋ねると、チビの黒服は真剣な眼差しで答える。


「君たちの事が知りたい。君たちが地上のネコだというのが本当なら……。我々ニャンバリアンは、絶滅の危機から救われるかも知れないのだ」


 ——一体何を言っているのか。ボクにはさっぱり分からなかった。とりあえずボクは出されたミルクを、グイッと一気に飲み干してから、チビの黒服に尋ねた。


「よくわかんねえが、ボクらの何が知りたいってんだ?」

「……話せば長くなるだろう。まずは連絡先を教えてくれ。私はシリウスだ」


 ボクらを手厚くもてなしてくれた、シリウスという名のチビネコは、いつの間にか長四角の、角が丸くなってる薄っぺらい板のような物を手に持っていた。


「連絡先って何だ? 何をどうすればいいんだ」

「ん?  〝ニャイフォン〟を、持ってないのか?」

「なんだそれ?」

「こういうやつだ」


 シリウスはその薄っぺらい板の片面を、ボクに見せた。見るとそこは画面になっていて、絵や文字が現れたり消えたりしている。そういえば同じようなヤツを、ニンゲンがよく指でポチポチやってるのを見た事がある。まさか、これをボクらが使えっていうのだろうか。


「……そんな物持ってるわけねえだろ」

「わかった。ちょっと待っててくれ。君たちの〝ニャイフォン〟を用意する。使い方も教えるから、あと少しだけ時間くれないか?」

「ふん、分かりやすく説明しろよ」

「ふあーあ。兄ちゃん、暇ー」


 その後ボクとルナはそれぞれ〝ニャイフォン〟を手渡され、シリウスから使い方の説明を受けた。長ったらしい説明に嫌気がさしながらも、ボクは何とか〝ニャイフォン〟の使い方を理解する事が出来た。


「〝ニャップル〟と契約完了。あとはここに肉球を押しつけてくれ」

「あん……? こうか?」


 ボクはニャイフォンの画面に片手を押し付けた。すると、ポンッと音を立てて肉球のマークがスタンプされる。


「さあ、これで自由に〝ニャイフォン〟を使う事が出来る。特殊な電波を使っているから、壊れない限りはどんな場所でも、連絡が取り合える。その他にも、写真を撮ったり、ゲームをしたり、色々な機能が……」

「ああ、分かった分かった、面倒臭え。まあ、使ってるうちに慣れるだろ」

「ダメだよ兄ちゃん。ちゃんと説明聞こうよ」


 ボクはルナの忠告を無視して、ニャイフォンの画面を適当に触ってみた。


『甘ぬk#jtにマナの棚やら』


 くっそ、何だこれは。どうやって文字を打てばいいんだ。目がチカチカする。腕が攣ってくる。
 面倒臭くなったボクは、連絡先をニャイフォンに入力する作業を、シリウスに丸投げした。


「……君たち、本当にニャイフォンを初めて使うみたいだな。使い方のガイドも渡しておこう」

「すまねえな。で、ボクたちこれからどうすりゃいいんだ?」

「そうだな、時間を取らせてしまった。1つ、訊いていいか」

「なんだ?」


 この時、シリウスの目つきがマジになっていた。果たして一体、何を訊いてくるのだろうか。


「地上世界に、ネズミは居るよな?」


 ——至極当たり前の質問に、ボクは拍子抜けした。


「……は? 居るに決まってるだろうが。ネズミはボクらネコの食いモンだろ。居なくなっちゃあ困るぜ。な、ルナ」

「う、うん」


 少し間を置いて、シリウスは続けた。


「……地上世界の何処かに、我等と同じように、知性を持ったネズミたちが平和に暮らしている世界がある……。そんな話を、聞いた事はないか?」


 ——一体、何の事を言ってるのだろう。
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