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ルドルのダンジョン編

第73話 夜はベッド 朝はお風呂

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 夜になった。
 俺は、領主館の自分に割り当てられた部屋にいる。

 ベッドに寝っ転がって、今日起きた事を思い出す。
 一人反省会だ。

 今日は、ヤバかった。
 セレーネが来てくれなかったら、ウォールに殺されていたかもしれない。

 自分の対応の甘さもある。

 あそこで躊躇なく、ウォールの背中を斬りつければ良かった。
 後で揉め事になったら、エリス姫を頼れば良いのだ。

 ウォールは、スキルが多い。
 だが、加速系、スピードアップ系のスキルなら、俺の【神速】の方が上だ。
 1対1なら、勝てる!

 次にウォールと戦った場合のシュミレーションをする。


 そんな事を考えていると、サクラが部屋に入って来た。

 最近は、夜になるとサクラと一緒に部屋で過ごす。
 朝はセレーネとお風呂で一緒に過ごす。
 これが定番になっている。

 どうなってんだ、俺?
 モテキなのか?
 チャンス到来なのか?

 サクラがベッドに入って来た。
 寝転がっている俺の横に、ピタリとくっつく。

「ヒロトさん、大丈夫ですか?」

「ああ」

「ふふ。エリス姫の為に、ウォールやニューヨークファミリーに突っかかって行って……。エリス姫が、好きなんですか?」

 何だ?
 ヤキモチ焼いているのか?

 エリス姫は美人だと思うけれど、恋愛感情はない。
 俺はサクラに腕枕をしてやりながら返事をする。

「別にエリス姫の為じゃない。自分の為だよ」

 サクラの体温を感じる。
 あたたかい。

 思い出すと、今日の出来事は恐ろしい。
 一歩間違えたら、死んでいた。

 サクラが、甘ったるい声で話を続ける。

「でも、ウォールに逆らうと、殺されるかもしれませんよ。死ぬのは怖くないんですか?」

「怖いよ」

「じゃあ、どうして?」

 どうして……、か……。

 幼馴染のシンディを、取り戻す為かな?
 それはある。

 けど、それだけじゃない。
 俺は、自分の中で考えをまとめながら、ゆっくりとサクラに答えた。

「サクラが来てから、日本の話を沢山しただろう? それで、昔の事を良く思い出すようになったんだ」

「うん」

「俺は……、転生前……、 日本で……、何で死んだのか、覚えていないんだ」

 そう。
 何度も思い出そうとしたけれど、思い出せなかった。

 あの日は、雨が降っていた。
 それは、思い出した。

 時間は、夜だ。
 それも、思いだした。

 車に轢かれた。
 それも、思い出した。

 じゃあ、なぜ車に轢かれたんだ?
 そこが、思い出せない。

 俺が酔っ払っていたのか?
 自動車の方が、無謀運転していたのか?
 それとも……。

 俺は、大きく息を吐き出した。

「俺は、自分の死に納得できてない!」

 サクラは、やさしく俺の体をなでてくれている。
 俺は、続けた。

「だから、もし、また死ぬとしても、納得して死にたい!」

 サクラが、俺に抱き着いて来た。
 俺もサクラを抱き返した。

 *

 翌日、朝食を済ませると、仕事を始めた。

 セレーネは、ミルコさんの所で解体の手伝いだ。
 俺とサクラは、領主館の見回りに出た。

 初日の様な混乱は、無くなっている。
 冒険者ギルドの仮設テントでは、ギルド職員が冒険者に向けて声を出している。

「他所の街から来た冒険者は、こちらで手続きして下さーい!」

 転移部屋に続く、領主館の風呂場の脇には、冒険者の列が出来ている。
 その近くに、若い冒険者が集まっている。

 ポーター希望のE、Fランクの冒険者達だ。
 サクラが、彼らを見て、話し出した。

「なんか……、昨日より、人が増えているよね」

 言われてみれば、確かにそうだ。
 昨日は20人位だった。
 今日は、25、6人はいるな。

 俺はサクラに答える。

「増えているね。5、6人、増えたかな?」

「うん……。あれ? あの人、レッドさんじゃない? あの端っこにいる人」

「え?」

 本当だ!
 若い冒険者達がたむろしている一番端に、レッドさんがいる!
 ニューヨークファミリを辞めたのかな?

 俺は、レッドさんに声をかけた。

「レッドさん!」

「おお! ヒロトか!」

 レッドさんが、笑顔を返してくれた。
 俺は、嬉しかった。

 まだ、マジックバッグがなくて、セレーネと2人で活動している頃だ。
 レッドさん達のパーティー『スケアクロウ』に、ダンジョン内で獲物を運んでもらった。

 彼らは、田舎から出てきた気の良いお兄ちゃんたちって感じだ。
 ニューヨークファミリーに入ってしまい心配していた。

「こっちに来たんですね! ニューヨークファミリーは、辞めたんですか?」

「ああ、辞めたよ! こっちの方が稼げるしな。こいつらも、辞めたんだ」

 レッドさんは、近くにいた冒険者5人を紹介してくれた。
 イエローさんとグリーンさんも来た。
 外の屋台で、朝ご飯を買っていたそうだ。

「あれ? ブルーさんと、ブラックさんは?」

 レッドさん、イエローさん、グリーンさんは、顔を下に向けた。
 レッドさんが深くため息をついた。

「あの2人は、スケアクロウを辞めたんだ。今は、街の宿屋で働いているよ」

「……そうですか」

 3人とも、辛そうだ。
 スケアクロウは、同じ村の友人で結成したパーティーだ。
 離脱者が出て、寂しいだろうな。

 しばらく、気まずい沈黙が流れた。
 レッドさんが、その気まずさを誤魔化し話を振って来た。

「あー、そのー。ヒロトたちは、ダンジョンに入らないのか?」

 俺は、レッドさんが振って来た話題にのっかる事にした。

「ダンジョンは、昼頃ですね」

「随分ノンビリなんだな」

「今は、エリス姫との共同探索中で……」

「あー、そう言えば……。噂で聞いたよ。大変だな!」

 俺は、苦笑いをした。
 大変どころか、毎日ヒマなのだ。

「いや、逆ですよ。エリス姫がお忙しいので、昼頃、チョロっと潜ってお終いです」

「ええ~? それじゃ、何も出来ないだろう?」

「転移部屋から新しい階層に転移させて貰って、階段を上るんですよ」

「うん? 階段?」

 レッドさんたちは、俺の言う事がわからない様だ。

「転移部屋の脇に、前の階層のボス部屋に続く階段があるんですよ。そこを上って、ボス退治して終わりです」

「あー、そう言う事か……」

「だから、結構ヒマですよ。空いてる時間は、こうして見回りです」

「なるほどな~。良いんだか、悪いんだか、わからねえな」

「そうですね!」

 俺とレッドさんは、軽く笑い合った。

 レッドさんたちと分かれて、俺とサクラは、エリス姫に報告に向かった。
 本館のエリス姫の執務室は、忙しそうに人が動いている。

 俺はエリス姫に、知り合いのパーティーを含む10人弱が、ニューヨークファミリーを抜けてこちらに来た事を報告した。

 エリス姫は、満足そうだ。

「うむ。日に日に冒険者が増えておるな」

「本当ですね。他所の街からの冒険者も増えて来ましたし」

「そうじゃな。ヒロトの母者チアキ殿も、忙しいじゃろう?」

 チアキママは、領主館の一角を借りてポーション作りをしている。
 冒険者ギルドの仮設テントで、即売してもらっている。
 精霊ルートの人が増えたので、売れ行きが好調だ。

「お陰様で、売れ行き好調です」

「何よりじゃ。屋台の方も売れているようでの。商人ギルドからの納税額も増えそうじゃ」
 
 エリス姫は、王族だから元々資金力がある。
 それにプラスして、精霊ルートのこの活況だ。
 ウォール陣営は、太刀打ち出来ないだろう。
 
 エリス姫の横に立つ執事セバスチャンが、ニヤリと笑った。
 力強く、ゆっくりと宣言した。

「勝負あり! ですな!」
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