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第十章 レッドアラート!
第308話 モスクワ強襲作戦(後編)
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「ひるむな! 強行着陸しろ! 兵を降ろせ!」
風に乗ってルーナ先生の声が聞こえてきた。
俺は飛行魔法を発動させ急いで空へ上がり、ルーナ先生と合流した。
「ルーナ先生! 着陸は無茶です! 対空砲火が激しいです!」
モスクワの街のあちこちから、対空砲火が火を噴いている。
槍を打ち出すスコーピオンだけでなく、火属性の魔道具による攻撃も始まっていた。
それに鉄砲を撃つ音も、あちこちで聞こえる。
「一度、グースを退避させましょう!」
俺の意見具申に、ルーナ先生は首を振った。
「私とアンジェロが囮になる」
「えっ……!?」
いきなり何を言い出すのだろう!
ルーナ先生は、いつもと変わらないぶっきらぼうな口調だ。
ご乱心ではないな。
「ルーナ先生……、あの……、囮ですか!? ここで!? 空中で!?」
「そう。私たち二人に向かって、モスクワ中の攻撃が集中する。すごく楽しそう♪」
「それは……楽しそうですね!」
俺とルーナ先生は、目を合わせてニンマリと笑った。
なるほど。
俺とルーナ先生に砲火を集中させれば、その隙にグースが地上に降り、地上に兵士が増える。
増えた兵士で対空陣地を制圧可能だ。
そして、俺とルーナ先生なら、これしきの対空砲火を恐れることはない。
「さあ! アンジェロ! 始めるぞ!」
「はい!」
俺とルーナ先生は、空中で背中合わせになり、互いをカバーする体勢をとった。
背中越しにルーナ先生の魔力があふれ出すのを感じる。
闘争心が高まっているのだ。
「アンジェロ! まずは、スコーピオンを焼き払う! 目につくところ片端から片付けろ! ファイヤーボール! 撃て!」
「了解! ファイヤーボール!」
木製のスコーピオンには、火魔法だ。
魔力を増した大型のファイヤーボールが、スコーピオンに向かって飛んでいく。
兵士五人がかりで動かしていた大型のスコーピオンは、空中のグースに狙いを定めて槍を放とうとしていた。
だが、スコーピオンを指揮していた士官が、大型のファイヤーボールが近づくのを見て慌てふためき、思わず声を上げた。
「うわっ! 退避しろ! 退避だ!」
士官と兵士たちが退避するのと入れ違いに、俺の放ったファイヤーボールが着弾した。
ゴウ! と、うなりを上げて、木製のスコーピオンが派手に燃え上がる。
俺は同時にいくつもの巨大ファイヤーボールを出現させて、スコーピオンを備えた対空陣地を一気に消し炭に変えた。
後ろでは、ルーナ先生が派手にやっている。
火魔法でスコーピオンを焼き払いながら、風魔法に声をのせて降伏勧告をしているのだ。
「我々はー! グンマー連合王国だー! 死にたくなければ降伏しろー! ズボンを脱いで頭上で振れー!」
「ルーナ先生!?」
「ズボンを脱いで、降伏しろー!」
ルーナ先生の呼びかけに、モスクワを守備する赤軍は怒り心頭だ。
罵声が聞こえてきた。
「貴様ら! ふざけるな!」
「今、蜂の巣にしてやるぞ!」
「死ね! 死ねい!」
赤軍は挑発に乗った。
魔道具を使った対空砲火が、俺とルーナ先生に集中する。
ルーナ先生の狙い通り!
「アンジェロ! 魔法障壁多重展開!」
ルーナ先生が、右手を動かすと、あっという間に魔法障壁が五枚展開された。
次に左手を動かすと、また五枚が展開される。
展開速度が早い!
俺も斜め下に手をかざし、魔法による防護壁を展開する。
魔力の多い俺は、枚数よりも厚さ重視だ。
魔法障壁を展開し終えると、無数の魔法が着弾した。
「拠点よりも数が多いような……」
俺のつぶやきにルーナ先生が答える。
「アンジェロ。あれだ。馬車の上を見ろ」
「馬車? あれか!」
やっかいなことに、赤軍は馬車の上に魔道具を乗せて、地球世界でいうテクニカルのような運用をしている。
------------
※テクニカル:民間のピックアップトラックなどの荷台に、重火器を搭載した。即席戦闘車両。発展途上国の紛争地域で、民兵組織やテロ組織などが利用することが多い。
------------
荷台を幌や布で覆って、空からはわからなくしていたのだろう。
モスクワに侵入した時は、気が付かなかった。
今は、俺が向いているモスクワ西側だけで、十以上の火線が見える。
さては、ミスル軍の倉庫やミスル王宮にあった魔道具をありったけかき集めて、数を揃えたな。
魔道具の攻撃を受け止めながら、隙を見てスコーピオンを火魔法で焼く。
何度か繰り返していると、黒丸師匠が空へ上がってきた。
「ルーナ! スコーピオンは、潰したのである!」
「了解した! 黒丸は、王宮へ向かえ! サラたちと合流しろ!」
「承知である!」
黒丸師匠が、王宮へ応援に向かった。
サラたち白狼族の特殊部隊員と黒丸師匠の戦力があれば、十分すぎるだろう。
これで王宮にいる赤軍幹部は終わりだ。
そして、俺とルーナ先生に対空砲火が集中することで、グースが次々と着陸し獣人の兵士が降り立っている。
こちらの陸上兵力が、徐々に増えてきた。
だが、まだ、対空砲火は激しい。
俺とルーナ先生は、魔法障壁を破られては、魔法障壁を追加している。
「ルーナ先生。これからどうしますか?」
「何もしない」
「えっ!?」
「魔道具は無限に撃てるわけではない。魔石が切れるまでしのぐ」
「なるほど、折角の魔道具を壊したくないですね」
「接収して役立てた方がお得」
ちゃっかりしているが、ごもっとも。
魔道具は高価だ。
俺とルーナ先生が、魔法攻撃で破壊することも出来るが、接収出来るなら接収するにこしたことはない。
やがて、各砲台で魔道具の魔石が尽き、着陸したグースから降りた兵士たちが、対空陣地を占拠しだした。
各所にグンマー連合王国の旗があがる。
対空陣地、城壁、人質を集めていた戦車競技場、近衛騎士団の詰め所、王宮の門。
ルーナ先生が、風魔法を使って再度降伏勧告を行った。
「兵士たちに告げる! 人質は救出した! 武器を捨てて、戦車競技場へ行け! 家族と再会しろ!」
この降伏勧告は効いた。
あちこちで兵士が武器を捨てて、戦車競技場へ向かいだしたのだ。
共産党の政治将校らしき人物が、声を荒げているが、兵士たちは聞く耳を持たない。
「オイ! オマエたち! 戦え!」
「ふざけるな! 家族が帰ってくるなら、戦う理由なんかない!」
「そうだ! そうだ! もう、オマエの言うことは聞かないぞ!」
「戦車競技場へ行こう!」
モスクワを守備する赤軍は、大混乱をきたした。
「アンジェロ! 陸上戦力を連れてこい! 控えている軍を転移させろ!」
「了解です!」
俺はモスクワの中心部にある広場に降り立った。
転移魔法を発動しゲートをドクロザワ郊外につなぎ、スタンバっている亡命ミスル人部隊と第二騎士団を呼び寄せた。
先頭は、亡命ミスル人部隊。
騎乗したベルイブセン男爵が駆けながら、大声で街の住人に呼びかけた。
「ミスルの民よ! 共産党による支配は終わりだ! 王都レーベをミスル人の手に取り戻すのだ!」
ベルイブセン男爵率いる亡命ミスル人部隊に、住民から歓迎の声が飛ぶ。
そして、ケッテンクラートに乗った第二騎士団が続く。
現在、我々はモスクワ各所を『点』で制圧している。
彼らが『面』で制圧をすることで、モスクワ解放を確実な物とするのだ。
第二騎士団の転移が終ると、俺は空に上がりルーナ先生と再度合流した。
「アンジェロ。制圧は順調」
「そのようですね」
各所でモスクワを守備する赤軍の武装解除が始まっている。
なかには抵抗する政治将校の姿も見えたが、味方であるはずの兵士たちによってたかってボコボコにされていた。
「残るは……」
「王宮ですね……」
俺とルーナ先生は空中で周囲を警戒しながら、その時を待った。
カラーン!
カラーン!
カラーン!
カラーン!
王宮の一番高い塔にグンマー連合王国の旗がひるがえり、鐘がモスクワ市内に響き渡った。
サラたち白狼族の特殊部隊員たちが、王宮から敵対勢力を排除したのだ。
つまり――。
「モスクワ解放!」
「やりましたね! ルーナ先生!」
俺とルーナ先生が、一息つくために地上に降りようとすると、黒丸師匠が血相を変えて飛んできた。
「大変である! スターリンがいないのである!」
風に乗ってルーナ先生の声が聞こえてきた。
俺は飛行魔法を発動させ急いで空へ上がり、ルーナ先生と合流した。
「ルーナ先生! 着陸は無茶です! 対空砲火が激しいです!」
モスクワの街のあちこちから、対空砲火が火を噴いている。
槍を打ち出すスコーピオンだけでなく、火属性の魔道具による攻撃も始まっていた。
それに鉄砲を撃つ音も、あちこちで聞こえる。
「一度、グースを退避させましょう!」
俺の意見具申に、ルーナ先生は首を振った。
「私とアンジェロが囮になる」
「えっ……!?」
いきなり何を言い出すのだろう!
ルーナ先生は、いつもと変わらないぶっきらぼうな口調だ。
ご乱心ではないな。
「ルーナ先生……、あの……、囮ですか!? ここで!? 空中で!?」
「そう。私たち二人に向かって、モスクワ中の攻撃が集中する。すごく楽しそう♪」
「それは……楽しそうですね!」
俺とルーナ先生は、目を合わせてニンマリと笑った。
なるほど。
俺とルーナ先生に砲火を集中させれば、その隙にグースが地上に降り、地上に兵士が増える。
増えた兵士で対空陣地を制圧可能だ。
そして、俺とルーナ先生なら、これしきの対空砲火を恐れることはない。
「さあ! アンジェロ! 始めるぞ!」
「はい!」
俺とルーナ先生は、空中で背中合わせになり、互いをカバーする体勢をとった。
背中越しにルーナ先生の魔力があふれ出すのを感じる。
闘争心が高まっているのだ。
「アンジェロ! まずは、スコーピオンを焼き払う! 目につくところ片端から片付けろ! ファイヤーボール! 撃て!」
「了解! ファイヤーボール!」
木製のスコーピオンには、火魔法だ。
魔力を増した大型のファイヤーボールが、スコーピオンに向かって飛んでいく。
兵士五人がかりで動かしていた大型のスコーピオンは、空中のグースに狙いを定めて槍を放とうとしていた。
だが、スコーピオンを指揮していた士官が、大型のファイヤーボールが近づくのを見て慌てふためき、思わず声を上げた。
「うわっ! 退避しろ! 退避だ!」
士官と兵士たちが退避するのと入れ違いに、俺の放ったファイヤーボールが着弾した。
ゴウ! と、うなりを上げて、木製のスコーピオンが派手に燃え上がる。
俺は同時にいくつもの巨大ファイヤーボールを出現させて、スコーピオンを備えた対空陣地を一気に消し炭に変えた。
後ろでは、ルーナ先生が派手にやっている。
火魔法でスコーピオンを焼き払いながら、風魔法に声をのせて降伏勧告をしているのだ。
「我々はー! グンマー連合王国だー! 死にたくなければ降伏しろー! ズボンを脱いで頭上で振れー!」
「ルーナ先生!?」
「ズボンを脱いで、降伏しろー!」
ルーナ先生の呼びかけに、モスクワを守備する赤軍は怒り心頭だ。
罵声が聞こえてきた。
「貴様ら! ふざけるな!」
「今、蜂の巣にしてやるぞ!」
「死ね! 死ねい!」
赤軍は挑発に乗った。
魔道具を使った対空砲火が、俺とルーナ先生に集中する。
ルーナ先生の狙い通り!
「アンジェロ! 魔法障壁多重展開!」
ルーナ先生が、右手を動かすと、あっという間に魔法障壁が五枚展開された。
次に左手を動かすと、また五枚が展開される。
展開速度が早い!
俺も斜め下に手をかざし、魔法による防護壁を展開する。
魔力の多い俺は、枚数よりも厚さ重視だ。
魔法障壁を展開し終えると、無数の魔法が着弾した。
「拠点よりも数が多いような……」
俺のつぶやきにルーナ先生が答える。
「アンジェロ。あれだ。馬車の上を見ろ」
「馬車? あれか!」
やっかいなことに、赤軍は馬車の上に魔道具を乗せて、地球世界でいうテクニカルのような運用をしている。
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※テクニカル:民間のピックアップトラックなどの荷台に、重火器を搭載した。即席戦闘車両。発展途上国の紛争地域で、民兵組織やテロ組織などが利用することが多い。
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荷台を幌や布で覆って、空からはわからなくしていたのだろう。
モスクワに侵入した時は、気が付かなかった。
今は、俺が向いているモスクワ西側だけで、十以上の火線が見える。
さては、ミスル軍の倉庫やミスル王宮にあった魔道具をありったけかき集めて、数を揃えたな。
魔道具の攻撃を受け止めながら、隙を見てスコーピオンを火魔法で焼く。
何度か繰り返していると、黒丸師匠が空へ上がってきた。
「ルーナ! スコーピオンは、潰したのである!」
「了解した! 黒丸は、王宮へ向かえ! サラたちと合流しろ!」
「承知である!」
黒丸師匠が、王宮へ応援に向かった。
サラたち白狼族の特殊部隊員と黒丸師匠の戦力があれば、十分すぎるだろう。
これで王宮にいる赤軍幹部は終わりだ。
そして、俺とルーナ先生に対空砲火が集中することで、グースが次々と着陸し獣人の兵士が降り立っている。
こちらの陸上兵力が、徐々に増えてきた。
だが、まだ、対空砲火は激しい。
俺とルーナ先生は、魔法障壁を破られては、魔法障壁を追加している。
「ルーナ先生。これからどうしますか?」
「何もしない」
「えっ!?」
「魔道具は無限に撃てるわけではない。魔石が切れるまでしのぐ」
「なるほど、折角の魔道具を壊したくないですね」
「接収して役立てた方がお得」
ちゃっかりしているが、ごもっとも。
魔道具は高価だ。
俺とルーナ先生が、魔法攻撃で破壊することも出来るが、接収出来るなら接収するにこしたことはない。
やがて、各砲台で魔道具の魔石が尽き、着陸したグースから降りた兵士たちが、対空陣地を占拠しだした。
各所にグンマー連合王国の旗があがる。
対空陣地、城壁、人質を集めていた戦車競技場、近衛騎士団の詰め所、王宮の門。
ルーナ先生が、風魔法を使って再度降伏勧告を行った。
「兵士たちに告げる! 人質は救出した! 武器を捨てて、戦車競技場へ行け! 家族と再会しろ!」
この降伏勧告は効いた。
あちこちで兵士が武器を捨てて、戦車競技場へ向かいだしたのだ。
共産党の政治将校らしき人物が、声を荒げているが、兵士たちは聞く耳を持たない。
「オイ! オマエたち! 戦え!」
「ふざけるな! 家族が帰ってくるなら、戦う理由なんかない!」
「そうだ! そうだ! もう、オマエの言うことは聞かないぞ!」
「戦車競技場へ行こう!」
モスクワを守備する赤軍は、大混乱をきたした。
「アンジェロ! 陸上戦力を連れてこい! 控えている軍を転移させろ!」
「了解です!」
俺はモスクワの中心部にある広場に降り立った。
転移魔法を発動しゲートをドクロザワ郊外につなぎ、スタンバっている亡命ミスル人部隊と第二騎士団を呼び寄せた。
先頭は、亡命ミスル人部隊。
騎乗したベルイブセン男爵が駆けながら、大声で街の住人に呼びかけた。
「ミスルの民よ! 共産党による支配は終わりだ! 王都レーベをミスル人の手に取り戻すのだ!」
ベルイブセン男爵率いる亡命ミスル人部隊に、住民から歓迎の声が飛ぶ。
そして、ケッテンクラートに乗った第二騎士団が続く。
現在、我々はモスクワ各所を『点』で制圧している。
彼らが『面』で制圧をすることで、モスクワ解放を確実な物とするのだ。
第二騎士団の転移が終ると、俺は空に上がりルーナ先生と再度合流した。
「アンジェロ。制圧は順調」
「そのようですね」
各所でモスクワを守備する赤軍の武装解除が始まっている。
なかには抵抗する政治将校の姿も見えたが、味方であるはずの兵士たちによってたかってボコボコにされていた。
「残るは……」
「王宮ですね……」
俺とルーナ先生は空中で周囲を警戒しながら、その時を待った。
カラーン!
カラーン!
カラーン!
カラーン!
王宮の一番高い塔にグンマー連合王国の旗がひるがえり、鐘がモスクワ市内に響き渡った。
サラたち白狼族の特殊部隊員たちが、王宮から敵対勢力を排除したのだ。
つまり――。
「モスクワ解放!」
「やりましたね! ルーナ先生!」
俺とルーナ先生が、一息つくために地上に降りようとすると、黒丸師匠が血相を変えて飛んできた。
「大変である! スターリンがいないのである!」
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