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第九章 グンマー連合王国

第245話 革命戦士万歳! インターナショナル万歳!(大丈夫ですか?)

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 ブンゴ隊長は、ケッテンクラートの荷台に飛び乗り、馬車の後を追った。

 荷台で攻撃用魔道具を構えるガンナーが、ブンゴ隊長に問う。

「隊長! 撃ちますか?」

「待つッス! 情報が欲しいから、生け捕りにするッス!」

 ブンゴ隊長は、先ほど戦闘した二人――奴隷狩りをしていた二人の男が、叫んだ言葉『革命万歳!』が気になっていた。

(なんか普通の悪党とは、違う感じッスね……)

 そんな感覚が、ブンゴの行動を慎重にした。

 南メロビクス王国の南部は、ミスル王国と接している。
 馬車は南、つまりミスル王国の方角へ走っていた。

 野原の中にあった街道は、やがて乾燥した荒れ地に、そして岩肌むき出しの砂漠へと続く。

 ブンゴたちが乗ったケッテンクラートは、馬車の後ろにピタリとつけ、攻撃の機会を狙っていた。

 ケッテンクラートの運転手が叫んだ。

「隊長! グースです!」

 合図の魔道具が発した光球を見て、哨戒していた異世界飛行機グースが駆けつけたのだ。

 グースは、馬車の前方を右から左へ横切るように飛行した。
 馬車に乗る二人の若い男の視線が、目の前を横切るグースに移る。

 二人の男の意識がグースに移り、スキが出来た。

「今ッス!」

「あいよ! 隊長!」

 ブンゴの合図にケッテンクラートの運転手が反応した。
 一気にアクセルを踏み込み加速すると、馬車に併走し車体を近づけた。

 ブンゴは、ケッテンクラートの荷台から馬車に飛び乗る。

「テメエ!」

 馬車の荷台にいた男が、ナイフを顔面に向かって振り回したが、ブンゴは低く沈み込んでナイフをかわした。

 そして左ボディアッパーを放つ。

「フッ!」

 ぐぼう!

 ナイフを振り回した男は、体が『くの字』に曲がり、馬車の床に白目をむいて倒れた。

 間髪入れずに、ブンゴは、御者をつとめる若い男の側頭部に右フックを食らわした。

「ホイッ!」

「キュウ……」

 御者の男が倒れるとブンゴは、手綱を握り馬車を停車させた。

「ふう……。上手くいったッス!」


 *


 しばらくすると、続々と仲間たちが集まってきた。
 黒丸、ルーナ、イネスたちも、ブンゴに合流した。

 ブンゴは、全員に悪党を捕らえた経緯を説明した。

「――と、いう訳ッス!」

 ブンゴの説明を聞き終えると、黒丸が奴隷狩りをした男たちに腹を立てた。

「なるほどである。少人数で女子供を狙い撃ちして、さらっていたのであるな……。控えめにいっても、クズであるな!」

 ルーナも同調する。

「性根が腐っている。イセサッキに食べさせる」

「そうであるな。グンマーの刑である!」

 プンスカと二人は腹を立てているが、ブンゴはそれよりも捕まえた二人の男が気になっていた。

「いや、それより……。こいつら変ッス!」

「何が変なのであるか?」

「軽く尋問したんスけど……。なんで奴隷狩りをしたのかって聞いても、カクメイがどうとか……。労働者がどうとか……。わけわからないことを怒鳴るだけなんスよ……。カクメイってなんスか?」

 黒丸もルーナも首をかしげた。

 二人は長命種のドラゴニュートとハイエルフである。
 長く生きている上に、冒険者としてあちこち旅をしている。
 人族よりも、物知りだ。

 だが、『革命』という言葉は、この異世界にはない。
 この異世界では、国王や貴族が国を治めている。

 労働者、一般市民が王政を覆し、政治の実権を握る『革命』の概念がないのだ。

 その為、『カクメイ』と、いわれても何のことだかわからなかった。

「カックメイであるか? 初めて聞くのである?」

「カクメーイ? 食べられるの?」

「いや、食べ物じゃないっぽいッス!」

 黒丸とルーナは、ブンゴの様子から、普通の盗賊や人さらいの類いではないのだと理解した。

 では、この男たちは何者なのか?
 何が目的で、奴隷狩りを行ったのか?

 二人の男は、縛られ地面に座らされている。
 黒丸は、男にゆっくりと近づき、首をコキリとならした。

 二人の男を見下ろし、圧をかける。

「オマエたちは、何者であるか? ただの盗賊ではないのである……」

「「……」」

 二人の男は、強く口を結びしゃべろうとしない。

 黒丸は、淡々と二人の男に告げる。

「大人しく話した方が、身の為である。それがしは、拷問をなんとも思わないのである。むしろ、拷問がしたいのである」

「「……」」

 黒丸の物騒な言葉に、二人の男は恐怖していた。
 だが、ギュッと口を結んだままだ。

「そこにいのは、グンマークロコダイルとサーベルタイガーである。生きたまま、食われてみるか?」

 黒丸の紹介を受けて、サーベルタイガーのラモンが低くうなり声を上げた。

「ぐるるる!」

「ヒッ!」

 一人の男が悲鳴を上げる。

 その様子をみて、ルーナがイセサッキをけしかける。
 イセサッキは、大きな口を開けながら男たちに向かってゆっくりと歩みを進めた。

「グアアア!」

「や、やめろー! ヒイイイ!」

 もう一人の男も、悲鳴を上げだした。

(案外アッサリと、おちるであるか?)

 黒丸は、そんな風に感じたが、二人の男は予想外の行動に出た。

 震える声で、歌を歌い出したのだ。



 ♪
 おお! 我らが国を!

 人民の意思によって建国しよう!

 我らの革命に!

 我らの団結に!

 万歳! 旗を高くかかげるのだ!

 革命の旗を!

 人民の旗を!

 我らの旗を!

 インターナショナル万歳!
 ♪



 突然の歌に黒丸は困惑した。

「ちょ……! 静かにするのである!」

 黒丸は、二人の男にオリハルコンの大剣を突きつけた。
 だが、男たちは、黒丸の大剣を怖がりながらも二番を歌い出した。



 ♪
 おお! 雷鳴の剣!

 支配者を打ち倒そう!

 我らの革命に!

 我らの団結に!

 万歳! 剣を高くかかげるのだ!

 革命の力で!

 人民の力で!

 我らの剣で!

 インターナショナル万歳!
 ♪



 歌っている間に、自らを勇気づけたのか、二人の歌声は力強く、革命の歌が荒れ地に響いた。
 二人は歌い終わると、また一番から歌い始めた。

 黒丸は、厳しく尋問する必要性を感じた。
 ルーナは、自分たちの立場を理解せず、朗々と歌い続ける二人の男にイラッとしていた。

「黒丸。グンマーの刑?」

「ふむ……」

 黒丸が南の方に目をやった。
 遠くに岩だらけの砂漠が見える。

 黒丸はしばらく砂漠を見ていた。
 そして、何か思いついたのか、口の端をつり上げ、ニマリと笑った。

「いや……。サソリ固めの刑である! それがしに任せるである!」
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