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第九章 グンマー連合王国

第241話 殴り合う友情!

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 実はちょっと前に、俺と黒丸師匠は、現場に着いていた。
 キャランフィールドの執務室から空へ飛び出し、二人で飛行したのだ。

 現場に到着すると、ルーナ先生とサーベルタイガーのテイマーがにらみ合っていた。
 俺は、ただならぬ雰囲気を感じて、すぐに二人を止めようとした。

 だが、黒丸師匠がやらせろと、戦わせろと言ったのだ。

「アンジェロ少年! 待つのである! 二人が戦うところを見るのである!」

「いや! 街中で不味いですよ!」

「聞くのである! それがしは、テイマー同士の戦いなど、今まで見たことがないのである」

 それは、そうだろう。

 戦うテイマーと言えば、ブルムント地方の竜騎士だ。
 彼らは冒険者ではなく、領主に仕える騎士なのだ。
 領地争いなどの軍事衝突がなければ、戦うことはない。

 冒険者同士のケンカのように、テイマー同士の戦いは、そうそうお目にかかれるモノではない。

 しかし――。

「しかし、黒丸師匠! 魔物がグンマークロコダイルとサーベルタイガーですよ? 下手すりゃ死人が出ます」

「大丈夫である。ルーナは、その辺りは心得ているのである」

 そうか?
 ルーナ先生は、『ジョブ:魔法使い マインド:狂戦士』みたいな人だ。
 喜んで、ぶち殺すと思う。

「アンジェロ少年。ルーナに勝てる人間が、どれほどいるであるか?」

「そりゃ……。俺と、黒丸師匠と、まあ、後は数人いるか、いないかでしょうね」

 俺は魔力量でゴリ押しして勝つ。
 黒丸師匠は接近して物理で勝つ。

 それでも、『巧みさ』では、ルーナ先生にかなわない。
 実際問題、勝てるかどうか、自信はない。

 あのテイマーも秒殺されてしまうだろう。

「俺が心配しているのは、ルーナ先生じゃなくて、相手のテイマーですよ。サーベルタイガーをテイムするなんて、貴重な人材ですよ!」

「婚約者なのに冷たいのであるな。後でルーナに告げ口するのである。まあ、たぶん、ルーナも手心を加えるのである。テイマーとしての戦いを知りたい……、と、いったところだと思うのである」

 まあ、確かに、俺にとっても、テイマーの戦い方を知る良い機会だ。

「テイマー対テイマーなら、どんな戦いになるのか? 黒丸師匠、予想は?」

「わからないのである。だからこそ、この一戦はしっかりと見る必要があるのである。冒険者ギルドとしては、先々必要になるのであるよ」

 データを取っておくってことか。

 確かに『テイマー保護令』が発布されたから、これからテイマーが続々と現れ、様々な方面で活躍を始める。

 テイマーともめた時に、テイマーを制圧する必要がある時に、今回のデータが役に立つ。

「わかりました。二人の戦いを見ましょう。ただし、やばくなったら止めますよ」

「もちろんである。それがしも、仲裁するのである」

「黒丸師匠! 始まりましたよ!」

 俺と黒丸師匠は、建物の屋根に降り立ち、二人の戦いを観戦した。

「ルーナ先生は、魔法を使いませんね」

「うむ。あくまで、テイマーとして戦うつもりなのである」

「イセサッキから、降りましたね!」

「むうう……。そうか……、テイマー同士だと魔物同士の戦いになるのであるか……」

「騎兵同士の戦いとは、違いますね」

 騎兵同士の戦いであれば、馬の上にまたがる兵士や騎士が武器で戦う。
 だが、テイマー同士の戦いは、魔物同士の戦いになるようだ。

 特に二人のテイムした魔物は強力な魔物だ。
 魔物の攻撃が、かすっただけで、テイマーは大怪我をする。

 ルーナ先生がイセサッキから降りたのは、良い判断だ。

 戦いは、互角。
 やや、サーベルタイガーが有利か。

「サーベルタイガーが、おしていますね」

「ふむ……。あの壁を使った跳躍が厄介である」

「戦う場所が、サーベルタイガーに有利ということですか?」

「で、あるな。テイマーが戦う場合は、場所に気をつけなければならないのである。与えるミッションには、気を遣う必要があるのである」

「確かに」

 テイムしている魔物に応じて、適した任務、適さない任務が出てきそうだ。
 それは、これから要検討だな。
 実地を通じてデータを集めるしかない。

 俺と黒丸師匠は、冷静に戦いを眺めていた。
 このままジリジリとサーベルタイガーが、イセサッキを押し込み、長期戦になるかと思った。

 だが、突然、二人の戦いは動いた。
 サーベルタイガーのテイマーが、ルーナ先生に突撃し、拳が顔面をとらえた。

「なっ!?」

「突っ込んだのである! テイマー同士の肉弾戦である!」

 ルーナ先生は、吹っ飛びながらもマジックバッグから杖を取り出し応戦する。

「ルーナ先生の杖術!?」

「意外と上手いのであるよ。接近戦でも身を守る程度には戦えるのである」

 伊達に長生きしていないな。
 さすがはエルフ。
 長寿ってだけでチートだ。

 一見すると、女闘士同士のクロスファイト。

 だが、俺と黒丸師匠は、ルーナ先生の戦意がかなり高まっているのを感じていた。
 このまま続けると、ルーナ先生が暴走して、デカイ魔法を放つ可能性もある。

「イカンのである! 止めるのである!」

「はい!」

 俺と黒丸師匠は、屋根から飛び立った。
 黒丸師匠は、ルーナ先生とサーベルタイガーのテイマーの間に強引に割って入り、俺は二匹の魔物の近くに雷魔法を撃ち込んだ。

 二人と二匹は、距離を取って離れた。

「ルーナ先生! ダメじゃないですか!」

 ルーナ先生は、戦闘で顔を腫らしている。
 美人が台無しだ。

 街のど真ん中で、グンマークロコダイルを連れてケンカしないで欲しい。

 俺は、すぐ近くにいたグンマークロコダイルのマエバシとタカサキをにらむ。

「オマエたちも止めろよ!」

「「ぐああ……」」

 俺の意図するところは伝わったようで、マエバシとタカサキは、しゅんとして頭を下げた。

 ルーナ先生とサーベルタイガーのテイマーは、俺の言うことなど聞いちゃいない。
 肩で息をしながら、まだ、にらみ合っている。

 二人の間で、黒丸師匠がオリハルコンの長剣を握ったまま警戒をし、両目がギロギロっと動いた。

 俺も念のために魔法障壁をすぐに発動出来るように、体内の魔力を練り上げる。

 やがて、ルーナ先生が口を開いた。

「なかなか、やる! 殴られたのは、千年ぶり」

「あんたも凄いよ。本業は魔法使いだろう? 接近戦でここまで動けるとは……ね……。誤算だった……」

「私はルーナ・ブラケット。ルーナと呼ぶといい」

「そりゃどうも……。私はイネス……」

「イネス!」

「ルーナ」

 二人は、口元から血を流しながらガッチリと握手をした。

 近くにいたミディアムが、ガッツリ突っ込みを入れる。

「あんたらは、戦わないと友情を築けないのか! もっと、平和にやれよ!」

 ミディアムのいう通りだ。
 黒丸師匠は、ミディアムの上司のはずだが、『うん、うん、良かったのである!』とか言って、ご満悦だ。

 ミディアム、気の毒なヤツ……。

「ねえ、ルーナ。頼みがあるのだけど」

 サーベルタイガー・テイマーのイネスが、ルーナ先生に頼み事を始めた。

「何?」

「あんたの婚約者。総長陛下に会えないかしら? 私の故郷のことで、相談があるの……」

「わかった。アンジェロを紹介する」

 えっ!? 何!? 俺!?
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