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ルドルのダンジョン編

第22話 1日目 ホーンラッビット狩り

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 ギルドから、ホーンラビットの毛皮収集の依頼が出された。
 
 1階層の通常ルートの通路は、冒険者で混み合っていて、ホーンラビットのいる3階層へ降りられそうにない。
 俺とセレーネは、1階層で身動きが取れなくなってしまった。

「ヒロト~、どうしよ~」

 セレーネの泣きそうな声が聞こえた。
 策はある!

「セレーネ、こっち、そーっと付いて来て」

 俺達は目立たないように、広場の左側の通路に入った。
 広場の冒険者達は、ホーンラビットで頭がいっぱいだ。
 左の通路を静かに進む俺達には、誰も気が付かなかった。

 俺は念の為、右、左、右、左と何回も通路を曲がって、つけられていない事を確認した。
 10分くらい歩いた所で立ち止まり、俺はセレーネに計画を打ち明ける事にした。

「セレーネ、これから話す事、やる事は、絶対秘密にして欲しいんだ。出来る?」

「秘密に~? わかった。内緒にするよ~」

「絶対に話しちゃだめな事だよ。チアキママにも話しちゃダメだよ」

 セレーネは、狩りをする時と同じ様に引き締まった顔で、俺に答えた。

「約束する。エルフの誇りと、風の精霊の名にかけて、秘密を守る」

「わかった。じゃあ、話すよ。3階層に降りるには、さっき混んでいた通路を通って、階段を降りるしかないんだ」

「じゃあ、何でこっちに来たの?」

「俺は、2階層に降りる別の階段を知っているんだ。師匠も階段の事は知っている。俺達はヒロトルートと呼んでいる」

「その階段は、3階層に通じてるの?」

「行った事は無いけど、たぶん、通じている」

「迷わない?」

「俺は【マッピング】スキルがある。だからダンジョン内でも迷わないよ」

「わかったヒロトを信じる」

「じゃあ、行こう。移動優先、魔物が出て来ても戦闘は避けて」

「了解」

 俺とセレーネは、階段に向けて移動を始めた。
 赤スライムが出てきても、戦闘はしないで早足で移動した。

 そう、俺の作戦はヒロトルートの階段を使って3階層まで降りて、そこでホーンラビットを狩るのだ。

 ただ、2階層には降りた事はないので、3階層への階段がどこにあるか知らない。
 でも、だいたい見当はついている。

「この階段を降りるよ。ここから先は師匠も降りた事が無い。たぶん、俺達が初めて入る。念の為、警戒して付いて来て」

「わかった」

 セレーネは、警戒レベルを上げてくれたようだ。
 引き締まった顔をしている。

「2階の魔物はタミーマウス。ここも戦闘を避けて移動優先で行く」

「了解」

 俺達はヒロトルートから、2階層へ足を踏み入れた。
 3階層への階段の位置は、俺の予想だと逆の位置、地図で言うと下の方にあると思う。

 通常ルートの場合は、1階層は地図の下から上へ、2階層は上から下へ、と階段が配置されている。
 だから、このヒロトルートの場合も、2階層は上から下へと階段が配置されていると思う。

 俺は3階層への階段が、あると思う方向へ早足で移動した。
 タミーマウスの数が多い。
 襲って来たタミーマウスだけ倒して、倒したタミーマウスは捨てておいた。

 タミーマウスの魔石は、売っても大して金にならない。
 魔石を回収するよりも、3階層への階段を見つけるのが優先だ。
 倒したタミーマウスのカードは入って来ているから、それで良い。

「たぶん、この辺りに3階層への階段があると思う」

 俺は予想したエリアで、歩くスピードを落とした。
 セレーネはあたりを警戒しながら、後ろから付いて来る。
 10分くらい辺りを探索して見つけた。

「これだ! 3階層への階段だ!」

「やった! ヒロトすごい!」

 セレーネの表情がパッと明るくなった。
 2人で注意しながら階段を下りた。

 3階層の階段を下ると1階層と同じく広場になっていた。
 俺は通路を歩いて、すぐT字路を見つけた。

「ここを狩場にしよう」

 俺はチーズレーションをマジックバッグから取り出して、さっそく罠を作り始めた。
 チーズレーションを砕いて通路にまいて、残りのチーズレーションを置く。
 俺とセレーネは、通路に隠れた。

 すぐにホーンラビットが1匹やって来た!
 セレーネが矢を放って仕留めた。

「まず1匹!」

「ドンドン行こう!」

 俺がホーンラビットを隠れている通路に引きずって運び、セレーネが解体ナイフで刺さった矢を取り出す。
 ホーンラビットを、そのままマジックバッグにしまう。
 すぐに、次のチーズレーショントラップを仕掛けて、また通路に隠れる。

 また、来た。
 5分も経ってない。
 今度は2匹だ。

 身振りで手前のホーンラビットを射るように、セレーネに伝える。
 セレーネがうなずいた。
 奥のホーンラビットは、俺が飛び込んで倒すつもりだ。
 セレーネが矢を放つのを、静かに待つ。

 セレーネが動いた。素早く矢を放った。
 俺は奥のホーンラビット目掛けて飛び込んだ。

 手前のホーンラビットが、セレーネの矢に当たって倒れた。
 奥のホーンラビットが俺に気づいて顔を上げたが、もう遅い。

 俺は距離を縮めている。
 昨日、師匠にもらった愛剣コルセアを、ホーンラビットの胴体に真っ直ぐ差し込んだ。
 ホーンラビットは、がっくりと倒れた。

「これで3匹目!」

 すぐにセレーネが矢を抜いた。
 獲物をマジックバッグにしまう。
 カードも入ってきている。
 上々の滑り出しだ。

「ヒロト。良い狩場だね」

「ああ、沢山狩ろう」

「うん。ねえ、安心して! 私は猟師の娘だから、狩場の事は人に言わないから」

「わかった。信用するよ」

 おそらくここは、誰も入った事のないエリアだ。
 魔物の数も多い。
 セレーネの言う通り狩場としては、最高の環境だろう。
 俺達のパーティーである程度狩るまでは、他の人には知られたくない。

「しばらくは、俺達専用の狩場にしようぜ」

 俺はセレーネにニンマリと笑った。
 なんか師匠に似て来たな。
 セレーネは、嬉しそうに笑い返して来た。

 この後はハイペースで狩り続けて、1時間半くらいで獲物は20匹になった。
 昼に1回獲物を持って来いと言われていたので、俺達は一旦ギルドに戻る事にした。
 行きと同じく、移動優先で戦闘は避けて早足で進む。

 ギルドに着くと、もう2の鐘だった。

「ヒロト君、セレーネちゃん、お疲れ様~! 裏のミルコさんの所でホーンラビットを出して」

 ギルドの裏にある解体担当のミルコさんの作業場で、ホーンラビットを出した。
 ギルドのロビーで昼食にした。

 ギルドのロビーは、誰もいない。
 みんなダンジョンに入ってホーンラビットを狩ってるんだろう。
 俺とセレーネは、チアキママが作ってくれたサンドイッチを急いで食べた。

「じゃあ、行ってきます! 戻りは遅くなると思うけど心配しないで!」

「無理しないでね~!」

 俺はジュリさんに声を掛けてギルドを出た。
 俺とセレーネは、急ぎ足で移動しているので無言だ。

 この移動時間が無駄だが、解体担当の都合もあるので仕方がない。
 このペースで急いで歩けば、ギルドからダンジョンまで10分、1階層から2階層が30分、2階層から3階層が20分、3階層まで1時間で行ける。

 俺達は黙々と移動した。
 3階層に着くと、すぐ狩場のT字路に移動してチーズレーションで罠を張った。

 次々にホーンラビットが罠にかかり、俺達は片っ端からホーンラビットを倒して、マジックバッグに放り込んだ。
 1回の仕掛けで多い時には2匹倒した。3匹倒した時もあった。

 俺達がギルドに戻ったのは、夜の8の鐘の少し前だった。
 40匹のホーンラビットを引き渡し、解体担当のミルコさんに残業だと嘆かれた。

「ヒロト! セレーネ! 良くやった! これで2人はDランク冒険者だ」

 ハゲールも上機嫌だった。
 俺達は移動と狩りで疲れてしまって、声も出ない。
 ジュリさんが、淹れてくれた紅茶をごちそうになりながら、買い取りの清算とギルドカードの更新を待った。
 その間、ハゲールが事情を教えてくれた。

「今回の依頼はな。商人ギルドからだ」

 俺は無言でうなずいた。

「ヒメナスの街にあるダンジョンで、階層が突破されてな。新階層が雪原地帯だそうだ」

 ヒメナスは、ここルドルの東の方にある街だ。
 割と新しいダンジョンだと思った。

「おまけに北の方で、何やら戦争が始まりそうな気配があるらしい。それで毛皮の需要が急激に増えたんだ」

 なるほどね。
 冒険者と軍隊の防寒装備なら、かなりの数が必要になる。
 それで商人ギルドは、毛皮を集めているのか。

「あと2日、しっかり頑張ってくれ! 俺は解体を手伝ってくる」

 俺の背中をバンバン叩いてハゲールは、奥に引っ込んだ。
 入れ替わりで、ジュリさんがDランクのブルーカードを持ってきてくれた!

「2人ともお疲れ様~! じゃあ、これがDランクのギルドカード、通称ブルーカードね。これ付けてたら、一人前の冒険者よ! おめでとう!」

 俺もセレーネも無言だ。
 さすがにくたびれている。
 ジュリさんは、察してくれたみたいで、苦笑いして話を進めてくれた。

「じゃあ、まず買い取りだけど。ホーンラビットの毛皮が3000ゴルド、肉が2000ゴルド。60匹分だから、30万ゴルドね。魔石は5個で100ゴルド、60個で1200ゴルド。依頼の成功報酬が、1件1万ゴルド。3件成功で3万ゴルド。合計で、33万1200ゴルドね」

 稼いだこともない大金だった。
 俺達は3万1200ゴルドをを受け取って、30万ゴルドはギルドで預かってもらう事にした。

 帰宅するとチアキママが、晩御飯を作って待っていてくれた。
 二人とも黙々と食事をして、倒れるように寝てしまった。
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