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第三章 行方不明

第40話 シャングリラ 四階層レッサーツナと戦闘

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 初心者ダンジョン四階層を走る!

 ミレットの護衛シンシアさんから提供された地図を見ると、四階層のルートも単純だ。
 真っ直ぐ、右、左、真っ直ぐ、一回右に折れるだけで、直線に近いルートだ。

 三階層から降りてきた階段から通路を真っ直ぐ走ると、俺のスキル【気配察知】に反応があった。

 俺は走るペースを緩めて、腰のショートソードを抜く。
 十メートルほど歩くと、前方に魔物が見えた!

「何だ……あれ……!?」

「ええっ!?」

「ほあっ!?」

 俺たちは魔物を見て驚き声を上げた。
 魚が宙に浮いているのだ!

「レッサーツナって……あれか……」

「話には聞いていましたが、実物を見ると違和感ありますね……」

「ふええ、ダンジョンって不思議……」

 俺、ミレット、アンは、驚きと呆れの混じった感想を口にする。

 通路の少し先で、小型のマグロが空中をグルグルと回遊しているのだ。
 万有引力とは……。
 答えてくれ、ニュートン……。

 魔法がある世界なのだから空中遊泳する魚がいたって、まあ、おかしくはないか……。
 俺は改めて、この世界の不思議さを感じ、何とか自分を納得させた。

 レッサーツナは、長さ五十センチほど。
 俺の目線よりも上を、グルグル円を描くように泳いでいる。
 通路一杯を使って回遊しているので、レッサーツナとの戦闘は避けられないだろう。

 ミレットがレッサーツナの情報を提供してくれた。

「レッサーツナの攻撃は体当たり。頭から突っ込んで来るそうです」

「ふむ……」

 俺は少し考えてからアンとミレットに指示を出した。

「とにかく戦ってみよう! 倒さなきゃ前へ進めない! 俺が前に出る! アンは俺の後ろ! ミレットは下がって!」

「「了解!」」

 レッサーツナは火属性魔法に強いので、ミレットの魔法は効かない。
 この四階層では、ミレットの魔法はお休みして魔力回復だ。

「行くぞ!」

 俺は盾を構えて、ゆっくりとレッサーツナに近づく。

 レッサーツナは、俺の目線より高い位置を回遊しているので剣を振れば当たる。
 だが、レッサーツナの回遊速度は速い。
 空振りして逆撃されては目も当てられない。

 そこで俺はあえてレッサーツナの攻撃を受ける選択をとった。
 ミレットによれば、レッサーツナの攻撃は体当たり。
 レッサーツナが突っ込んできたところを狙う寸法だ!

(さあ、来い!)

 レッサーツナと俺の距離がニメートルに縮まった。
 飛び込んで剣を振るえば、一呼吸で届く距離だ。

 突然、レッサーツナが回遊を止めた。
 レッサーツナの目が動いて俺を見た。

「うおっ!」

 レッサーツナが猛スピードで突っ込んで来る。
 俺は左手で盾を構えながら、右手で剣を振るう。
 だが、レッサーツナの速度にビビって腰が引けていた。

 俺が振るった剣は空を切り、レッサーツナは俺の後ろへ――。

「このっ!」

「きゃあ!」

 振り向くとアンとミレットが、レッサーツナに襲われていた。
 アンはショートソードを振り回し、ミレットはかがんでレッサーツナの攻撃を何とか避ける。

「ごめん! 下がって!」

 俺は慌てて叫びながら、レッサーツナに剣で攻撃する。
 だが、当たらない。
 速すぎる!

 俺は空振りした勢いでバランスを崩してしまった。
 倒れる先にはミレットが――!

「きゃっ!」

「あっ! ごめん!」

 俺は盾と剣がミレットに当たらないように、大きく手を開いて倒れ込んだ。
 すると、俺がミレットに覆い被さるようになってしまい、俺とミレットは【問題のある姿勢】で密着してしまった。

 革鎧越しにミレットの柔らかい体を感じる。
 ああ、良い匂いがする……。

「ごめん……」

「いえ……」

 ミレットを見ると、顔を赤らめている。

 俺の頭の中で、前世で聞いた曲がグルグル回った。

(シャングリラ♪ シャングリラ♪ シャングリラ♪)

 俺とミレットは見つめ合った。
 だが――!

「てやっ! このっ!」

 アンの声が邪魔……いやっ! 今は戦闘中じゃないか! チュウは、あとだ!
 顔を上げるとアンはレッサーツナと戦っていた。

「こんのぉ! マグロ野郎!」

 アンはショートソードを振り回しているが、正確性に欠ける。
 高速で動くレッサーツナをとらえることは出来ないでいた。

 俺は自分の行動を一旦棚に上げる。

「アン! 下がって!」

 俺は立ち上がると、盾を構えてアンの前に出た。
 アンとミレットを下がらせる。

 レッサーツナは一旦距離を取ってからぐるりと回り、空中を突進して来た。

「ふうぅぅぅ……」

 俺はゆっくり息を吐き出す。

 落ち着いてみれば、何ということはない。
 レッサーツナは直進している。
 空中だから、驚いて対処が思いつかなかっただけだ。

 俺は左手に持った盾をスッと前へ出す。
 そして、レッサーツナの突進にあわせて、盾を右から左へ振るう。
 盾を使って、レッサーツナの攻撃を受け流すのだ。

「セイッ!」

 ゴンと音がして、盾を持った左手に衝撃が伝わる。
 俺の所持スキル【盾術】のおかげで、スムーズにレッサーツナの攻撃を受け流した。

「あっ!」

 振り向くと、レッサーツナがダンジョンの床に落ちビチビチと跳ねている。
 受け流しのショックで床に落ちたのだろう。

 チャンスだ!

「えーい!」

「それっ!」

 すかさずミレットとアンが、レッサーツナに駆け寄る。
 床でビチビチと跳ねるレッサーツナに、ミレットは杖を振り下ろし、アンはショートソードを振り下ろす。
 俺も加わり三人で、レッサーツナをタコ殴りだ。

「この! この!」

「えいっ! えいっ!」

「やあ!」

 すぐにレッサーツナは、ボワンと煙になって消え、水色の魔石がドロップした。
 ちょっと苦戦したが、俺たちは四階層の魔物レッサーツナを討伐した!

「よしっ!」
「やりました!」
「ふああ、厳しい!」

 水色の魔石を拾い上げるミレットと目が合う。
 ミレットは、恥ずかしそうに目をそらした。

 俺の頭の中で、再びあの曲が流れた。

(シャングリラ♪ シャングリラ♪ シャングリラ♪)
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