追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

文字の大きさ
上 下
243 / 358
第九章 グンマー連合王国

第243話 大義名分

しおりを挟む
 ――翌日。

 俺はじいを伴って、フォーワ辺境伯の所へ転移した。
 フォーワ辺境伯の屋敷で打ち合わせを行う。

 議題は、昨日サーベルタイガー・テイマーのイネスから希望があった『カタロニア地方独立の件』だ。

 フォーワ辺境伯の屋敷は、森と池に囲まれた上品な館だった。
 この森と池は、人工の池と森、つまりフォーワ辺境伯の庭なのだ。

 金が、かかってるな~。
 さすがメロビクス王大国南部の雄と呼ばれただけのことはある。

 応接室に通され、俺、じい、フォーワ辺境伯で話を始めた。
 俺は昨日イネスから聞いたことをフォーワ辺境伯に説明する。

「――という申し出があった」

「なるほど……。カタロニア公国の忘れ形見ですか……」

 フォーワ辺境伯の反応は、あまり良くない。
 この話に乗り気じゃないか?

 俺はフォーワ辺境伯に率直な意見を求めた。

「フォーワ辺境伯は、この件をどう思いますか? 何せお隣のことですから、率直な意見が聞きたいです」

「うーん……。あまり乗り気になれませんな。確かにグンマー連合王国の勢力拡大の機会ではあります。しかし、カタロニアの独立を我が国が後押しすれば、マドロス王国とこじれます」

 それは、そうだろう。
 俺がよその国の領土に手を突っ込むのだ。

「うん、続けて」

「マドロス王国は三つの王国を吸収したのです。マドロス人による支配は、かなり穏やかで、政情は安定しています」

「じゃあ、独立運動というのは……」

「まあ、感情的なモノです。カタロニア人が独立して、自分たちの国を持ちたい気持ちはわからないでもないですが……」

「やはり感情の問題か……」

「カタロニア地方は、経済的に豊かなのです。メロビクスやミスル王国との交易で潤っています。その金が中央――つまりマドロス人に流れるのが面白くないのです」

 なるほど。
 自分たちで稼いだ金が、マドロスに流れてしまう。
 自分たちで稼いだ金は、自分たちで使いたい。
 そんなところか。

「税率は? 高いのか?」

「うーん……安くはないが、高くはないです」

「じゃあ、重税に苦しんでいる訳ではないのか?」

「税金は、普通ですよ。まあ、私としては、カタロニア地方が独立して、マドロスとの緩衝地帯になるのは、良いと思います。マドロスとの交易がストップすることはないと思いますが、高い関税をかけられるとか、何らかの報復はあるでしょう。それが困ります」

「うーん……」

 そうなると、イネスの希望を聞くのは、どうなのだろう?
 あまりメリットがないな。

 次に、俺はじいに意見を求めた。

「じいは、どう思う?」

「カタロニア地方を取り込みたいですじゃ」

 じいは、積極派か?
 慎重論をとなえると思ったが意外だな。

「理由は?」

「ミスル王国が不安定です。その影響はミスルと戦争中のギガランドにも及びましょう。我が国の南部国境が不安定化しますじゃ。そして東部国境のブルムント地方……ここは小国が多いので常に不安定ですじゃ」

「カタロニアを取り込めば、マドロス王国が怒るだろう? 西部国境も不安定化しないか?」

「マドロスは三つの王国を取り込んだ国ですじゃ。それぞれの国で独立の機運が高まれば、マドロスを抑えやすくなりましょう」

 驚いた!
 じいは、謀将気質があったのか!

「それは……、現状では無理がないか?」

「そうですな……。残念ながら、マドロス王国内で工作する人員が必要ですじゃ。それに、我が国が、カタロニア独立を後押しする大義名分がありません」

「大義名分か……」

 確かに、そうだ。
 マドロス王国が、カタロニア人をひどく扱っているとか、メチャクチャ重税であるとか……。
 我が国が、カタロニア人を助ける理由、大義名分がない。

 理由をこじつけることは出来るが……。
 周辺国が納得しないだろう。

 我が国が好戦的な覇権国家だと、周辺国に思われるのは良くない。

 俺は決断を下した。

「この件は、却下だな。西部国境は現状維持。マドロス王国とは、友好的に振る舞うことで、西部国境を安定化しよう」

 そうすれば、南部国境――荒れているミスル王国の悪影響に対応出来る。
 東部のブルムント地方は、交易ルートが確保されている間は、なるたけ干渉しない。

 フォーワ辺境伯も、じいも同意してくれた。

 俺はキャランフィールドに戻るとイネスに、『希望を受け入れられない。独立の後押しは出来ない』と返事をした。

「そう……残念だわ……」

「自分たちの国を持ちたい気持ちはわからないでもない。ただ、我が国が、カタロニア独立を後押しする理由がない」

「……」

 イネスは、ひどくがっかりしていた。

 この異世界では、『民族自決の権利』はない。
 一度支配されれば、支配を跳ね返し独立するのは、困難なのだ。


 *


 ――翌日。

 イネスは、キャランフィールドからいなくなった。
 黒丸師匠とルーナ先生も一緒だ。

 一月ほどで帰る。
 ブンゴ隊長の所へ助っ人に向かう。
 ――と、ルーナ先生の置き手紙があった。
 
 ブンゴ隊長は、南メロビクス王国へ出張っている。
 ミスル王国との国境地帯に、奴隷狩りをしている連中がいるので、警戒と討伐だ。 

 なんだかな……。
 もめ事を起こさないでくれよ……。
しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」

なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。 授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生 そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』 仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。 魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。 常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。 ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。 カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中 タイトルを 「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」 から変更しました。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...