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王都編

第94話 魔物たちの狩場

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 ダメだ!
 魔の森を出られない!

 魔物の包囲網からは、脱出した。
 だが、進む先からゴブリン、オーク、オーガが現れて、逃走を余儀なくされている。

 なぜ、戦わないかと言えば、一つはマチルダを背負っているから。
 もう、一つは、足を止めて戦えば、あっという間に再包囲されてしまうからだ。

 魔物を一匹、二匹倒しても状況は変わらない。
 奴らは森の奥からわいて出て来るからだ。

 俺はひたすら逃げ回った。
 スキル【神速】を使い、コルセアを振るい、魔物を蹴り上げしながら血路を開こうとした。

 だが、魔物が立ちはだかり、魔の森の奥へ誘導されてしまう。
 スキル【マッピング】のお陰で走って来た経路はわかるが、スコットさんたちがいるであろう地点には、とても戻れそうにない。

 そうか、ここはヤツラの……魔物たちの狩場か……。
 普段は俺が狩場で魔物を狩っているが、今は俺が狩られる方なのか!
 獲物が逃げられないようにしているって訳か!

(どうする?)

 正面に立ちふさがるゴブリンを蹴り倒し、右から伸びてきたオークの腕を斬り飛ばしながら、必死に考える。

 次から次へ出て来る魔物相手に、俺の体力もいつまで持つかわからない。
 それにコルセアの剣も切れ味が悪くなった気がする。

 ああ、また、出て来た!
 右からオーガ2、左からオーク3、正面ゴブリン5!

(考えをまとめる時間も与えてくれないって事かよ!)

 とにかく一番弱いゴブリンを蹴散らして進むしかない。
 俺は正面に突っ込み、ジャンプしてゴブリンの頭の上をまたぐ。

 着地して目の前にいたゴブリンに前蹴りを食らわす。
 ゴブリンは悲鳴を上げて倒れた。

 空いた!

 すり抜けるスペースが出来た。

「【神速】!」

 空いた狭いスペースをすり抜けて、先へ先へと俺は進んだ。


 *

 どの位進んだろうか?
 もう、良く分からない。

 一時間経ったのか?
 それとも二時間なのか?

 とにかく必死で逃げ回っているが、魔物の追撃を振り切れない。

「GYA!」
「GUHI!」
「GI! GI! GI!」

 背後から物凄い気配が迫って来る。
 スキル【気配察知】が仕事をしていてわかるのだが、魔物の大集団が俺を追って来ている。

 俺の足も限界が近い。
 もう、座りたい。
 横になりたい。

 魔の森特有の大樹をジグザグ走行で避けながら進む。
 すると突然ポッカリと開けたスペースに出た。

 そこは、直径100メートルほどの円形広場のような場所で、中央に2メートル程度の木が一本生えている。
 一本の木以外は草地だ。

(なんだ? ここは?)

 これまでと違う光景に戸惑いながらも、俺は広場のようなスペースに足を踏み入れた。

「GUHI!?」
「GYA……」
「GUUUUU……」

 背後から聞こえていた魔物の吠え声が変わった。
 さっきまでは俺を威嚇していたが、今は戸惑いに変わっている。

(どうした?)

 振り向くと俺を追いかけて来た魔物の集団が足を止めている。
 遠巻きに俺のいる広場のようなスペースを見て、入るか入らないか迷っているようだ。
 やがて、魔物の集団は引き上げて行った。

「助かった……」

 俺は中央に立っている木の側でへたり込んだ。
 なぜ魔物たちが引き上げたのか、理由はわからない。
 けれども、これで一息つける。

 マチルダを背中から降ろして寝かせ、マジックバッグから水筒を取り出し、口をつける。

「ング……ング……ング……プハーッ! ハー、ハー、あー、生き返る!」

 水がこんなに美味いとは!

 続けて水を飲み落ち着いた所で、横になっているマチルダを見る。
 静かに寝息を立てている。
 たぶん、疲れとMP切れが原因だろう。
 見た所大きな外傷はないから、心配無さそうだ。

 俺の方は、あちこち擦り傷や打ち身だらけだ。
 極力戦わずに、逃げ、かわし、すり抜けたので、致命傷はないが、あちこち痛い。
 ボルツの革鎧もかなり痛んだ。

 改めて周囲を見る。
 広場のようなスペースにポツンと立っている木には、金色に光る実がなっている。

 手が届く高さの実を一つもぐ。
 小さめのミカンのような形で、柑橘系の良い匂いがする。

「鑑定……」


 -------------------

 金柑 食用可

 -------------------


 金柑……?
 日本にも金柑はあったけれど、日本の金柑とは違う物だろう。
 日本の金柑は普通のオレンジ色で、こんな金色じゃなかった。

 魔物が去って行ったのは、この金柑が原因かな?
 例えば……この金柑の放つ匂いを魔物は嫌っていて、それでこの広場に入って来ない……匂いを嫌って去って行った……とか。

 可能性はあるよな。
 この金柑をいくつか持っていよう。
 ひょっとしたら、魔物除けになるかもしれない。

 手の届く高さの金柑をもいでマジックバッグに収納する。
 木の周りをぐるりと回りながら集めると十個収穫できた。

「あれもとれそうだな……」

 背伸びすれば届きそうな高さになっている金柑を見つけた。
 爪先立って手を伸ばすと、なんとか届いた。
 金柑を手にバランスを崩して尻もちをつく。

 同時に、低く大きな唸り声が聞こえた。

「GURURURURURU……」

 唸り声がした方に目をやると、魔の森の中から大きな影が進み出て来た。

「やばい……デカイ……」

 姿を現したのは、ライオン型の魔物だった。
 大きさは、トラック。
 金色のたてがみに鋭い牙、四肢は太く燃える様な真っ赤な目。
 獰猛――そう形容するのがぴったりだ。

 すぐるにスキル【鑑定】を発動する。

「か、【鑑定】……」


 -------------------

 金獅子

 HP: 1500/1500
 MP: 0
 パワー:1000
 持久力:800
 素早さ:500
 魔力: 0
 知力: 20
 器用: 10


 -------------------


「やばい! 強い!」

 オーガを上回るHP、パワーがあり、素早さもある。
 これダメだろう。
 ダメなヤツだ。

 金獅子は、ゆっくりと広場に足を踏み入れ、唸り声を上げながらこちらへ進んで来る。
 その目は俺をジッと見て……いや、違う!
 金獅子の視線の先は、俺が握る金柑だ!

「これか!? 金柑か!?」

 俺は手に持った金柑をゆっくりと金獅子の方へ投げた。

「GURYU……」

 地面に落ちた金柑の匂いを金獅子が嗅ぎ、注意深く咥え飲み込んだ。

「GAAAA!」

 金獅子が吠えた。

「クッ……」

 金獅子が一吠えしただけで、俺の足はすくんでしまった。
 圧倒的な力の差を、本能的に感じ取ってしまったのだ。

 ヤバイな。
 金柑を手放したのに、金獅子は怒っている。

 ひょっとして……ここはヤツのテリトリーなのか?
 金獅子のテリトリーだから、さっき俺を追って来た魔物たちは立ち去ったのか?

 クソッ!
 金柑は魔物除けなんかじゃない!
 どうやら金柑はコイツの食料らしい。

 だとしたら、ここにいるのはヤバイ。
 俺たちは、金獅子のテリトリーを荒らした敵と言う事になる。

 一難去ってまた一難かよ!
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