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第十一章 文明開化

第337話 女王陛下万歳!

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 俺は会議場の旧メロビクス王大国貴族たちにグンマー連合改造論の具体的な話を続けた。

「鉄道というのは、軽便鉄道よりも大きく速度が出る輸送手段だ。この鉄道の路線図は諸君の手元に配った地図に書き込んである」

 貴族たちが、二枚の書類のうち地図を手に取る。
 地図にはグンマー連合王国の略図が印刷してあり、敷設する予定の鉄道路線図が大雑把に記してある。

 鉄道の大まかなルートは、こうだ。


 ------------------

 王都キャランフィールド
 ↓
 旧フリージア王国王都
 ↓
 旧メロビクス王大国王都メロウリンク

 ------------------


 地図を見た旧メロビクス王大国貴族たちは、皆真剣な顔で地図をにらんだり、近くに座る者と話をしたりしている。

「やった! 私の領地の近くを鉄道なるものが通るぞ!」

「うらやましいですな! 私は海沿いの領地ですので、鉄道の恩恵をうけそうにありませんな……。いや、しかし……」

「むう……。なんとか食い込めないものだろうか……」

 会議場の旧メロビクス王大国貴族たちが、敷設予定の鉄道路線図を頭に入れたあたりで、俺は話を再開した。

「鉄道の始点は、北にある王都キャランフィールドだ。キャランフィールドから、南西に進み旧フリージア王国王都へ到着。旧フリージア王国王都から西へ進み旧メロビクス王大国王都メロウリンクまでを予定している。諸君らは――」

 俺は旧メロビクス王大国貴族たちの様子を見て、『さすがは大国の貴族だった連中は違う!』と感心していた。

 彼らは、『自領が発展するチャンスである』と既に理解しているのだ。
 与えられた情報は、俺の大雑把な説明と概要を記した文章と地図だけなのに!

 鉄道敷設予定近くに領地がある貴族は目をギラギラさせ、そうでない貴族は何とか鉄道にからめないかと思案顔をしている。

 もし、これがフリージア王国の貴族たちだったら、こうはいかないだろう。
 俺の話に興味を持っても、『何のことだろう?』と理解が進まないと思う。

(これが大国の貴族だな……。機を見るに敏……。いや、肉食獣の嗅覚か?)

 俺は内心で舌を巻きながらも、表情に出さないように淡々と説明を続けた。

「着工は九月を予定している。私、ルーナ・ブラケットなど有力な魔法使いを動員する。鉄道敷設はホレック工房が監修し、冒険者ギルドにも発注を出し労働者をかき集める」

 会議場の貴族たちが工事の経済効果についてソロバンをはじき出したな。
 会議場がムラと熱を帯びてきた。

「なお。先の戦争に参加した兵士や兵士の遺族は、優先して雇用する!」

 俺は目をつぶり胸に手をあて、亡くなった兵士に対して哀悼の意を表した。
 会議場にいる人、全員が俺にならう。

「続きは、アリー・ギュイーズに任せる」

 俺は説明役を婚約者のアリーさんに交代した。
 アリーさんは、ギュイーズ侯爵の孫娘で、旧メロビクス王大国貴族たちに顔が売れている。

 アリーさんは、鉄道を木の幹、軽便鉄道や道路網を枝に例えて、貴族たちの理解を深めてゆく。

「シャンタル男爵。お嬢様はお元気ですか? シャンタル男爵の領地は鉄道からは離れておりますが、街道整備計画に入ってますわ」

「おお! ありがとうございます!」

「ヴィリエ子爵。街道整備には、アンジェロ陛下が参加下さりますわ。魔法で街道を石畳にして下さいますのよ。キャランフィールドと同程度の道になりますわ」

「陛下に重ねて感謝を!」

「メルシー伯爵。軽便鉄道を購入すれば、旧王都メロウリンクから伯の領地まで直通です。伯なら許可はおりますわ」

「これは、これは! 早速検討いたしましょう!」

 資金力の少ない男爵、子爵クラスには、街道整備の話。
 資金力のある伯爵クラスには、軽便鉄道の話。

 アリーさんは、相手に応じて巧みに話を変えた。

 どうやら、会議は良い感じで終わりそうだ。
 俺は安堵して深く息を吐いた。


 *


 王都キャランフィールドから海峡を挟んだ向こう側にあるエリザ女王国。
 王宮では、女王エリザ・グロリアーナとドレイク船長が陰謀の糸を紡いでいた。

「女王陛下。グンマー連合王国に楔を打ち込むとおっしゃいましたが、どのように?」

「商船を襲え。許可を出す」

 女王エリザ・グロリアーナの物騒な言葉に、ドレイク船長はニッコリ笑って答えた。

「なるほど。海賊をせよと?」

「直截に過ぎるな。怪しい偽装商船に襲われたので反撃し拿捕した……そんなところか?」

「我が身を守るためであれば、致し方ないですなあ~」

 ドレイク船長は、とぼけた顔でシラッとヒドイ言い訳を口にした。
 そして、獰猛な笑顔を女王エリザ・グロリアーナに見せる。

「では、グンマー連合王国の商船を片っ端から襲いましょう!」

「いや、待て。そうではない」

「……と、おっしゃいますと?」

 ドレイク船長は、女王エリザ・グロリアーナの真意をはかりかねた。
 女王は自分に何をさせたいのだろう?
 ドレイク船長は首をかしげた。

 女王エリザ・グロリアーナは、そばに立つ宰相へ問いかけた。

「宰相。グンマー連合王国の構成国を述べよ」

「はい、女王陛下。グンマー連合王国は多数の構成国から成ります。核になっている国は四つ。アンジェロ・フリージア王国、アルド・フリージア王国、北メロビクス、南メロビクス。そして、他の構成国は――」

「よい」

 女王エリザ・グロリアーナは、宰相の言葉を途中で切る。

「ドレイク船長。狙うのはアルド・フリージア王国の商船にせよ」

「アルド・フリージア王国の商船だけにございますか……?」

 なぜだろう?
 ドレイク船長は考えた。

 特定の国の商船だけ襲うと、『待ち』が発生する。
 襲撃をかけるポイントの近くや拠点近くの海上で待機をしなければならない。
 食料や水を消費し『待つ』のだ。

 グンマー連合王国の商船を片端から襲う方が、効率が良い。

 だが、女王は『アルド・フリージア王国の商船だけを狙え』と言う。

 ドレイク船長の疑問に女王エリザ・グロリアーナが答えた。

「アルド・フリージア王国は、アルドギスル殿の国だ。アルドギスル殿は、グンマー連合王国総長アンジェロ殿の兄である」

「なるほど!」

 ドレイク船長は、女王エリザ・グロリアーナが言わんとすることを理解した。
 宰相が口角を上げながら首を振る。

「やれやれ、女王陛下もお人が悪い。兄弟の仲を裂くのですか! では、『アンジェロ陛下が、アルド・フリージア王国を我が物にするために、商船を襲わせている』と流言を仕掛けますか?」

「うむ。そのように計らえ」

「ははっ!」

 宰相は、うやうやしく女王に一礼した。

(美麗な王族など不要だ。 容赦のない女王こそが、我が国に相応しい!)

 宰相は心の中で、女王エリザ・グロリアーナを褒め称えた。
 だが、口にはしない。
 余計な追従など、女王の機嫌を損ねるだけなのだ。

 女王エリザ・グロリアーナは、スッと右手を伸ばしてドレイク船長に命じた。

「ドレイク船長。アルド・フリージア王国の商船を一隻残らず屠るがよい」

「勅命謹んでお受けいたします。女王陛下万歳!」
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