上 下
18 / 99
ルドルのダンジョン編

第18話 エルフの少女 セレーネ

しおりを挟む
 昨日の1人ダンジョン探索は、謎の双子の少女に出会って怖かった。
 しばらくこの件は、俺だけの秘密にしておく事にした。

 今日から又、師匠が一緒にダンジョンに入ってくれる。
 俺は8の鐘(朝8時)が鳴る前に、いつもの待ち合わせ場所、ダンジョンの入り口に来た。

 辺りを見回すと、1人気になる女の子を見つけた。

 俺と同い年位、日本なら小学6年生位の子だ。
 きれいな女の子で耳が尖っていて長い。
 サラサラの金髪の長い髪、少し銀色がかって見えるプラチナブロンドだ。
 成長しきってない体に不釣り合いな大きな弓、ロングボウを持っている。

 彼女は、たぶん、エルフなんだと思う。
 ルドルの街は、人間が多いのでエルフは珍しい。
 それにルドルでは、アーチャーをほとんど見かけない。

 美少女がダンジョンの入り口に1人で立っているので、かなり目立っている。
 通り過ぎる冒険者たちは、彼女をチラッと見てそのまま素通りして行く。

 彼女は困った顔をしている。
 冒険者に声を掛けようとしたり、イカツイ冒険者には目を合わさないようにしている。

 待ち合わせではなさそうだ。
 俺は何となく気になって、エルフの美少女をスキルで【鑑定】してみる事にした。

 冒険者を【鑑定】するのは、マナー違反だ。
 荒事の多い冒険者は、自分のステータス値やスキルを見せたがらない。
 イザと言う時の為に、自分の強さや戦闘技術は隠しておきたいのだ。

 それに【鑑定】は、スキル【気配察知】を持っている相手にバレる事がある。
 冒険者を鑑定するのは、気を付けろと師匠に言われていた。
 だけど、あの子ならまだ子供だから、スキル【気配察知】は持っていないだろう。

「【鑑定】……」


 -------------------

 ◆基本ステータス◆

 名前:セレーネ
 年齢:12才
 性別:女
 種族:エルフ族

 LV:  1
 HP: 10/10
 MP:  5/5
 パワー: 5
 持久力:10
 素早さ:12
 魔力: 10
 知力: 40
 器用: 70

 ◆スキル◆
【風の精霊の加護】
【弓術(初級)】

 ◆装備◆
 エルフのロングボウ 攻撃力+100

 エルフの服 防御力+5 魔法防御+5

 ◆アイテム◆
 なし

 -------------------


 すごい!

 器用が70で、スキル【弓術(初級)】持ち。
 器用の数値が高いと、弓矢での攻撃力が増す。
 エルフのロングボウ 攻撃力+100と合わさると、どれだけ威力が出るのだろう。

 それに、【風の精霊の加護】、って凄そうなのも付いている。
 彼女と一緒に組めないかな?

「よう! ルーキー! おはよう!」

 師匠が、ちょうど8の鐘(朝8時)ピッタリにやって来た。
 師匠に相談しよう。

「師匠、おはようございます! ちょっとご相談があります」

「おう! どうした?」

「あそこのエルフの女の子と一緒に組みたいのですが、どうでしょう?」

 師匠は、チラッとエルフの子を見ると、ニンマリと笑った。
 イカン! 師匠は完ぺきに誤解している!

「そーか、そーか、ヒロトは、ああいう感じが好みなのか! 俺に似て面食いだな……」

 俺は師匠の誤解をスルーして、話を進めた。

「【鑑定】したら、ステータスが良いんです。レベル1なのに、器用が70、スキル【弓術】を持ってます。【風の精霊の加護】と言うのもスキルにあります」

 師匠は、驚いた顔をして改めて彼女を見た。

「なるほど……。将来、超有望だな」

「はい。パーティーを組む相手にとしては、願ったりです」

 師匠から、一緒にダンジョンを探索する仲間、パーティーを組む相手を探すように言われている。
 だが、俺は冒険者登録をしてから半年Fランとして、ルート仕事ばかりしていた。
 この街には、仲間もいなければ、友人もいない。

 ボッチである。

 パーティーを組みたくても、組んでくれる相手がいないのだ。
 低階層なら一人でも大丈夫だけど、下の階層に行くなら誰かとパーティーを組んで戦力アップしないと無理だ。

 あのエルフの子は何か事情がある様子だが、ステータスは優秀だ。
 おまけに美形! その方面でも将来有望だ!
 ぜひ、一緒に組みたい。

 ん? シンディはどうしたって?
 それはそれ。これはこれ。別腹ってヤツで……。

「よし! ヒロト! 声をかけろ!」

 師匠は俺の背中を強く叩いた。
 なんかナンパみたいで、嫌なんだよな~。

「あの~師匠が、声をかけてくれないですかね?」

「何を言ってるんだ! オマエのパーティーメンバーになるんだぞ。オマエが誘わなくてどうするんだ? しっかりしろ!」

 ですよね~。
 これからこう言う機会が増えるだろうし、見ず知らずの人を勧誘するのに慣れなきゃな。

 そう、これはあくまでも仕事なのだ!
 断じてナンパなどではない!
 やましい気持ちはない!
 たぶん……。

 俺はエルフの女の子に声を掛ける事にした。
 俺が近寄ると彼女はこちらを見た。ちょっと警戒しているようだ。

「あの、俺、ヒロトです。Eランク冒険者です」

 首から下げたギルドカードを見せながら、俺は相手を安心させる為に、ゆっくり話しかけた。

「突然、声をかけてごめんね。俺はこれから師匠とダンジョンに入って、3階層を探索する予定なんだ」

「師匠? 大人が一緒なの?」

「うん。こちらが俺の師匠のダグ、神速のダグです」

 俺は師匠をエルフの子に紹介した。
 師匠は片手を上げて、軽く彼女に挨拶をした。

 彼女は師匠を見ると目をパチクリさせた。

「あの有名な冒険者の?」

 ああ、良かった。
 彼女は師匠の事を知っていて、師匠を尊敬する目で見ている。

 こちらを信用してくれたろう。
 ここでグイッっと押そう。

「ダンジョンに入る相手を探してるなら、一緒にどう?」

 彼女は、パーッと笑顔になって、嬉しそうに答えた。
 この子は笑顔になると、美形顔から可愛い系になるんだな。

「はい! お願いします! わたしは、セレーネです!」

 よし!
 エルフのアーチャーをゲットいたしました!
 これで戦力アップ!


「で、ヒロト、今日はこれからどうする?」

 師匠が、とぼけた顔で聞いてきた。
 ああ、俺がリーダーになるから、俺が行動を決めろって事なんだろうな。
 そうだな、それなら……。

「まずは、セレーネの腕を確認したいです。1階層でスライムをセレーネに倒してもらいます」

「うん。いいんじゃねーか」

「じゃあ、行きましょう」

 俺達3人は、ルドルのダンジョンに入った。
 1階層は、相変わらず混み合っていたので、広場から左の方へ進んだ。

 しばらくすると赤スライムが、ヒョコヒョコと目の前を横切った。

「セレーネ、あのスライムを射……」

 俺は話の途中で息を飲んだ。
 振り返ってセレーネに声をかけると、セレーネはロングボウに矢をつがえて、弓を引こうとしていた。

 しかし、セレーネは、まだ12才だ。
 大きなロングボウを引くには、力が足りない。

 セレーネは、引こうとしても、引けないロングボウを持って、左へ右へとフラフラしていた。
 矢を、つがえたままだ。

「ううううう!」

 セレーネが目をつぶって力を振り絞り、ロングボウを引こうとしている。
 だが、矢は俺の方を向いている。
 ロングボウの攻撃力は、100だ。
 直撃したらひとたまりもない。

「ストップ! ストーップ!」

「えーい!」

 セレーネが、矢を放った。
 だが、きちんとロングボウを、引けていなかったのだろう。
 カランカランと乾いた音をして、矢はダンジョンの床に落ちた。

 いや、ホント、ビックリした!
 死ぬかと思った!

「ああ~、ごめんなさ~い!」

 セレーネが、顔を真っ赤にして謝って来た。
 師匠は少し離れた所に、いつの間にか避難して腹を抱えて笑っている。

「ええっと、セレーネ?」

「ヒロト、ごめんなさい。わたしこの弓を使うの今日が初めてなんです!」

「ええ! 普段使ってる弓は?」

「先月、山で猟をしている時に、壊してしまって……」

「ん? じゃあ……、ひょっとして……。ダンジョンは、今日が初めて?」

「はい」

 しまった。そうだったのか。
 もっと最初に話をちゃんと聞いておくべきだった。

 くそう! 師匠め!
 こうなる事を、読んでいたな。
 それで、ダンジョンの入り口で、あんなすっとぼけた顔をしてたんだな。

「……セレーネ、冒険者ギルドに登録は?」

「ギルドって何ですか?」

 あかん、そこからなのか……。

 俺は新たにパーティーメンバーを得た。
 だが、将来有望なエルフのアーチャーは、かなり天然キャラらしい。

 大丈夫なのか?

 俺は一度地上に戻る事にした。
 師匠はよほど面白かったらしく、地上に戻っても笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...