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第13話 星影と太陽
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――半年後。
盗賊団急襲作戦は、戦死者を出したが盗賊団の壊滅に成功した。
戦死者は騎士三名、冒険者八名。
総指揮をとった領主の息子は、『盗賊団を壊滅した名士』、『期待の跡取り』と名声を得た。
実際問題として、盗賊の討伐作戦としては犠牲者が多いらしく、パルルを始め作戦を批判する人間はいた。
だが、領主の息子はやり手だった。
惜しむ事なく討伐報酬をばら撒き、盗賊団が隠し持っていた財宝も参加した騎士と冒険者に分け与えたのだ。
当然、領主サイドは赤字なのだが、『太っ腹』、『気前の良い次期領主』と言う評価を騎士や冒険者たちから得た。
作戦参加者全員が報酬と分け前を受け取り、やがて作戦への不満を口にする者はいなくなった。
俺も一年は遊んで暮らせる額を受け取った。
受けっとった報酬は、武器防具などの装備品に投資する事にした。
武器防具を貸してくれた汗臭いドワーフ店主の店で、日本刀の同田貫に似せた剣を特注した。
ミスリルを混ぜ込んだ鋼を使ったので、魔法を斬る事も出来る。
日本人らしい堅実な金の使い方だと思うけれど、アデリーナ教官は『さすがだ!』とやけに感心していた。
この異世界の冒険者どもは、飲んで騒いで散財してしまうらしい。
まあ、経済回しているから、良いんじゃね?
とも思うが、パーティーリーダーや教官をやっているアデリーナさんとしては、頭の痛い問題なのだろう。
盗賊団急襲作戦から、俺を取り巻く環境は変わった。
まず、冒険者ギルドが斡旋して来る仕事が雑用仕事から、護衛や盗賊退治になった。
アデリーナ教官やアイアンメイデンのメンバーが、あちこちで俺の手柄話を広げてくれたお陰だ。
他の冒険者パーティーの応援も増えたし、騎士団からも再びお呼びがかかった。
もちろん依頼は全て対人戦闘だ。
俺は依頼を断らず、この半年で盗賊や悪党どもを斬りまくった。
俺の斬った奴らの中には、名の売れた剣使いが何人かいた。
そいつらを斬った事で、この辺りでは俺が最強の剣使いであるとの評価が定着した。
『人斬り』
『エクスキューター』
『盗賊の敵』
『商人の守り手』
『星影のソードマスター』
ここ半年で俺に付いた二つ名だ。
気に入っているのは、星影のソードマスター。
誰がつけたのかしらないが、俺の剣術『星影流抜刀術』を二つ名の中に入れてくれた。
ただ、残念な事に冒険者パーティーには、加入できていない。
恐ろし気な二つ名がついた事と、対人戦闘の専門家と目された事で、どこのパーティーも俺をとろうとしない。
まあ、仕事は途切れなくあるので、気にしなくなった。
収入も増えて生活も一変した。
今は街の南側に一軒家を借りて生活している。
パルルとは、今も寝ている。
恋人って感じではない。
パルルはべったりした付き合いは好きじゃないらしく、パルルが気の向いた時に俺の家にやって来る。
体は合うし、気も合う。
……と思う。
何せあちらは、三百才を超えたエルフなので、あちらがどう思っているのかはわからない。
ちょこちょこやって来るって事は、悪くないのだろう。
ある晩、夢枕に祖父が立っていた。
俺は一生懸命に起こった事を話した。
「じいちゃん! 俺ソードマスターと呼ばれるようになったよ!」
祖父は答えなかったが、優しく微笑んでいた。
あの微笑は……思い出した。
諏訪の敷島公園へ桜を見に行った時だ。
春なのに、日差しが強く初夏のような日だった。
子供の俺は祖父に手を引かれて、お城のお堀端で満開の桜を眺めた。
祖父はベンチに腰を下ろし、腰にぶら下げた手拭いで汗をぬぐった。
走り回る俺を手招きし、首周りの汗を拭き、ジュースを買ってくれたな。
普段から無口で厳めしい祖父が、優しく微笑んでいたのを覚えている。
「ケンヤ……どうした?」
目覚めるとパルルが隣にいた。
そうだ。
ここは自宅で……、ベッドで……、昨日パルルが来たのだ。
「泣いているぞ。どうした?」
「亡くなった祖父に、夢で会っていた」
「おじじ殿とか。それは素敵な夢だったな」
「ああ」
大人のパルルが身を寄せ、俺の涙を細い指でぬぐってくれた。
明け方……いや、まだ夜は明けきっていない。
ガラス窓から、空が白むのが見えた。
「なあ、俺の子を産んでくれないか?」
唐突に、思った事を口にした。
パルルが驚いて目を見開き、俺の頬に手をのせる。
「どうした? 子供が欲しくなったか?」
「ああ。俺とパルルの子供が欲しい」
パルルは俺の頬を手でさすりながら、俺をじっと見つめた。
俺は瞬きもせずに見つめ返す。
やがてパルルは、優しく微笑んでくれた。
「良いだろう……。産んでやろう……」
窓から朝陽が差し込んで来た。
パルルの白い体は美しく、やわらかな微笑は俺を安心させた。
星影は太陽に隠れ、夜は明けた。
― 完 ―
盗賊団急襲作戦は、戦死者を出したが盗賊団の壊滅に成功した。
戦死者は騎士三名、冒険者八名。
総指揮をとった領主の息子は、『盗賊団を壊滅した名士』、『期待の跡取り』と名声を得た。
実際問題として、盗賊の討伐作戦としては犠牲者が多いらしく、パルルを始め作戦を批判する人間はいた。
だが、領主の息子はやり手だった。
惜しむ事なく討伐報酬をばら撒き、盗賊団が隠し持っていた財宝も参加した騎士と冒険者に分け与えたのだ。
当然、領主サイドは赤字なのだが、『太っ腹』、『気前の良い次期領主』と言う評価を騎士や冒険者たちから得た。
作戦参加者全員が報酬と分け前を受け取り、やがて作戦への不満を口にする者はいなくなった。
俺も一年は遊んで暮らせる額を受け取った。
受けっとった報酬は、武器防具などの装備品に投資する事にした。
武器防具を貸してくれた汗臭いドワーフ店主の店で、日本刀の同田貫に似せた剣を特注した。
ミスリルを混ぜ込んだ鋼を使ったので、魔法を斬る事も出来る。
日本人らしい堅実な金の使い方だと思うけれど、アデリーナ教官は『さすがだ!』とやけに感心していた。
この異世界の冒険者どもは、飲んで騒いで散財してしまうらしい。
まあ、経済回しているから、良いんじゃね?
とも思うが、パーティーリーダーや教官をやっているアデリーナさんとしては、頭の痛い問題なのだろう。
盗賊団急襲作戦から、俺を取り巻く環境は変わった。
まず、冒険者ギルドが斡旋して来る仕事が雑用仕事から、護衛や盗賊退治になった。
アデリーナ教官やアイアンメイデンのメンバーが、あちこちで俺の手柄話を広げてくれたお陰だ。
他の冒険者パーティーの応援も増えたし、騎士団からも再びお呼びがかかった。
もちろん依頼は全て対人戦闘だ。
俺は依頼を断らず、この半年で盗賊や悪党どもを斬りまくった。
俺の斬った奴らの中には、名の売れた剣使いが何人かいた。
そいつらを斬った事で、この辺りでは俺が最強の剣使いであるとの評価が定着した。
『人斬り』
『エクスキューター』
『盗賊の敵』
『商人の守り手』
『星影のソードマスター』
ここ半年で俺に付いた二つ名だ。
気に入っているのは、星影のソードマスター。
誰がつけたのかしらないが、俺の剣術『星影流抜刀術』を二つ名の中に入れてくれた。
ただ、残念な事に冒険者パーティーには、加入できていない。
恐ろし気な二つ名がついた事と、対人戦闘の専門家と目された事で、どこのパーティーも俺をとろうとしない。
まあ、仕事は途切れなくあるので、気にしなくなった。
収入も増えて生活も一変した。
今は街の南側に一軒家を借りて生活している。
パルルとは、今も寝ている。
恋人って感じではない。
パルルはべったりした付き合いは好きじゃないらしく、パルルが気の向いた時に俺の家にやって来る。
体は合うし、気も合う。
……と思う。
何せあちらは、三百才を超えたエルフなので、あちらがどう思っているのかはわからない。
ちょこちょこやって来るって事は、悪くないのだろう。
ある晩、夢枕に祖父が立っていた。
俺は一生懸命に起こった事を話した。
「じいちゃん! 俺ソードマスターと呼ばれるようになったよ!」
祖父は答えなかったが、優しく微笑んでいた。
あの微笑は……思い出した。
諏訪の敷島公園へ桜を見に行った時だ。
春なのに、日差しが強く初夏のような日だった。
子供の俺は祖父に手を引かれて、お城のお堀端で満開の桜を眺めた。
祖父はベンチに腰を下ろし、腰にぶら下げた手拭いで汗をぬぐった。
走り回る俺を手招きし、首周りの汗を拭き、ジュースを買ってくれたな。
普段から無口で厳めしい祖父が、優しく微笑んでいたのを覚えている。
「ケンヤ……どうした?」
目覚めるとパルルが隣にいた。
そうだ。
ここは自宅で……、ベッドで……、昨日パルルが来たのだ。
「泣いているぞ。どうした?」
「亡くなった祖父に、夢で会っていた」
「おじじ殿とか。それは素敵な夢だったな」
「ああ」
大人のパルルが身を寄せ、俺の涙を細い指でぬぐってくれた。
明け方……いや、まだ夜は明けきっていない。
ガラス窓から、空が白むのが見えた。
「なあ、俺の子を産んでくれないか?」
唐突に、思った事を口にした。
パルルが驚いて目を見開き、俺の頬に手をのせる。
「どうした? 子供が欲しくなったか?」
「ああ。俺とパルルの子供が欲しい」
パルルは俺の頬を手でさすりながら、俺をじっと見つめた。
俺は瞬きもせずに見つめ返す。
やがてパルルは、優しく微笑んでくれた。
「良いだろう……。産んでやろう……」
窓から朝陽が差し込んで来た。
パルルの白い体は美しく、やわらかな微笑は俺を安心させた。
星影は太陽に隠れ、夜は明けた。
― 完 ―
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