95 / 99
王都編
第95話 もっと出来ると思っていた
しおりを挟む
俺は魔の森の中で金獅子と対峙している。
金獅子は高ステータスの魔物で、俺には倒せそうにない。
背中を冷たい汗が流れ、金獅子と俺の間に緊張が高まる。
突然、聞き覚えのある笑い声が響いた。
「クフフ」
金獅子も笑い声に反応し、顔を向けた。
俺は金獅子に視線を置いたまま、笑い声の主に語りかけた。
笑い方ですぐわかる。
地獄で会った悪魔だ。
「久しぶりだな。悪魔」
「そうだね」
相変わらず余計な事を、言わないヤツだ。
悪魔は俺から見て左の方にいる。
足音がして、こちらに近づいて来た。
視界に悪魔が入る。
相変わらずの危ない雰囲気を漂わせたナイスバディ。
だが、なぜか好感が持てない。
そして何故か知らないが、こいつと話していると俺はイライラする。
「何し来た」
「迎えに来たよ」
「迎え?」
「ダンジョンが出来たよ」
「ああ!」
そうだな。
この悪魔野郎は、この異世界にダンジョンを造っているのだった。
それで俺が色々アイデアを出して、ダンジョンが出来たらギルドに報告して人を集めると。
そう言う約束になっていた。
「悪いがそれどころじゃない」
「どうして?」
「見ればわかるだろ! 目の前の金獅子が、俺たちに襲い掛かろうとしているからだ!」
「なるほど」
悪魔野郎が金獅子の方へ向いた。
すると金獅子が悪魔野郎に襲い掛かった。
「GARU!」
「早い! おっ……おい! 悪魔!」
悪魔野郎は無防備に突っ立っている。
金獅子は後ろ足で力強く地面を蹴り、悪魔野郎に右前足を振りかざした。
金獅子の鋭い爪がギラリと光る。
「クフ……」
悪魔野郎が右手の人差し指をちょっと動かした。
すると辺りに風が巻き起こり、金獅子が空中でみじん切りになってしまった。
俺は目の前で起こった事に信じられない驚きを覚えたが、悪魔ならあり得るのかと納得もした。
不思議と恐怖は感じなかった。
「クフフ。邪魔なのはいなくなったよ」
「ああ。じゃあ、オマエが造ったダンジョンに行くか。案内しろよ」
俺は眠ったままのマチルダを背負うと悪魔の後を追った。
悪魔は魔の森を、家の近所を散歩するように平然と歩く。
警戒も無ければ、緊張もない。
不思議な事に魔物が一匹も現れない。
(気配を隠蔽するスキルとか、魔法を発動しているのか?)
そんな事を考えたが、途中で考えるのを止めた。
どうせコイツは、聞いた所で教えてくれないだろう。
俺は歩きながら違う話を悪魔に振った。
「おい。俺に呪いがかかっているらしいぞ」
「そう」
「オマエが呪いをかけたのか?」
「違うよ」
「じゃあ、俺が地獄から転生したから呪われているのか?」
「違うよ。地獄から転生しても呪われる事はないよ」
違うのか……。
誰かに呪いをかけられる心当りがないから、悪魔か地獄が原因かなと考えていたのだが……。
それっきり悪魔との会話がなくなってしまったので、俺は色々と考え事をしながら歩いた。
俺にかけられた呪い。
レベルが上がらないから、冒険者として成長が出来ない呪い。
幸いガチャやカードのお陰で何とか戦えているが、この呪いを何とかしたい。
悪魔や地獄のせいじゃないとすると……。
この異世界に転生してから呪いをかけられたのか?
ウォールやニューヨークファミリー?
いや……違うな……。
それだと時系列がおかしい。
俺がレベルアップしないのは、ウォールやニューヨークファミリーと出会う前からだ。
そうすると、転生してから冒険者になる間に呪いをかけられたのか?
それもおかしい。
子供時代の人間関係は限られている。
チアキママと幼馴染のシンディとルドルの街の子供としか付き合いがない。
俺に呪いをかけそうなヤツはいない。
そうすると転生前、地獄に行く前。
つまり前世日本。
そう言えば俺の死の瞬間、記憶が――。
「着いたよ」
俺の思考は悪魔の言葉で中断された。
目の前には石造りのダンジョンの入り口がある。
「これか……」
「帰りはあっちだよ」
悪魔が指さす方を見ると、十メートルくらい先、木々の間から草地が見えた。
スキル【マッピング】を意識してみる。
ふむ。
どうやらスコットさんたちと魔の森に入った地点から、大分東の方へ来たみたいだ。
振り返ると悪魔はもういなかった。
相変わらず愛想の欠片もない野郎だ。
「今日は帰るか……」
俺は魔の森を出て、冒険者ギルドを目指して歩き出した。
魔の森の外は草地で歩きやすく、見通しも良い。
視界に魔物はいない。
スキル【気配察知】にも感知は無い。
どうやら安全な場所まで来たようだ。
「う……うーん……」
マチルダが目を覚ました。
「目が覚めたか?」
「ヒロト……ここは?」
「魔の森の外だ。今、冒険者ギルドへ向かっている。歩けそうか?」
「ええ。大丈夫。自分で歩くわ」
マチルダを下ろして、二人並んで歩く。
最初は無言だったマチルダだが、少しずつ話し始めた。
「助けに来てくれたのね」
「ああ」
「どうして」
「パーティーメンバーだからな」
「そう。ありがとう」
「ああ」
なんかやけに素直だな。
普段の怒ったような口調も鳴りを潜めている。
「私……もっと出来ると思っていたわ……」
「良く戦っていたよ。俺たちが助けに行くまでもたせたじゃないか」
「そうだけど……」
「俺はマチルダを戦力として期待している。一緒に冒険者活動をしたいと思っている。だから、一人で無茶しないでくれ」
「わかったわ」
金獅子は高ステータスの魔物で、俺には倒せそうにない。
背中を冷たい汗が流れ、金獅子と俺の間に緊張が高まる。
突然、聞き覚えのある笑い声が響いた。
「クフフ」
金獅子も笑い声に反応し、顔を向けた。
俺は金獅子に視線を置いたまま、笑い声の主に語りかけた。
笑い方ですぐわかる。
地獄で会った悪魔だ。
「久しぶりだな。悪魔」
「そうだね」
相変わらず余計な事を、言わないヤツだ。
悪魔は俺から見て左の方にいる。
足音がして、こちらに近づいて来た。
視界に悪魔が入る。
相変わらずの危ない雰囲気を漂わせたナイスバディ。
だが、なぜか好感が持てない。
そして何故か知らないが、こいつと話していると俺はイライラする。
「何し来た」
「迎えに来たよ」
「迎え?」
「ダンジョンが出来たよ」
「ああ!」
そうだな。
この悪魔野郎は、この異世界にダンジョンを造っているのだった。
それで俺が色々アイデアを出して、ダンジョンが出来たらギルドに報告して人を集めると。
そう言う約束になっていた。
「悪いがそれどころじゃない」
「どうして?」
「見ればわかるだろ! 目の前の金獅子が、俺たちに襲い掛かろうとしているからだ!」
「なるほど」
悪魔野郎が金獅子の方へ向いた。
すると金獅子が悪魔野郎に襲い掛かった。
「GARU!」
「早い! おっ……おい! 悪魔!」
悪魔野郎は無防備に突っ立っている。
金獅子は後ろ足で力強く地面を蹴り、悪魔野郎に右前足を振りかざした。
金獅子の鋭い爪がギラリと光る。
「クフ……」
悪魔野郎が右手の人差し指をちょっと動かした。
すると辺りに風が巻き起こり、金獅子が空中でみじん切りになってしまった。
俺は目の前で起こった事に信じられない驚きを覚えたが、悪魔ならあり得るのかと納得もした。
不思議と恐怖は感じなかった。
「クフフ。邪魔なのはいなくなったよ」
「ああ。じゃあ、オマエが造ったダンジョンに行くか。案内しろよ」
俺は眠ったままのマチルダを背負うと悪魔の後を追った。
悪魔は魔の森を、家の近所を散歩するように平然と歩く。
警戒も無ければ、緊張もない。
不思議な事に魔物が一匹も現れない。
(気配を隠蔽するスキルとか、魔法を発動しているのか?)
そんな事を考えたが、途中で考えるのを止めた。
どうせコイツは、聞いた所で教えてくれないだろう。
俺は歩きながら違う話を悪魔に振った。
「おい。俺に呪いがかかっているらしいぞ」
「そう」
「オマエが呪いをかけたのか?」
「違うよ」
「じゃあ、俺が地獄から転生したから呪われているのか?」
「違うよ。地獄から転生しても呪われる事はないよ」
違うのか……。
誰かに呪いをかけられる心当りがないから、悪魔か地獄が原因かなと考えていたのだが……。
それっきり悪魔との会話がなくなってしまったので、俺は色々と考え事をしながら歩いた。
俺にかけられた呪い。
レベルが上がらないから、冒険者として成長が出来ない呪い。
幸いガチャやカードのお陰で何とか戦えているが、この呪いを何とかしたい。
悪魔や地獄のせいじゃないとすると……。
この異世界に転生してから呪いをかけられたのか?
ウォールやニューヨークファミリー?
いや……違うな……。
それだと時系列がおかしい。
俺がレベルアップしないのは、ウォールやニューヨークファミリーと出会う前からだ。
そうすると、転生してから冒険者になる間に呪いをかけられたのか?
それもおかしい。
子供時代の人間関係は限られている。
チアキママと幼馴染のシンディとルドルの街の子供としか付き合いがない。
俺に呪いをかけそうなヤツはいない。
そうすると転生前、地獄に行く前。
つまり前世日本。
そう言えば俺の死の瞬間、記憶が――。
「着いたよ」
俺の思考は悪魔の言葉で中断された。
目の前には石造りのダンジョンの入り口がある。
「これか……」
「帰りはあっちだよ」
悪魔が指さす方を見ると、十メートルくらい先、木々の間から草地が見えた。
スキル【マッピング】を意識してみる。
ふむ。
どうやらスコットさんたちと魔の森に入った地点から、大分東の方へ来たみたいだ。
振り返ると悪魔はもういなかった。
相変わらず愛想の欠片もない野郎だ。
「今日は帰るか……」
俺は魔の森を出て、冒険者ギルドを目指して歩き出した。
魔の森の外は草地で歩きやすく、見通しも良い。
視界に魔物はいない。
スキル【気配察知】にも感知は無い。
どうやら安全な場所まで来たようだ。
「う……うーん……」
マチルダが目を覚ました。
「目が覚めたか?」
「ヒロト……ここは?」
「魔の森の外だ。今、冒険者ギルドへ向かっている。歩けそうか?」
「ええ。大丈夫。自分で歩くわ」
マチルダを下ろして、二人並んで歩く。
最初は無言だったマチルダだが、少しずつ話し始めた。
「助けに来てくれたのね」
「ああ」
「どうして」
「パーティーメンバーだからな」
「そう。ありがとう」
「ああ」
なんかやけに素直だな。
普段の怒ったような口調も鳴りを潜めている。
「私……もっと出来ると思っていたわ……」
「良く戦っていたよ。俺たちが助けに行くまでもたせたじゃないか」
「そうだけど……」
「俺はマチルダを戦力として期待している。一緒に冒険者活動をしたいと思っている。だから、一人で無茶しないでくれ」
「わかったわ」
22
お気に入りに追加
2,847
あなたにおすすめの小説
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる