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第十章 レッドアラート!

第297話 混ぜるな危険!

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 ――三月末。魔銃が出来てから、七日後。

 俺は、じい、ルーナ先生、黒丸師匠、ホレックのおっちゃんを連れて、ドクロザワの町にやって来た。
 後方で調整に追われていたが、やっと前線だ。

 現在、ドクロザワ郊外では、グンマー連合王国とソビエト連邦軍――赤軍――がにらみ合いを続けている。

 正確に言えば、『守勢に徹し、こちらから手を出さないように。長期戦で敵の疲弊を誘え!』と、俺が指示を出していたのだ。

「しばらく見ないうちに、ドクロザワは随分変わったのである!」

 ドクロザワの町の様子を見て、ドラゴニュートの黒丸師匠が驚きの声を上げた。

 俺たちは、ドクロザワの北側にいる。
 ここがドクロザワの玄関口だ。

 ドクロザワの町には、軽便鉄道が乗り入れ、大きな街道が北、西、東へと延びている。
 軽便鉄道からは、大量の食料が荷下ろしされ、商人と荷下ろし人夫の怒声が入り乱れ、独特の活気を醸し出していた。

「干物の匂いがするな! 後で干物を炙りながら、一杯やらねえか? くー! たまんねえな!」

 軽便鉄道から下ろされた荷物に、北部の海沿いから送られてきた海産物があったのだろう。ホレックのおっちゃんは、干物の匂いに釣られて、早くも酒を飲むことを考えている。

「エール樽は、酒を飲むことばかり考えている。ちゃんと仕事をしろ」

「うるせえぞ! 牝鹿ババア! 酒はドワーフの燃料だ!」

 ハイエルフのルーナ先生と、ドワーフのホレックのおっちゃんは、相変わらず仲が悪い。顔を合わせる度に、角突き合わせている。二人とも実力行使に出ることはないので、最近は周りも『いつものこと』と放っておいている。

 ホレックのおっちゃんは、魔銃の開発、増産と忙しくしていたのだ。息抜きでちょっと一杯ひっかけるくらいは、許してあげよう。

「ホレックのおっちゃん。仕事に差し障りが出ないなら、軽く一杯やっても構わないよ」

「おっ! アンジェロの兄ちゃん、話せるじゃねえか!」

 ホレックのおっちゃんは、嬉しそうに酒屋に走って行った。
 そして、ホレックのおっちゃんの後を、黒丸師匠とルーナ先生が追いかける。

 三人とも酒を飲む気、満々だな。

 魔銃の実戦投入に伴い、故障や何か不都合が起きた場合に備えて、ホレックのおっちゃんに来てもらっているだけだ。まあ、一杯引っかけても大丈夫だろう。

「「アンジェロ陛下! お待ちしておりました!」」

 第二騎士団団長のローデンバッハ子爵とポニャトフスキ男爵が出迎えてくれた。
 二人には、グンマー連合王国の南部地域をお任せしている。

「最前線で苦労をかけますね。どうですか?」

「ご命令通り守りに徹しておりますので、小競り合いは起きますが、至って平和です」

 ローデンバッハ子爵が、余裕綽々で答えた。
 一方で、ポニャトフスキ男爵は、渋い顔だ。

「アンジェロ陛下。いささかご対応が甘いように、私は感じますが……。よろしいのでしょうか?」

「いいんだ! ここで共産主義を、きっちりと叩く!」

 共産主義のやっかいさは、思想である点なのだ。
 騒乱の首謀者たちを処罰しても、時間が経てば違う人間が共産主義の旗を掲げて革命運動を起こす。

 だから、『共産主義は、アテにならない』と民衆に理解させる必要があるのだ。

 武力で叩き潰すのはもちろんだが、まず、民衆を共産主義革命組織から離反させる必要がある。

 俺は、ローデンバッハ子爵とポニャトフスキ男爵に、丁寧に説明を行った。

 ポニャトフスキ男爵も理解に至ったようで、厳しかった表情が徐々に納得顔に変わった。

「なるほど……。しかし、アンジェロ陛下は、なぜ、それほど民衆を恐れるのですか? 陛下ほどのお力があれば、恐れることはないと存じますが?」

「ポニャトフスキ男爵。時代が変わったんだ。民衆は農業をして税を納めるだけの存在だったが、今や国を支える存在だ。ここドクロザワにひかれた軽便鉄道や街道の拡幅工事は誰がやった?」

 予算を注ぎ込んだ甲斐あって、グンマー連合王国の北部から南部へと複数の軽便鉄道路線が完成したのだ。

 鉄道敷設で活躍したのは、ソ連から逃げてきた民衆だ。

 また、南部の前線へつながる新規街道整備、既存街道の拡幅工事もソ連から逃げてきた民衆が作業にあたった。

 そのおかげで、グンマー連合王国各地や外国から、食料などの物資が南部の前線に届くようになった。
 海岸部や東方からの物流が活発化し、亡命者……というよりも難民であふれかえったドクロザワの町や南部前線地域で起こった食糧不足が一気に解決したのだ。

 今では、食料はもちろん、エールやワインなどの酒やおつまみなどの嗜好品、服やアクセサリーなども商人が持ち込む。

 それらを、前線の兵士が買い、軽便鉄道の敷設工事や街道工事で稼いだ民衆が買う。
 前線近くは、戦争特需状態なのだ。

 ――見れば分かる。

 金持ち貴族ではなく、一般の民衆が経済の主役になっているのだ。

 ポニャトフスキ男爵は、軽く息をはいてから自分を納得させる言葉を口にした。

「確かに……。今後は、民衆の力なくして国は成り立ちませんか……」

「ああ。だから時間をかけてでも、民衆の信頼を勝ち取りたいのだ!」

「陛下、よく理解出来ました。それでしたら……、現在、シメイ伯爵と共同で行っている作戦がお気に召すことでしょう」

「ん? シメイ伯爵と?」

 何だろう……。すごく嫌な予感がする……。

 シメイ伯爵は、住民丸ごと精鋭部隊な南部騎士団を率いて、第二騎士団の応援に入ってもらった。
 彼ら南部騎士団は、控えめに言って『常識外』。
 騎士団と呼ばれてはいるが、正式な騎士団ではない。シメイ伯爵の私兵集団なのだ。

 一方、第二騎士団は元々王都の精鋭部隊で、団長のローデンバッハ子爵も、参謀のポニャトフスキ男爵も真面目な人だ。

 だが、朱に交われば赤くなる、諸人こぞりて修羅シュシュともいう。
 二人がシメイ伯爵に毒されたのではないかと心配になる。

 俺は後ろに控えているじいに聞いた。

「じい、どう思う?」

「嫌な予感しかしませんな……。シメイ伯爵が何をやっているのか、早々に確認した方がよろしいかと」

「そうだな。ローデンバッハ子爵! ポニャトフスキ男爵! シメイ伯爵のところへ案内してくれ!」

「「ははっ!」」

 二人がニンマリと笑った。
 俺とじいは、眉根に深くシワを作り、『ヘンなことになっていませんように……』と神に祈った。

 俺たちが歩き出すと、ルーナ先生、黒丸師匠、ホレックのおっちゃんが、酒樽や干物を抱えて追いかけてきた。

「面白そう! 私も混ざる!」
「それがしも、参加希望である!」
「酒のツマミになりそうだな!」

 これだ! これなんだ! 混ぜるな危険だ!
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