上 下
308 / 358
第十章 レッドアラート!

第308話 モスクワ強襲作戦(後編)

しおりを挟む
「ひるむな! 強行着陸しろ! 兵を降ろせ!」

 風に乗ってルーナ先生の声が聞こえてきた。
 俺は飛行魔法を発動させ急いで空へ上がり、ルーナ先生と合流した。

「ルーナ先生! 着陸は無茶です! 対空砲火が激しいです!」

 モスクワの街のあちこちから、対空砲火が火を噴いている。
 槍を打ち出すスコーピオンだけでなく、火属性の魔道具による攻撃も始まっていた。
 それに鉄砲を撃つ音も、あちこちで聞こえる。

「一度、グースを退避させましょう!」

 俺の意見具申に、ルーナ先生は首を振った。

「私とアンジェロが囮になる」

「えっ……!?」

 いきなり何を言い出すのだろう!
 ルーナ先生は、いつもと変わらないぶっきらぼうな口調だ。
 ご乱心ではないな。

「ルーナ先生……、あの……、囮ですか!? ここで!? 空中で!?」

「そう。私たち二人に向かって、モスクワ中の攻撃が集中する。すごく楽しそう♪」

「それは……楽しそうですね!」

 俺とルーナ先生は、目を合わせてニンマリと笑った。

 なるほど。
 俺とルーナ先生に砲火を集中させれば、その隙にグースが地上に降り、地上に兵士が増える。
 増えた兵士で対空陣地を制圧可能だ。

 そして、俺とルーナ先生なら、これしきの対空砲火を恐れることはない。

「さあ! アンジェロ! 始めるぞ!」

「はい!」

 俺とルーナ先生は、空中で背中合わせになり、互いをカバーする体勢をとった。
 背中越しにルーナ先生の魔力があふれ出すのを感じる。
 闘争心が高まっているのだ。

「アンジェロ! まずは、スコーピオンを焼き払う! 目につくところ片端から片付けろ! ファイヤーボール! 撃て!」

「了解! ファイヤーボール!」

 木製のスコーピオンには、火魔法だ。
 魔力を増した大型のファイヤーボールが、スコーピオンに向かって飛んでいく。

 兵士五人がかりで動かしていた大型のスコーピオンは、空中のグースに狙いを定めて槍を放とうとしていた。

 だが、スコーピオンを指揮していた士官が、大型のファイヤーボールが近づくのを見て慌てふためき、思わず声を上げた。

「うわっ! 退避しろ! 退避だ!」

 士官と兵士たちが退避するのと入れ違いに、俺の放ったファイヤーボールが着弾した。

 ゴウ! と、うなりを上げて、木製のスコーピオンが派手に燃え上がる。

 俺は同時にいくつもの巨大ファイヤーボールを出現させて、スコーピオンを備えた対空陣地を一気に消し炭に変えた。

 後ろでは、ルーナ先生が派手にやっている。
 火魔法でスコーピオンを焼き払いながら、風魔法に声をのせて降伏勧告をしているのだ。

「我々はー! グンマー連合王国だー! 死にたくなければ降伏しろー! ズボンを脱いで頭上で振れー!」

「ルーナ先生!?」

「ズボンを脱いで、降伏しろー!」

 ルーナ先生の呼びかけに、モスクワを守備する赤軍は怒り心頭だ。
 罵声が聞こえてきた。

「貴様ら! ふざけるな!」
「今、蜂の巣にしてやるぞ!」
「死ね! 死ねい!」

 赤軍は挑発に乗った。
 魔道具を使った対空砲火が、俺とルーナ先生に集中する。
 ルーナ先生の狙い通り!

「アンジェロ! 魔法障壁多重展開!」

 ルーナ先生が、右手を動かすと、あっという間に魔法障壁が五枚展開された。
 次に左手を動かすと、また五枚が展開される。

 展開速度が早い!

 俺も斜め下に手をかざし、魔法による防護壁を展開する。
 魔力の多い俺は、枚数よりも厚さ重視だ。

 魔法障壁を展開し終えると、無数の魔法が着弾した。

「拠点よりも数が多いような……」

 俺のつぶやきにルーナ先生が答える。

「アンジェロ。あれだ。馬車の上を見ろ」

「馬車? あれか!」

 やっかいなことに、赤軍は馬車の上に魔道具を乗せて、地球世界でいうテクニカルのような運用をしている。


 ------------

 ※テクニカル:民間のピックアップトラックなどの荷台に、重火器を搭載した。即席戦闘車両。発展途上国の紛争地域で、民兵組織やテロ組織などが利用することが多い。

 ------------


 荷台を幌や布で覆って、空からはわからなくしていたのだろう。
 モスクワに侵入した時は、気が付かなかった。

 今は、俺が向いているモスクワ西側だけで、十以上の火線が見える。

 さては、ミスル軍の倉庫やミスル王宮にあった魔道具をありったけかき集めて、数を揃えたな。

 魔道具の攻撃を受け止めながら、隙を見てスコーピオンを火魔法で焼く。

 何度か繰り返していると、黒丸師匠が空へ上がってきた。

「ルーナ! スコーピオンは、潰したのである!」

「了解した! 黒丸は、王宮へ向かえ! サラたちと合流しろ!」

「承知である!」

 黒丸師匠が、王宮へ応援に向かった。
 サラたち白狼族の特殊部隊員と黒丸師匠の戦力があれば、十分すぎるだろう。
 これで王宮にいる赤軍幹部は終わりだ。

 そして、俺とルーナ先生に対空砲火が集中することで、グースが次々と着陸し獣人の兵士が降り立っている。
 こちらの陸上兵力が、徐々に増えてきた。

 だが、まだ、対空砲火は激しい。
 俺とルーナ先生は、魔法障壁を破られては、魔法障壁を追加している。

「ルーナ先生。これからどうしますか?」

「何もしない」

「えっ!?」

「魔道具は無限に撃てるわけではない。魔石が切れるまでしのぐ」

「なるほど、折角の魔道具を壊したくないですね」

「接収して役立てた方がお得」

 ちゃっかりしているが、ごもっとも。
 魔道具は高価だ。
 俺とルーナ先生が、魔法攻撃で破壊することも出来るが、接収出来るなら接収するにこしたことはない。

 やがて、各砲台で魔道具の魔石が尽き、着陸したグースから降りた兵士たちが、対空陣地を占拠しだした。

 各所にグンマー連合王国の旗があがる。
 対空陣地、城壁、人質を集めていた戦車競技場、近衛騎士団の詰め所、王宮の門。

 ルーナ先生が、風魔法を使って再度降伏勧告を行った。

「兵士たちに告げる! 人質は救出した! 武器を捨てて、戦車競技場へ行け! 家族と再会しろ!」

 この降伏勧告は効いた。
 あちこちで兵士が武器を捨てて、戦車競技場へ向かいだしたのだ。

 共産党の政治将校らしき人物が、声を荒げているが、兵士たちは聞く耳を持たない。

「オイ! オマエたち! 戦え!」

「ふざけるな! 家族が帰ってくるなら、戦う理由なんかない!」
「そうだ! そうだ! もう、オマエの言うことは聞かないぞ!」
「戦車競技場へ行こう!」

 モスクワを守備する赤軍は、大混乱をきたした。

「アンジェロ! 陸上戦力を連れてこい! 控えている軍を転移させろ!」

「了解です!」

 俺はモスクワの中心部にある広場に降り立った。
 転移魔法を発動しゲートをドクロザワ郊外につなぎ、スタンバっている亡命ミスル人部隊と第二騎士団を呼び寄せた。

 先頭は、亡命ミスル人部隊。
 騎乗したベルイブセン男爵が駆けながら、大声で街の住人に呼びかけた。

「ミスルの民よ! 共産党による支配は終わりだ! 王都レーベをミスル人の手に取り戻すのだ!」

 ベルイブセン男爵率いる亡命ミスル人部隊に、住民から歓迎の声が飛ぶ。
 そして、ケッテンクラートに乗った第二騎士団が続く。

 現在、我々はモスクワ各所を『点』で制圧している。
 彼らが『面』で制圧をすることで、モスクワ解放を確実な物とするのだ。

 第二騎士団の転移が終ると、俺は空に上がりルーナ先生と再度合流した。

「アンジェロ。制圧は順調」

「そのようですね」

 各所でモスクワを守備する赤軍の武装解除が始まっている。
 なかには抵抗する政治将校の姿も見えたが、味方であるはずの兵士たちによってたかってボコボコにされていた。

「残るは……」

「王宮ですね……」

 俺とルーナ先生は空中で周囲を警戒しながら、その時を待った。

 カラーン!
 カラーン!

 カラーン!
 カラーン!

 王宮の一番高い塔にグンマー連合王国の旗がひるがえり、鐘がモスクワ市内に響き渡った。
 サラたち白狼族の特殊部隊員たちが、王宮から敵対勢力を排除したのだ。

 つまり――。

「モスクワ解放!」

「やりましたね! ルーナ先生!」

 俺とルーナ先生が、一息つくために地上に降りようとすると、黒丸師匠が血相を変えて飛んできた。

「大変である! スターリンがいないのである!」
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

処理中です...