上 下
280 / 358
第十章 レッドアラート!

第280話 ドラゴニュートとソースカツ丼

しおりを挟む
 赤獅子族のヴィスの事情聴取が終わった時は、もう夕方だった。

 ソ連のこと。
 ヨシフ・スターリンのこと。
 カタロニアのこと。
 そして、地球の神様のこと。

 長時間だったので、ヴィスは途中で飽きていたし、疲れていた。
 どうやらヴィスの中身は、日本の高校生のままなので仕方がないことだ。

 ケーキを食べさせたり、フルーツジュースを飲ませたりして、ご機嫌を取りながら話を聞き出しだ。

 ヴィスには、『カタロニアへの支援の有無は明日返事をする』と伝え、今夜は泊まってもらうことにした。
 風呂もあるし、晩飯にはカツ丼を用意させた。

 泣いていたよ。
 晩飯がカツ丼だって伝えたら。

 異世界で苦労したみたいだし。
 先の戦争ではウチのケッテンクラートに追い回されて、夜も眠れたかったらしいし。
 まあ、『ドンマイ。元気出せよ』的な感じだ。

 俺たちは、執務室に食事を運んでもらって、食べながら話しをすることにした。

 俺は、カツ丼。
 ルーナ先生は、カツカレー。
 黒丸師匠は、ソースカツ丼。
 じいは、焼き魚定食。

 じいもそれなりの年齢になってきたらしく、あっさりした和食が美味しいらしい。
 がんばって港を作って良かった。

 じいが、焼き魚を箸で器用にほぐしながら上機嫌で話し始めた。

「色々と収穫がありましたな」

「そうであるな。しかし、イネスの立場は、少々危険である」

 黒丸師匠がソースカツ丼のカツをキャベツの千切りと一緒に口に放り込む。
 もきゅもきゅと美味そうに食うなあ……。
 俺もソースカツ丼だったかな……。

 イネスは、カタロニア独立組織の代表者になっていた。
 だが、王族の血を引いていることが、アダモヴィッチとメドベジェンコにバレたらしい。

 アダモヴィッチとメドベジェンコは、ソビエト中央委員会から派遣された人物で、王族や貴族が大嫌い人間だそうだ。

 イネスに対するあたりが、かなりキツくなっているとか。

「早めに対処しないと危ないですね。イネスはもちろん、カタロニア地方が飢饉になれば人死にも出るでしょう」

「そうであるな。幸い中央委員会とやらから派遣された人間は少ないのである。アンジェロ少年が支援を決めれば、イネスたちだけで何とかなるのである」

「ドラゴニュート殿のいう通りですじゃ。しかし、あの赤獅子族の坊主は、イネスに懸想しておりましょう。ふふふ……」

「バレバレなのである」

 じいと黒丸師匠は、楽しそうだ。
 おじさんたちは、他人の青春にのっかるのが好きだなあ。

 赤獅子族のヴィスは、イネスのことになるとムキになっていた。
 もう、見ていてこっちが恥ずかしくなるくらい。

 同じ転生者だし、俺に味方してくれるみたいだから、上手くいって欲しい。

「ルーナ先生。イネスさんは、ヴィスみたいなタイプはどうなのでしょう?」

「……」

 ルーナ先生がカツカレーを食べる手を止めた。
 眉毛がハの字になっている。

 ダメなのか?
 そうなのか?

「ヴィスは、イネスの好みのタイプじゃありませんか?」

「えーと……」

 ルーナ先生の額から汗がしたたり落ちているのは、カレーを食べているせいだろうか。
 それとも、気まずさからだろうか。

「イネスから……。エルフの魔法使いでイイ人がいたら紹介しろと言われたことがある……」

「それは……」

 望み薄だな。

 ヴィスは、赤獅子族で、マッチョな肉体の獣人だ。
 分類するならワイルド系。

 エルフの魔法使いといえば、細身の美形で頭が良い。
 分類するなら正統派美男子。

 赤獅子族のヴィスは、イネスの好みからもっとも遠いところにいるということか……。

 ド……ドンマイ!

 明日は、お土産にカツサンドを持たせてやろう。

「ところで、アンジェロ……。地球の神様の話は?」

「驚きましたね……。女神ジュノー様たちは、ご存知ないと思いますよ……」

「ハジメマツバヤシも?」

「恐らく、地球の神様が転生させたのでしょう」

「どうする?」

 どうするといわれても……。
 女神ジュノー様たちには、俺から連絡する方法がない。
 あちらが来るのを待つしかない。

「この件は、女神ジュノー様たちが、いらっしゃった時に報告します。心配なのは、地球の神様の使いが、地球の物を持ってくることですね」

「ふむ……。アンジェロ少年の元いた世界から、武器が持ち込まれると厄介であるな」

 ハジメマツバヤシが持っていた拳銃は、そのパターンだろう。

「赤獅子族のヴィスから聞いた話では、大きな物は持ち込めないそうですから、武器の持ち込みはそれほど心配していません。怖いのは本、本に書かれた専門知識ですね」

 ヴィスいわく、戦車やジェット機は持ち込めないらしい。
 手に持てる程度の物しか、地球からこの異世界に運べないのだとか。

 ソ連が、火薬や鉄砲を持っているのは、転生者ヨシフ・スターリンが専門書か何かで知識を得て開発生産をしたからだと思う。

「なるほどであるな。新しい武器の開発をされたら面倒であるな」

「ええ。だから、早めにソ連は潰そうと思っています」

 地球から物を持ち込むとは、厄介ではあるが、うらやましくもある。

 だからといって、毎回焼きそばパンを持ってこさせるヴィスはどうかしているな。

『何で焼きそばパンなの?』

『パシリが買ってくる物は、焼きそばパンと相場は決まってるだろ!』

『パシリなんだ……』

 思わず苦笑いだった。
 ヴィスとしては、地球の神様の権威を認めたくないのだろう。
 だから、パシリ扱いにしているのだと思う。

「じいは、ヴィスをどう思った?」

 じいは、潜入工作もしていただけあって、人を見る目がある。
 俺はじいにヴィスの印象を聞いてみることにした。

「一見すると悍馬ですが、意外と扱いやすそうに感じました」

「なるほど」

 確かにな。
 エビフライやカツ丼に大喜びしていたし。
 好きな女性の為に単身で乗り込んで来るし。
 単純なヤツかもしれない。

「赤獅子族は我らが滅ぼしましたが、ヴィスは赤獅子族に対して思い入れはないようですじゃ」

「人族に産まれたかったと言っていたしね」

「であれば、復讐される危険はないでしょう。彼を味方になさいませ」

「わかった。そうする」

 俺としても、同じ転生者で話の通じるヤツと会えて嬉しかった。
 ヴィスとは、仲良くしよう。

 黒丸師匠が、最後のソースカツを口に放り込んだ。

「アンジェロ少年。それで、ソ連をどんな策でしめあげるのであるか?」

 俺は黒丸師匠にニンマリと笑顔を返し、考えた作戦を説明した。

「考えているのは――」

 黒丸師匠、ルーナ先生、じいは、俺の作戦を聞いてニンマリ笑った。

 さて、対ソ連作戦を始めよう!
 同志スターリンには、ご退場をいただこう!
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎

月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」 数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎! これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!

処理中です...