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第五章 領地の拡大

第72話 秀吉の割普請をパクる!

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 我がエトワール伯爵領の領都ベルメールに新しい住民がやって来た。
 ジロンド子爵とフォー辺境伯が送り込んできた連中だ。

 俺は新住民に道路整備――道普請をさせることにした。
 すると新住民に同行してきたフォー辺境伯が食いついた。

「なあ! この前ウチで話していた低予算の道普請か?」

 覚えていてくれたのか!
 俺は自分の提案をフォー辺境伯が覚えていてくれたことが、ちょっと嬉しかった。
 あの時は、南部貴族がフォー辺境伯の屋敷に集まって、これから南部をどう発展させて行くかを話し合った。
 その時、俺が提案したのが道普請だ。

 ルナール王国王都パリシィから南部へ続くアリアナ街道。
 このアリアナ街道は、南部に入るとデコボコ道になり馬車が通りづらいのだ。
 まず、主要幹線道路であるアリアナ街道を整備し、アリアナ街道につながる周辺道路も整備する。
 南部の交通網を発展させたいと提案をした。

 道路を整備して物流を良くする――日本列島改造論、田中角栄の真似だ。

「そうです! 土嚢を使います!」

「ふむ。俺も見学させてもらって良いか?」

「もちろんですよ!」

 フォー辺境伯が、『お手並み拝見!』とばかりに一歩下がる。

 俺は元日本人の転生者で、日本は土木大国だ。
 土木工事のノウハウは、歴史の中に継承されている。
 俺は前世の知識の中から使えそうな知識を引っ張り出す。

「最初にグループ分けをします! グループごとに作業をしてもらうよ!」

 新住民が顔を見合わせてガヤガヤとしている。
 俺は新住民の中でも身分の高い連中――貴族の子弟を手招きして呼んだ。

「君たちは、リーダーとしてグループを率いてもらいたい」

 俺の言葉に、一人の青年が質問した。
 すらっとした長身で、口元にヒゲをたくわえた若い男だ。

「働きぶりをお知りになりたいと?」

「そうだ。人を率いる能力、人をまとめる能力をみたい。働きぶりをみて準騎士爵として取り立てさせてもらう」

「なるほど。では、励みましょう!」

「うん。頼むよ。それから、作業の早いグループには、ご褒美にボーナスを出すから」

「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」

 準騎士爵候補の貴族子弟たちは、驚いている。
 俺はグループ同士を競争させるやり方をしたいのだが、この世界であまりこういうやり方はしないのかもしれない。

 みんな驚いているが、俺は気にせず続ける。

「君たちが率いるグループには、それぞれ担当する場所を決める。担当場所の作業がどれくらい進捗しているかを毎日チェックするよ」

 全員でダラダラ作業するなんてダメだ。
 いつまでたっても作業が終らない。
 担当する場所を決めて、担当場所できっちり働いてもらうのだ。

「そして、その日一番作業が進んだグループには酒を出そう」

 おっ! という声が返って来た。
 デイリーボーナスは酒ね。

「そして工事期間を通じて作業が早かった順にボーナスを出すよ。一等賞、二等賞といった感じでね!」

「「「「「「「「「おおお!」」」」」」」」」

 非常に良い感触だ。
 みんな目がぎらついてきたぞ!

 俺はパンパンと手を叩く。

「さあ! グループを作って!」

 準騎士爵候補の貴族子弟たちが一斉に散った。
 彼らは工事区画の責任者だ。
 自分の工事区画を早く仕上げるためには、人員が必要だ。
 人員確保という競争が既に始まっているのだ。

 フォー辺境伯が、ニヤッと笑って俺に近づいてきた。
 後ろには執事のウエストラルさんが、片方だけ眉を上げて楽しそうにしている。

「エトワール伯爵。面白いやり方だな!」

 フォー辺境伯は、俺が指示した工事の進め方に興味を持ったようだ。

「割普請と言う工事手法です。競争を取り入れて、工事のスピードを上げるのですよ」

「ほお~!」

 フォー辺境伯が感心してくれるのは嬉しいが、割普請は豊臣秀吉のパクリだ。

 割普請は豊臣秀吉が大阪城築城で使った手法だ。
 作業する人たちを競わせることで、築城速度をアップさせたのだ。
 露骨にニンジンをぶら下げる――いかにも秀吉らしいやり方だ。

 俺はこの世界で割普請は有効だと思う。
 この世界の平民階級の人たちは、高等教育など受けていないので、欲に素直なのだ。
 ニンジンをぶら下げれば、ストレートに食いつくと思う。

 ちなみに、この大阪城築城の建設現場に、砂が敷き詰められた場所『砂場』があった。
 この砂場で作業する人たちに『そば』を出していたのが、東京にある名店『砂場そば』のルーツだ。


 さて、リーダーに指名された貴族子弟たちは、作業員を確保するべく新住民たちを盛んに勧誘している。
 リーダーたちは必死なので大声だ。
 俺のところまで聞こえてくる。

「おい! オマエは隣の村だったよな? ウチのグループに入れ!」

「君はどこから来たのだ? 見たことがある顔だが……。ああ! 山二つ越えた村だな! なら、私のグループに入りたまえ! 私が面倒を見よう!」

 俺たちは、俺、執事のセバスチャン、フォー辺境伯、フォー辺境伯の執事のウエストラルさんの四人で見物している。

「まずは、出身地ごとに固まりましたね」

「そうだな。だが、俺が連れて来た連中は、わりと出身地がバラバラだったぞ」

 フォー辺境伯が俺に告げる。
 なるほど。荒くれたちは、まだグループに入ってないな。

 執事のセバスチャンが、アゴに手をあて興味深そうに見ている。

「ふむ。フォー辺境伯様がお連れになった荒くれたちは、見た目はちょっとアレですが、力はありそうですね」

 執事のウエストラルさんが、セバスチャンに応じる。

「彼らは気が荒いですが、力はありますからね。土木工事なら即戦力でしょう」

 二人が考えていることは、リーダーたちも同じらしく、荒くれたちを盛んに勧誘している。

「どうだ。一緒にボーナスを目指そう!」

「ウチは料理が上手いヤツがいる。メシが良いぞ!」

「こっそり割り増し賃金を出そう! どうだ?」

 人材争奪戦が熱くなっている。
 誘い方にもリーダーの個性が出る。
 優しく誘うリーダーは、愛されるリーダー。
 貴族らしく威厳を出すリーダーもいる。前世でいうところの強いリーダーだな。
 食事や割り増しボーナスなど、好条件を提示する現実的なリーダーもいる。

 俺はそんな中で一人のリーダーに目を留めた。

「あいつ……いいな……」

 俺が注目した男は、おっとりした印象で丸顔のちょっと太った男だ。
 おっとりさんが集めた人員は、老人、女、子供も含まれている。

 フォー辺境伯が俺の視線の先を見て、両手を広げた

「あれはダメじゃないか? 年寄りや子供いるぞ。まず力のあるヤツじゃないと道普請の役に立たないだろう」

 他のリーダーたちは、力のありそうな男、それも体格の良い若い男性を中心に勧誘している。
 だが、おっとりさんは、満遍なく声を掛けているのだ。

 道普請だけを考えるなら、あまり良くない選択かもしれないが、先々を見通しているなら良い選択なのだ

「いや、先々を考えれば、悪くない選択です。彼らリーダーは、この道路整備が終れば、準騎士爵として取り立てます。ゆくゆくは領地を持たせて村の運営をしてもらうのです」

「なるほどな……。領地運営を考えれば、女や子供は必須だし、落ち着いた年寄りもいた方が良いか……」

「ええ。彼は先が見えていると思いますよ。もっとも、割普請の競争では負けるかもしれませんが」

「だが、目先のことより、先が見通せる人材は貴重だ」

 早くも『アタリ』の人材がいたようで、俺は嬉しくなった。
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