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ルドルのダンジョン編

第65話 精霊ルート開放

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 ウォールがルドルの街に来て、1週間がたった。
 ニューヨークファミリーは、日に日に勢力を拡大している。

 ヒロトルートは、完全にニューヨークファミリーの支配下になった。
 配下の人数が増えた事で、転移部屋自体をニューヨークファミリーが抑えてしまった。

 俺、セレーネ、サクラは、エリス姫と連日共同探索を行っている。
 だが、探索できる領域が、一日ごとに狭められている。

 昨日からヒロトルートをあきらめて、通常ルートの探索に切り替えた。
 だが、2階層から3階層に降りる階段で、ニューヨークファミリーが検問を行っている。

 階段の前に、5人の冒険者が陣取っている。
 首からぶら下げているギルドカードは、鉄や木、E、Fランクの冒険者だ。

 彼らは、大きな声で、こちらを威嚇してきた。

「ニューヨークファミリーのメンバーは、通すぞ! それ以外は、帰れ!」

 エリス姫の騎士達がやり返す。

「貴様ら!」
「このような無法! 良いと思っているのか!」

 エリス姫は、肩を落としてつぶやいた。

「困ったのう……」

 平民に厳しい態度の王族や貴族なら、階段前にいる冒険者たちを切って捨てるのだろう。

 だが、エリス姫は、それが出来ない。

 彼女は、優しいお姫様だ。
 王位継承候補とは言え、まだ12才の少女だ。

 俺やセレーネにも、壁を作らずに接してくれる。
 冒険者達からの評判も良い。

 サクラが【意識潜入】で、話しかけて来た。

(こう言う時って、エリス姫の弱さが出ますね)

(しょうがないだろう。強行突破が最善手とは、限らないよ)

(うーん……。私は、弱腰に感じるんですよね)

 サクラが、そう思うのも仕方がない。
 優しさは長所だけれども、為政者の場合は短所にもなりうる。

 とは言え、ウォールのように見境なく人を傷つける奴よりは良い。

(まあ、そう言うなよ。俺は、優しいエリス姫の方が良いよ。ウォールみたいなのよりはマシだろう?)

(それは確かに。それにしても、じれったいです。わたしが、あの検問やってる冒険者達を、ぶっ飛ばして来ますか?)

(よせよ。まだ、エリス姫側の戦力は少ないんだ。だから、増援が来るまで我慢する気なんだろ)

 エリス姫側の増援は、まだ王都から到着していない。
 冒険者を護衛として募集しているが、冒険者側の反応はイマイチだ。
 みんな様子見を、決め込んでいる。

 ニューヨークファミリーは、E、Fランクの冒険者を引き入れている。
 E、Fランクは、あまり稼げていない冒険者達だ。

 だから、小遣い付き、メシ付きの、ニューヨークファミリーの誘いに乗る者が多い。
 王都からの増援も到着したようで、あちらの陣営は50人近いそうだ。


 ウォールたちは、ヒロトルートの探索を進めている。
 毎日、冒険者ギルドに進捗状況の報告に来る。

 ウォールたちは、10階層まで探索を進めたそうだ。
 王位継承のアピール材料、実績を着実に作っている。

 このままだと、エリス姫の旗色が悪い。

 俺は、セレーネとサクラを、少し離れた所に引っ張って行った。

「精霊ルートを、エリス姫に教えようと思う。どうかな?」

 セレーネが、すぐに答えた。

「私は賛成~! エリス姫を応援した~い」

 サクラは、黙って考えている。
 しばらくして、心配そうに答えた。

「教えるのは、良いですが……。同じ結果になるんじゃないですか?」

「確かに、その可能性はあるんだよな……」

 俺も、その点は気になる。
 俺たちが精霊ルートをエリス姫に教えても、また、ニューヨークファミリーに抑えられてしまっては意味がない。

 セレーネが、珍しく強く主張した。

「ねえ! ちょっと! 2人とも、あのウォールが王様になっても良いの?」

「それは、嫌だ!」
「嫌ですね!」

 俺は、ウォールが王になった世界を想像した。
 いやいや、ロクな事にならないな。

「同じ結果にならないように、エリス姫側に工夫してもらうしかないな。エリス姫に、精霊ルートを教えよう」

「賛成!」
「そうですね」

 俺は、エリス姫と執事セバスチャンに精霊ルートの存在を教えた。

 *

 俺たちは、エリス姫と一緒に精霊ルートの探索を行った。
 4階層のボスを討伐し、5階層で転移魔方陣を発見した。
 5階層の転移魔方陣は、地上の新たな転移部屋に転移出来た。

 夕方、6の鐘が鳴っている。
 俺たちは、精霊ルートの報告に冒険者ギルドに来た。

 俺、セレーネ、サクラ、エリス姫、執事セバスチャン、護衛の騎士4人だ。
 かなり急いで探索したので、俺はかなり疲れていた。
 一方、エリス姫たちは、2つ目の新ルート発見になるのでご機嫌だ。

 冒険者ギルドに入ると、ウォールの話し声が聞こえて来た。
 今度は、ギルドマスターのハゲールを勧誘している。

「どうかな? 僕を応援する気になったかな?」

 ハゲールは、額に汗をかいて対応している。

「ギルドマスターは、中立でないと……、まずいので……」

「ポストに興味はないかな? ウインストン王国に、冒険者ギルドの総本部があるのを、知っているよね? 部長くらいなら、すぐに用意してあげるよ」

「そ、総本部ですか? 部長ですか?」

「うん。そうだよ。だからさぁ……、このルドルのギルドは、僕の派閥って事にならないかなぁ?」

 ハゲールは、今にもイエスと言いそうだ。
 目がキラキラしている。

 ポストにホイホイ釣られやがって!
 後ろから、そのハゲ頭を、はたいてやりたい。

 エリス姫が、ズイッと前に出た。
 受付カウンターのハゲールの前に立つ。

 エリス姫は、ウォールを無視した。
 ニッコリと笑って、ハゲールに話しかけた。

「ハゲール殿、王都第3ギルド長のポストは、いかがかな?」

「王都のギルド長ですか!?」

「そうじゃ。まあ、総本部の役職付きも、悪くはないがのう。ハゲール殿は、このオーランド王国の出身じゃろう? なら、この国のポストが良かろうて。のう?」

「は、はい!」

「オーランドの王都は、華やかじゃぞ~。転生人が多いので、美味しい食べ物や珍しい物が多い。何より……、美人が多い! のう?」

 ハゲールは、立ち上がった。
 直立して、エリス姫に頭を下げた。

「王都第3ギルドのギルド長で、お願いします!」

 ハゲール!
 その手のひら返しは、何だよ!

 ウォールが、何か言おうとした。
 だが、エリス姫は間髪入れずに精霊ルートの事を話し出した。

「おお! そうじゃ! 新ルートを、開拓して来たでのう!」

 エリス姫は、ギルド中に聞こえる大きな声を出した。
 ギルド中の視線が、エリス姫に集まる。

「ヒロトたちと共同探索してのう。また、新たな転移部屋を発見したのじゃ」

 ギルドにいる冒険者達が、ザワつき出す。
 ウォールは、黙っているが拳を握り、プルプルしている。

「ヒロト! 新ルート……、いや、新新ルートかのう? 4階層のボスを出してくれるか?」

 俺は、マジックバッグから、先ほど倒した4階層のボスを取り出した。
 ギルドのロビーに、放り出す。

「4階層ボスのグリーンリザードです。風属性初級魔法のウインドカッターを使ってきます」

 周りの冒険者達が、グリーンリザードを触ったり、討論したりしている。

「皮膚は、それ程固くないな」
「うむ、剣でも槍でも攻撃は通りそうだ」
「風魔法がやっかいだな」
「ヒロト! どうやって倒した?」

「俺とサクラが、囮役になって、セレーネが矢で倒しました。魔法を発動する前に、こんな感じで、頭を振るんですよ。それを目安に、風魔法をかわせば、大丈夫です」

 俺はグリーンリザードの戦い方を、あっさり冒険者達に教えた。
 これは、エリス姫と執事セバスチャンと打ち合わせ済みの事だ。

 エリス姫が続けた。

「新しいルートは、ニューヨークファミリーに入っていない冒険者に開放する! まだ宝箱も残っておるぞ! 魔物の素材も取り放題じゃ!」

 ホールにいる冒険者たちが湧いた。
 今、ホールにいるのは、Dランク、ブルーカードが多い。

 経験のある冒険者たちだから、ニューヨークファミリーの悪い噂も知っている。
 ニューヨークファミリーの影響にないエリアが増えたのを、歓迎している雰囲気だ。

 エリス姫の騎士が、冒険者たちに大きな声で伝えた。

「これから転移部屋に案内しよう! 興味のある者は、ついて参れ! 希望者は、そのまま5階層まで転移させてやるぞ! ニューヨークファミリーに入っていない者だけだ!」

 騎士は、そのまま冒険者たちを引き連れて、ギルドから出て行った。
 ホールにいた冒険者たちは、全員ついて行ってしまった。
 ギルドマスターのハゲールも確認の為に、ついて行った。

 ホールは、ガランとした。
 エリス姫がウォールに話しかけた。

「残念じゃったのう、ウォール殿」

 ウォールは、よほど腹が立ったのだろう。
 エリス姫に、一瞥もくれずに席を立った。

 ウォールは、去り際に俺をにらみつけた。
 ウォールの目は、血走っていた。
 余程、強く歯を食いしばったのだろう、口の端から、うっすらと血が流れていた。

「ヒロト君だったね……。忘れないよ……」

 ゾッとする一言だった。
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