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王都編
第98話 (∪^ω^)わんわんお!
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――新しいダンジョンの地下一階。
そこは迷宮と言うよりは、広いロビーだった。
床や壁こそ石造りだが、通路は無い。
「これは……」
「なっ!?」
普通のダンジョンと違う様子に、銀翼リーダーのフランチェスカさんとギルドマスターのハゲールが驚きの声を上げる。
「水場が一階層にあるなんて珍しいな……」
師匠神速のダグだ。
入った右手は、水場になっていた。
石の管が何本も壁から突き出し、管からは水が出ている。
師匠は、手で水をすくうと少量を口に含んだ。
「ん……水は問題なさそうだ。この階層に魔物の気配は感じないな。えっと……ヒロト、ここ本当にダンジョンか?」
師匠が、そう言うのも無理はない。
こんな風に地下一階がロビーになっている構造のダンジョンは、たぶんこの世界にない。
なにせここは、俺が悪魔にアイデアを出して出来たダンジョンだからな。
俺は左の壁を指さしながら、師匠の質問に淡々と答える。
「ここは、ダンジョンですよ。ほら! そこの壁を見て下さい」
左の壁には、ダンジョンの中の様子が投影されていた。
お馴染みの薄暗い石の通路を徘徊する魔物たちが見える。
俺は転生前の日本でプロジェクターや映画を見た事があるので、これはダンジョン内を中継している映像だとわかる。
だが、この世界の人には衝撃的な事らしい。
みんな動揺している。
「えっ!?」
「こりゃ? 何だ?」
「幻? 何かの魔法か?」
「いや、そこにいるんじゃ?」
「良く見ろ! 壁だよ!」
「精密な絵? 動く絵なのか?」
ガヤガヤとダンジョン内の様子が投影されている壁に近づき、論評が続く。
ハゲールがからくりに気が付いた。
「ははあ……。この大きな水晶から、この動く絵を壁に映しているのだな。影絵みたいな物か……」
地面から突き出た石柱の上にバスケットボール大の水晶がのっている。
この水晶がプロジェクターの役割をしているらしい。
水晶から壁にダンジョン内の中継映像が投影されているのだ。
みんなで奥の方へ歩く。
十メートル間隔で、水晶の載った石柱が立っている。
数は全部で十本。
それぞれの水晶が、別の映像を壁に映し出していた。
俺が悪魔に提案したのはスポーツバーみたいなイメージだ。
ダンジョン内で繰り広げられる戦闘の様子を中継して、地下一階のロビーで見られるようにする。
可能なら飲食スペースを設ける。
そうすれば盛り上がる事間違いなし。
俺の出したアイデアを悪魔は、かなり大きな規模で再現したな。
だが、俺の意図した事――スポーツバー的な事は、みんなには伝わっていない。
ただ、ただ、混乱している。
この世界に無い文化なのだから無理ないか。
一番奥に着くとこのダンジョンの目玉が鎮座していた。
ガチャだ。
それも天井まで届く大型のガチャが設置されている。
ガチャの中身は見えない。
「これは……何だ……」
「「「「……」」」」
みんな言葉を失ってしまう。
無理もないか。
そんな中、サクラだけが一人白々しい芝居をして元気だ。
「やややッ! これは何かな~? ふーむ! むむむっ!」
サクラ静かにしろ!
ガチャの台数は五つ。
ガチャには、文字が書いてある。
「1~10?」
「次は、11~25だな」
「こっちは26~50」
「四つ目は、51~70」
「最後は70~90か……」
うん?
この数字は、何だろう?
ガチャが五つあったり、数字を振ったりするのは、俺のアイデアじゃないな。
悪魔が自分で考えたのだろう。
ガチャの左には下り階段。
右には魔法陣が設置された部屋がいくつもある。
フランチェスカさんが、顎に手を当てて考えながら
「ふむ。左は先ほど壁に映っていたダンジョンに続く階段だろう。右は下の階層からの転移部屋か……。この奇妙な物が何かはわからぬが……」
「ガチャって書いてあるな……。フランチェスカ、知っているか?」
「ダグ。私も初めて聞くよ」
好奇心旺盛な師匠は、大型のガチャを触っている。
だが、ガチャの使い方は、わからないようだ。
うーん、失敗したな。
悪魔に説明書きをつけるように言えば良かった。
ガチャは、この世界にないもんな。
やってみせるしかないか。
「じゃあ、俺たちがダンジョンを探索して来ますよ」
「えっ!? ヒロト! ちょっと待て!」
俺が階段を降りようとするとハゲールが止めた。
「ギルド長、問題ないですよね? このダンジョンを見つけたのは俺だから、俺が最初に探索しても良いですよね?」
「まあ、そうだが……。しかし、このダンジョンは、他のダンジョンと様子が違い過ぎる! ここは慎重にだな――」
「じゃ、弟子の付き添いで俺がついて行くか? ハゲール! それなら問題ないだろう?」
「ダグ先輩!? そりゃ、問題ないですけど……」
師匠が俺たちへの付き添いを申し出てくれた。
「ふむ。では、私も妹の付き添いをしよう」
「フランチェスカさんも!? うーん、わかりました。よし! ヒロト行け! ただし、慎重にだ!」
「わかりました。サクラ、セレーネ、マチルダ。行こう!」
「了解!」
「はーい!」
「わかったわ」
新ダンジョンの階段を降りる。
地下二階に降り立ったが、このフロアは見た目ルドルのダンジョンと同じだ。
階段を降りた所は、ちょっとした広場になっていて、正面、右、左に通路が伸びている。
ダンジョンの天井は光っているが、薄暗い。
通路の先は暗くて見えない。
すぐに指示を出す。
「先頭は俺とサクラ。続いて、セレーネとマチルダ。師匠とフランチェスカさんは、最後尾で後方警戒をお願いします」
隊形が整えられた所で出発だ。
師匠とフランチェスカさんは、最後尾で少し寂しそうだが、お喋りをする為に来たのではない。
仕事してくれ。
さて、まずは、正面の通路から探索しよう。
俺は前方に注意を向けながら、通路を進む。
サクラが【意識潜入】で話しかけて来た。
『ヒロトさんは、このダンジョンの事を、どの程度知っているのでしょうか?』
『大まかな事だけ』
『じゃあ、このフロアに出る魔物は?』
『知らない。まあ、いきなり強い魔物って事はないと思うけど』
『そう願いたいですね。ところで、このダンジョンを造った目的……悪魔はここにダンジョンを造って何がしたいんでしょ?』
何をしたいか……。
確かに、悪魔がダンジョンを造る目的は聞いてないな。
『さあ……。魂を集めるとか?』
『うーん。魂は、普通に地獄に集まりますからね』
『普通って、普通の生き死にのサイクルって事?』
『そうです。寿命や病気、事故なんかで死ぬ人は常に一定数いますから。地獄に来る魂の量は足りていると思いますよ』
さすがサクラ。
元サキュバス(ただし未経験の耳年増)だった事だけはある。
『何だと思う?』
『負の感情ですかね……』
『負の感情?』
『恐怖とか、怒りとか。マイナスの感情、醜い感情を好物にしている悪魔はいますね』
『醜い感情……。なるほどね。あのクソ悪魔野郎にピッタリの最悪趣味だな』
『ふふ……。私は元サキュバスだから、好物はわかりますよね?』
『【意識潜入】でエロトーク始めるのは、やめろ! お出ましだぞ!』
正面、十メートルほど先だ。
魔物が現れた。
初お目見えだな。
「出たな!」
現れた魔物は一匹。
人型の魔物で、身長は120センチ位。
全体的に細身で毛むくじゃら。
顔は犬だが、およそ人に懐かなそうな凶暴な目付きをしている。
こいつは……。
「コボルドだな」
師匠の神速のダグが後ろから教えてくれた。
なるほど、こいつがコボルドか。
弱い魔物と聞いた事がある。
なぜかサクラが喜ぶ。
「(∪^ω^)わんわんお!」
「いや、サクラ! あれは犬じゃないぞ!」
サクラは、犬好きだったのか。
しかし、サクラには悪いが、目の前のコボルドは倒さなくちゃならない。
コボルドは唸り声を上げて、こちらを威嚇している。
右手に小型の古びたナイフを持っているのが警戒すべき点だな。
(【鑑定】……)
スキル【鑑定】を発動する。
-------------------
コボルド
HP: 20/20
MP: -
パワー:5
持久力:10
素早さ:10
魔力: -
知力: 2
器用: 5
-------------------
(弱いな……)
鑑定結果をみんなに伝える。
サクラが思い出すようにつぶやく。
「うーん、ルドルのダンジョンだと……。ヒロトルート4階層にいたアカオオトカゲより、ちょっと弱いくらいですかね……」
「そうだな。その位の強さかな……。ルドルの3階層相当の強さかな……」
この程度の魔物なら、初心者冒険者でも十分戦えるだろう。
後ろからマチルダが声をかけてくる。
「どうする? 私の魔法で焼く?」
「いや、それじゃオーバーキルだ。セレーネ!」
「任せて!」
返事をすると同時にセレーネは矢を放つ。
セレーネが放った矢は吸い込まれるようにコボルドの眉間に深く突き刺さった。
「GYAWAN!」
「あー! わんわんがー!」
ダンジョンの通路にコボルドの悲鳴とサクラの嘆きが響いた。
だから、あれは犬じゃないって!
それにわんこみたいに、可愛くないし。
次の瞬間、驚きの声が上がった。
ゆっくりとダンジョンの床に倒れたコボルドが、光の粒子となって消えたのだ。
「なっ!」
「むっ!」
「ええっ!」
「ほう……」
反応はそれぞれだが、みんな驚いている。
俺もだ。
この世界では、魔物を倒すと魔物の死体が残る。
ゲームみたいに、倒した魔物が消える事はない。
だが、目の前で起こった事は、まるでゲーム……。
それからこれは俺だけだが……。
カードが出なかった。
俺は裏スキル【カード】があるから、魔物を倒すとカードが出現する。
だが、コボルドを倒してもカードは出なかった。
チャリーン!
そして、コボルドが消えた場所にコインが一枚落ちた。
そこは迷宮と言うよりは、広いロビーだった。
床や壁こそ石造りだが、通路は無い。
「これは……」
「なっ!?」
普通のダンジョンと違う様子に、銀翼リーダーのフランチェスカさんとギルドマスターのハゲールが驚きの声を上げる。
「水場が一階層にあるなんて珍しいな……」
師匠神速のダグだ。
入った右手は、水場になっていた。
石の管が何本も壁から突き出し、管からは水が出ている。
師匠は、手で水をすくうと少量を口に含んだ。
「ん……水は問題なさそうだ。この階層に魔物の気配は感じないな。えっと……ヒロト、ここ本当にダンジョンか?」
師匠が、そう言うのも無理はない。
こんな風に地下一階がロビーになっている構造のダンジョンは、たぶんこの世界にない。
なにせここは、俺が悪魔にアイデアを出して出来たダンジョンだからな。
俺は左の壁を指さしながら、師匠の質問に淡々と答える。
「ここは、ダンジョンですよ。ほら! そこの壁を見て下さい」
左の壁には、ダンジョンの中の様子が投影されていた。
お馴染みの薄暗い石の通路を徘徊する魔物たちが見える。
俺は転生前の日本でプロジェクターや映画を見た事があるので、これはダンジョン内を中継している映像だとわかる。
だが、この世界の人には衝撃的な事らしい。
みんな動揺している。
「えっ!?」
「こりゃ? 何だ?」
「幻? 何かの魔法か?」
「いや、そこにいるんじゃ?」
「良く見ろ! 壁だよ!」
「精密な絵? 動く絵なのか?」
ガヤガヤとダンジョン内の様子が投影されている壁に近づき、論評が続く。
ハゲールがからくりに気が付いた。
「ははあ……。この大きな水晶から、この動く絵を壁に映しているのだな。影絵みたいな物か……」
地面から突き出た石柱の上にバスケットボール大の水晶がのっている。
この水晶がプロジェクターの役割をしているらしい。
水晶から壁にダンジョン内の中継映像が投影されているのだ。
みんなで奥の方へ歩く。
十メートル間隔で、水晶の載った石柱が立っている。
数は全部で十本。
それぞれの水晶が、別の映像を壁に映し出していた。
俺が悪魔に提案したのはスポーツバーみたいなイメージだ。
ダンジョン内で繰り広げられる戦闘の様子を中継して、地下一階のロビーで見られるようにする。
可能なら飲食スペースを設ける。
そうすれば盛り上がる事間違いなし。
俺の出したアイデアを悪魔は、かなり大きな規模で再現したな。
だが、俺の意図した事――スポーツバー的な事は、みんなには伝わっていない。
ただ、ただ、混乱している。
この世界に無い文化なのだから無理ないか。
一番奥に着くとこのダンジョンの目玉が鎮座していた。
ガチャだ。
それも天井まで届く大型のガチャが設置されている。
ガチャの中身は見えない。
「これは……何だ……」
「「「「……」」」」
みんな言葉を失ってしまう。
無理もないか。
そんな中、サクラだけが一人白々しい芝居をして元気だ。
「やややッ! これは何かな~? ふーむ! むむむっ!」
サクラ静かにしろ!
ガチャの台数は五つ。
ガチャには、文字が書いてある。
「1~10?」
「次は、11~25だな」
「こっちは26~50」
「四つ目は、51~70」
「最後は70~90か……」
うん?
この数字は、何だろう?
ガチャが五つあったり、数字を振ったりするのは、俺のアイデアじゃないな。
悪魔が自分で考えたのだろう。
ガチャの左には下り階段。
右には魔法陣が設置された部屋がいくつもある。
フランチェスカさんが、顎に手を当てて考えながら
「ふむ。左は先ほど壁に映っていたダンジョンに続く階段だろう。右は下の階層からの転移部屋か……。この奇妙な物が何かはわからぬが……」
「ガチャって書いてあるな……。フランチェスカ、知っているか?」
「ダグ。私も初めて聞くよ」
好奇心旺盛な師匠は、大型のガチャを触っている。
だが、ガチャの使い方は、わからないようだ。
うーん、失敗したな。
悪魔に説明書きをつけるように言えば良かった。
ガチャは、この世界にないもんな。
やってみせるしかないか。
「じゃあ、俺たちがダンジョンを探索して来ますよ」
「えっ!? ヒロト! ちょっと待て!」
俺が階段を降りようとするとハゲールが止めた。
「ギルド長、問題ないですよね? このダンジョンを見つけたのは俺だから、俺が最初に探索しても良いですよね?」
「まあ、そうだが……。しかし、このダンジョンは、他のダンジョンと様子が違い過ぎる! ここは慎重にだな――」
「じゃ、弟子の付き添いで俺がついて行くか? ハゲール! それなら問題ないだろう?」
「ダグ先輩!? そりゃ、問題ないですけど……」
師匠が俺たちへの付き添いを申し出てくれた。
「ふむ。では、私も妹の付き添いをしよう」
「フランチェスカさんも!? うーん、わかりました。よし! ヒロト行け! ただし、慎重にだ!」
「わかりました。サクラ、セレーネ、マチルダ。行こう!」
「了解!」
「はーい!」
「わかったわ」
新ダンジョンの階段を降りる。
地下二階に降り立ったが、このフロアは見た目ルドルのダンジョンと同じだ。
階段を降りた所は、ちょっとした広場になっていて、正面、右、左に通路が伸びている。
ダンジョンの天井は光っているが、薄暗い。
通路の先は暗くて見えない。
すぐに指示を出す。
「先頭は俺とサクラ。続いて、セレーネとマチルダ。師匠とフランチェスカさんは、最後尾で後方警戒をお願いします」
隊形が整えられた所で出発だ。
師匠とフランチェスカさんは、最後尾で少し寂しそうだが、お喋りをする為に来たのではない。
仕事してくれ。
さて、まずは、正面の通路から探索しよう。
俺は前方に注意を向けながら、通路を進む。
サクラが【意識潜入】で話しかけて来た。
『ヒロトさんは、このダンジョンの事を、どの程度知っているのでしょうか?』
『大まかな事だけ』
『じゃあ、このフロアに出る魔物は?』
『知らない。まあ、いきなり強い魔物って事はないと思うけど』
『そう願いたいですね。ところで、このダンジョンを造った目的……悪魔はここにダンジョンを造って何がしたいんでしょ?』
何をしたいか……。
確かに、悪魔がダンジョンを造る目的は聞いてないな。
『さあ……。魂を集めるとか?』
『うーん。魂は、普通に地獄に集まりますからね』
『普通って、普通の生き死にのサイクルって事?』
『そうです。寿命や病気、事故なんかで死ぬ人は常に一定数いますから。地獄に来る魂の量は足りていると思いますよ』
さすがサクラ。
元サキュバス(ただし未経験の耳年増)だった事だけはある。
『何だと思う?』
『負の感情ですかね……』
『負の感情?』
『恐怖とか、怒りとか。マイナスの感情、醜い感情を好物にしている悪魔はいますね』
『醜い感情……。なるほどね。あのクソ悪魔野郎にピッタリの最悪趣味だな』
『ふふ……。私は元サキュバスだから、好物はわかりますよね?』
『【意識潜入】でエロトーク始めるのは、やめろ! お出ましだぞ!』
正面、十メートルほど先だ。
魔物が現れた。
初お目見えだな。
「出たな!」
現れた魔物は一匹。
人型の魔物で、身長は120センチ位。
全体的に細身で毛むくじゃら。
顔は犬だが、およそ人に懐かなそうな凶暴な目付きをしている。
こいつは……。
「コボルドだな」
師匠の神速のダグが後ろから教えてくれた。
なるほど、こいつがコボルドか。
弱い魔物と聞いた事がある。
なぜかサクラが喜ぶ。
「(∪^ω^)わんわんお!」
「いや、サクラ! あれは犬じゃないぞ!」
サクラは、犬好きだったのか。
しかし、サクラには悪いが、目の前のコボルドは倒さなくちゃならない。
コボルドは唸り声を上げて、こちらを威嚇している。
右手に小型の古びたナイフを持っているのが警戒すべき点だな。
(【鑑定】……)
スキル【鑑定】を発動する。
-------------------
コボルド
HP: 20/20
MP: -
パワー:5
持久力:10
素早さ:10
魔力: -
知力: 2
器用: 5
-------------------
(弱いな……)
鑑定結果をみんなに伝える。
サクラが思い出すようにつぶやく。
「うーん、ルドルのダンジョンだと……。ヒロトルート4階層にいたアカオオトカゲより、ちょっと弱いくらいですかね……」
「そうだな。その位の強さかな……。ルドルの3階層相当の強さかな……」
この程度の魔物なら、初心者冒険者でも十分戦えるだろう。
後ろからマチルダが声をかけてくる。
「どうする? 私の魔法で焼く?」
「いや、それじゃオーバーキルだ。セレーネ!」
「任せて!」
返事をすると同時にセレーネは矢を放つ。
セレーネが放った矢は吸い込まれるようにコボルドの眉間に深く突き刺さった。
「GYAWAN!」
「あー! わんわんがー!」
ダンジョンの通路にコボルドの悲鳴とサクラの嘆きが響いた。
だから、あれは犬じゃないって!
それにわんこみたいに、可愛くないし。
次の瞬間、驚きの声が上がった。
ゆっくりとダンジョンの床に倒れたコボルドが、光の粒子となって消えたのだ。
「なっ!」
「むっ!」
「ええっ!」
「ほう……」
反応はそれぞれだが、みんな驚いている。
俺もだ。
この世界では、魔物を倒すと魔物の死体が残る。
ゲームみたいに、倒した魔物が消える事はない。
だが、目の前で起こった事は、まるでゲーム……。
それからこれは俺だけだが……。
カードが出なかった。
俺は裏スキル【カード】があるから、魔物を倒すとカードが出現する。
だが、コボルドを倒してもカードは出なかった。
チャリーン!
そして、コボルドが消えた場所にコインが一枚落ちた。
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