上 下
7 / 51

第7話 出発! 出来ません!

しおりを挟む
 ――翌朝!

 俺は町を探しに行くと決めた。
 マリンさんや昨日から行動を共にしている仲間に打ち明けたところ賛成意見が相次いだ。

 特に鋼鉄の料理人津田さんの意見は深刻だった。

「もう、みんな気が付いていると思うが、調味料がないんだ。さ、し、す、せ、そ。全てない。肉を焼くだけではなあ……」

 津田さんが焼いてくれた巨大な鹿の肉は美味しかった。
 だが、確かに味付けが何もないので、朝食の段階で飽きが来ている。

「ご飯が食べたい」
「パンとか炭水化物が欲しい」
「野菜! 私は葉物がないと辛い!」
「コーヒーか、せめてお茶が飲みたいです。水ばかりでは……」

 ああ。俺もコーヒーが飲みたい。
 缶コーヒーのベッタリとした甘さが、疲れている時に効くんだよな。

 俺の仲間たちから反対意見は出なかった。

「マリンさん。一緒に来てもらえますか?」

「喜んで! 異世界の町へ行くなんて楽しそうじゃないですか!」

 飲料水担当のマリンさんも確保。
 これで、出発できる……と思ったら、邪魔が入った。

 俺たちが話しているのを聞きつけて、クレームオッサン軍団がやって来たのだ。

「勝手な行動をとるな!」
「君たちがいなくなったら、誰が食料を調達してくるんだ!」
「そうだ! そうだ! ここの安全確保はどうなる!」
「夜の見張りが減るじゃないか!」
「責任を持て!」

 俺はカチンと来て、言い返した。

「アンタたち何を勝手なことを言ってるんだ! 俺に何の責任があるっていうんだよ! このままここにいてもジリ貧になるから、町を探しに行くんだろうが!」

 鹿の代わりにコイツらを撃ってしまいたい。
 俺はイライラしたが、イラッとしたのは、俺だけではなかった。
 仲間たちから、強烈な不満の声が上がる。

「そんなに元気だったら、食料は自分たちで調達すれば?」
「夜の見張りって……、そちらは誰も見張りをやってないですよね?」
「安全確保? 笑わせるなよ。自分で戦えよ!」
「そうだ! 高校生の女の子だって、戦ってたぞ!」

 ジョブ『勇者』の女の子がいて、巨大鹿の顔面を素手でぶん殴っていた。
 巨大鹿は一発もらってグロッキーになっていたので、素手でも相当強い。
 さすが勇者!

 それに比べて、このオッサンたちは……。
 オッサンでもジョブやスキルによって、活躍の場はいくらでもあると思うのだが……。

 俺の仲間たちと、クレーマーオッサンズが大声でもめだしたので、車掌の町田さんが仲裁に入った。

「ミッツさん。町を探しに行くのは、数日待ってください!」

「どうしてですか!?」

「実は――」

 俺は寝ていて気が付かなかったが、昨晩痴漢騒ぎや盗難騒ぎがあったそうだ。

 女性が宿泊している電車をのぞき見しようとして、女性の見張りにボコボコにされた男が一名。

 カバンに入れてあったのど飴が一つなくなった、盗まれたと騒ぎ出した男が一名。

 話を聞いていたマリンさんが、呆れてつぶやいた。

「そんな……のど飴一つで……」

 俺も同じ思いだ。
 だが、柴山さんは違う考えらしい。

「いや、飴一つでも日本の物は貴重品ですよ。もう、二度と手に入らないのです。それに食料品ですから、盗まれた人にとっては死活問題でしょう」

「「「「「ああ~」」」」」

 俺たちの仲間全員で納得した。
 なるほどなあ……、そりゃ騒ぐよな。

「だったらなおさら、早く町を見つけて食料品を手に入れた方が良くないですか?」

 俺は車掌の町田さんに強く申し入れた。
 町田さんは、何度もうなずきながらも、俺たちが出発することを押しとどめた。

「みなさんミッツさんのことを知っているんですよ。食料を提供してくれる親切な人だと定着しています。今、ミッツさんがいなくなったら、大パニックです」

「はあ……」

 別に親切でやっている訳じゃない。
 状況が状況だから、食料を分けただけだ。
 自分への評価が正確ではないことにため息をつく。
 俺は『スーパー親切マン』じゃないよ。

「ですから、食料を提供してくれる人が増えるまで待ってください。そうしないと、治安が一層悪くなってしまいます!」

「うーん……」

「お願いします!」

 車掌の町田さんの声は、悲鳴のようだ。
 目の下にはクマが出来て、頬はこけてゲッソリしている。

 人間たった一晩で、こんなになっちゃうんだ……。

「わかりました。数日様子を見ます」

「ありがとうございます!」

 俺は車掌の町田さんからの要請を受け入れた。
 クレームオッサン軍団と車掌の町田さんがいなくなると、リクが面白くなさそうに首を振る。

「ミッツ……。イイのかよ?」

「仕方ないだろ? 町田さんゲッソリして、あんな状態で頼まれたら断れないよ」

「まあ、しゃあねえか」

 俺は仲間に声を掛けた。

「とにかく良いスキルを持っている人を探して、仲間に引き込もう。特に狩りが出来る人、獲物の解体が出来る人を優先だ!」

「「「「「了解!」」」」」

 町を探しに行く――目標を変える気はない。
 ただ、ここでの暮らしを、もう少し安定させてから、食料を安定確保出来るようになってから出発だ。

 面倒は面倒だけれど、餓死者が出たり、食料の奪い合いで死者が出たりしたら気分が悪いからなあ……。


 仲間たちが散って、俺、リク、柴山さん、マリンさんも動き出そうとした時、イケメン高校生が声を掛けてきた。

「すいません。ミッツさんですか?」

「そうだよ。君は?」

「勇者佐伯です!」

「お、おう……!」

 勇者佐伯君は、キラキラした笑顔を俺たちに向けた。
 若いってスバラシイですね……。

「相談したいことがあるんです! 僕たちと取り引きしませんか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...