上 下
54 / 65

54 貴族達の本音

しおりを挟む
 結果的にトマトの三分の一くらいが潰れ、汁がドレスに付いたとか、高級な服が汚れたとか言い出して喧嘩が始まり、その間にこっそりトマトを食べる人を見つけて、また喧嘩が始まった。

 いつまでこれが続くのかと見ていたけど、喧嘩を続けるほどの体力は残って無かったのか、途中から潰れたトマトの綺麗な所だけを食べたり、家族で一つを分け合ったりしていた。

『ドレスが皺になるわ!』
『ベットはないの?』
『おい、お前は私より身分が低いだろう。そのトマトをよこせ!!』
『はっ?なぜ俺様が??ここは身分は関係ないんだろう!!』

 結局一晩中寝ずに言い争いをしたり、文句を言い続けたりしていた。

 朝になり、またトマトを人数分外に出した。

 今回は誰も喧嘩をせず、食べていたが、やはりこっそりと2つ持って行く人もいた。足りない分は家族で分け合って食べていた。
 山の方にいる人達は、トマトを取りにも来ないし、騒いだり喧嘩したりもしていない。少し多めにトマトを持って後ろの人達に届けてくれてる人も数人いるようだった。

「そろそろニーン国に帰るかなぁ?」
「だな!ベットがないのが耐えられないみたいだし早く帰ったらいいのにな!」

 コインさんと早く帰ってほしいなと話していると、また大きな声が聞こえてきた。

『もう嫌!!早く帰りましょう!!』
『なら、1人で帰れ。帰っても何もないぞ。家やベットはあるが食料も調理人もいない。掃除も洗濯もできないお前が帰ってどうする?1人で生活できるのか??』
『…………なら、また雇ったらいいじゃない!』
『雇おうにも、人がいない。だから、ここまで来たんだろう。』
『でも………、じゃあずっとここにいるの?こんな所に??』
『仕方ないだろう!私だって今までのような生活がしたいさ!だが無理なんだ。食料もない身の回りの事をしてくれる人も逃げてしまった。それに戻れば国王様や兵士に食料や金を渡せと迫られる!金ならいくら払ってもいいが、お前や、娘まで差し出せと言われるんだぞ!!お前は、国王様の所に行きたいのか?』
『……そ、そんな……。そんな話し聞いてない……。』
『話せないだろ。だから、何も言わずに着いて来いとここまで連れて来たんだ。』

 ショックで顔を真っ青にする奥さんに、苦しそうに説明をするのを聞いていた他の女性が、自分の家族に「本当なの?」と詰め寄っていた。

『ここにいるのは、ほとんどがどうすることも出来ず逃げてきた人達だ。』
『ニーン国で、酷い扱いをされるよりここで家族で静かに最後を迎える方が良いと思ったんだ。それに、アニマ国の獣達は知能が低いと言っていたから、貴族だと言えば今までのように生活ができるかもしれないと言ってる人もいた。』
『……………そう……。わかったわ。』
『城で兵士をしていたけど、僕もこのままだと危ないと思って父さんと一緒に逃げて来たんだ。だから、あなた達も戻らない方がいい。』
『そうです。私も城で働いていましたが、国王様の機嫌が日に日に悪くなっていて、側付きの兵士や侍女達も下の者に当たりちらすようになって……。もぅあの場所は私達の居場所ではなくなった。ほら、あの子を見てください。兵士に殴られて女の子なのに顔にアザができてしまった。国王様のペットがいなくなったからと侍女達が部屋に引きずり込まれる事も増えてきた。だから、一部の人達に見つからないように全員で逃げてきたんです。』
『………………そんな……。』

 女性達の顔が絶望に染まっていった。

「昼は、調理道具と食料を渡してみようか。」
「そうだな。後ろの方にいる人達は、どうやら貴族ではないようだし料理ができる人もいるかもしれないな。」
「透明になれるマント借りてあるから、それで俺が後ろの人達に届けるよ。」
「その方が良さそうだ。後ろの人達は、トマトもほとんど食べてないようだし火も分けてもらってない。俺も行く。」
「コインさん、ありがとう!」
「それにしても、知能が低いとか本当に失礼な奴らだな!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

【完結】フィリアの見聞録〜どんな時でも楽しまないとね!だって私にはペンダントがあるもの〜

まりぃべる
ファンタジー
フィリアは15歳。ラッセルブラウン国の国境近くの教会に併設された孤児院で手伝いをしながら生活している。 ここに来たときからしているペンダントを、今日も大切に首に付けて。 東隣のバルグェン国が、近年何度も戦争を仕掛けてきて、国は緊張感が増してきているが、市井で生活しているフィリアは実感がわかない。 今日も教会近くの広大な平原で、騎士団が演習をしているなと思う位だ。 しかしそんな中…? ☆話の展開上、視点が何度も変わります。苦手な方はお控え下さい。 軽いですが、戦争とか殺すとかの言葉を使ってますので念のためR-15にします…。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

転生したらドラゴンに拾われた

hiro
ファンタジー
トラックに轢かれ、気がついたら白い空間にいた優斗。そこで美しい声を聞いたと思ったら再び意識を失う。次に目が覚めると、目の前に恐ろしいほどに顔の整った男がいた。そして自分は赤ん坊になっているようだ! これは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した男の子が、前世では得られなかった愛情を浴びるほど注がれながら成長していく物語。

処理中です...