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第十一章 文明開化

第315話 アリー・マイ・ラブ・ラブ・ラブ!

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 ――六月一日。王都キャランフィールド。

「あなた。お金がありませんわ」

 俺は、王都キャランフィールドで、アリーさんと再会を果たした。
 開口一番、アリーさんは金がないと言う。

「アリーさん……。そんな気はしていましたが、やっぱり……」

「ええ。大軍の衣食住を賄いましたから、お金がないどころか、借金が凄いですわ」

「……」

 ここはアリーさんの執務室なのだが、机の上に書類が山のようになっている。
 アリーさんは、その書類の山をポンポンと叩く。

「これが全部、借用書であるか……」

 護衛として同行した黒丸師匠が、絶句している。

「一難去って、また一難ですじゃ……」

 じいは、うんざりしている。

「あっ! 用事を思い出した!」

 ルーナ先生は、逃げ出した!

 きびすを返すルーナ先生の襟元を、黒丸師匠がムンズとつかむ。

「離せ! 黒丸!」

「ルーナはズルいのである! 力を合わせて困難に立ち向かうのである!」

「書類は嫌い! 借金はもっと嫌い!」

「それがしも嫌いである!」

 スターリンが率いた共産主義革命騒動・対ソ連戦争は、俺たちグンマー連合王国側が勝利した。

 勝利したが……、影響が広範囲に及んだので、後始末が大変だ。

 俺はアリーさんの対面に座り、紙とペンを借りて状況をまとめ始めた。


 ◆共産主義革命が起った国と地域

 1 ミスル王国
 2 ギガランド
 3 カタロニア地方(マドロス王国)
 4 エウスコ地方(マドロス王国)
 5 アラゴニア地方(マドロス王国)


 ◆攻め込まれた国

 1 アンジェロ・フリージア王国(グンマー連合王国内)
 2 ベロイア王国


 ◆対ソ連戦争に参戦した国

 ・ガッツリ参戦
 1 アンジェロ・フリージア王国
 2 アルド・フリージア王国(アルドギスル兄上・グンマー連合王国内)
 3 北メロビクス王国(ギュイーズ侯爵・グンマー連合王国内)
 4 南メロビクス王国(フォーワ辺境伯・グンマー連合王国内)
 5 エルフの里(キャランフィールド在住者より有志が参戦)
 6 亡命ミスル王国(グンマー連合王国に亡命した有志が参戦)

 ・小規模に参戦
 7 ベロイア王国(カール王、お気持ち程度に参戦)
 8 ギガランド(ブンゴ隊長傘下に、有志が参戦)
 9 商業国家イタロス(傭兵部隊を派遣し参戦)
 10 カタロニア地方(旧マドロス王国・有志が参戦)
 11 エウスコ地方(旧マドロス王国・有志が参戦)
 12 アラゴニア地方(旧マドロス王国・有志が参戦)


「「「「「はああああああああああ~~~~~~」」」」」

 俺が書き終わると、みんな一斉に、かつ盛大にため息をついた。

「これだけ大規模、かつ広範囲な戦争も珍しいのである」

「そうですな。ここに書かれてはおりませんが、マドロス王国など兵を出し国境を固めたそうですじゃ。影響のあった国と考えると……」

「大陸北西部全土を巻き込んだのである!」

「お腹が空いた」

 ルーナ先生だけ、フリーダムな発言をしているが、そこはスルーしてと……。
 黒丸師匠とじいの話した通りで、戦乱は大陸北西部全土に及んだ。

 参戦した国や地域が多いだけに、論功行賞は作業量だけで大変だ。
 出て行くお金は考えたくもない。

「領地を分け与えるのは、どうでしょう? 争乱の原因になったミスル王国の領土を分け与えては?」

 アリーさんが、借用書の山を指さしながら『論功行賞を土地で行え』と意見を述べた。
 金策が大変だから、担当者のアリーさんとしては、現物で済ませて欲しいのだ。

 俺は、天を仰ぎながら答える。
 主立った者に、意見や希望を聞いてきたのだが――。

「アリーさん。それは、事前に打診して断られました」

「どうしてですの?」

「まず、飛び地になってしまうので、ミスルに領地をもらっても面倒が見られないと……。次に、ミスル全土が戦乱で荒れ果ててしまったので、もらっても困ると……」

「まあ!」

「旧ミスル王国と旧ギガランドは、俺が面倒を見ることになりそうです」

 無理もない。
 スターリンたち共産党によって、作物は収奪され、民衆は戦争で使い潰された。
 厳しい言い方になるが、しぼりかすになった土地だ。

 俺が面倒を見て、どうにかするしかあるまい。

 じいがリストを指さしながら、テキパキと指摘し始めた。

「まず、簡単に済ませられるところから整理ですじゃ。参戦した国でもベロイア王国は、特に褒美はなくて良いでしょう」

 ベロイア王国は、スターリンに攻め込まれてグンマー連合王国に救援を依頼した。
 そして、グンマー連合王国入りを希望したのだ。

「そうだね。スターリンに攻撃されたところを、俺たちが助けたのだから、論功行賞は不要かな?」

「礼状を送り、グンマー連合王国内でのベロイア国王の地位を保障すればよろしいでしょう」

 よし! 一つ片付いた!
 俺はリストに横線を引いた。

「そうすると……、マドロス王国だった三地方、カタロニア、エウスコ、アラゴニアも褒美はなし……」

「そうですな。戦後統治に問題を残しておりますが、それは論功行賞の後にしますじゃ」

「じゃあ、ミスル、ギガランドも同様だね?」

「ですな。統治を決める段階で、ミスル貴族やギガランド貴族の生き残りを、適宜配置すればよろしいかと」

「うん。それが論功行賞の代りだな」

 まあ、あの二カ国は騒動の中心になった国だ。
 大っぴらに褒美を出すわけにはいかない。

「エルフの里も気にしないで良い。参戦した個人にお金を出してあげて」

「資金が抑えられるので、助かります」

 俺はルーナ先生からの申し出を素直に受ける。
 ルーナ先生個人には、何か料理のレシピを提供しよう。

「じい、イタロスは?」

「大使に希望を確認中ですじゃ」

「そうすると残りは、グンマー連合王国内の貴族への論功行賞か……」

「事務方で取りまとめておりますが、相当な数に上りますじゃ」

 それは、そうだろう。
 フリージア王国と大国だったメロビクス王国の貴族たちだ。
 末端の騎士爵まで入れれば、軽く千を超える。

「あなた。お金はありませんわ」

 アリーさんが、ゴンゴンと再度釘を刺す。

 金を出さずに論功行賞か……。

「褒美に土地や金がダメなら、物であるか? 名剣とか?」

 物ねえ……。
 黒丸師匠のアイデアは悪くない。
 みんなが欲しがっている物がある。

「決めた! グースを売ろう! 論功行賞は、『グースを買う権利』にしよう!」

 異世界飛行機グースは、みんな欲しがっている。
 なら今回の褒美を異世界飛行機グースにすれば、文句は出ないだろう。

「グースを買う……『権利』ですと!?」

 じいが驚いて、素っ頓狂な声を上げた。

「そうだ。グースを褒美として渡したら、俺が損する一方だ。でも、『グースを買う権利』にすれば――」

「お金が入りますわ! この借用書の山が減りますわ!」

「むううう」

 アリーさんが、この褒美のポイントに気が付き、じいがうなり声を上げる。

「しかし、良いのであるか? 飛行機は、軍事上の重要技術である」

 異議を申し立てたのは、黒丸師匠だ。
 黒丸師匠は、ドラゴニュートで空を飛べる。
 上空から攻撃する優位性は、誰よりも知っているからだろう。

「高性能機のブラックホークはダメですが、初期型のグースやグース改なら妥協できる範囲です。それに……」

「それに?」

「飛行機は、一朝一夕に真似できる物ではありません。生産拠点は、キャランフィールドだけですし、軍事技術上の優位は確保できるでしょう」

「なるほどであるな!」

 それに新型機の開発は、これからも行う。
 そろそろ、俺たちが開発した技術を、開放しても良いだろう。

「問題は、まだある。権利をもらっても、貧乏騎士爵じゃグースを買えない」

 ルーナ先生が珍しく真っ当な指摘をした。

「大丈夫です。グースの貸し出しを認めれば、グースを使いたい商人や大貴族が、礼金込みでお金を出しますよ」

「なるほど!」

 グースを所有する名義は、○○騎士爵で、利用するのは△△伯爵でも構わないのだ。
 グースを買う権利を持っている騎士爵は、グースのレンタル業で金儲け出来る。
 出資者は簡単に見つかるだろう。

「あなた。他に何かお金になる話はございませんの?」

 上品な言葉遣いだが、話している内容は金策だ。
 久々に会った美しい婚約者との会話が金策とは、何とも世知辛い。

「他には、敷設済みの軽便鉄道を買い取りたいと、ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯から申し出があった」

 ギュイーズ侯爵の領都にある港から、旧メロビクス王国王都メロウリンクを経由して、ドクロザワの先にある最前線だった地点まで、物資輸送用の軽便鉄道が稼働している。

 この軽便鉄道のおかげで、大軍を長期に支える物資輸送が可能になったのだ。

 ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯は、鉄道のもつ輸送力に目をつけ、俺に買い取りを打診してきた。
 正直、売っても良いと思っている。

 汽車や貨物車は、キャランフィールドで作っているので、増便の注文があるかもしれないし、軽便鉄道から本格的な鉄道にアップグレードする時も商売になる。

 俺が頭の中でソロバンをはじいていると、アリーさんが貼り付いた笑顔で質問を重ねてきた。

「大変結構ですわ。他には何かございませんの?」

「えっ!?」

「他にもございますわよね? フォーワ辺境伯様からのお話が、ございますわよね?」

「えーと……はい……」

「そのお話は何ですの?」

「フォーワ辺境伯家から、一人側室をと……」

「まあ!」

 部屋の空気が変わった。
 もう、逃げたい。
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