上 下
45 / 99
ルドルのダンジョン編

第45話 ヒロトルート4階層のダンジョン探索

しおりを挟む
 ギルドマスターのハゲールが、ブリブリとご立腹だ。

「ヒロト! オマエ、俺をハメたな!」

 獲物が多い事は黙っていたけれども、俺が取引を持ち掛けた訳じゃない。
 俺は、ハゲールに淡々と答えた。

「解体費用を無料にするから情報提供をしろ! と、おっしゃったのは、ギルドマスターじゃないですか」

「うぐ! 確かにそうだが……」

「それに、これだけ獲物があれば、素材売却で冒険者ギルドも儲かりますよね?」

 そう。俺達のパーティーは、10階層への行きと帰りで、フロアボスも含む大量の獲物を持ち込んだ。

 ルドルのダンジョンは、初心者向けダンジョンだ。
 初心者冒険者が多い。

 そのせいで、下の階層のボスは、なかなか水揚げされない。
 レアな素材もあるだろうから、冒険者ギルドの利益も、それなりに出るはずだ。

 ハゲールは、解体場と訓練場に積み上がった獲物を見て、腕組みをしている。
 頭の中で、そろばんを弾いているようだ。

「むううううう……」

「では、よろしくお願いしまーす!」

 俺たち3人は、ジュリさんと一緒に解体場を後にした。

 ジュリさんは、横で笑いを堪えている。
 上司がアタフタするのが面白かったのだろう。

 俺は、ジュリさんにサクラのランクアップを頼んだ。

「ジュリさん、ダンジョンボア10匹はサクラの戦果なので、ランクアップをお願いします」

「わかったわ。サクラちゃんは、FランクからEランクに昇格ね。アイアンカードを渡すわ」

 受付カウターに戻ると、ギルドのロビーはがらんとしていた。
 冒険者が一人もいない。
 みんな、マジックバッグ探しに、ダンジョンへ行ってしまったのだろう。

 俺はマジックバッグから、4階層で回収した遺品が入った布袋を取り出した。

「これ……4階層で見つけた遺品です」

 ジュリさんは、真面目な顔に戻って布袋を受け取った。

「ありがとう。依頼と照合して、遺族に連絡するわね」

「お願いします」

「じゃあ、これ。サクラちゃんの新しいカードね。昇格おめでとう! ヒロト君達は、今日はどうするの?」

 俺は、昨日サクラが提案していたように、ジュリさんに答えた。

「今日からは浅い階層で、遺品探しをボチボチやりますよ。しばらくノンビリ活動します」

「それが良いわ。ダンジョン踏破で疲れただろうから、無理しないでね。それとね……」

 ジュリさんが、ニンマリと笑っている。

「何でしょう?」

「ドロップ品があれば、買い取るわよ」

 それか!
 さすがジュリさん、シッカリしているな。

「まだ整理できてないので……。整理して、売るかどうか、メンバーと相談します」

「わかったわ。よろしくね!」

 ジュリさんの笑顔を背に、俺達は、冒険者ギルドを後にした。


 ルドルの街をダンジョンに向かって、3人で歩く。
 ちょうど10の鐘が鳴った。

 夏の日差しが強い。
 だが、毎日ダンジョンに潜っているせいか、強い日差しでさえも、心地よく感じる。

 このまま街をブラつきたいが、あの双子、ダンジョンの精霊との約束がある。
 今日から、ヒロトルートと精霊ルートを探索しないといけない。

 俺達は、昼飯をお店でテイクアウトして、早々とダンジョンに潜った。

 *
 ルドルのダンジョン、ヒロトルートから3階層に来た。
 俺は、セレーネとサクラに、今日の行動予定を相談した。

「さてと、今日はヒロトルート4階層のボス攻略を、目標にしようと思う。どうかな?」

「賛成~!」
「了解でーす」

 俺達は、3階層を進み始めた。
 ヒロトルートの3階層は、ホーンラビット狩りで来て以来だ。
 まだ、本格的な探索は行っていない。

「まず、真っ直ぐ進んでみよう」

 俺、セレーネ、サクラの順で、ダンジョンの通路を歩く。
 前からの攻撃には俺が、後ろからの攻撃にはサクラが対応する並び順だ。

 通常ルートでは、階段から真っ直ぐ進むと4階層への階段に出られる。
 ヒロトルートも同じ構造かもしれない。

 3人で、真っ直ぐに進む。
 初めてのエリアなので、緊張もあって3人とも無言だ。

 途中ホーンラビットに出食わす。
 獲物を見つけた瞬間、セレーネが矢を放ち、一矢で確実に仕留める。

 セレーネは、無限の矢筒を手に入れた事で、矢の残数を心配する必要がない。
 ホーンラビットを見つけ次第、片っ端から倒して行く。

 交戦時間がゼロに近いので、探索スピードがほとんど落ちない。
 これはありがたい。
 俺は、セレーネをねぎらう。

「セレーネのお陰で、探索スピードが落ちないで済むよ」

「えへへ。矢の心配がないから、張り切っちゃった!」

「その調子で、バンバン頼むよ」

「了解! ここは獲物が沢山いて良い猟場だよね~」

 セレーネは、ホーンラビットの数が多いのを喜んでいるけれど、今日は探索が目的なので、大量のホーンラビットは、正直ちょっと邪魔だ。

 いちいち真面目に接近戦をしていたら、探索が進まない
 この調子でセレーネに、バンバン遠距離で倒して貰おう。

 セレーネが倒したホーンラビットは、最後尾のサクラがマジックバッグに回収してくれている。

 3階層に入ってから、30分以上、歩いたと思う。
 そろそろ……、あった!

 通路の先に、下へ降りる階段が見えた。
 俺は、後ろの2人に声を掛ける。

「あったよ! 階段発見!」

「おお!」
「やりましたね。下に降りましょう」

「ああ、そうしよう。4階層に降りたら、食事休憩しよう」

 俺達は、階段を下りて4階層に到達した。
 階段を下りてすぐの地点は、広場の様になっていた。

 俺達は、ジャイアントバットのテントを広げて、中で昼休憩にした。
 このテントは、魔物除け機能があるので、こういう時便利だ。

 マジックバッグから、店で買った昼食を取り出す。
 ステーキサンド、コーンスープ、サラダ、紅茶、アップルパイだ。

 マジックバッグの時間停止機能のお陰で、食事が出来立てで暖かいままなのがありがたい。
 昨日、かなりエネルギー消費したから、みんなデザートまで、がっつり食べた。

 セレーネは、いつも楽しそうに食事をする。
 ずっと親父さんと2人で、山の中で猟をして暮らして来たからだろう。
 みんなで、にぎやかに食事をするのが、楽しいみたいだ。
 今度休みを作って、どこか連れて行ってあげたいな。

「さて、そろそろ出発しよう」

 俺達は、探索を再開した。
 また、同じように、階段を下りた地点から、真っ直ぐに進んで行く。

 通常ルート4階層の魔物は、ダンンジョンボア。
 大きなイノシシで突進してくる。
 攻撃力は、高いので気を付けて進む。

 四階層を歩き出して、すぐに魔物と遭遇した。
 だが、ダンジョンボアじゃない。
 赤い色の大きなトカゲだ。

「何だ、あれ!?」
「初めてみるね」
「ダンジョンボアじゃ、ありませんね……」

 頭から尻尾までは、1メートルくらい。
 胴体の太さは人間の腕くらいだ。

 全体的に赤色で、背中から尻尾にかけてに、トゲトゲしたヒレが付いている。
 足の爪が鋭い。トカゲと言うよりは、イグアナだろうか。

「とりあえず【鑑定】するから。サクラは、前に出て。セレーネは、矢の準備を」

「了解!」
「了解!」

 2人が動き出す。
 赤い色のトカゲは、口を開けて、こちらを威嚇している。

 俺は、すぐに赤いトカゲを【鑑定】をした。

「【鑑定】!」


 -------------------

 アカオオトカゲ

 HP: 25/25
 MP: -
 パワー:15
 持久力:20
 素早さ:50
 魔力: -
 知力: 2
 器用: -

 -------------------


 良かった。
 素早いだけで、それほど強くなさそうだ。
 急いで鑑定結果を、2人告げる。

「そいつは、アカオオトカゲ! 素早いけど、それ程強くない!」

 サクラは【飛行】で宙に浮いて、アカオオトカゲの注意を引き付けている。
 そこに、セレーネが矢を打ち込んだ。

 アカオオトカゲは、サクラに気を取られていて、セレーネに背を向けていた。
 セレーネの放った矢は、アカオオトカゲの後頭部に突き刺さった。

 アカオオトカゲは、絶命した。
 サクラとセレーネは、アカオオトカゲの対処方法について相談を始めた。

「それ程、強くはないですね」

「今みたいに、サクラちゃんが注意をそらしてくれれば、矢で対応出来るよ」

 俺は二人と違う事を考えていた。

 まず……、四階層に降りてすぐに、見た事もない魔物に出会った。
 通常ルートとヒロトルートでは、魔物の構成が違う可能性が高い。

 次に、ボス部屋、5階層への階段の位置が気になった。
 通常ルートの階段の位置は単純だ。
 地図の上から下、次の階層では下から上に位置関係になっている。

 しかし、通常ルートと魔物の構成が違うなら、ボス部屋の位置も通常ルートとは、違うかもしれない。

 となると、ここヒロトルート4階層の探索は簡単ではなくなる。
 俺は探索に必要なアイテムがあるかどうか、心配になって来た。

 食料はチーズレーションがいくつか、水は水筒にある分だけ。
 ポーションは、3つ。

 万一を考えて、もうちょっと用意しておいた方が、良かったかもしれない。

「ヒロト! 進もう!」

 俺が考え込んでいると、セレーネが声を掛けて来た。

「ああ。そうだな。アカオオトカゲは、問題なさそう?」

「大丈夫!」
「ザコですよ! ザコ!」

 まあ、確かにサクラの言う通り、それ程強い敵じゃない。
 俺たちは、探索を再開した。

 だが、1時間程真っ直ぐに進んだが、ボス部屋には、たどり着けなかった。

 どうやら俺の悪い予想が当たった。
 ヒロトルートの4階層からは、ボス部屋の位置が通常ルートと違うようだ。

 ここからは、まったく別のダンジョンと思った方が良さそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル
ファンタジー
 病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。       そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?  これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。  初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「異世界に転生してくれぇえええええええええ!」  事故で命を落としたアラサー社畜の俺は、真っ白な空間で謎の老人に土下座されていた。何でも老人は異世界の賢者で、自分の後継者になれそうな人間を死後千年も待ち続けていたらしい。  賢者の使命を代理で果たせばその後の人生は自由にしていいと言われ、人生に未練があった俺は、賢者の望み通り転生することに。  読めば賢者の力をそのまま使える魔導書を五冊もらい、俺は異世界へと降り立った。そしてすぐに気付く。この魔導書、一冊だけでも読めば人外クラスの強さを得られてしまう代物だったのだ。  賢者の友人だというもふもふフェニックスを案内役に、五冊のチート魔導書を携えて俺は異世界生活を始める。 ーーーーーー ーーー ※基本的に毎日正午ごろに一話更新の予定ですが、気まぐれで更新量が増えることがあります。その際はタイトルでお知らせします……忘れてなければ。 ※2023.9.30追記:HOTランキングに掲載されました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます! ※2023.10.8追記:皆様のおかげでHOTランキング一位になりました! ご愛読感謝!

処理中です...