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第一章 異世界転生したオッサン(サイドクリークの町編)

第6話 異世界でハウマッチ!

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「ソフィー。それは果物ナイフだけど……売れるのかな?」

「売れるよ! この町に鍛冶屋は一軒しかないの」

 ソフィーは果物ナイフを選んだ理由を説明し始めた。

 このサイドクリークの町には、鍛冶屋が一軒しかなく、さらに鉄が不足しているので、鉄製品が品薄状態らしい。

(これはなかなか貴重な情報だな!)

 ソフィーは、町のあちこちでお手伝いをしている。
 だから、町のことをよく知っているようだ。

「じゅあ、この鍋やフライパンは?」

「お鍋は小さいと思う。そのフラ? フラなんとかは、見たことがないよ」

 ふむ。フライパンは存在しない世界なのか。
 なら無理に売ることはない。

 俺はソフィーと相談して、果物ナイフと包丁をピックアップ。
 さらに新品の布製品は、なかなか手に入らないとのことなので、ティーシャツを売ることにした。

「ソフィー。調味料や香辛料は、どうかな?」

「ちょうみりょう……? こうしんりょう……? 何それ?」

「塩やコショウだよ」

「塩はね! 領主様以外は売っちゃダメだよ! こーしんりょうは、初めて聞いたから知らないよ」

 塩やコショウが高く売れるなんて、マンガみたいな展開を期待したが、塩は領主の専売制のようだ。
 塩を売ったら罰せられるかもしれない。
 コショウも売って良いのか判断がつかないから、とりあえず保留だ。

 ソフィーは果物ナイフの他に包丁とティーシャツを選んだ。
 ティーシャツは二枚組の普通の白いティーシャツだが、ソフィー曰く『真っ白な服は見たことがないので、興味を持ってもらえるよ!』とのことだ。
 それに、この町では古着が当たり前で、新品の服はなかなかお目にかかれないらしい。
 だからソフィーの目には白いティーシャツが、『かなり良い物』に映るらしい。

 場所が変われば、物の価値も変わるというし、物は試しにティーシャツも並べてみることにする。


 俺はソフィーと一緒に、売り物を抱えて移動販売車から降りると、レジャーシートの上を片付け始めた。
 野菜と肉を移動販売車に戻して、果物ナイフ、包丁、ティーシャツを、パッケージから取り出して並べた。

 腕時計を見ると、既に午後三時だ。
 広場では片付け出す店もチラホラ出始めた。

(売れてくれ!)

 俺はレジャーシートに座りながら、神様仏様に祈った。


 三十分ほど過ぎ、俺の隣に座るソフィーが立ち上がって、誰かに向かって手を振った。

「クロエお姉ちゃん!」

 ソフィーが手を振る方を見ると、五人組の女性がいた。
 革鎧を身につけ、剣や槍を手に持っている。
 一人は魔法使いのようにローブを羽織っている。

 全員美人ではあるが手にした武器を見て、俺はちょっと気持ちが引いてしまった。
 多分、あの五人の女性は冒険者だろう。

 クロエと呼ばれた女性は、ソフィーに手を振り返すとニコッと笑い、こちらにやって来た。

 クロエさんは黒髪の美人さんで、ソフィーの前まで来ると身をかがめてソフィーの頭を撫でた。

「ソフィー。今日は、このお店のお手伝いか?」

「そうだよ! お手伝いしたら、美味しいパンをもらえるの!」

「そうか。偉いな!」

「えへへ! クロエお姉ちゃん。ナイフ買わない?」

「ほう。ナイフか!」

 ソフィーが俺をチラリと見た。
 絶妙のパスだ!

 俺はクロエさんに、果物ナイフを差し出す。

「どうぞ! 手に取ってご覧下さい」

「拝見しよう。ほう……」

 クロエさんは、果物ナイフの木目調の鞘から抜いた。
 ナイフの刃をジッと見て、軽く刃を触る。

「店主。これは良い物だな」

 果物ナイフは、メーカー品なので、物は確かだ。
 ただ値段は千円なので、高級品ではない。
 この世界の人には、良い物に見えるのだろうか?

(買ってくれ~! 買ってくれ~!)

 俺はドキドキしながら接客する。

「そちらはステンレス製です、メーカーはイカ印です」

「ステ……? メーカー……?」

「ステンレスという金属です。サビにくいのが特徴です。メーカーというのは、工房のことです。ほら、刃の部分に印があるでしょう?」

「なるほど、これか!」

 クロエさんだけでなく、五人の女性が果物ナイフをのぞき込んだ。
 五人とも真剣に吟味する目だ。

「良さそうだが、戦闘用としては刃が小さいな……」

 果物ナイフでバトルはダメだ!
 クロエさんが、とんでもないことを言うので、俺は慌ててフォローする。

「そのナイフは調理用です! 果物や野菜を切るためのナイフです!」

「おお。そうなのか。なるほど、それならこれくらいの刃で十分だな。丁度、解体用のナイフがへたってきていたのだ。店主、このナイフはいくらだ?」

「えーと……」

 いくらと言えば正解だろう?
 日本での価格は千円だが、このサイドクリークの町では、鉄製品が不足しているとソフィーが教えてくれた。。
 なら、もうちょっと高い値付けでも良さそうだ。

 俺が迷っていると、ソフィーが答えた。

「クロエお姉ちゃん。このナイフは大銀貨五枚だよ」

 大銀貨五枚?
 俺は、この町で流通している通貨がわからないので、ソフィーに任せてみることにした。

「大銀貨五枚は高くないか? このナイフは、刃渡りが短いぞ。大銀貨三枚だろう」

「でも、珍しい金属を使っているでしょう? サビにくいんだよ! 工房の印も入っている良い物だよ!」

「うーん。では、大銀貨四枚でどうだ?」

 ソフィーが、俺に目配せした。
 どうやらソフィーの見立てでは大銀貨四枚が妥当な値段らしい。

 俺はクロエさんに頭を下げ、大銀貨四枚で取り引きを了承した。

「はい。大銀貨四枚でお願いします!」

「よし! 大銀貨四枚だ!」

 クロエさんは、俺に銀色の硬貨を四枚支払ってくれた。
 大きさは五百円玉くらい。厚みがあって重い。

 俺はありがたく大事に大銀貨四枚を、ズボンのポケットにしまった。

「ねえ。このシャツは新品?」

 ローブを着た魔法使い風のお姉さんが、俺に聞いてきた。

「はい。新品です。手に取っていただいて結構ですよ」

 俺は女性用のティーシャツを魔法使い風のお姉さんに手渡す。
 お姉さんは、ティーシャツを受け取ると目を丸くした。

「手触りが良いね! それに真っ白!」

 他の四人もティーシャツを触り、強い関心を示している。

「そちらのシャツは全て綿で出来ていて、イルゼという工房の製品です。良い物ですよ」

「そうだね。けど、ちょっと生地が薄くない?」

「そちらは肌着です。服の中に着るんです。こんな風に」

 俺の服装は、スーパーの制服である紺色のズボンに、スニーカー、ワイシャツである。
 俺はワイシャツのボタンを一つ外して、ワイシャツの下に着たティーシャツを見せた。

「へ~、お貴族様みたいだね~」

「肌着を着けると汗を吸ってくれるので、ムレによる不快感を減らしてくれます」

「それは良いわね!」

 魔法使い風のお姉さんは、真剣に考えている。
 ティーシャツを広げて体に合わせてサイズを確認し、クロエさんたちとなんやかんやと話している。

 もう一押しかなと俺は口を開く。

「そちらはティーシャツと言う商品です。私の国では、男性も女性も着ています。普段使いのシャツですが、そちらは良い物です。軽く引っ張って見て下さい。伸び縮みするので、体にフィットして動きやすいですよ」

「おお! 本当だ! これはいくら?」

 俺はチラリとソフィーを見て、価格交渉をお任せした。
 ソフィーは俺の意図を読み取り、すぐに値段を提示した。

「大銀貨二枚だよ!」

「高いよ!」

「だって、新品だよ! 真っ白だよ!」

「ううん、そうか……。新品か……。でも、欲しいな……。大銀貨一枚!」

「じゃあ、二枚買ってよ! それなら二枚で大銀貨三枚で良いよ!」

 ソフィーたちのやり取りを見ていると、この町では価格交渉をするのが当たり前のようだ。
 俺は東京住みだったので、あまり値切ったことはない。
 だが、外国では値切りが当たり前の国もある。

 コレばっかりはお国柄だな。

 結局、魔法使い風のお姉さんと、剣士風のお姉さんが一枚ずつ買うことになり、大銀貨三枚を売り上げた。

「ではな」

「ありがとうございます!」

「クロエお姉ちゃん! ありがとう!」

 ナイフの売り上げと合わせて大銀貨七枚!
 これで門番さんに待ってもらっている入場料銀貨一枚を支払える。
 俺はほっと胸をなで下ろした。

 しかし、この大銀貨はどのくらいの価値があるのだろう。
 俺はソフィーに教えを請うことにした。
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