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ルドルのダンジョン編

第17話 ルドルのダンジョンは魔方陣がない

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「オーイ!」

 返事はない。

「どこに行った!」

 返事はない。

「ど……、どこへ、消えた……」

 俺は辺りを見回した。
 ついさっきまで話していた二人の少女が、急にいなくなった。
 二人から視線をちょっと動かした一瞬の間にだ。
 周りを見ても二人はいない。

 ここはダンジョン内だ。
 天井が光っていて明るさがある。
 周りに隠れる場所はない。
 二人が走り去ったり、階段から下に降りたなら足音でわかる。

 二人の少女は、一瞬で消えてしまったのだ。

「どうなってるんだ?」

 俺は混乱した頭で考えようとした。
 しかし、考えがまったくまとまらなかった。
 とにかく怖い。

「そうだ! 水! 水!」

 俺はワザと声に出した。
 そうでもしていないと、怖くて錯乱しそうだからだ。

 こんな誰もいないダンジョンの深いところで、少女二人に声を掛けられた。
 俺しか知らないはずの倒した魔物やドロップ品について知っていた。

 なんなんだ?

 俺は少女二人が教えてくれた水のある方向へ歩き出した。
 足が震えている。

 強い魔物なら、まだ良かった。
 魔物は実態のある恐怖だ。
 対策のしようもある。

 だが、あの二人の少女は得体が知れない。
 と言うか、実在したのか?
 俺が長らく一人でダンジョンに入っていて、幻覚を見たのか?
 まさか酸欠とか?

 しかし、すぐに少女二人が幻覚でない事がわかった。

「水だ……」

 二人が教えてくれた方向に水場があった。
 少女二人が消えた階段から、1ブロック進んだ所だ。

 そこはちょっとした広場になっていた。
 壁から石で出来た管が出ていて、そこから水が湧き出している。

 スキルで【鑑定】してみると、普通の水だ。
 俺は水を飲み、顔を洗った。

 すぐにダンジョンから出よう。
 ここから急げば、40分位で外に出られるはずだ。

 俺は早足で、出口に向かった。


 *


 俺はダンジョンから慌てて飛び出ると、ギルドへ向かった。
 ギルドに入ると受付のジュリさんをつかまえた。

「ジュ、ジュリさん!」

「ちょっと! ヒロト君どうしたの?」

「じ、実は、ダンジョンで……」

 俺はさっきダンジョンで起きた事をジュリさんに話そうとした。
 だが、話す寸前で思いとどまった。

 待てよ!
 ちょっと、待てよ……。

 これ、話すか? 
 いや、それとも話さない方が良いのか?

 未発見だった新しい階段に水場。
 レアなスライムとドロップ品。
 スキル【ドロップ率上昇(小)】と【夜目】の取得。
 そして、正体不明の双子の少女と彼女たちからのメッセージ。

 まだ、俺の中でこれらの情報が、キチンと整理されていないが……。
 これって、たぶん金になる話だよな……。

 下手にギルドでは、話さない方が良いんじゃないか?
 変なヤツ、ヤバイ奴が寄って来て、俺は良いように利用されちゃうんじゃないか?

 俺は辺りを見回した。
 ギルドの受付カウターには、俺とジュリさん、その他に3人の冒険者と3人の受付担当ギルド職員がいる。
 後ろのロビーには、3人冒険者がいる。

 さっき4の鐘(夕方4時)が鳴った。
 そろそろダンジョンから冒険者たちが、大勢引き上げて来る時間だ。

 こんな人の多い所で話しちゃダメだ。

 俺はさっきダンンジョンで起こった事を、ジュリさんに話すのを止めた。
 そして、ダンジョンについて情報収集をする事にした。

「実は……、今日は一人でダンンジョンに入ったんですけど、全然獲物が狩れなくて……。それで、ジュリさんにダンジョンの事を、色々教えて貰おうと思って、急いで来たんです」

「なんだ~。何かトラブルでもあったのかと思ってビックリした~」

「大丈夫です! トラブルはなかったですよ! えーとですね。俺みたいな新人は、どの階層がオススメですか?」

 俺はまず当たり障りのない、ごく一般的な相談から始める事にした。

「そうね、やっぱり3階層かな。3階層に出るホーンラビットは、肉、毛皮、魔石が売れるわよ。1、2階層の魔物で売れるのは、魔石だけだから、3階層の方が効率良いわよ」

 ジュリさんは、親切な感じで話し始めた。
 俺が12才で良かった。
 ジュリさんからすれば、俺はまだまだ子供、助けてあげたくなるのだろう。

 さて、次は何を聞くか……。

「ドロップがあると聞いたんですが、何か知りませんか?」

「ドロップは、7階層からよ」

 じゃあ、ストロベリースライムとブルーベリースライムが、1階層で幸運の指輪をドロップしたのは、かなり珍しいんだな……。
 やはりこの事は話さない方が良いな。

 それにしても、7階層からドロップかあ……。
 折角、スキル【ドロップ率上昇(小)】を獲得したのに残念だ。

 俺が腕を組んで考えていると、ジュリさんは心配そうな顔をしだした。
 俺が一気に7階層まで降りていくと勘違いしたのだろう。
 慌てて情報を付け足して来た。

「でも、ボス部屋では、4階層でもドロップするわよ」

「4階層には、ボス部屋があるんですか?」

「あるわよ。4階層からは、各階層ごとにボスがいるわ。だからドロップアイテム目当てで、無理に7階層まで行く必要はないわよ」

「そうですね。無理のない階層で経験を積むことにします」

 ダンジョンには、階層ごとに強い魔物、ボスが配置されている。
 ボスを倒せば次の階層への階段が現れるらしい。

「ちなみに、4階層ボスのドロップアイテムは?」

「幸運の指輪よ」

 そうか。4階層のボスドロップが、1階層で出たんだな。
 あの少女二人は、もっと良い物が出ると言っていた。

 じゃあ、2階層や3階層にも、ストロベリースライムみたいなドロップする魔物がいるのかもしれない。
 それにしても……、あの二人の少女は何者なんだろう……。

「ボス以外に……、出るのは……、無いですか?」

「えっ? どういう意味?」

 少女二人の事を話さないで、うまく情報を聞き出すのが難しい。
 ジュリさんは、怪訝な顔をしている。
 でも、なんとか情報を引き出したい。

「いや、ほら、幽霊とか……、スーパーボスみたいなのは……、出ないのかなぁって」

「アンデット系の魔物の事? ルドルのダンジョンは出ないわよ。他のダンジョンだと、出る所もあるわよ」

「なんか、幽霊みたいで怖いですね」

「ふふ。ヒロト君、幽霊怖いの?」

「……怖いです」

 だめだ。うまく聞き出せない。
 ジュリさんは、俺の幽霊怖い発言で、楽しそうな顔をしている。

「ヒロト君は、まだ12才だもんね。幽霊怖いよね」

 話題を変えよう。
 とにかくもっと情報を集めよう。

「ええ、まあ。あー、ダンジョンボスは、出ないのですか?」

 ダンジョンボスは、そのダンジョンの最後に出て来る超強力な魔物だ。
 ジュリさんは、ちょっと眉間にしわを寄せて、難しそうな顔をして答えた。

「10階層のボスが、ダンジョンボスと言われているけれど……」

「けれど?」

「他のダンジョンだと、ダンジョンボスを倒すと魔方陣が出るの。地上へ戻る為の魔方陣ね。でも、ルドルは特殊で魔方陣が出ないのよ」

「へー、それ、10階層だけですか?」

「ううん。全部。ルドルのダンジョンは地上へ帰還する魔方陣なしのダンジョンなの」

 それは初耳だ。
 まあ、俺は冒険者の友達もいないボッチ冒険者だから仕方ない。

 昔、チアキママから聞いた話だと、ダンジョンにはフロアごとに転移の魔方陣があるらしい。
 その魔方陣を使って、地上と自分の行った事のある階層を行き来できるそうだ。
 だが、ルドルのダンジョンには、転移の魔方陣がないらしい。

「じゃあ、10階層まで行こうとすると泊りですか?」

「そうよ。みんなダンジョンの中で野営してるわよ。あ、ダンジョンの中なら野営は変かな」

「10階層まで行って、ボスを倒して、また歩いて1階層にある出口まで戻って来る?」

「そうそう。みんなそうしてるわよ。面倒に思えるかもしれないけれど、10階層のボスを倒せば、ルドルのダンジョン踏破になるの。冒険者として、ちょっとハクが付くでしょ?」

「確かにそうですよね~」

 まあ、確かに。
 この世界では、ダンジョン踏破は偉業で尊敬を集める。
 オリンピックでメダルを取ったとか、ノーベル賞を受賞したとか、そんなレベルの高い尊敬を受ける。
 ルドルのダンジョンは、初心者向けのダンジョンだけれど、それでも踏破したとなれば、世間の見る目が違うだろう。

「あー、ヒロト君。混み合って来たみたいだから、そろそろいいかな?」

「あ! すいません!」

 ロビーに人が増えて来た。
 カウンターにも列が出来ている。
 俺は慌ててカウンターから離れた。

 最後にジュリさんが、表情を引き締めて俺に警告して来た。

「最近、ガラの悪い連中が、王都から流れて来てるから気を付けてね」


 *


 ギルドを出た後は、道具屋で買い物をして、家に帰って来た。
 チアキママに幸運の指輪をプレゼントしたら、ものすごーく喜んでくれた。
 俺もほっこりとした気持ちになった。

 ちなみに道具屋で幸運の指輪を見たら、値段は5万ゴルドだった。
 ギルドでの買取価格は、2万~3万ゴルドくらいだろう。

 ダンジョンに入れるようになったから、稼ぐチャンスはこれからまだある。
 プレゼントに回す方向で正解だ。
 チアキママの笑顔はプライスレスだ。


 俺は自室に戻って、ギルドでジュリさんから聞いた事を思い出した。
 ジュリさんの話しと、今日ダンジョンで出会った双子の少女の言葉を合わせると……。

 一つの予想が生まれる。
 この予想は、しばらく俺の胸の中に収めておこう。
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