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偶然

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「ただいま~!」
「お帰り~。どうだった?」
「うん、やっぱり喉からの熱だったみたい。インフルエンザではなかったって。」
「そぅ、良かった。」
「あっ、改めてお礼に行くって言ってたよ。」
「そんなのいいのに……。礼儀正しい子だったわね。」
「本当に。何度もお礼言ってたよ。お父さんにも、服を貸してもらってありがとうって。」
「そうか。知ってる人だったのか?」
「知ってるというか、朝会社に行く時に乗るバスの運転手さん。顔は知ってたよ。倒れるまでわからなかったけど。」
「そうか……。」
「ご両親を早くに亡くして、一人暮らしだって言ってた。」
「そぅ……。」
「これも何かの縁だ。1人でどうにもならない事が起こった時は、相談しなさいと伝えてくれ。力になれるかもしれんからな。」
「わかった、ありがとう。」

 次の日バスに乗るともぅ山田さんが運転していた。大丈夫なのかなぁ?
 降りる時に、こっそり聞いてみたら、昨日薬飲んで昼からしっかり寝たら治ったって言ってた。

 木曜日が休みらしく、仕事から帰るとクッキーのセットが置いてあった。
「今日ね、流唯君が来たのよ。この前はお世話になりましたって。改めて見ると、すっごくカッコイイ子ね~。お母さん、ドキドキしちゃった。」
「あははは、わかる!!アイドルグループにいても違和感ないよね。」
「そうそう!目の保養~。」
「私も毎朝目の保養させてもらってる。」
 2人でキャッキャ言ってたらお父さんが帰って来た。
 クッキーを見せてお母さんが説明している。

 私は土日休みで、山田さんは木、日が休みらしい。
 金曜日バスから降りる時に、この前のお礼がしたいから日曜日、ランチを奢らせてほしいと言われた。
 そんなのいいのに……と断わろうとしてたけど、紙を渡され、山田さんも仕事中だから長話も無理で何も言えないままバスを降りた。
 最近、山田さんと話しているから女子高生の視線が痛い。時々、ババァのくせに!とか、釣り合うと思ってるの?とか聞こえてくる。
 そんな事、わかってるし!!余計なお世話だ!!

 会社の昼休みに紙を開いてみたら、待ち合わせ場所と時間が書かれていた。
 連絡先とか全く書いてないから、断るにしても行くしかない。
 なかなかやるな!!

 日曜日、約束の場所に11時に到着した。山田さんが先に来て待っててくれた。
「こんにちは。呼び出してごめんなさい。」
「こんにちは。特に用もなかったから……。でも、たいした事してないのに、かえって申し訳なくて。」
「知らない人を家まで連れて行って看病するなんて、たいした事です。俺、すごく嬉しかったんだ。」
「……そぅ?」
「うん。だから、せめて食事くらい奢らせてください。高級なものは無理だけど……。」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃいます。」
「はいっ!!」

 山田さんが連れて行ってくれたのは、ちょっとオシャレなイタリアンのお店だった。ランチのコースを予約してくれてたみたいで、美味しくいただいた。
「本当は、夜のディナーコースの方が豪華なんだけど……。安月給ですみません!」
「そんな!十分です。とっても美味しい!それにファミレスやハンバーガーとかでも十分ですよ!」
「あははは、じゃあ次は背伸びせずに、ファミレスにでも行きませんか?」
「えっ……。あっ、はい。楽しみにしてます。」
「やったー!じゃあ、連絡先教えてもらってもいいですか?」
「はい。」
 スマホを出して連絡先を交換し合う。
 その日は、ランチを食べ終わって少し公園で休憩してから家に帰った。
 改めて、名前も直接言ってなかった事にお互い気付いた。山田さんは、お父さん達が陽菜と呼んでいたから陽菜さんとしか呼べなかったのと、急に変えれないからそのまま呼んでいたようだ。確かに家の中にいたら表札も見えないしね。
 私は病院に付き添った時に山田流唯さーんと呼ばれたのを聞いて名前を知った。
 公園でベンチに座って、お互いの事を話した。
 山田流唯、23歳、バスの運転手。ご両親は、幼い時に亡くなり親戚の家に預けられたそうだ。これ以上迷惑かけられないからと高校卒業後一年だけ好きな車の免許を色々と取得して親戚の家を出て、一人暮らしをしているそうだ。
 親戚の家では、それは大切にされたようで、特におばさんと娘さんには良くしてもらったと言っていた。

 家に帰って、部屋でゴロゴロしながら山田さんの顔を心のシャッターで撮りまくったのを思い出しながら、ニヤニヤしていたら、スマホのメッセージアプリに山田さんからのメッセージが届いた。
『今日は、楽しかったです。今度はファミレスに行きましょう。』
『私も楽しかったです。ファミレス楽しみにしてます。』
 今日は、幸せな気分で布団に入って、ぐっすりと寝た。
 翌朝、また夢を見たようでにっこりと笑いながら「ルイ君!」と言う自分の声で目が覚めた。
 やっぱり内容は全く覚えてないけど、ルイ君と叫んだのは覚えてる……。山田さんの夢だったのかな?欲求不満なのかも……。でも、昨日目の保養は十分にさせていただいたはずなのに。
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