左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?～貧乏孤児院の救世主！

第三章 商業ギルドに気をつけろ！

第23話 生活魔法を覚えよう！

　生活魔法クリーン。
　ソフィーの口から謎の言葉が飛び出した。

「ソフィーは、クリーンを使えるの？」

「ううん。子供は魔法を使えないよ。大人になると使えるんだよ」

「そうなのか！」

「シスターメアリーとシスターエレナは使えるよ」

　作業していた空き缶洗いを中断して、シスターメアリーの仕事部屋へ向かった。

　シスターメアリーは仕事部屋で書類を片付けていた。
　俺とソフィーが仕事部屋に入ると、シスターメアリーは笑顔で迎えてくれた。

「リョージさん。どうなさったの？」

「ソフィーから聞いたのですが、生活魔法クリーンについて教えていただけますか？」

「えっ……？」

　シスターメアリーは、『なぜ、知らないのか？』と驚いた顔をしている。

「私の国には魔法がなかったんです」

「ああ！　そうよね！　リョージさんは、迷い人でしたわ！　生活魔法は――」

　シスターメアリーによると、生活魔法は魔力が少ない人でも使える便利な魔法らしい。

　灯りを出現させるライト。
　きれいにするクリーン。
　種火を出現させるファイア。
　コップ一杯ほどの水を出すウォーター。

　この四種類の魔法を生活魔法と呼ぶ。

　子供のうちは使えないが、成長して大人になると体内の魔力が安定して魔法を使えるようになる。
　魔力が多い人は魔法使いになり、生活魔法より高度な魔法が使える。

　俺は疑問をぶつけてみる。

「シスターメアリー。では、今朝の掃除ですが生活魔法クリーンでやれば早かったのでしょうか？」

「理屈の上では、その通りですが、魔力が足りなくなってしまいます」

　生活魔法クリーンで、部屋をきれいにすることは可能ではある。
　だが、クリーンをかける対象が大きくなると、それだけ魔力の消費が増える。

「魔力的に厳しいということですね？」

「そうですね。私とシスターエレナは、毎晩寝る前に自分と子供たちにクリーンをかけています。それから子供たちが怪我をした時のために、ヒールをかける分の魔力を残しておきたいのです」

「ヒールというのは？」

「回復魔法です。怪我を癒やす魔法ですよ」

　ほうほう、そういう魔法もあるんだ。
　俺は魔法に俄然興味が湧いてきた。

「魔法に興味がおありでしたら、こちらの本をご覧になって下さい」

　シスターメアリーは、魔法の入門書を貸してくれた。


　井戸の側に戻りシスターメアリーに借りた魔法の入門書を開く。
　芝生の上に座って読んでいると、隣にソフィーが座ってきたので、二人で仲良く読書する。

　ふむ……この入門書によると、魔法の発動は個人個人の資質、適性によるところが大きい。
　保有する魔力が大きい人もいれば、ほとんどゼロに近い人もいる。
　魔力量によって行使できる魔法の回数や威力が決まり、適性によって行使できる魔法の種類が決まる。

　だが、生活魔法は誰でも使うことが出来る魔法で、さらに一回で消費する魔力も少ないため、魔力がゼロに近い人でも使える魔法だ。

　魔法の行使でポイントになるのは、魔法を行使した結果をしっかりイメージすること。
　例えば生活魔法の『ファイア』なら、『火』をしっかりイメージする。

（何か曖昧だな。化学的な説明はないんだな……。まあ、世界が変われば常識も変わる。とりあえずやってみよう）

　俺は入門書を閉じて生活魔法を練習して見ることにした。
　入門書によると『ファイア』がイメージしやすくてオススメらしい。

「ソフィー。早速魔法の練習をしてみるよ」

「ソフィーもやる！」

「よーし！　一緒にやろう！」

　子供は魔法を使えないというが、まあ、『魔法ごっこ』のノリでやりたいのだろう。
　俺はソフィーと一緒に魔法の練習を開始した。

　まずは『ファイア』だ。
　魔法の入門書によれば、ファイアは薪に火をつけるために使われる魔法で、指先に小さな火を出現させる魔法らしい。

（着火ライターかな？）

　俺は指先を着火ライターに見立てて、人差し指の先に火が出現するイメージを持つ。

「ファイア！　おっ！　出た！」

　指先に小さな炎が出現した。
　まさに着火ライターだ。

　ソフィーが手を叩いて大喜びをしている。

「おお！　リョージ！　凄い！」

「そうか？　ありがとう」

　ソフィーは両手をブンブン振り回して夢中で俺を褒める。
　何か娘に褒められているような気分だ。
　思わず目尻が下がる。

「わたしもがんばる！」

「ああ、そうだな。俺の真似をすると良いかもしれないぞ」

　まあ、子供は魔法が使えないのだけれど、形だけでも真似をすれば満足するだろう。
　俺は笑顔でソフィーを見守った。

「ファイア！　出来た！　リョージ見て！　出来たよぉ～！」

「えっ!?　ああ！　本当だ！　ソフィー凄いぞ！」

　ソフィーの指先に小さな炎が！
　俺はソフィーを褒め、ソフィーはピョンピョンと跳びはねて喜ぶ。

　しかし、子供は魔法が使えないはずでは？
　なぜソフィーは生活魔法が使えたのだろう？

　俺は魔法の入門書を開いて、子供の魔法について書かれたページを開く。

（あった！　なになに……）

　体の成長に伴って体内の魔力も成長する。
　ゆえに子供のうちは魔力が安定しないので魔法の発動が難しい。
　体の成長が終わり、大人になり体内の魔力が安定すると魔法が使えるようになる。

　まれに子供でも魔法を使える者がいる。
　魔力が多く、魔力のコントロールに秀でた魔法の才がある者である。

（ということは……ソフィーは魔法の才能があるのか！）

　魔法使いソフィー誕生である。

　俺とソフィーは、生活魔法の『ライト』、『クリーン』、『ファイア』、『ウォーター』をすぐにマスターした。

「凄いぞ！　ソフィー！　凄いぞ！」

　俺はソフィーを両手で持ち上げた。
　俺の胸の中は、誇らしく嬉しい気持ちで一杯だ。

　日を浴びてキャッキャと喜ぶソフィー。
　俺は幸せを感じた。