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第14話〜ようこそ、ネズミの国へ〜

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 ここは、プルートのジジイが開発した、結界通過トンネル〝ワームホール〟の中だ。
 〝ネズミの理想郷〟とやらへと続く、虹色に染まる空間をボクらはひたすら進んだ。
 ……お? 段々と、二足歩行が出来るようになってきたぜ。

 ——抜けた。

 何だ、ここは。
 そこは真っ暗な森だったが、周りに生えてるのは木じゃなく、やたらとデカい草花だった。
 そして、やけに体が軽い。


「うお、なんだこれは」

「すごーい!」


 ボクらは、ネズミサイズになってしまった。
 トンネルの方を振り返ってみると、巨大なプルートのジジイのブキミな姿が見えるかと思ったが、結界の外の様子が全く見えない。何の変哲もない夜空が見えるだけだった。


「来たね、ゴマくんルナくん。ここからは静かにね。ネズミ族に見つからないようにするんだ。あ、これ君たちの服、それからニャイフォン。カメラ機能の使い方は、後で教えるから」


 ボクらは用意された服をパパッと着た。——ん? 服と一緒に変な被り物も用意されているじゃねえか。
 厚紙みてえな物で作られた灰色の被り物に、目と鼻とヒゲが雑に貼られている。
 中が空洞の細長いミミズみてえな形の、ゴムのような物で出来た物もある。


「待て待てプレアデスよ。これは何だよ」

「それは、ネズミの顔と、尻尾だよ。ほら、頭にかぶって」

「わっ……!」


 プレアデスがルナの頭に、雑な出来のネズミの顔の被り物をかぶせた。次いでミミズのような尻尾も、ルナの尻尾の上からかぶせやがった。


「これで、もしネズミ族に見つかってもごまかせる。多分ね」

「多分ねって、お前なあ……」

「ほら、ゴマくんもかぶって」

「おいやめろ!」


 ボクもプレアデスに無理矢理、ネズミの被り物をかぶせられた。毛の質感といい、明らかに縫い合わされた跡といい、こんなの偽物だってすぐわかるだろう。本当に大丈夫か、コイツ。
 空気穴があるから、幸い息はしやすかった。かろうじて前も見える。


「ルナ、大丈夫か……? 前見えるか?」

「何とか……」


 プレアデスの野郎もすぐに、ネズミの被り物を装備した。……顔を動かすたびにバタバタと音がして、かえってバレそうな気しかしない。


「ネズミ族ってこんな姿なのかよ。ニャンバラの奴らと同じように服着て二足歩行で歩いてるのか?」

「そうだよ。……って、プルートが言ってた」

「おい、何だよそれ!」

「この林を抜けたら、ネズミ族の街だ。さ、準備できたら、僕についてきて」


 不思議な事に、ボクらの世界だと冬だったが、こっちの世界はまだ秋真っ盛りのようだ。巨大なドングリが、そこかしこに転がっている。冬の毛だと少し暑い。
 今更後戻りは出来ねえ。不安を抱えたまま、ボクらはプレアデスの後をついて行った。


 ♢


 まだ夜明け前だから、街に潜り込むってんなら今がチャンスだろう。
 ネズミの住む街とやらはどんな所なんだ……。不安が少しずつ、ワクワクへと変わって行った。そう、新しい冒険の予感がしたからだ。


「……あれを見てよ」

「おお! あれがネズミどもの街か」

「わああ……」


 茂みを覗くと、三角や四角の形をした建物や、曲がりくねった道路、うっすら光る街灯——静まりかえった大きな街が見えた。みんな眠っているのか、誰の気配もない。


「僕についてきて。そっと、ね」

「でかい音たてんなよ」

「わかってるよ兄ちゃん」


 ニャンバラとはまた違った感じの都会だ。めちゃくちゃ、空気が美味い。なぜだか居心地がとてもいい。
 ボクらは、そこかしこにボクらより背がデカく大きな花が咲いている広い公園にたどり着いた。今から作戦のおさらいだ。


「夜が明けたら、行動開始だ。僕は別の任務があるから、君たちとは別行動になる。君たちは、ネズミ族の生活や行動を、なるべくたくさん静止画や動画でニャイフォンに収めてほしい」

「ふむ」

「操作は簡単で、まずカメラ機能を起動。静止画はこの緑のボタンに触れてすぐ離す。動画は指で画面を横にスライドして、赤のボタンに触れてすぐ離すんだ。もう一度触れたら録画が完了するからね。但し、。頼んだよ」

「何となくだが分かったぜ。いつ戻ればいいんだ」

「お昼頃に一度、この公園に集合しよう。ニャイフォンで連絡するから」

「わかった。……ルナ、また大冒険だな」

「遊びに来てるんじゃないんだから」


 ————こうして、ボクらの新しい大冒険の幕が開けたんだ。


 ♢


 地平線が白み始めた。ボクはネズミの被り物をしっかり装着し直す。いよいよ、ネズミ盗み撮り作戦が始まるんだ。……あまり気持ちのいいモンでもねえが。


「さあ、そろそろネズミ族が出て来る頃だろう。僕は行くけど、大丈夫かい?」

「ああ任せとけ」

「心配……」

「じゃあ、頼んだよ。またお昼に」


 プレアデスはそう言うとあっという間に、小道の向こうに姿を消しやがった。その動きは、ネズミさながらだった。意外と上手くネズミに成り切ってやがる。


「……だめだ。今頃眠くなってきやがった」

「僕も……。でも、見つからないところに行かなきゃ」

「そうだな」


 途端に襲ってきた眠気に、ボクらは勝てなかった。そりゃそうだ。まだそんなに寝てねえうちに真夜中に叩き起こされたんだから。

 公園の真ん中にある四角形の倉庫の陰に、ちょうどいい大きさの箱が置いてあった。中に藁も敷いてあって、寝るのに最適だ。


「よし。ここで一眠りするか」

「そうするしかないね。もう何も考えられないや」


 ボクらは箱の中に入り、被り物を脱いでから、互いに折り重なってすぐに眠りについた。
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