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第三章 ノエル南部に立つ!

第42話 覚醒! セバスチャン!

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 午後になり俺たちは果物採取へ向かった。
 昨日、フォー辺境伯の領都デバラスから、エトワール伯爵領へ向かう途中でオレンジがなっていた。
 オレンジは道沿いになっていたので、さっと収穫すれば、暗くなる前に村へ戻れる。

 馬型ゴーレムが馬車を牽き、村人五人が馬車の後をついてくる。
 五人の村人は、全員若い。
 黒い水――石油の湧出地点に同行した三十歳くらいの男が二人。
 同じく三十歳くらいの女が二人と、二十歳くらいの女が一人。

 村長のベント老人によれば、危険地帯に行くから老人と子供は除外して、体力のある五人を選んだそうだ。
 体力があるといっても、三人とも痩せている。
 あまり食べていないのだろう。

 それでも、『果物を採取すれば、食料が増える!』と五人とも、目をギランギランさせている。
 ヤル気があって大変よろしい!

 村人が前向きになっているなら、俺たちは護衛をきっちりして、村人が働く環境を整えよう。

 エルフのシューさんは、馬車のルーフの上から周囲を警戒し、俺はクロスボウを片手に馬車のキャビンから窓越しに魔の森を警戒する。

 魔の森は深く木々が生い茂っていて、視界が良くない。

「ノエル。大丈夫ニャ。魔物の気配はないニャ」

 みーちゃが、帽子から突き出ているネコミミをピコリと動かしながら、俺に笑いかけた。

「そうか? フォー辺境伯が、かなり魔物を狩ってくれから間引けたのかな?」

「多分、そうニャ。もっと肩の力を抜いて大丈夫ニャ」

「わかった。ありがとう」

 みーちゃんに言われて気が付いたが、俺は全身に力が入っていた。
 相当気を張っていたのだろう。
 肩がガチガチだ。

 昨日までフォー辺境伯やジロンド子爵に守られて、かなりリラックスしていたんだなと実感する。

「お兄様! ドライフルーツを召し上がれ!」

 妹のマリーが、プレッシュのドライフルーツを差し出した。

「ありがとう。マリー」

 俺はありがたくドライフルーツをいただき、マリーの頭をなでる。
 このプレッシュは、ジロンド子爵領で沢山作っていた。
 兄貴分のジロンド子爵がいなくなって、ちょっと寂しい俺であった。


「到着いたしました。村の皆さんは採取を始めて下さい! ハシゴを貸し出しますよ! マジックバッグもお貸しします!」

 一時間ほどして、採取場所に到着した。
 御者を務める執事のセバスチャンが、馬型ゴーレムを停止させ、村人たちに声を掛ける。

 俺は馬車から降りると生成しておいた木製のハシゴをマジックバッグから取り出し、地面に置く。
 素早く馬車のルーフに上がって、クロスボウを手にする。

 妹のマリーとみーちゃんは、馬車のキャビン。
 執事のセバスチャンは、エルフのシューさんにクロスボウの指導を受けるそうで、馬車のそばで何やら話している。

 村人たちは、女性が低いところになっているオレンジ収穫し、男性がハシゴに登って高いところのオレンジを収穫し始めた。

「これは美味しそうだ!」
「見て! ツヤツヤしてる!」
「良い匂いだわ~!」

 村人たちは、楽しそうに話しながらオレンジを収穫する。
 良きかな、良きかな。
 村人たちの楽しそうな様子を見て、俺も自然と笑顔になる。

 妹のマリーは、みーちゃんがもいできたオレンジを使ってドライフルーツを作っている。
 大人しく馬車のキャビンで作業してくれているので、非常に助かる。
 お利口さんだ。

 シューさんと執事のセバスチャンは、どうだろう?
 馬車のキャビンから下を見ると、クロスボウ講座の真っ最中だ。

「そう。肩の力を抜いて、軽く引き金を引く」

「軽くですね」

 執事のセバスチャンが、クロスボウの引き金を引いた。
 シュッ! と風切り音がして、少し離れた木の幹にクロスボウの矢が刺さった!

 シューさんが目を見張る。

「お見事! 上手!」

「まぐれでございます」

「続けて」

「かしこまりました」

 執事のセバスチャンが、立ち上がり足を使ってクロスボウの弓を引く。
 力のない人でも足の力を使って弓を引けるのがクロスボウの利点の一つだ。
 普段、力仕事をしていないセバスチャンでも、強い弓を引くことが出来るのだ。

 セバスチャンは、クロスボウに矢をセットすると膝立ちになり狙いを定めた。
 俺はセバスチャンの様子をジッと見ていた。

(あれ?)

 微かに魔力の光がセバスチャンから発せられた。
 そしてセバスチャンがクロスボウの引き金を引くと、飛びだした矢は先ほど着弾した矢と同じ位置に刺さった。

「やった! 同じ位置に刺さりましたよ!」

 執事のセバスチャンは、珍しく感情をストレートに出し喜んでいる。
 エルフのシューさんが、目を見開き言葉を失う。

 おかしい。
 セバスチャンは、今日、初めてクロスボウを扱ったのだ。
 初心者に出来る芸当じゃない。

 先ほどセバスチャンが発していた魔力の光……。
 あれは何かスキルを使用したのか?
 スキルの力でクロスボウの矢が同じ位置に着弾したならうなずける。
 だが、俺の知る限り執事のセバスチャンは、戦闘系のスキルは持っていない。

(まさか……)

 俺は思い当たった。

 ――スキルの覚醒。

 俺はキャビンにいるネコネコ騎士のみーちゃんを、ルーフに呼んだ。

「何かニャ?」

 俺は小声でみーちゃんに聞いた。

「ひょっとして、セバスチャンのスキルを覚醒した?」

「そうニャ!」

 やっぱり!
 みーちゃんが軍艦マーチを歌っていたから何かなと思ったんだ。
 セバスチャンのスキルを覚醒させようとしていたのか!

「セバスチャンは悩んでいたニャ。自分が役に立つか、居場所があるのかとニャ。かわいそうだったニャ」

「それでスキルを?」

「役に立つ人材は多い方が良いニャ。セバスチャンは信用出来るし、ノエルとマリーにとっては家族同然の存在ニャ。それならスキルを覚醒させても問題ないニャ」

「そうか……。ありがとう!」

「どういたしましてニャ!」

 みーちゃんがキャビンに降り、入れ替わりでシューさんがルーフに上がってきた。

「ふう」

「お疲れ様。セバスチャンへの指導をありがとう」

「別料金」

「後で請求して」

 シューさんはしっかりしている。
 セバスチャンへのコーチ料は別料金だ。

 こうしてちゃんと請求してくれる方が、俺としては助かる。
 あまり人の好意に甘え過ぎると、関係が崩れて、甘えた相手が去って行ってしまう。
 前世のサラリーマン生活で見た光景だ。

 セバスチャンは、木の幹に向かって黙々と矢を撃ち込んでいる。
 百発百中といって良い驚異的な精度で、初心者の域はとっくに出ていた。

 俺はシューさんに執事のセバスチャンの腕前について聞いた。

「シューさん。セバスチャンの腕はどう?」

「驚異的。エルフは弓も得意としているが、セバスチャンの腕ならエルフに混じっても遜色ない」

「じゃあ、戦力になるね?」

「十分すぎてお釣りが出る。セバスチャンのあれは……、狙撃のスキルを持っている? それとも開花した?」

 シューさんが、セバスチャンのスキルについて言及した。
 見ただけで分かるものなんだな。

「狙撃スキル?」

「エルフの中で弓が得意な者は、全員所持しているスキル。射程距離が倍になり、命中精度が倍になる」

「それは凄いね!」

 シューさんによれば、狙撃スキルを持っていると、獲物に狙いを定めた時にグッと獲物が近づいたように見えるらしい。
 カメラのズームのような効果があるスキルなのだろう。

 話の途中でシューさんが、森の方へ目を向けた。
 俺との話を中断し、下にいる執事のセバスチャンに声をかける。

「セバスチャン。ホーンラビットがいる。狙って」

「かしこまりました」

 執事のセバスチャンは、シューさんが指さす方向を確認すると、クロスボウを構えた。
 キン! と金属を叩くような音がして、セバスチャンのスキルが発動した。
 魔力の光がセバスチャンから発せられる。

「撃ちます」

 執事のセバスチャンが、落ち着いた声で宣言し矢を放つ。
 クロスボウから放たれた矢は、真っ直ぐに空気を切り裂き、森の木々の間を抜けて行った。

「キュウ!」

 森の中から魔物の悲鳴が聞こえた。

「みー! 回収!」

「了解ニャ!」

 シューさんの指示を受けて、みーちゃんが森の中へ走り込む。
 ガサガサと音がして、しばらくするとみーちゃんが大きなウサギを背負って森から出てきた。
 ウサギ型の魔物ホーンラビットだ。

「お見事ニャ! 一発で急所を撃ち抜いているニャ!」

「目標まで、かなり距離があった上に、森の中で障害物が多い。よく命中させた。良い腕」

「セバスチャン! お見事!」

「凄ーい!」

 みんながセバスチャンを褒めそやす。
 執事のセバスチャンは、少し照れながらも胸を張って前を向いた。

「どうやら私もお役に立てそうですね」
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