上 下
294 / 358
第十章 レッドアラート!

第294話 新型銃の開発

しおりを挟む
 俺は、ホレックのおっちゃんの工房に来ている。

『アンジェロの兄ちゃん、銃が出来たぞ! 見に来い!』

 と、ホレックのおっちゃんに言われて来たのだ。

 場所はキャランフィールドの街外れ。荒れ地のそばだ。

 キャランフィールドの街は、急激に発展している。
 人が増え、建物が増え、もう既に俺は直接コントロールすることをあきらめた。

 住宅地区、商業地区、工業地区、港湾地区というように、大まかな区割りだけを行い、あとは民間に任せている。

 街にはトラムが走り、大勢の労働者が港で船から荷物の積み下ろしを行っている。

 食料が足りないので、冒険者ギルドには食肉確保の依頼が山のように届き、先日、書類仕事を担当している黒丸師匠の部下が過労で倒れた。

 あらゆる所で人材が不足している。
 もちろん、各部署で人材は補充しているのだが、街の発展に追いつかないのだ。

 オマケに、この戦争で軍事向きの人材は前線に出てしまっている。後方を回す担当者に、仕事が集中しているのだ。負担が多くて、非常に申し訳ない。

 さて、街の発展に伴って、ホレックのおっちゃんたち鍛冶師の仕事も急上昇している。昔は、一から十までホレックのおっちゃんがやっていたが、今は弟子たちに『のれん分け』をして、分業体制を敷いているのだ。


 ■ホレックグループ

 第一工房:武器・防具の生産・修理

 第二工房:鍋や包丁など民生品の生産・修理

 第三工房:グースシリーズの生産・開発(リス族と共同経営)

 第四工房:ケッテンクラートなど自動車の生産・開発

 第五工房:鉄道関連の生産・開発

 第六工房:魔道具などに必要な特殊金属の加工

 第七工房:蒸留器機の生産・修理

 実験工房:ホレックのおっちゃんが自由に実験


 という具合に多角化している。

 特に最近は、鍋や包丁を作る第二工房が忙しい。キャランフィールドの街に人が増えたからだ。
 住人が増えたし、料理屋や屋台も増えた。
 もう、ホレックグループだけでは、手が足りない。

 最近では、他所から流れてきた鍛冶師が、いつも間にか工房を構えている

 ホレックのおっちゃんは、そのあたりは無頓着で、『いいんじゃねえか? 競争相手がいた方が、燃えるってモンだ! ガハハ!』と豪快に笑っていた。

 今日、俺が来たのは、実験工房だ。
 ホレックのおっちゃんとリス族のキューが、俺の依頼で鉄砲の研究をしていたのだ。

 今、俺たちの手元には二種類の銃がある。

 一つは、ソビエト連邦軍から鹵獲した『鉄パイプに火薬を詰めるタイプ』の原始的な鉄砲だ。

 そして、もう一つは、死んだ転生者ハジメ・マツバヤシが持っていた現代の拳銃。

 この二つの銃は、物凄い技術の隔たりがある。

 そこで俺は、火縄銃やライフル銃など二つの銃の中間にあたる銃をいくつかスケッチし、技術的なポイントや軍での運用方法を思いつく限りメモ書きして、二人に渡したのだ。

 果たして、どのレベルの銃が出来たのだろうか?

 戦国時代にあった火縄銃レベルか?
 それとも南北戦争時代のライフル銃レベルか?

 非常に楽しみだ。

「ホレックのおっちゃん! キュー! 来たよ!」

 大きな工房の扉を開けると、ホレックのおっちゃんとキューが迎えてくれた。

「よう! アンジェロの兄ちゃん! 久しぶりじゃねえか! たまには、鍛冶仕事を手伝いに来いよ!」

 そう言うと、ホレックのおっちゃんは、ニカッと笑った。

 俺がグンマー連合王国総長になっても、ホレックのおっちゃんは態度を変えない。
 昔と同じく気軽に接してくれる。ホレックのおっちゃんらしく、ありがたいことだ。

「ホレックのおっちゃん! そうだね! この戦が終ったら、また、手伝いに来るよ!」

 俺は、ホレックのおっちゃんと互いの拳を軽く打ち付け合う。

 一方でキューは、頭の良いキューらしく、しっかりとした態度をとった。

「アンジェロ陛下。ご足労をいただきありがとうございます」

 リス族のキューは、獣人だからといって、他種族にバカにされないように、言葉遣いや作法をアリーさんに学んでいる。

 今日の服装は、ちゃんとした貴族服だ。
 立ち居振る舞いも洗練されてきた。
 アリーさんに学んだ成果は、着実に出ている。

「キューちゃんもありがとう! 会う度に、しっかりとした感じになるよね」

「ありがとうございます!」

 さて、新開発の銃だ。

「それで、出来上がった銃は?」

 ホレックのおっちゃんは、少し離れた作業台まで歩いて行くと、木箱から銃を取り出した。

「こいつだ」

「うおっ! これは……!」

 俺はホレックのおっちゃんから新開発の銃を受け取った。

 近代的なライフル銃だ!

 木製のよく磨き上げられたボディに、ボルトアクションの銃身、そして箱形の弾倉まで再現されている。
 銃口をのぞき込めば、ライフリングも入っている。

 ライフリングは、銃の中に溝を彫ることだ。この溝があると、銃弾が回転して発射されるので、威力と正確性が増すのだ。

「俺の落書き程度のスケッチから、よくここまで再現出来たね……」

「見本があったからな。ほれ、返すぜ!」

 ホレックのおっちゃんは、ハジメ・マツバヤシの拳銃を俺に手渡した。
 なるほど。弾倉やライフリングは、この拳銃を参考にしたのか。

 それにしてもさすがだ。

 俺は新型のライフル銃を構えてみる。木製の銃床は肩にピタッと収まり、狙いがつけやすい。木工は、リス族の得意分野だ。いい仕事をしている。

 それなりの重さだが、銃を構えてそれほど重く感じないのは、銃のバランスが良いのだろう。

「なかなか良い感じに仕上がっているね! 弾は?」

「これだ!」

 ホレックのおっちゃんが、銃弾を一つ見せてくれた。

 銃弾の形は、地球世界の銃弾とほぼ同じ。
 大きさは、人差し指くらい。

 薬莢は五円玉のような金色をしている。これは真鍮だな。
 弾頭は青みがかった銀色……これは、まさか……。

「えっ!? これ!? ミスリル!?」

「そうだ。弾頭はミスリルだ。正確には、弾頭は鋼で作り、ミスリルを薄くコーティングしてある」

「ホレックのおっちゃん……。それでは、コストが――」


 ミスリルは高価な金属だ。
 キャランフィールドの近くでミスリル鉱山が見つかり産出量は増えている。
 だが、異世界飛行機グースやケッテンクラートなどで使う魔道具に利用するので、値崩れは起きていないのだ。

 薄くのばして使っているとはいえ、消耗品の銃弾にミスリルを使うのはコスト的にいただけない。
 俺が渋い声を出したので、ホレックのおっちゃんが両手を前に出して俺を制した。

「ああ。そのヘンの説明をするぜ! さあ、ついてきな。隣の建物で銃弾を作ってる」
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...