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第九章 グンマー連合王国

第239話 サーベルタイガー・テイマーのイネス

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 アンジェロが黒丸からテイマーについて報告を受けている頃、キャランフィールドの冒険者ギルドでは『砂利石』のミディアムたちが書類と奮闘していた。

 全国のギルドから転送されてきたテイマーについての報告書である。

「ええっと……。この書類はテイマーなしの報告だから、左の箱に入れる……。こっちの書類は、テイマーあり! じゃあ、右の箱に入れて、迎えのグースを出す手配だな――」

「ミディアム! 待てよ! テイマーなしが右の箱。テイマーありは左の箱だろう?」

「なに!?」

「バカ! おまえら向かい合って座っているだろ! 自分から見て右がテイマーなし! 左がテイマーありだ!」

「えっ!? 俺、逆にやってたぜ?」

「「「テメー!」」」

 ミディアムたちは、仲が良い。
 だが、書類は整理しなおしだ。

 ジンジャーが冒険者ギルドのロビーをチラリと見てから、ミディアムを肘で小突いた。

「なあ、ミディアム。あのテイマーどうすんだ?」

「俺に聞くな……」

「副ギルド長だろ?」

「あんな物騒な魔物をテイムしているヤツと話したくねえよ!」

 冒険者ギルドのロビーには、一人のテイマーと一匹の魔物がいた。

 テイマーの名は、イネス。
 お色気ムンムンのお姉様である。

「スタイル良いな~」

「良い女だな~」

「デートしてくれねえかな~」

「オマエら! 魔物に殺されるぞ!」

 ジンジャーたちが、だらしなく鼻の下を伸ばし、イネスに声をかけようとするのを、ミディアムが慌てて止めた。

 イネスが寄りかかる魔物が、鋭い視線を飛ばし、うなり声を上げ、ミディアムたちを威嚇する。

 その魔物は、大型のサーベルタイガーだ。
 鋭く長い牙は、ハードレザーアーマーや金属鎧をたやすく貫通する。

 サーベルタイガーの威嚇を受けて、ミディアムたちは冒険者ギルドのカウンターに身を隠し、怖々とロビーをのぞき込む。

 テイマーのイネスは、サーベルタイガーの喉をやさしくなでた。

「ふふ……大丈夫よ……。ラモン……静かにして頂戴……」

 ラモンと呼ばれたサーベルタイガーは、目を細め気持ちよさそうに喉を鳴らす。

 そこへ突然、冒険者ギルドのドアが、勢いよく開いた!

 グンマークロコダイル軍団を引き連れたルーナ・ブラケットである。

 ルーナは、イセサッキにまたがり先頭を行く。
 続いて、右にマエバシ、左にタカサキ、トライアングル・フォーメーションだ。

 テイマーのイネスとサーベルタイガーのラモンに向かって、ノシノシと歩みを進めた。

 イセサッキたちは、サーベルタイガーのラモンまで五メートルの距離で止まった。
 ルーナとイネスの間で視線が交錯する。

「私はルーナ・ブラケット。グンマークロコダイルをテイムしている。名前は、マエバシ、タカサキ、イセサッキ!」

「そう……。私はイネスよ……。この子はサーベルタイガーのラモン……。かわいいいでしょう?」

「イセサッキたちの方が、かわいい!」

「あら、そう。でも、ラモンの大きな肉球にはかなわないわ。ほら、プニプニ……」

「ムッ……。肉球の問題ではない。イセサッキの方が強い!」

「どうかしらね……。サーベルタイガーの爪と牙なら、そちらのワニちゃんの皮も貫くと思うけれど……」

 険悪な空気が冒険者ギルドのロビーに充満した。
 ギルドの職員は、部屋の隅に退避し、ロビーにいた冒険者は壁際まで後ずさる。

 見かねたミディアムが、カウンターから飛び出し仲裁に入った。

「ちょっと! ルーナの姉さん! 止めてくれよ!」

「ミディアムは、黙る。これはテイマーとしてのプライドがかかっている」

「いや……! アンタの本職は、魔道士だろう! それに、王様の婚約者だろ! もめ事起こすなよ!」

「ある時は、王の婚約者! また、ある時は謎の魔道士! 果たして、その実体は!」

「知らねえよ! とにかくもめ事は、止めてくれよ!」

 ミディアムが必死にルーナを止めようとする。

 一方、ミディアムのパーティー『砂利石』の残りのメンバーは、サーベルタイガーのテイマーであるイネスを説得していた。

「よせって! あの人は、魔法使いでメチャクチャ強いんだ!」

「それに、王様の婚約者だぞ!」

「そうそう! もめたらヤバイよ!」

 イネスはゆらりと立ち上がった。

「ふーん……。王様の婚約者なんだ……。それが、魔物を連れて……。あなた面白いわね……」

 ルーナは、イネスの瞳の奥に好戦的な光を見た。

「やろう」

「いいわよ……」

 副ギルド長のミディアムは、絶叫した。

「ふざけるな! 俺は知らねえぞ! おまえら外でヤレ!」

 ルーナとイネスは、それぞれの従魔を連れて、ギルドの外に出た。
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