15 / 143
第14話〜ようこそ、ネズミの国へ〜
しおりを挟むここは、プルートのジジイが開発した、結界通過トンネル〝ワームホール〟の中だ。
〝ネズミの理想郷〟とやらへと続く、虹色に染まる空間をボクらはひたすら進んだ。
……お? 段々と、二足歩行が出来るようになってきたぜ。
——抜けた。
何だ、ここは。
そこは真っ暗な森だったが、周りに生えてるのは木じゃなく、やたらとデカい草花だった。
そして、やけに体が軽い。
「うお、なんだこれは」
「すごーい!」
ボクらは、ネズミサイズになってしまった。
トンネルの方を振り返ってみると、巨大なプルートのジジイのブキミな姿が見えるかと思ったが、結界の外の様子が全く見えない。何の変哲もない夜空が見えるだけだった。
「来たね、ゴマくんルナくん。ここからは静かにね。ネズミ族に見つからないようにするんだ。あ、これ君たちの服、それからニャイフォン。カメラ機能の使い方は、後で教えるから」
ボクらは用意された服をパパッと着た。——ん? 服と一緒に変な被り物も用意されているじゃねえか。
厚紙みてえな物で作られた灰色の被り物に、目と鼻とヒゲが雑に貼られている。
中が空洞の細長いミミズみてえな形の、ゴムのような物で出来た物もある。
「待て待てプレアデスよ。これは何だよ」
「それは、ネズミの顔と、尻尾だよ。ほら、頭にかぶって」
「わっ……!」
プレアデスがルナの頭に、雑な出来のネズミの顔の被り物をかぶせた。次いでミミズのような尻尾も、ルナの尻尾の上からかぶせやがった。
「これで、もしネズミ族に見つかってもごまかせる。多分ね」
「多分ねって、お前なあ……」
「ほら、ゴマくんもかぶって」
「おいやめろ!」
ボクもプレアデスに無理矢理、ネズミの被り物をかぶせられた。毛の質感といい、明らかに縫い合わされた跡といい、こんなの偽物だってすぐわかるだろう。本当に大丈夫か、コイツ。
空気穴があるから、幸い息はしやすかった。かろうじて前も見える。
「ルナ、大丈夫か……? 前見えるか?」
「何とか……」
プレアデスの野郎もすぐに、ネズミの被り物を装備した。……顔を動かすたびにバタバタと音がして、かえってバレそうな気しかしない。
「ネズミ族ってこんな姿なのかよ。ニャンバラの奴らと同じように服着て二足歩行で歩いてるのか?」
「そうだよ。……って、プルートが言ってた」
「おい、何だよそれ!」
「この林を抜けたら、ネズミ族の街だ。さ、準備できたら、僕についてきて」
不思議な事に、ボクらの世界だと冬だったが、こっちの世界はまだ秋真っ盛りのようだ。巨大なドングリが、そこかしこに転がっている。冬の毛だと少し暑い。
今更後戻りは出来ねえ。不安を抱えたまま、ボクらはプレアデスの後をついて行った。
♢
まだ夜明け前だから、街に潜り込むってんなら今がチャンスだろう。
ネズミの住む街とやらはどんな所なんだ……。不安が少しずつ、ワクワクへと変わって行った。そう、新しい冒険の予感がしたからだ。
「……あれを見てよ」
「おお! あれがネズミどもの街か」
「わああ……」
茂みを覗くと、三角や四角の形をした建物や、曲がりくねった道路、うっすら光る街灯——静まりかえった大きな街が見えた。みんな眠っているのか、誰の気配もない。
「僕についてきて。そっと、ね」
「でかい音たてんなよ」
「わかってるよ兄ちゃん」
ニャンバラとはまた違った感じの都会だ。めちゃくちゃ、空気が美味い。なぜだか居心地がとてもいい。
ボクらは、そこかしこにボクらより背がデカく大きな花が咲いている広い公園にたどり着いた。今から作戦のおさらいだ。
「夜が明けたら、行動開始だ。僕は別の任務があるから、君たちとは別行動になる。君たちは、ネズミ族の生活や行動を、なるべくたくさん静止画や動画でニャイフォンに収めてほしい」
「ふむ」
「操作は簡単で、まずカメラ機能を起動。静止画はこの緑のボタンに触れてすぐ離す。動画は指で画面を横にスライドして、赤のボタンに触れてすぐ離すんだ。もう一度触れたら録画が完了するからね。但し、絶対にネズミ族に見つからないように。頼んだよ」
「何となくだが分かったぜ。いつ戻ればいいんだ」
「お昼頃に一度、この公園に集合しよう。ニャイフォンで連絡するから」
「わかった。……ルナ、また大冒険だな」
「遊びに来てるんじゃないんだから」
————こうして、ボクらの新しい大冒険の幕が開けたんだ。
♢
地平線が白み始めた。ボクはネズミの被り物をしっかり装着し直す。いよいよ、ネズミ盗み撮り作戦が始まるんだ。……あまり気持ちのいいモンでもねえが。
「さあ、そろそろネズミ族が出て来る頃だろう。僕は行くけど、大丈夫かい?」
「ああ任せとけ」
「心配……」
「じゃあ、頼んだよ。またお昼に」
プレアデスはそう言うとあっという間に、小道の向こうに姿を消しやがった。その動きは、ネズミさながらだった。意外と上手くネズミに成り切ってやがる。
「……だめだ。今頃眠くなってきやがった」
「僕も……。でも、見つからないところに行かなきゃ」
「そうだな」
途端に襲ってきた眠気に、ボクらは勝てなかった。そりゃそうだ。まだそんなに寝てねえうちに真夜中に叩き起こされたんだから。
公園の真ん中にある四角形の倉庫の陰に、ちょうどいい大きさの箱が置いてあった。中に藁も敷いてあって、寝るのに最適だ。
「よし。ここで一眠りするか」
「そうするしかないね。もう何も考えられないや」
ボクらは箱の中に入り、被り物を脱いでから、互いに折り重なってすぐに眠りについた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
田舎町のモルモット召喚士になる前に
モルモット
ファンタジー
農民には二つのスキルがある。父と母の家系のどちらのスキルを継承したのかで夫婦喧嘩を始めた両親は俺をギルドへ連れて行った。
でも 鑑定結果はなんと「召喚士」
田舎の街で 初めての「召喚士」
15歳(大人)になるまでに恋もしますし色々な事が起こります。
ゲームにステータスが反映されるので、現実のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する―
椿紅颯
ファンタジー
あらすじ
旭加沢 暁はゲーマー兼探索者である。
暁は、待望の新作ゲームが発売されるのをずっと心待ちにしていた。
そしてその日がいよいよ訪れる。
わくわくドキドキでゲームを始めるも、悲しいことに現実世界で金欠だったことを思い出してしまう。
ゲーマーなら、お金なんて気にしないでゲームをしろよ、という葛藤を抱きつつもダンジョンで金策をすることに。
ちなみにダンジョンへ向かうのは初めてではなく、モンスターとの戦闘も慣れている。
しかも、アシスタントAIの力を借りることもでき、スムーズに狩りをすることが可能。
そんな日々を送っているのだから、学業は当然の如く怠っている。
テストの点数は赤点ギリギリ、授業中は授業に専念せずゲームのことばかり考え、友人を増やすこともない。
見事に学生の本分を忘れているわけだが、そんな暁にも話ができる人達はいる。
そして、暁を気に掛ける人物も。
一風変わった学園生活とゲーム世界、そしてダンジョンという舞台で様々な出来事を通して、今までなんとなく生きてきた暁の周りに変化が起きていく。
しかし、何でもかんでもゲーム至高、ゲーマー思考の暁は、何を考え、どう変わっていくのか――。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
女神様、これからの人生に期待しています
縁 遊
ファンタジー
異世界転生したけど、山奥の村人…。
普通は聖女とか悪役令嬢とかではないんですか?
おまけにチートな能力もなければ料理も上手ではありません。
おかしくありませんか?
女神様、これからの人生に期待しています。
※登場人物達の視点で物語は進んでいきます。
同じ話を違う人物視点で書いたりするので物語は進むのが遅いです。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
嬉野エリア長の調査報告書…娘と会社の治安は僕が守る。
茜琉ぴーたん
恋愛
家電小売業最大手・ムラタの人事担当である嬉野直人に、ある日妻から「娘が悩んでいる」との情報が伝えられた。
家族の憂いを解消するため、父・嬉野は職権を利用しつつ真相へと近付いて行くのだった。
(全45話)
*関西ムラタ勢のその後を浚う総集編的作品です。簡単な人物紹介は入れているので前作を読まずとも話は伝わるようにしております。
*キャラクター画像は、自作原画をAI出力し編集したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる