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第十一章 文明開化
第319話 クリスマスSS2022 ルーナへのプレゼント
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※本話は番外編です。クリスマス特別ショートストーリーです。本編ストーリーとは、関連しません。
――十二月二十五日、グンマー連合王国の首都キャランフィールド。
「ジンゴーベー♪ ジンゴーベー♪」
「まあ、ルーナさんは、歌もお上手ですね!」
「歌も良いけど、ケーキを早く食べたい!」
俺は食堂をのぞいてみた。
すると俺の婚約者三人、ルーナ先生、アリーさん、白狼族のサラが、キッチンで何やら作っている。
「何を作っているのですか?」
「クリスマスケーキ!」
サラが元気よく答える。
サラはケーキを食べるのが楽しみなのだ。
俺は前世日本の習慣を、いくつかこの異世界に持ち込んだ。
クリスマスもお祭りとして持ち込んだのだが、なぜか『恋人や夫婦が仲良く過ごす日』で定着してしまった。
解せぬ……。
婚約者三人は大きなケーキを作っていて、ルーナ先生が風魔法を使って生クリームを激しくかき混ぜている。
相変わらず器用だ。
「アンジェロ。私はプレゼントが欲しい」
ルーナ先生が、ジトッとした目でおねだりしてきた。
婚約者におねだりする時は、もっと甘えるものだと思うが、この常日頃と変わらない感じがルーナ先生らしい。
「クリスマスプレゼントですね! 何か欲しい物がありますか?」
クリスマスプレゼントか……。
前世日本だと、アクセサリーとか、洋服とか、バッグとか!
ルーナ先生は、何をリクエストするかな?
ルーナ先生が目を輝かせた。
「ドラゴンの首が欲しい!」
「えっ……!?」
ドラゴンの首だと!?
色気の欠片もない物がリクエストされたぞ……。
「ルーナ先生……、そんな物をもらって、どうするのですか?」
「ベッドのそばに飾る!」
俺は額に手をあてて天を仰いだ。
ベッドサイドにドラゴンの首を飾る女が、どこにいるのだ!
そうすると……、いずれ来る俺とルーナ先生の初夜は、ドラゴンの首に見つめられながら……なのか!?
さすがに、そんなシチュエーションは勘弁して欲しい。
俺が違う物にしてもらおうとすると、白狼族のサラがルーナ先生の希望にのった。
「いいな! じゃあ、私はドラゴンの爪! 短剣にするんだ!」
ドラゴンの爪……。
これまた色気のないリクエストである。
俺は視線をアリーさんに移した。
アリーさんは、女性らしさと知性を兼ね備えた人物だ。
よもや婚約者にドラゴンをねだるようなことはすまい。
「私はドラゴンの血をお願いしますわ!」
オーイ! 女性らしさと知性はどこへ行った!
「アリーさん。ドラゴンの血なんて、何に使うのですか?」
「お薬にしておじい様にお送りしたいの」
「あー……」
なるほど、そういうことか。
だが、クリスマスプレゼントが、ドラゴンの首、ドラゴンの爪、ドラゴンの血なのは、どうかと思う。
俺は説得を試みた。
「あの……婚約者からのプレゼントなら、ネックレスとか、指輪とか、アクセサリーの方が良いのでは?」
アクセサリーは、ド直球!
クリスマスの王道である!
「興味がない」
ルーナ先生は、まったく興味を示さなかった。
「食べられない」
サラは、まだ色気より食い気のようだ。
「国宝クラスなら、喜んでいただきますわ」
クッ……!
アリーさんは、貴族の超お嬢様だ。
アクセサリーなら、掃いて捨てるほど持っているのだろう。
「わかりました……。ドラゴンを狩ってきます」
買って、じゃなく、狩ってなのだ。
おかしなクリスマスになってしまった……。
*
「ドラゴンであるか?」
「ええ。どこかにいませんかね?」
俺はキャランフィールドの冒険者ギルドに黒丸師匠を訪ねた。
いくら俺でも一人でドラゴン狩りにはいかない。
黒丸師匠に付き合ってもらうのだ。
「ドラゴンを狩るなら、ダンジョンに潜るのが確実である!」
「いえ、それだとクリスマスに間に合わないのです」
ドラゴンがいるダンジョンともなれば、一月潜りっぱなしになることも珍しくない。
到底クリスマスには間に合わない。
俺は黒丸師匠に事情を話した。
「ほー! クリスマスなる祭りは、ドラゴンの首を神に捧げるのであるな!」
「違います!」
説明をやり直した。
「なるほど。ルーナも困ったモノであるな。婚約者にドラゴンの首をねだるとは……」
「まあ、でも、他の二人もドラゴンの爪とドラゴンの血が希望ですから、頑張ってドラゴンを狩ろうと思います。どこかに出没していませんか?」
ダンジョンのドラゴンを狩るとなると時間がかかるが、フィールドにいるドラゴンを狩るなら転移魔法を使って、すぐに移動が可能だ。
「ドラゴンであるか……。あっ! そういえば!」
黒丸師匠は、執務机の上にのせてある書類をめくり始めた。
そして、一枚の書類を俺に手渡した。
「ミスルの冒険者ギルドからですね」
「うむ。火竜が出たようである。隊商が襲われたのである」
書類には、大まかな事情が書いてあった。
・大きな火竜がミスルの南で出現。
・隊商が襲われた。
・すぐに逃げたので、死者は出なかったが、積み荷の食料は火竜に食べられてしまった。
「いいですね! この火竜を狩りましょう!」
「うむ! それがしも付き合うのである!」
黒丸師匠が立ち上がり、壁に立てかけてあったオリハルコンの大剣を背負った。
相変わらず頼もしいな。
黒丸師匠と二人なら火竜も問題ない。
出かけようとすると突然ドアが開き、両手一杯に書類を抱えたミディアムが入ってきた。
「ちょっと待った! 黒丸の旦那! どこへ行くんだよ!」
「火竜の討伐である!」
「オイ! 後にしてくれよ! この通り、年末で仕事が忙しいんだよ!」
「ミディアムに任せたのである!」
「任せるなよ!」
「メリークリスマスである!」
「待て! 待てよ!」
黒丸師匠は、笑顔で冒険者ギルドを飛び出した。
ミディアムの悲鳴が冒険者ギルドに木霊する。
「黒丸師匠……良いのですか?」
「大丈夫である。ああ見えて、ミディアムはなかなか優秀なのである。これも修行であるよ」
がんばれ! ミディアム!
*
転移魔法と飛行魔法を使って、ミスルの南にやって来た。
空を飛んでいても、砂漠は暑い。
「たぶん、この辺りである」
眼下には、砂漠の中を行く隊商が見える。
ラクダの背に荷物を載せて、砂漠の中の交易ルートをゆっくり移動している。
「来たのである!」
黒丸師匠が、南の空を指さした。
指さす先には赤い点が見えたが、みるみるうちに大きくなる。
「火竜だ! 不味い! 隊商が真下にいます!」
「それがしが、時間を稼ぐのである! アンジェロ少年は、隊商に報せるのである!」
「了解です!」
「王国の牙! 黒丸! 推参である!」
黒丸師匠は、背中のオリハルコンの大剣を抜くと、火竜に向かって一直線に飛んでいった。
俺は高度を落としキャラバンと併走するように飛ぶ。
「急いで逃げて! 後ろから火竜が来ている!」
俺が危機を報せると、隊商の商人たちは大慌てで動き出した。
「ええ!? 火竜!? ああ! 本当だ!」
「みんな急げ!」
「ラクダを走らせろ!」
隊商は北へ向かって急いで移動を始めた。
これなら戦いに巻き込まれることはないだろう。
俺は黒丸師匠が戦う空域へ急いだ。
*
黒丸師匠と火竜が戦う空域に到着すると、激しい音が響いていた。
黒丸師匠がオリハルコンの大剣を振るい、火竜は鋭い爪や太い尻尾で応戦する。
火花が散る空中戦が展開されていた。
「なかなかやるであるな!」
黒丸師匠は真剣そのものだが、強敵を見つけてどこか嬉しそうだ。
とはいえ、長々と戦ってはいられない。
クリスマスプレゼントに、火竜の首、爪、血が必要なのだ。
魔法でさっさと倒してしまおう。
火竜の弱点は、水属性魔法だ。
『火は、水をもって制せよ』
魔法の定番だ。
俺は魔力を練り上げ始めた。
黒丸師匠と火竜の戦いをジッと見つめながら、集中する。
(あれっ?)
火竜から何か違和感が……。
何だろう?
「あっ! 黒丸師匠! その火竜ですが、痩せていませんか? 不自然ですよ!」
「なぬ!? あっ!」
黒丸師匠が一瞬動きを止めた。
火竜はその瞬間を見逃さず、黒丸師匠の死角から尻尾を打ちつけたのだ。
「黒丸師匠!」
黒丸師匠は気を失ったのだろう。
地上へ向かって一直線に落ちていく。
とはいえ、下は柔らかい砂だし、黒丸師匠は頑丈だ。
大丈夫だろう。
それよりも火竜だ。
前衛の黒丸師匠を失ったのだ。
素早い対応が求められる。
俺は練り上げる途中だった魔力を解放することを決めた。
水魔法『ウォータートルネード』を速射する。
火竜を倒すには威力不足の魔法だが、俺の場合は水量が多い。
黒丸師匠が戦線復帰するまでの時間稼ぎにはなるだろう。
「ウォータートルネード!」
大量の水が火竜を取り巻く。
トルネードの言葉通り、空中でありながら水流が火竜を翻弄する。
激しい水の渦にとらえられた火竜は、水の流れに身を任せるしかない。
俺は魔力を注ぎ続け、ウォータートルネードを維持する。
やがて、黒丸師匠が戻ってきた。
「いやいや、不覚である!」
「余計なことを言って、すいません。集中を乱してしまいました」
「良いのである。それがしこそ、修行が足りなかったのである……ぬぬ!?」
「あれ!?」
俺と黒丸師匠が話していると、火竜が力尽き落下してしまった。
火竜はタフな魔物だ。
あの程度の水魔法で力尽きるのは考えられない。
「妙ですね……」
「おかしいのであるな?」
俺と黒丸師匠は、火竜を追って地上へ降りた。
地上へ降りると、火竜は砂漠に横たわりグッタリとしている。
黒丸師匠が、オリハルコンの大剣を抜いてトドメを刺そうと歩み寄った。
「確かに痩せているのである。この火竜は弱っていたのであるな」
「それで弱かったのか」
「うむ。事情はわからないのであるが、これも戦いの定めである! 覚悟するのである!」
黒丸師匠がオリハルコンの大剣を高く掲げ、砂漠の日差しを反射して大剣がギラリと光った。
「「ピー! ピー!」」
遠くから泣き声が二つ聞こえた。
「何であるか!?」
「黒丸師匠! あれ!」
こちらに向かって、小さな竜が二匹飛んでくる。
小さな竜は火竜の背中の上に降り立った。
「あっ……! 子供……!」
「で、あるな……。この火竜は、卵を孵すために、ずっと巣にいたのかもしれないのである」
「それで痩せていたのですか?」
「恐らく……」
チビ火竜二匹は、母親の火竜にすがり泣き叫んだ。
やがて、火竜と黒丸師匠の間に入り、母竜を守ろうと俺たちを威嚇し出した。
だが、チビ火竜も痩せていて、必死に叫ぶが迫力がない。
「黒丸師匠……。さすがにこれは……」
「ぬぬっ! やりづらいのである!」
この状況で火竜を殺すのは、さすがに鬼畜過ぎるだろう。
俺はアイテムボックスから魔物の肉を取り出した。
「黒丸師匠。ドラゴンって、魔物の肉を食べますか?」
「ドラゴンの生態は、謎に包まれているのである。この世界の魔力を取り込んでいるともいうし、弱い魔物を食べるともいうのである」
「試しに、肉をあげてみましょう」
俺は、チビ火竜に魔物の肉を与えた。
最初は警戒していたが、チビ火竜は喜んで魔物の肉を食べ始めた。
「食べていますね!」
「お腹が空いていたのでる!」
続いて、グッタリと横たわる火竜の口元に魔物の肉をおいてみた。
すると火竜は、バクリと魔物の肉を食べ、嬉しそうに目を細めた。
「黒丸師匠。ドラゴンって、話は通じますか?」
「どうであるか……。だが、長生きした竜は、人よりも賢いというのである。この火竜は子供もいるので、長生きした竜かもしれないのである」
俺は試しに火竜に話しかけてみた。
「お腹が空いているなら、もっとお肉をあげるよ。だから、君の爪や血をわけておくれよ」
俺はアイテムボックスから追加で魔物の肉を取り出した。
火竜は美味しそうに魔物の肉を平らげると、右足を俺の前に出した。
先ほど黒丸師匠とやり合ったからだろう。
爪が一本折れていた。
俺は折れていた爪を受け取り、傷口から流れる血をコップに注いだ。
「アンジェロ少年! ルーナへのプレゼントはどうするのであるか?」
「そうですね……」
困ったな。
ルーナ先生のリクエストは、ドラゴンの首だ。
何か代りの物を……。
俺が考え込んでいると、火竜が体の向きを変えた。
俺の目の前に火竜の巨体が横たわる。
「あっ! 鱗が!」
火竜の横腹には、赤くきらめく鱗がビッシリと生えている。
その中の一枚が、グラグラしていた。
手でも抜けそうだ。
「この鱗をもらって良いの?」
「グアー」
火竜は、優しい鳴き声を上げた。
多分、イエスと言っているのだろう。
グラグラしている鱗を握って引き抜くと、スンナリと抜けた。
火竜の鱗は炎のような赤色で、砂漠の夕日のようでもある。
俺は火竜の鱗を手に入れた。
「黒丸師匠。火竜をキャランフィールドの北へ連れて行きましょう。あそこなら食料になる魔物も多いし、人が住んでいないので迷惑にならないでしょう。ダメでしょうか?」
「良いのである! 罪を憎んで、竜を憎まずである! 隊商を襲わないのであれば、親子でノンビリ暮らすと良いのである」
*
「――ということが、あったんだ!」
「「「へー!」」」
キャランフィールドに戻ると、俺は早速婚約者たちにプレゼントを渡し、今日起きたことを話した。
アリーさんに、ドラゴンの血。
白狼族のサラに、ドラゴンの爪。
ルーナ先生に、ドラゴンの鱗だ。
「ルーナ先生、すいません。ドラゴンの首は、さすがにかわいそうで……」
「同感。私は嬉しい。アンジェロが私のために、ドラゴンと戦ってくれたから。この火竜の鱗は大切にする」
良かった!
ルーナ先生も納得してくれた。
「さあ、ディナーにしましょう! 今日はコカトリスのロースト肉がメインディッシュだわ! ケーキもあるの! みんなを呼んできて!」
アリーさんの号令で、俺たちはキャランフィールドの仲間を呼び集めた。
熊族のボイチェフ、リス族のキュー、黒丸師匠やミディアムたち冒険者ギルドの面々、ホレックのおっちゃんを始めとする鍛冶師たち、エルフや商人たちもやって来た。
気心の知れたキャランフィールドの仲間たちが揃ったところで、俺は酒の入ったグラスを高く掲げた。
「メリークリスマス!」
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
大人数の楽しい晩餐が始まった。
ちょっとお行儀の悪い連中が多いが、アリーさんも目くじらを立てずに楽しんでいる。
食堂の窓から外を見ると、雪が降り始めていた。
キャランフィールドの北に住処を移した火竜の親子に向かって、俺はグラスを掲げた。
「メリークリスマス!」
◆―― 作者より ――◆
皆様よいクリスマスをお過ごし下さい!
――十二月二十五日、グンマー連合王国の首都キャランフィールド。
「ジンゴーベー♪ ジンゴーベー♪」
「まあ、ルーナさんは、歌もお上手ですね!」
「歌も良いけど、ケーキを早く食べたい!」
俺は食堂をのぞいてみた。
すると俺の婚約者三人、ルーナ先生、アリーさん、白狼族のサラが、キッチンで何やら作っている。
「何を作っているのですか?」
「クリスマスケーキ!」
サラが元気よく答える。
サラはケーキを食べるのが楽しみなのだ。
俺は前世日本の習慣を、いくつかこの異世界に持ち込んだ。
クリスマスもお祭りとして持ち込んだのだが、なぜか『恋人や夫婦が仲良く過ごす日』で定着してしまった。
解せぬ……。
婚約者三人は大きなケーキを作っていて、ルーナ先生が風魔法を使って生クリームを激しくかき混ぜている。
相変わらず器用だ。
「アンジェロ。私はプレゼントが欲しい」
ルーナ先生が、ジトッとした目でおねだりしてきた。
婚約者におねだりする時は、もっと甘えるものだと思うが、この常日頃と変わらない感じがルーナ先生らしい。
「クリスマスプレゼントですね! 何か欲しい物がありますか?」
クリスマスプレゼントか……。
前世日本だと、アクセサリーとか、洋服とか、バッグとか!
ルーナ先生は、何をリクエストするかな?
ルーナ先生が目を輝かせた。
「ドラゴンの首が欲しい!」
「えっ……!?」
ドラゴンの首だと!?
色気の欠片もない物がリクエストされたぞ……。
「ルーナ先生……、そんな物をもらって、どうするのですか?」
「ベッドのそばに飾る!」
俺は額に手をあてて天を仰いだ。
ベッドサイドにドラゴンの首を飾る女が、どこにいるのだ!
そうすると……、いずれ来る俺とルーナ先生の初夜は、ドラゴンの首に見つめられながら……なのか!?
さすがに、そんなシチュエーションは勘弁して欲しい。
俺が違う物にしてもらおうとすると、白狼族のサラがルーナ先生の希望にのった。
「いいな! じゃあ、私はドラゴンの爪! 短剣にするんだ!」
ドラゴンの爪……。
これまた色気のないリクエストである。
俺は視線をアリーさんに移した。
アリーさんは、女性らしさと知性を兼ね備えた人物だ。
よもや婚約者にドラゴンをねだるようなことはすまい。
「私はドラゴンの血をお願いしますわ!」
オーイ! 女性らしさと知性はどこへ行った!
「アリーさん。ドラゴンの血なんて、何に使うのですか?」
「お薬にしておじい様にお送りしたいの」
「あー……」
なるほど、そういうことか。
だが、クリスマスプレゼントが、ドラゴンの首、ドラゴンの爪、ドラゴンの血なのは、どうかと思う。
俺は説得を試みた。
「あの……婚約者からのプレゼントなら、ネックレスとか、指輪とか、アクセサリーの方が良いのでは?」
アクセサリーは、ド直球!
クリスマスの王道である!
「興味がない」
ルーナ先生は、まったく興味を示さなかった。
「食べられない」
サラは、まだ色気より食い気のようだ。
「国宝クラスなら、喜んでいただきますわ」
クッ……!
アリーさんは、貴族の超お嬢様だ。
アクセサリーなら、掃いて捨てるほど持っているのだろう。
「わかりました……。ドラゴンを狩ってきます」
買って、じゃなく、狩ってなのだ。
おかしなクリスマスになってしまった……。
*
「ドラゴンであるか?」
「ええ。どこかにいませんかね?」
俺はキャランフィールドの冒険者ギルドに黒丸師匠を訪ねた。
いくら俺でも一人でドラゴン狩りにはいかない。
黒丸師匠に付き合ってもらうのだ。
「ドラゴンを狩るなら、ダンジョンに潜るのが確実である!」
「いえ、それだとクリスマスに間に合わないのです」
ドラゴンがいるダンジョンともなれば、一月潜りっぱなしになることも珍しくない。
到底クリスマスには間に合わない。
俺は黒丸師匠に事情を話した。
「ほー! クリスマスなる祭りは、ドラゴンの首を神に捧げるのであるな!」
「違います!」
説明をやり直した。
「なるほど。ルーナも困ったモノであるな。婚約者にドラゴンの首をねだるとは……」
「まあ、でも、他の二人もドラゴンの爪とドラゴンの血が希望ですから、頑張ってドラゴンを狩ろうと思います。どこかに出没していませんか?」
ダンジョンのドラゴンを狩るとなると時間がかかるが、フィールドにいるドラゴンを狩るなら転移魔法を使って、すぐに移動が可能だ。
「ドラゴンであるか……。あっ! そういえば!」
黒丸師匠は、執務机の上にのせてある書類をめくり始めた。
そして、一枚の書類を俺に手渡した。
「ミスルの冒険者ギルドからですね」
「うむ。火竜が出たようである。隊商が襲われたのである」
書類には、大まかな事情が書いてあった。
・大きな火竜がミスルの南で出現。
・隊商が襲われた。
・すぐに逃げたので、死者は出なかったが、積み荷の食料は火竜に食べられてしまった。
「いいですね! この火竜を狩りましょう!」
「うむ! それがしも付き合うのである!」
黒丸師匠が立ち上がり、壁に立てかけてあったオリハルコンの大剣を背負った。
相変わらず頼もしいな。
黒丸師匠と二人なら火竜も問題ない。
出かけようとすると突然ドアが開き、両手一杯に書類を抱えたミディアムが入ってきた。
「ちょっと待った! 黒丸の旦那! どこへ行くんだよ!」
「火竜の討伐である!」
「オイ! 後にしてくれよ! この通り、年末で仕事が忙しいんだよ!」
「ミディアムに任せたのである!」
「任せるなよ!」
「メリークリスマスである!」
「待て! 待てよ!」
黒丸師匠は、笑顔で冒険者ギルドを飛び出した。
ミディアムの悲鳴が冒険者ギルドに木霊する。
「黒丸師匠……良いのですか?」
「大丈夫である。ああ見えて、ミディアムはなかなか優秀なのである。これも修行であるよ」
がんばれ! ミディアム!
*
転移魔法と飛行魔法を使って、ミスルの南にやって来た。
空を飛んでいても、砂漠は暑い。
「たぶん、この辺りである」
眼下には、砂漠の中を行く隊商が見える。
ラクダの背に荷物を載せて、砂漠の中の交易ルートをゆっくり移動している。
「来たのである!」
黒丸師匠が、南の空を指さした。
指さす先には赤い点が見えたが、みるみるうちに大きくなる。
「火竜だ! 不味い! 隊商が真下にいます!」
「それがしが、時間を稼ぐのである! アンジェロ少年は、隊商に報せるのである!」
「了解です!」
「王国の牙! 黒丸! 推参である!」
黒丸師匠は、背中のオリハルコンの大剣を抜くと、火竜に向かって一直線に飛んでいった。
俺は高度を落としキャラバンと併走するように飛ぶ。
「急いで逃げて! 後ろから火竜が来ている!」
俺が危機を報せると、隊商の商人たちは大慌てで動き出した。
「ええ!? 火竜!? ああ! 本当だ!」
「みんな急げ!」
「ラクダを走らせろ!」
隊商は北へ向かって急いで移動を始めた。
これなら戦いに巻き込まれることはないだろう。
俺は黒丸師匠が戦う空域へ急いだ。
*
黒丸師匠と火竜が戦う空域に到着すると、激しい音が響いていた。
黒丸師匠がオリハルコンの大剣を振るい、火竜は鋭い爪や太い尻尾で応戦する。
火花が散る空中戦が展開されていた。
「なかなかやるであるな!」
黒丸師匠は真剣そのものだが、強敵を見つけてどこか嬉しそうだ。
とはいえ、長々と戦ってはいられない。
クリスマスプレゼントに、火竜の首、爪、血が必要なのだ。
魔法でさっさと倒してしまおう。
火竜の弱点は、水属性魔法だ。
『火は、水をもって制せよ』
魔法の定番だ。
俺は魔力を練り上げ始めた。
黒丸師匠と火竜の戦いをジッと見つめながら、集中する。
(あれっ?)
火竜から何か違和感が……。
何だろう?
「あっ! 黒丸師匠! その火竜ですが、痩せていませんか? 不自然ですよ!」
「なぬ!? あっ!」
黒丸師匠が一瞬動きを止めた。
火竜はその瞬間を見逃さず、黒丸師匠の死角から尻尾を打ちつけたのだ。
「黒丸師匠!」
黒丸師匠は気を失ったのだろう。
地上へ向かって一直線に落ちていく。
とはいえ、下は柔らかい砂だし、黒丸師匠は頑丈だ。
大丈夫だろう。
それよりも火竜だ。
前衛の黒丸師匠を失ったのだ。
素早い対応が求められる。
俺は練り上げる途中だった魔力を解放することを決めた。
水魔法『ウォータートルネード』を速射する。
火竜を倒すには威力不足の魔法だが、俺の場合は水量が多い。
黒丸師匠が戦線復帰するまでの時間稼ぎにはなるだろう。
「ウォータートルネード!」
大量の水が火竜を取り巻く。
トルネードの言葉通り、空中でありながら水流が火竜を翻弄する。
激しい水の渦にとらえられた火竜は、水の流れに身を任せるしかない。
俺は魔力を注ぎ続け、ウォータートルネードを維持する。
やがて、黒丸師匠が戻ってきた。
「いやいや、不覚である!」
「余計なことを言って、すいません。集中を乱してしまいました」
「良いのである。それがしこそ、修行が足りなかったのである……ぬぬ!?」
「あれ!?」
俺と黒丸師匠が話していると、火竜が力尽き落下してしまった。
火竜はタフな魔物だ。
あの程度の水魔法で力尽きるのは考えられない。
「妙ですね……」
「おかしいのであるな?」
俺と黒丸師匠は、火竜を追って地上へ降りた。
地上へ降りると、火竜は砂漠に横たわりグッタリとしている。
黒丸師匠が、オリハルコンの大剣を抜いてトドメを刺そうと歩み寄った。
「確かに痩せているのである。この火竜は弱っていたのであるな」
「それで弱かったのか」
「うむ。事情はわからないのであるが、これも戦いの定めである! 覚悟するのである!」
黒丸師匠がオリハルコンの大剣を高く掲げ、砂漠の日差しを反射して大剣がギラリと光った。
「「ピー! ピー!」」
遠くから泣き声が二つ聞こえた。
「何であるか!?」
「黒丸師匠! あれ!」
こちらに向かって、小さな竜が二匹飛んでくる。
小さな竜は火竜の背中の上に降り立った。
「あっ……! 子供……!」
「で、あるな……。この火竜は、卵を孵すために、ずっと巣にいたのかもしれないのである」
「それで痩せていたのですか?」
「恐らく……」
チビ火竜二匹は、母親の火竜にすがり泣き叫んだ。
やがて、火竜と黒丸師匠の間に入り、母竜を守ろうと俺たちを威嚇し出した。
だが、チビ火竜も痩せていて、必死に叫ぶが迫力がない。
「黒丸師匠……。さすがにこれは……」
「ぬぬっ! やりづらいのである!」
この状況で火竜を殺すのは、さすがに鬼畜過ぎるだろう。
俺はアイテムボックスから魔物の肉を取り出した。
「黒丸師匠。ドラゴンって、魔物の肉を食べますか?」
「ドラゴンの生態は、謎に包まれているのである。この世界の魔力を取り込んでいるともいうし、弱い魔物を食べるともいうのである」
「試しに、肉をあげてみましょう」
俺は、チビ火竜に魔物の肉を与えた。
最初は警戒していたが、チビ火竜は喜んで魔物の肉を食べ始めた。
「食べていますね!」
「お腹が空いていたのでる!」
続いて、グッタリと横たわる火竜の口元に魔物の肉をおいてみた。
すると火竜は、バクリと魔物の肉を食べ、嬉しそうに目を細めた。
「黒丸師匠。ドラゴンって、話は通じますか?」
「どうであるか……。だが、長生きした竜は、人よりも賢いというのである。この火竜は子供もいるので、長生きした竜かもしれないのである」
俺は試しに火竜に話しかけてみた。
「お腹が空いているなら、もっとお肉をあげるよ。だから、君の爪や血をわけておくれよ」
俺はアイテムボックスから追加で魔物の肉を取り出した。
火竜は美味しそうに魔物の肉を平らげると、右足を俺の前に出した。
先ほど黒丸師匠とやり合ったからだろう。
爪が一本折れていた。
俺は折れていた爪を受け取り、傷口から流れる血をコップに注いだ。
「アンジェロ少年! ルーナへのプレゼントはどうするのであるか?」
「そうですね……」
困ったな。
ルーナ先生のリクエストは、ドラゴンの首だ。
何か代りの物を……。
俺が考え込んでいると、火竜が体の向きを変えた。
俺の目の前に火竜の巨体が横たわる。
「あっ! 鱗が!」
火竜の横腹には、赤くきらめく鱗がビッシリと生えている。
その中の一枚が、グラグラしていた。
手でも抜けそうだ。
「この鱗をもらって良いの?」
「グアー」
火竜は、優しい鳴き声を上げた。
多分、イエスと言っているのだろう。
グラグラしている鱗を握って引き抜くと、スンナリと抜けた。
火竜の鱗は炎のような赤色で、砂漠の夕日のようでもある。
俺は火竜の鱗を手に入れた。
「黒丸師匠。火竜をキャランフィールドの北へ連れて行きましょう。あそこなら食料になる魔物も多いし、人が住んでいないので迷惑にならないでしょう。ダメでしょうか?」
「良いのである! 罪を憎んで、竜を憎まずである! 隊商を襲わないのであれば、親子でノンビリ暮らすと良いのである」
*
「――ということが、あったんだ!」
「「「へー!」」」
キャランフィールドに戻ると、俺は早速婚約者たちにプレゼントを渡し、今日起きたことを話した。
アリーさんに、ドラゴンの血。
白狼族のサラに、ドラゴンの爪。
ルーナ先生に、ドラゴンの鱗だ。
「ルーナ先生、すいません。ドラゴンの首は、さすがにかわいそうで……」
「同感。私は嬉しい。アンジェロが私のために、ドラゴンと戦ってくれたから。この火竜の鱗は大切にする」
良かった!
ルーナ先生も納得してくれた。
「さあ、ディナーにしましょう! 今日はコカトリスのロースト肉がメインディッシュだわ! ケーキもあるの! みんなを呼んできて!」
アリーさんの号令で、俺たちはキャランフィールドの仲間を呼び集めた。
熊族のボイチェフ、リス族のキュー、黒丸師匠やミディアムたち冒険者ギルドの面々、ホレックのおっちゃんを始めとする鍛冶師たち、エルフや商人たちもやって来た。
気心の知れたキャランフィールドの仲間たちが揃ったところで、俺は酒の入ったグラスを高く掲げた。
「メリークリスマス!」
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
大人数の楽しい晩餐が始まった。
ちょっとお行儀の悪い連中が多いが、アリーさんも目くじらを立てずに楽しんでいる。
食堂の窓から外を見ると、雪が降り始めていた。
キャランフィールドの北に住処を移した火竜の親子に向かって、俺はグラスを掲げた。
「メリークリスマス!」
◆―― 作者より ――◆
皆様よいクリスマスをお過ごし下さい!
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訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
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引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
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この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
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転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します
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この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。
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1人の男が異世界に転生した。
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転生したら死にそうな孤児だった
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過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
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異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
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17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
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※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
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転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
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寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
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とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
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