上 下
23 / 185

ドワーフの約束

しおりを挟む
 麦茶を容器ごとと、煎餅を出してお茶請けにする。
「お待たせしました。どうぞ。」
 麦茶を注いで、お煎餅も勧める。お茶を一口飲んで、ポツリポツリと話してくれた。
「昔に、人間の男がわしらの里にやってきたんだ。その男に、食べる物が無くなり住む場所も無いから、わしらの里においてくれと頼まれた。」
「頼まれたんですか??」
「そうだ。食べ物を分けてもらう代わりに出来る事はなんでもすると頼まれた。その男の他にも人間の仲間がいて、ちょうどこの丘の下辺りに住んでいるから、助けてほしいと言われた。」
「でも、ここの人達は、ドワーフやエルフが人間を奴隷にする為に寝ている間に拐っていくと言ってましたよ。」
 ダンドンさんは、ビックリした顔をしていた。
「この辺りで食べられている芋があるだろう?あれも、わしらドワーフがここの土地でも育ちそうな芋の苗を持って来て植えたんだ。それに、人間は弱い。武器も無い。わしらドワーフは、鍛治仕事が得意で少しだけ取れる鉄を加工して武器を作り狩りもする。武器があるから、魔物が多い山の中でも生きていける。山の中は植物も沢山あるし、木もあるから家を建てる事も出来る。この辺りにある家は昔、わしらが木を運び建てたんだ。今はもっと家らしい家に暮らしているが、人間はわしらを怖がるから家も新しく出来なかった。」
「じゃあ、なんで奴隷なんて扱いをするんですか?」
「それは、その男の話しが人間に伝わっていた時は良かったんだ。だんだんとドワーフとの約束を忘れ、逃げ出す者や、手伝いを頼んでも断る者が出てきた。男との約束は、家を建てたり、食べ物を都合してもらう代わりに、ドワーフの仕事を手伝うと言うもの。里の周りは魔物が沢山いるから、人間が逃げ出し1人でウロウロしていたら死んでしまう。仕方なく逃げられないように閉じ込めるしかなかった。」
「……それでも奴隷にしなくても……。それに、勝手に連れ去られたら怖いですよ。」
「それも、その男との約束だ。人間は弱く、すぐに死ぬ。人間が滅びてしまう事を心配して、ドワーフやエルフに人間の繁殖も頼んだんだ。ドワーフや、エルフが養える人間の数にも限りがある。人間は、短い寿命だからこそ子どもを沢山産む。下で暮す人間が生きていくのは難しいから、わしらの里で増やして、下の人間も数が減らないようにしてきた。」
 衝撃的だった。人間を繁殖させるなんて………。
「だが、こんな綺麗な家に住み、食べ物も沢山あるなら心配はいらないな。もぅ、あの男との約束も必要ないだろう。エルフにも伝えて奴隷をここに返そう。」
「……ありがとうございます。奴隷にして鎖に繋いだり、鞭で叩いたりした事は許せませんが、私から皆んなに説明して理解してもらいます。」
「……その、奴隷にしたと何度も悪い事のように言っているが、人間が望んだ事じゃないのか?」
「えっ?それは、違うと思います。誰もそんな事望まないはずです。」
 特殊な性癖持ちなら喜ぶかもしれないが、そんな変態滅多にいないだろう。それとも、そんなにヤバイ人がいたの??怖すぎる~!
「人間が約束を忘れてしまった頃、わしらの夢に神様が出てきて、人間を守る為には奴隷にする事が1番良い。逃げ出さないよう鎖で繋ぎ、仕事を早く覚える為にも鞭で叩いて教える事が人間の為になる。時々人間を拐いに行く事も夢のお告げだった。それを望んでいると。神様は、人間の姿だったから、わしは人間が本当に望んでいるのだと思ったんだ。わしが人間担当だった事もあって、夢のお告げ通りにしたんだ。他にもお告げの夢を見た仲間がお告げを守るように言ってきた。」
「………。その、神様って、髪の毛も髭も白い、おじいさんだった?」
「いや、人間の年寄りではなかった。髪の毛も黒かったぞ。エルフの人間担当も同じようなお告げがあったと言っていた。だから、同じように奴隷として扱っていた。人間に優しくすると天罰が降る、人間に知恵を与えると反乱を起こしてドワーフもエルフも絶滅するだろうとも言われた。」
 じゃあ、私の知ってる神様じゃない。神様は1人じゃないのかなぁ?この前の電話でも誰かに呼ばれたって言ってた。それに、奴隷の始まりも知らないようだった。じゃないと奴隷を助けてやれ、なんて言わないはずだし……。ダンドンさんが嘘を言ってるようには思えない。人間が不利になるような内容のお告げも気になる。
 ぶつぶつ言いながら考え込んでいたら、
「おい、そろそろ帰る。あと2回ほど夜が明けたら奴隷を連れてここに来られるだろう。エルフの里にも行って、一緒に連れてくる。」
「あっ、ごめんなさい。考え込んでしまって……。わざわざ連れて来てもらうんだし、今までの事もあるし何かお礼がしたいです。ドワーフさん達が好きな物ってありますか?」
「わしらにお礼??お告げとはいえ、人間に酷い事をしてきたのに………。」
「でも、知らなかったんですよね?それに、最初は人間が頼んだ事だったんですよね?……誤解があったんです。仕方ないですよ。私は被害者じゃないですし。」
「そーか……。わしらドワーフは酒が大好きだ!森の木の実で酒を作って時々酒盛りをするのが楽しみなんだ。」
「分かりました。」
 荷物になるけど、大きなリュックと日本酒とワインを5本づつ、食べなかった煎餅も包んで、後は西瓜を美味しいと言ってくれたので1個リュックに詰めた。よく考えたら嫌がらせのように重たいお土産になってしまった……。ごめんね、ダンドンさん……。
 私から皆んなに説明をしておくと約束して、ダンドンさんは帰って行った。
 リュックは、ムッキムキのダンドンさんには苦にならないようだった……良かったぁ~。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。 ☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。 ☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。 ☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。 ☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。 ☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 ☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...