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第五章 冒険者パーティーひるがお
第74話 新商業ギルド長タジン
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――翌日。
ダンジョンで戦闘経験を積み、早めにお昼ごはんを食べて、ダンジョンで露店を開く。
二時頃になったら、ダンジョンから引き上げて色々用事を済ます。
今日は商業ギルドに訪問だ。
商業ギルド長ヤーコフの一件で、俺と商業ギルドの関係は悪い。
だが、新しい商業ギルド長がやって来たので、俺との関係を改善したいと申し入れがあった。
商業ギルドは教会本部に多額のお金を寄付したと、神官のフィリップさんに聞いた。
ならば、俺との関係改善も本気だろうと判断し、俺は商業ギルドにやって来た。
だが、警戒心はある。
本当に大丈夫かな~と疑っているのだ。
俺は商業ギルドの扉をそっと開けて、隙間から中をのぞき見る。
(おっ! 活気があるな!)
ヤーコフがギルド長をやっていた頃は、ガラガラで空気が悪かったけれど、商業ギルドのロビーに人が沢山いる。
行商をやっている若手商人。
大店と思われる仕立ての良い服を着た商人。
商品の売り込みをする男もいる。
俺は大丈夫そうだと判断し、扉を開いて商業ギルドの中に入った。
真面目そうな職員が忙しそうに働いている。
以前見た色気ムンムンの女性はいない。
そういえば日本でのことだが、大会社でもないのに美人受付嬢をそろえている会社があった。
後にその会社は社長が逮捕されたとニュースになっていた。
ボロ過ぎる受付や応接スペースもどうかと思うが、華美に過ぎるのも問題だ。
この商業ギルドの雰囲気やスタッフの働きぶりは好感が持てる。
日本の仕事経験に照らし合わせると、安心して取り引きできる組織だ。
俺は商業ギルドが生まれ変わったと感じた。
受付の女性に声を掛けると、すぐに商業ギルド長が奥の部屋から登場した。
商業ギルド長は転がりそうな勢いで駆け込んできた。
「いやいやいやいや! リョージさん! お待ちしていましたよ! さあ、こちらへ! ずずっと! ずいっと!」
商業ギルド長は、俺の背中をグイグイ押した。
応接室に案内……というより、押し込められた。
何とも強引だが、商業ギルド長がユーモラスな印象なので嫌な感じはない。
応接テーブルに向かい合って座る。
商業ギルド長は、丸顔の男性で五十代かな?
頭に髪の毛はないようで、頭の上にちょこんと小さな帽子を乗せている。
体型は丸々していて、ゆったりとした服を着ているので、玉転がしの玉の上にボールが乗っているような印象だ。
「いやあ、おいでいただいてありがとうございます! 私は新たに商業ギルド長を拝命したタジンと申します。本当は私の方から行かなきゃならないのに、すいませんねえ」
商業ギルド長のタジンさんは、おしゃべりなようでガンガン話してくる。
話し方に嫌な感じはなく、ベテラン芸人さんの話を聞いているようだ。
「午後は時間がとれるので気にしないで下さい」
「そうなんですか! それは良かった! いやあ、リョージさんにはお詫びやらお礼やら言わなきゃならないことがあるんですよ。まず、前商業ギルド長ヤーコフのことは本当にすいませんでした。それでこれはお詫びです!」
ズシャ!
重そうな音を立てて革袋が応接テーブルに置かれた。
(どうしようかな……)
俺は革袋を見て考えた。
金貨か銀貨が入っているのだろう。
お金は腐る物じゃないし受け取っておこうという気持ちがある一方で、あれだけ嫌な思いをしたのだからスンナリと受け取るのもシャクだなという思いもある。
かといって、目の前にいるタジンさんに意地悪をしても仕方がない。
前担当者が下手を打ったからといって、新担当者をいびっても何のプラスにもならない。
人間関係を悪くするだけなのだ。
(結局、俺の気持ちの問題だよな)
やっかいなのは感情。
理と利で、手打ちだと分かっていても、感情が邪魔をする。
俺は革袋には手をつけず、何気ない世間話のような口調でヤーコフたちのその後を尋ねた。
「ヤーコフたちはどうなりましたか?」
タジンさんが前のめりになり声をひそめた。
「ヤーコフ殿は、お父上のゴルガゼ伯爵にこっぴどく叱られ、北部にある辺境伯領に送られました」
「辺境伯領?」
「ええ。冬は雪に閉ざされる厳しい場所です。辺境伯軍で鍛え直させるそうですよ。あそこは寒いし、魔物は強いしで大変な場所です。果たして生きて帰れるかどうか……」
「そんなに大変な場所なんですか!?」
「辺境伯領は北の魔の森に接していて、長く高い城壁が魔の森と辺境伯領を隔てているのです。城壁に上がって魔の森を見張るのが仕事ですよ。冬になれば雪と風に凍えながら夜を明かすのです。私は金貨百枚積まれてもやりたくないですね」
「そこまで言いますか……。ゴルガゼ伯爵は思い切ったことをしましたね……」
「それくらいやらないと貴族社会で示しが付かないのでしょう。商業ギルドにゴリ押ししてポストを得たのに、やらかしたのですから。いや、本当にリョージさんには迷惑をかけてスイマセン」
「ああ、いえいえ。ヤーコフの取り巻きたちはどうなりましたか?」
俺はヤーコフの護衛をしていたチンピラたちについて尋ねた。
無罪放免はないだろうが、俺やソフィーのことを逆恨みしていたら警戒が必要だ。
チンピラたちの行方は知っておきたい。
「彼らは奴隷として鉱山に売り飛ばされました。鉱山は環境が悪いですからね。恐らく長く生きられないでしょう」
「ですね……」
鉱山奴隷は、一応は懲役刑にあたる。
一応というのは、生きて出られないからだ。
鉱山は坑道の崩落もあるし、空気や水も悪いので、長生き出来ない環境らしい。
死罪の方がいっそマシだという意見もある。
恐らく彼らも数年で命を落とすだろう。
彼らが俺とソフィーに危害を加えることがないと知り、俺はホッとした。
「リョージさん。開拓村の件もありがとうございます! リョージさんが行商して下さったおかげで、開拓村の商流が途切れませんでした」
タジンさんが話題を変えたので、俺は気持ちを切り替える。
「その件でしたら領主のルーク・コーエン子爵に頼まれましたのもありますし、私自身は楽しんでやっていましたよ」
「行商を手放して、他の者に譲ってしまったそうですが、良かったのですか?」
「ええ。元々やっていた商人が戻ってきたので、交代したんですよ。慣れている人の方が、開拓村の住民も良いでしょうし。何より私は新参者ですので、無駄な摩擦は避けたかったのです」
「なるほど! ご慧眼ですな!」
タジンさんが、両手を広げて大げさに納得してみせた。
タジンさんのユーモラスな仕草に、思わず笑顔になる。
俺はヤーコフ事件の始末が終ったんだなと安心して、とても気が楽になった。
いや、タジンさんの人柄もあるのかな?
かなり柔らかい気分になっている。
俺は応接テーブルの革袋に手を伸ばした。
「こちらは受け取ります。商業ギルドからの謝罪を受け入れましょう」
「ありがとうございます! ところでリョージさんは、これからどう活動されるのですか?」
タジンさんの目が探るように、利を図る商人の目になった。
知られて困ることもないので、俺は正直に答える。
「午前中はダンジョンに潜って戦闘経験を積みます。お昼頃はダンジョンで露店を開いて、午後はこういった用事を済ませます。しばらくは、こんな毎日ですね」
「なるほど……。戦闘経験というのは、スタンピードに備えて?」
タジンさんの目に怯えの色が見える。
この人は荒事が苦手なのだろう。
「ええ。自分の身を守れる程度になっておきたいのです」
「そうですな……。私は王都周辺の魔物が少ない地域で商売をしていたので、スタンピードが起るかもしれないと聞いて恐ろしくて……」
タジンさんは、膝をゴシゴシと服の上からさすった。
ユーモラスな仕草に、俺はクスリと笑う。
「私もスタンピードの経験がないので怖いです。今、領主のルーク・コーエン子爵と色々対策をしています。商業ギルドでも、何かやれることをやっていただけるとありがたいです」
「そうですな。我々商人に何が出来るかわかりませんが、冒険者への依頼金額を増やすとか、武器や防具を仕入れるとか、何かやってみましょう」
「頼もしいです。町を守りましょう!」
「ええ! 守りましょう!」
タジンさんは、話しやすい人で大分打ち解けた。
ただ、商業ギルドに加盟するのは遠慮した。
トラブルのあった商業ギルドといきなり距離を縮めるのは良くない。
もう、しばらく様子を見たい。
タジンさんは、商業ギルドとしてスタンピード対策を請け負ってくれたので、俺の活動が少し町の役に立ったと思い満足をした。
ダンジョンで戦闘経験を積み、早めにお昼ごはんを食べて、ダンジョンで露店を開く。
二時頃になったら、ダンジョンから引き上げて色々用事を済ます。
今日は商業ギルドに訪問だ。
商業ギルド長ヤーコフの一件で、俺と商業ギルドの関係は悪い。
だが、新しい商業ギルド長がやって来たので、俺との関係を改善したいと申し入れがあった。
商業ギルドは教会本部に多額のお金を寄付したと、神官のフィリップさんに聞いた。
ならば、俺との関係改善も本気だろうと判断し、俺は商業ギルドにやって来た。
だが、警戒心はある。
本当に大丈夫かな~と疑っているのだ。
俺は商業ギルドの扉をそっと開けて、隙間から中をのぞき見る。
(おっ! 活気があるな!)
ヤーコフがギルド長をやっていた頃は、ガラガラで空気が悪かったけれど、商業ギルドのロビーに人が沢山いる。
行商をやっている若手商人。
大店と思われる仕立ての良い服を着た商人。
商品の売り込みをする男もいる。
俺は大丈夫そうだと判断し、扉を開いて商業ギルドの中に入った。
真面目そうな職員が忙しそうに働いている。
以前見た色気ムンムンの女性はいない。
そういえば日本でのことだが、大会社でもないのに美人受付嬢をそろえている会社があった。
後にその会社は社長が逮捕されたとニュースになっていた。
ボロ過ぎる受付や応接スペースもどうかと思うが、華美に過ぎるのも問題だ。
この商業ギルドの雰囲気やスタッフの働きぶりは好感が持てる。
日本の仕事経験に照らし合わせると、安心して取り引きできる組織だ。
俺は商業ギルドが生まれ変わったと感じた。
受付の女性に声を掛けると、すぐに商業ギルド長が奥の部屋から登場した。
商業ギルド長は転がりそうな勢いで駆け込んできた。
「いやいやいやいや! リョージさん! お待ちしていましたよ! さあ、こちらへ! ずずっと! ずいっと!」
商業ギルド長は、俺の背中をグイグイ押した。
応接室に案内……というより、押し込められた。
何とも強引だが、商業ギルド長がユーモラスな印象なので嫌な感じはない。
応接テーブルに向かい合って座る。
商業ギルド長は、丸顔の男性で五十代かな?
頭に髪の毛はないようで、頭の上にちょこんと小さな帽子を乗せている。
体型は丸々していて、ゆったりとした服を着ているので、玉転がしの玉の上にボールが乗っているような印象だ。
「いやあ、おいでいただいてありがとうございます! 私は新たに商業ギルド長を拝命したタジンと申します。本当は私の方から行かなきゃならないのに、すいませんねえ」
商業ギルド長のタジンさんは、おしゃべりなようでガンガン話してくる。
話し方に嫌な感じはなく、ベテラン芸人さんの話を聞いているようだ。
「午後は時間がとれるので気にしないで下さい」
「そうなんですか! それは良かった! いやあ、リョージさんにはお詫びやらお礼やら言わなきゃならないことがあるんですよ。まず、前商業ギルド長ヤーコフのことは本当にすいませんでした。それでこれはお詫びです!」
ズシャ!
重そうな音を立てて革袋が応接テーブルに置かれた。
(どうしようかな……)
俺は革袋を見て考えた。
金貨か銀貨が入っているのだろう。
お金は腐る物じゃないし受け取っておこうという気持ちがある一方で、あれだけ嫌な思いをしたのだからスンナリと受け取るのもシャクだなという思いもある。
かといって、目の前にいるタジンさんに意地悪をしても仕方がない。
前担当者が下手を打ったからといって、新担当者をいびっても何のプラスにもならない。
人間関係を悪くするだけなのだ。
(結局、俺の気持ちの問題だよな)
やっかいなのは感情。
理と利で、手打ちだと分かっていても、感情が邪魔をする。
俺は革袋には手をつけず、何気ない世間話のような口調でヤーコフたちのその後を尋ねた。
「ヤーコフたちはどうなりましたか?」
タジンさんが前のめりになり声をひそめた。
「ヤーコフ殿は、お父上のゴルガゼ伯爵にこっぴどく叱られ、北部にある辺境伯領に送られました」
「辺境伯領?」
「ええ。冬は雪に閉ざされる厳しい場所です。辺境伯軍で鍛え直させるそうですよ。あそこは寒いし、魔物は強いしで大変な場所です。果たして生きて帰れるかどうか……」
「そんなに大変な場所なんですか!?」
「辺境伯領は北の魔の森に接していて、長く高い城壁が魔の森と辺境伯領を隔てているのです。城壁に上がって魔の森を見張るのが仕事ですよ。冬になれば雪と風に凍えながら夜を明かすのです。私は金貨百枚積まれてもやりたくないですね」
「そこまで言いますか……。ゴルガゼ伯爵は思い切ったことをしましたね……」
「それくらいやらないと貴族社会で示しが付かないのでしょう。商業ギルドにゴリ押ししてポストを得たのに、やらかしたのですから。いや、本当にリョージさんには迷惑をかけてスイマセン」
「ああ、いえいえ。ヤーコフの取り巻きたちはどうなりましたか?」
俺はヤーコフの護衛をしていたチンピラたちについて尋ねた。
無罪放免はないだろうが、俺やソフィーのことを逆恨みしていたら警戒が必要だ。
チンピラたちの行方は知っておきたい。
「彼らは奴隷として鉱山に売り飛ばされました。鉱山は環境が悪いですからね。恐らく長く生きられないでしょう」
「ですね……」
鉱山奴隷は、一応は懲役刑にあたる。
一応というのは、生きて出られないからだ。
鉱山は坑道の崩落もあるし、空気や水も悪いので、長生き出来ない環境らしい。
死罪の方がいっそマシだという意見もある。
恐らく彼らも数年で命を落とすだろう。
彼らが俺とソフィーに危害を加えることがないと知り、俺はホッとした。
「リョージさん。開拓村の件もありがとうございます! リョージさんが行商して下さったおかげで、開拓村の商流が途切れませんでした」
タジンさんが話題を変えたので、俺は気持ちを切り替える。
「その件でしたら領主のルーク・コーエン子爵に頼まれましたのもありますし、私自身は楽しんでやっていましたよ」
「行商を手放して、他の者に譲ってしまったそうですが、良かったのですか?」
「ええ。元々やっていた商人が戻ってきたので、交代したんですよ。慣れている人の方が、開拓村の住民も良いでしょうし。何より私は新参者ですので、無駄な摩擦は避けたかったのです」
「なるほど! ご慧眼ですな!」
タジンさんが、両手を広げて大げさに納得してみせた。
タジンさんのユーモラスな仕草に、思わず笑顔になる。
俺はヤーコフ事件の始末が終ったんだなと安心して、とても気が楽になった。
いや、タジンさんの人柄もあるのかな?
かなり柔らかい気分になっている。
俺は応接テーブルの革袋に手を伸ばした。
「こちらは受け取ります。商業ギルドからの謝罪を受け入れましょう」
「ありがとうございます! ところでリョージさんは、これからどう活動されるのですか?」
タジンさんの目が探るように、利を図る商人の目になった。
知られて困ることもないので、俺は正直に答える。
「午前中はダンジョンに潜って戦闘経験を積みます。お昼頃はダンジョンで露店を開いて、午後はこういった用事を済ませます。しばらくは、こんな毎日ですね」
「なるほど……。戦闘経験というのは、スタンピードに備えて?」
タジンさんの目に怯えの色が見える。
この人は荒事が苦手なのだろう。
「ええ。自分の身を守れる程度になっておきたいのです」
「そうですな……。私は王都周辺の魔物が少ない地域で商売をしていたので、スタンピードが起るかもしれないと聞いて恐ろしくて……」
タジンさんは、膝をゴシゴシと服の上からさすった。
ユーモラスな仕草に、俺はクスリと笑う。
「私もスタンピードの経験がないので怖いです。今、領主のルーク・コーエン子爵と色々対策をしています。商業ギルドでも、何かやれることをやっていただけるとありがたいです」
「そうですな。我々商人に何が出来るかわかりませんが、冒険者への依頼金額を増やすとか、武器や防具を仕入れるとか、何かやってみましょう」
「頼もしいです。町を守りましょう!」
「ええ! 守りましょう!」
タジンさんは、話しやすい人で大分打ち解けた。
ただ、商業ギルドに加盟するのは遠慮した。
トラブルのあった商業ギルドといきなり距離を縮めるのは良くない。
もう、しばらく様子を見たい。
タジンさんは、商業ギルドとしてスタンピード対策を請け負ってくれたので、俺の活動が少し町の役に立ったと思い満足をした。
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